露日♀妄想。露様と義兄兄上と妹露様の暴挙の続きで日本vs.ロシア編です。
やたらと戦いたがる露日はどうやら強敵と書いて“とも”と読む関係のようです。










































 「たのもー!」

 ロシアの屋敷に日本がやってきたのはそれからしばらく経ってからのことだった。
 部下に呼ばれてロシアが窓際まで出て見ると、窓の下には紺色の点のような日本がいた。
 二度と見ることはないと思っていた紺色の二重外套を着て、木刀を手に仁王立ちしている。

 その姿を見てロシアは嬉しくなった。

 「わぁい日本君が来てくれるなんて珍しいね、何の用〜?」
 「何の用じゃありませんッうちの妹を返しなさい!」

 周囲の部下がざわめいた。
 少し前に結婚するからマンションで暮らすねと告げてロシアは屋敷を出て行った。
 ロシアが24時間いるという生活は部下達の精神を磨耗させたので、異存があるはずもないが、相手は誰なのだろう、
 どんな素敵な女性がロシアの蝶々のような心を掴まえることができたのだろうと不思議がっていたのだが、
 もしや日本の妹ではあるまいか。しかも日本の怒りぶりを見るに、了承を得ているとは思えない。

 ロシアの部下には日本に好意を寄せる者が少なくない。
 日本はロシアに目をつけられながら逃れ、それどころかロシアに勝ったこともある。
 荒れるロシアをなだめてもらったことも一度や二度ではない。
 所属組織は敵対しているにもかかわらず日本はロシアの部下にも親切だった。

 穏やかな面しか知らない若い部下など怒りをあらわにする日本の姿にショックを受けている。

 「表に出なさい!」

 決闘です!といきまく日本にロシアは目を瞬いた。
 大切なものを略奪された日本は泣き寝入りはしないだろう、けれど一人で殴りこんでくるとは思わなかった。
 ロシアのそばには銃を持った部下が大量にいるのだし、日本はアメリカに武器を取り上げられている。
 せいぜいアメリカに告げて、悪のロシアを正してもらうことしかできないと思っていた。

 「本当に意外性あるよねえ…」

 意外にもロシアは楽しそうに呟き、立てかけてあった鉄パイプを掴んで出て行こうとした。
 あわてたのは周囲の部下である。

 「ロシアさん!?まさか決闘するつもりじゃ…」
 「日本君がせっかく来てくれたんだもん、ちゃんと相手しなくっちゃね」

 フフフ…楽しくてたまらないというように肩を揺らす。
 火がついてしまったロシアを止めることなど誰にもできない。
 階段を下りていくロシアの異様な雰囲気に部下達は怯えて道を開けた。

 ザ…
 ロシアの屋敷の前で日本とロシアは対峙した。
 西部劇の真昼の決闘のように二人の間を乾いた風が吹き抜ける。

 「一体どこに隠したのです…あなたの出入り先を探し回りましたが見つかりませんで、とうとうここにこなければなりませんでした」
 「君が僕んちに入社してくれたら、教えてあげてもいいよ」

 そんなことは出来ないと知っていながらロシアは言う。
 日本は眉をひそめた。

 「私が勝ったら妹は返してもらいますよ…」

 人を斬ることはできない刀を構えて大真面目に告げる。
 おかしくてたまらない。
 ロシアは余裕の笑みを浮かべた。

 「とっくに現役引退したくせに僕に勝てると思ってるの?」
 「やってみなければ分からないでしょう」

 どこかでこんな会話をしたような気がする。
 日本とロシアはかつて何度となくぶつかっていた。

 木刀の先がスゥ…と動く。
 ぐっと沈み込んだ瞬間、ロシアの手にしびれが走った。

 木刀の先から殺気が放たれロシアに襲い掛かる。

 アメリカに武器の所持を制限されている日本は真剣を持てない。
 しかし気合で鉄パイプすら叩き斬れそうだ。

 「あなたがあんな無茶苦茶しなければ認めてもよかったんです!」
 「だって我慢できなかったんだもん」
 「どうしてそうやって人の信頼を踏みにじるんですか!」

 何本にも分身して襲い掛かってくる切っ先を見極めることができずに避けきれず太刀を浴びた。
 戦場から離れて久しい薄い身体のどこにこんな力があるのだろう。
 なめていてはこちらの身が危ない。
 鉄パイプをヒュンヒュン回して盾にしながら、ロシアはコートの下に手を滑り込ませた。

