入手困難な作品とコンプ教徒

公開:2025年3月23日 最終更新:2025年3月26日

 世の中には、「好きな作家/作品の単行本やグッズは基本的に全て買わなければならない。欲しいのに買えなかったら、もうその作家/作品を好きではいられない」という考え方があります。 この記事ではこの考え方を「コンプ教」、この考え方の人を「コンプ教徒」と呼びます。コンプ教徒の考え方も様々ですが、この記事では後述するランダム商品や無償特典も揃えようとする人を厳格なコンプ教徒、そうでない人を軽度のコンプ教徒とします。この定義では、私は軽度のコンプ教徒にあたります。
 コンプ教徒以外には、コンプ教は奇妙な考え方に思えるでしょう。コンプ教徒である私自身もそう思われるのは理解でき、棄教した方がいいのではないかと何度か考えました。しかし、棄教した場合「欲しい作品が買えなくても、引き続きその続巻やグッズを楽しみにする」という生き方をすることになるのでしょうが、そういう生き方は楽しそうに思えません。私はいつも作品を全力で楽しんでおり、だからこそ欲しい作品が買えなかったら「作品を買えなかった。次も買えないかも知れない」という恐怖で頭が一杯になり、もう作品を楽しめなくなってしまうのだと思っています。そのため、何年もファンだった作家さんでも、一度買い逃がすと以後作品を読むのをやめたり、支援サイトでの支援を打ち切ったりしています。

 私の信仰はコンプ教徒の中では軽い方なのではないかと思っていますが、それでもこの信仰は人生に大きな影響を与えてきました。そしてウェブを見ていると、私よりさらに厳格なコンプ教徒も多いようです。 コンプ教徒はどのような思考をするのか、そしてコンプ教徒を苦しめる入手困難作品とは何か、などをこの記事では説明していきます。

第一章:商業作品が入手困難となる理由

 商業作品はしばしば、売り上げ増加のためコンプ困難な形で販売されます。

(1)特典商法

 書籍やゲーム等には、販売店ごとに異なる有償特典が付くものがあります。厳格なコンプ教徒がそういう作品のファンである場合には、それらを全て購入することになるようです。このような、同一作品を複数購入しなければ特典がコンプできない販売手法は、特典商法と言われる場合があります。

 有償特典だけではなく無償特典も含めるなら、特典商法はさらに様々な作品・ジャンルで行われています。例えば漫画版「虚構推理」には1巻から13巻までの各巻に10ほど書店別の無償特典がついており、コンプしようとするなら各巻を10冊ほど買う必要がありました。例えば、3巻の書店特典は以下です。

4/15(金)発売『虚構推理』3巻の書店特典情報をまとめました! 今回も本当にたくさんの書店さんに特典をつけていただいています。このTwitterで公開したイラストなども特典になっていますので、是非よろしくお願いいたします!! pic.twitter.com/ipeQyu5lzk

— 漫画『虚構推理』公式@22巻10/17発売 (@kyokousuiri_R) April 12, 2016

 厳格なコンプ教徒の場合、これらを全て買わないならもう虚構推理を買うのはやめる、と考えることもあります。実際に私は、それで同作のファンをやめたという人を二人は目にしています。 私は無償特典はファンでもコンプしなくてよいと考えており、虚構推理は各巻2〜4冊程度の購入にとどめています。
 人気の漫画には、この例のように10冊程度買わないと無償特典をコンプできないものも珍しくありません。また、ラノベには書店ごとに異なる番外編小説のリーフレットが付くものも多く、人気ラノベでは後にそれらをまとめたものが販売されることもあります。
 ちなみに講談社の方針変更により、14巻以降虚構推理の書店別特典はなくなっており(参考:「会社の方針で、巻数の若い作品以外は基本的には特典を控えるということになりまして…」)、私も14巻以降は各巻2冊の購入にとどめています。

 なお、特典商法という言葉は否定的な意味で用いられることも多いのですが、私は特典商法を批判する気は全くありません。 特典商法で読者の満足度が下がったり、読者が減ったりする場合もあるかとは思いますが、出版社等が儲かるならそれでいいと思っています。

