露日♀妄想が続いてます。これの続きです。
兄上と妹編です。
ロシアに妹をおくれとねだられた。
しつこく家までついてこようとするロシアを苦労してなだめてタクシーに押し込んで、日本は一人で家路についた。
かなり遅くなったのに起きて待っていて、玄関で三ツ指ついて迎える妹の顔がまともに見られない。
衝撃の発言で酔いは完全に醒めてしまっていたが、酔っているふりをして早々に床に就いた。
翌朝、朝食を囲んで向かい合っても、日本はまだ考えの整理がついていなかった。
顔が見ていられなくて用意されたお膳に目を落とす。
焼き魚、昨日の残りの野菜の煮付け、常備菜に玉子焼き。加えて味噌汁とご飯。
立派な日本の食卓風景だ。
「どうかしましたか…二日酔いですか?」
いつまでもお膳に手をつけない日本を心配して覗き込んでくる妹のまっすぐな視線が痛い。
「あー…そのー…おー…」
言おう言おうとするのだがどうしても言うことができない。
結局食事に逃げて、日本は箸で玉子焼きをつまみ上げた。
ダシがしっかり効いたあまじょっぱい味付けがおいしい。
「この玉子焼きはおいしいですね…」
「そうですか?ありがとうございます!」
苦し紛れのほめ言葉に妹は満面の笑みを浮かべた。
そんなに喜ぶほどのことを言ったつもりはないのだが。
「滅多にほめてもらえないから嬉しいです。いつもと同じつくり方なんですけどね…」
「いつもおいしいですよ」
どこが違ったんでしょうと首をかしげる妹を見ながら、日本は少々反省した。
自分はそんなにほめることをしてこなかっただろうか。
こんなに嬉しそうな顔をするなら、もっとほめてやればよかった。
「これならいつでもお嫁に行けますね」
「えええっそんな…」
とたんに照れて真っ赤になる、小さな小さな妹。
いつまでも子供っぽいと思っていたけれど、いつの間にか一人で家を守れるぐらい大きくなっていた。
この娘を幸せにするのだと決意したのはいつだっただろう。
「…お前は、誰か好きな人がいるのですか?」
だから好きな男と添い遂げさせてやりたい。
好きな相手がいるというのなら、アメリカだろうとロシアだろうと断ってやる。
それで不興を買って家が苦しくなろうと、妹を家の犠牲にするつもりはない。
「そんな…そんな話はまだとても…」
しっかり育っているかと思えば、小娘のようにうぶな反応を見せる。
やはり断ろうかと考え、ふとロシアのことを思った。
ロシアは決してよい人間ではない。
約束は破るし何事も力任せで弱いものは踏みにじってかまわないと思っている。
大いなる力を持っているくせにこずるいことも平気でやる。それでちっとも悪びれない嫌な男だ。
ロシアの家に縛り付けられている部下達は決して幸せそうではない。
しかも女性に対する態度はいい加減だし…
それなのにどうして日本はロシアと付き合っているのだろう。
かつてロシアは大事な局面で日本を裏切り、その結果、日本はアメリカの軍門に下ることになった。
アメリカはロシアと日本のつきあいに決していい顔はしない。
それなのにどうして。
ロシアが暴れていると彼の部下に泣きつかれれば忙しい中時間を割いて行き、聴きもしない忠告をしてしまうのだろう。
寒がりで寂しがりやのくせに誰のことも信用できない臆病な大きな子供。
いつかそんな風に思ってしまったのがいけなかった。
子供には愛してくれる腕が必要だ。力の加減を知らないで、大事なものを抱き締めようとして壊してしまう子供の怪力に
この身が耐えられるのならば耐えてやろうと、それで彼の寂しさが薄れるならと覚悟を決めてしまった節がある。
寂しさが解消されたら更生するはずだとありもしないことを考えてしまっているのだろうか。
本当は優しいこだ、なんて馬鹿馬鹿しい…!
放っておけばいいのに(もっとも向こうが放っておかないのだが)日本はロシアが不幸になっていくのを黙って見ていられない。
それはきっと、目の前の妹を幸せにしてやりたいと思うのと同じ強さで。
『ロシア』と『結婚』
これほど違和感のある言葉の取り合わせはない。
しかし大事な存在ができれば、ロシアも変わるかもしれない。
「…実はお前に縁談が来ているのですが」
これは賭けだ。
何度も裏切られているのにかけがえのない大切な存在を賭けてしまうなんて愚かだ。
無謀すぎる賭けをしてたとえ勝ったとしても手に入るものは日本の生活を潤すものではない。
それでも。
何度裏切られたら気がすむのだと自嘲しながらうまくいくことを願わずにいられなかった。
>>露様の暴挙