 ロシア愛用の短銃が火を吹いた。
 しかしそれは日本を傷つけることはなかった。
 カン!
 いつの間にか日本の手にはクナイが握られていて、弾丸ははじき返された。

 バサァッ
 外套を翻して日本がロシアから距離をとる。
 と思う間もなくクナイが飛んできた。
 飛来したクナイに頬を傷つけられて、ピリッとした痛みが走る。

 ガゥン!

 「――――!?」

 どこからともなく飛んできた弾丸の音に一瞬ロシアの気が逸れた。
 次の瞬間、仰向けに地面に縫い付けられていた。

 ピタ。
 青い目の1p上にクナイの先端が突きつけられている。
 ロシアは固まったように動かない。
 日本の黒い瞳は何の感情を表さず、無慈悲にロシアを見下ろした。

 「あなた一人殺すぐらい、わけないんです。…もう失うものはないのですから」

 仮にも一般人として生きていれば失うものが多すぎて殺人などできないだろう。
 しかし日本は何の動揺もみせない。
 ロシアが1oでも動けば、日本は躊躇なくクナイを振り下ろすだろう。

 この間まで酒を酌み交わし、妹を嫁がせようとしていた相手を殺すことにためらいがない。
 そういう意味で日本とロシアは似通っていた。
 人間が本能的に持つ躊躇や恐怖をロシアは元から持っていない、日本は鍛錬で克服した。
 また、かつて全てを失った日本と、元から持っていないロシアは、共に失うことを恐れない。
 つなぎとめるものは何もない、日本はキッカケさえあれば容易くその身を捨ててみせる。

 アメリカならば、理解できない、クレイジーだ!とわめき散らすのだろう。
 だがロシアはカケラも恐怖を覚えず、むしろ湧いてきたのは愉悦の感情だった。

 「何だ…やっぱり戦えるんじゃない。ずるいよ、弱いフリなんかしちゃってさ」

 ロシアとしたことがすっかり惑わされて忘れていた。
 アメリカがライオン、ロシアがクマだとするならば、日本は虎だった。
 彼が花も千切れないほど優しいひとだと言ったのはどこのバカだろう。

 「君を猫だと思ってる連中が見たら泣いちゃうかもね」
 「バカにしているのですか?」
 「違うよ、嬉しいんだ」

 軽口を叩きながら殺気に縫いとめられて瞬きできない。
 目を見開いてクナイの先端を見つめているうちに目が痛くなってきた。
 いいや、今回は譲ってあげる。

 「しかたないね、じゃあ会わせてあげる」
 「ちょっと!勝手に条件を変えないでください!」

 妹を返してもらうと言ったのにお得意の気まぐれで変えてくるロシアに日本は頭痛を覚えた。
 昔から日本はロシアに単純に勝つことはできても、勝利に見合う成果を上げることはできないのだ。
 妹をタテに取られてしまっては突っぱねることはできない、というか日本はこういうときにどう交渉すればいいのか分からなかった。
 結局妹に会えたときにもう一度交渉するしかないと妥協するよりほかなかった。









>>兄上vs.妹



どこからともなく飛んできた弾丸の正体は部下のラトビアが撃ったものという裏設定。
日本さんとの勝負を邪魔したら殺されるってリトに止められたのですが、弾みで出ちゃったんです。
紺色の二重外套は日本君の戦闘服(笑)で裏に暗器(法律の範囲内で改造)が仕込んであります。
余所様で拝見した「日本は自分を猫と思ってる虎」という文章に燃えまして!虎は単独ならライオンより強いんですよvv