(2)リピーター商法

 2024年12月26日、プロセカ公式は、映画「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」は26回鑑賞しないと特典をコンプできないと発表しました。これも特典商法の一種で、このように同一映画を何回も観なければ特典をコンプできない販売手法はリピーター商法とも言われます。リピーター商法は、まさに厳格なコンプ教徒向けの販売手法と言えるのではないでしょうか。
 この映画のチケットは1枚2000円だったので、コンプには5万2000円は必要です。厳格なコンプ教徒にとっては、5万2000円払って特典をコンプできないならプロセカファンをやめることを検討しなければならないケースだったでしょう。 またこれは、コンプ教徒にとって5万2000円払えばそれでファンを続けられるという単純な話ではありません。プロセカには今後も5万2000円程度払わなければ入手できない作品が増え続ける可能性があり、それらも買い続けられないなら結局はファンを続けられず今回5万2000円で特典をコンプしても無意味となるかも知れないのです。 厳格なコンプ教徒のプロセカファンには、これからも新しいグッズが出るたびに5万2000円程度を払い続ける覚悟ができるか、信仰心を試される出来事だったはずです。
 しかし、上記発表の翌日にこの方針は撤回され(参考:「【重要】「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」劇場版連動スタンプラリーのご説明とお詫び、内容の見直しについて」)、特典は6回の鑑賞でコンプできることになりました。ただ、この出来事により、次の作品こそ5万2000円になるかもしれないと不安を覚えるようになったプロセカファンも目にしました。

 プロセカ公式のこの方針転換は、厳格なコンプ教徒がファンをやめるのを恐れたからなのかも知れません。 ちなみに私は、このケースでも映画を26回鑑賞してもらえるのは無償特典でありファンでもコンプしなくてよい、と考えます。

 なお、リピーター商法という言葉も否定的な意味で用いられることが多いのですが、私はリピーター商法を批判する気もありません。

(3)ランダム商法

 缶バッヂ、アクリルグッズ、トイフィギュア、カード等にはブラインドで販売されるものがあります。こうした商品はランダム商品と、こうした販売手法はランダム商法・ブラインド商法と言われ、昔からガチャガチャ、食玩、ボトルキャップ等様々なものがあります。

 こういった商品には、ガチャガチャのように商品が丸ごとランダムのものと、食玩のようにおまけがランダムのものがあり、個人的には印象深いものが多いのは後者です。例えば、漫画「鬼滅の刃」18巻には18種類のカードがランダムで付き、話題になりました(購入者が絵柄を選べる書店もあったようです)。

これは、日本一慈しい鬼退治。
#鬼滅の刃』コミックス最新18巻発売を記念して、全国主要書店にて購入特典「オリジナルカード」を配布いたします!

種類は全18種!数量限定激レアカードを書店にて是非入手ください…!
実施書店のリストは下記URLになります。https://t.co/iKkl1V0Os2 pic.twitter.com/YJJisLNnPe

— 鬼滅の刃公式 (@kimetsu_off) November 29, 2019

 この時に行った書店には、鬼滅の刃18巻はお一人様3冊まで、という張り紙があったのですが、完全なランダムとするとコンプの確率は30冊購入でやっと83.5%程度なので、書店はそのくらいは買わせてあげてもよかったかも知れません。ちなみに私の分類ではこれも無償特典であり、ファンでもコンプしなくてよいと思っています。

 私はランダム商法についても、批判する気はありません。ただ、私はランダム商品は買わないことにしています。 ちなみに映画鑑賞の特典がランダムであるケース、つまりリピーター商法かつランダム商法というものもありますが、これも批判する気はありません。

(4)上記(1)〜(3)以外でコンプ困難となる商業作品

 これまで挙げてきたケースでは、売り上げ増加のための企業戦略により作品が入手困難となっていました。しかし、それ以外の理由で入手困難となる作品もあります。

 繰り返しになりますが、私はこういったコンプ困難な販売方法を批判する気はありません。それで売り上げが増えるなら好きにすべきだと思います。 ただ、欲しい作品を買えなかった場合、コンプ教徒は「作品を買えなかった、その次も買えないかも知れない」という恐怖で頭が一杯になってしまい、もうその作品を楽しめなくなってしまいます。 これは一言で言うと「冷める」ということなのかも知れません。

  2023年に話題になった記事「【追記あり】映画館で働いているんだが、特典商法に疲れた」では、『配っている張本人が言うのも変な話だが、特典が貰えたり貰えなかったりすることがそんなに人生の一大事みたいな事か? もちろん何を大事に思うかは個人の自由だけど、 映画のおまけで大の大人が激怒したり狂喜したり異常に悲しんだり、正直ちょっと怖い。』と、コンプ教徒への疑問が書かれています。確かに、コンプ教徒ではない人にはコンプ教徒の執着は奇異に思えるかも知れません。しかし、作品を買えなかった時の苦痛は大きくても、コンプ教徒でいた方が人生は楽しいと思うので、私はコンプ教徒を続けています。

第二章:同人作品が入手困難となる理由

 第一章で書いたとおり、商業作品は主に売り上げ増加のためコンプ困難な形で販売されますが、それに対して同人活動は利益目的ではありません。では同人誌はコンプ困難とはならないのかと言うと、正反対です。
 同人誌の世界は、利益目的ではないからこそ商業とは違い様々な理由で作品がコンプ困難となる、コンプ教徒にとって地獄のような世界です。第二章では、コンプ教徒が同人誌即売会で地獄を見て正気を失わないために、同人作品が入手困難となる色々なケースを紹介していきます。

(1)製造単価やサイズ等によるもの

 同人誌の大半は本ですが、他にもアクスタ・タペストリー・Tシャツ・ポストカード等、様々な形態があります。また、直筆イラスト色紙や木彫りの置物のような手作り作品を頒布するサークルもあります。

 これらのうち、アクスタ・タペストリー・Tシャツのような一つ一つの製造コストが大きいグッズや嵩張るグッズは、少数しか製作されずに入手困難となりがちです。これは、第一章(4)で言及した「りゅうおうのおしごと!」20巻の豪華特装版に近いとも言えます。こういう作品を頒布するサークルには、同人誌即売会の開始時点でそれらが完売するだけの行列ができている人気サークルも多く、一般参加者にはそれらが入手不可能であることも多々あります。他にも、グッズ系の作品は本の同人誌とは違って需要が予想しにくく、多数製作すると在庫リスクが大きくなるため製作数が控え目となることもあるようです。また、こういったグッズ系作品は書店委託しない方針のサークルも多く、ファンがコンプするのは至難の業です。
 このように、アクスタ・タペストリー等の製造単価が高額だったり、嵩張ったりする同人作品をコンプするのは現実的ではないため、この記事では以降こういう作品については扱いません。こういう作品が欲しいコンプ教徒はその作家のファンをやめるか棄教するか、どこかで折り合いをつけるしかありません。

 また、第一章(4)で手作業の美術品はコンプ不可能と述べましたが、直筆イラスト色紙等の手作業を要するものも同様に、コンプしようと考えるものではないでしょう。他にも、同人誌即売会ではよくコピー誌が頒布されますが、これも手作業を要するため大部数の制作はできないことから入手困難となりやすく、コンプは諦めるしかないでしょう。

(2)無償配布のもの

 第一章(4)で無償のノベルティはコンプ困難と述べました。類似のものとして同人誌即売会ではよく小冊子、ポストカード、イラストカード等が本のおまけとして無償配布されたり、単体で無償配布されたりします。これらは大半が会場限定であり、しかも早々に配布終了することも多く、コンプは困難です。商業でのノベルティと同様に、こういう無償配布の作品をコンプしようとしても仕方がないと考えており、この記事では無償配布のものは同人誌として扱いません。ちなみに、同人誌即売会でよく無償配布されるペーパーも会場に行かなければ入手不可能で、厳格なコンプ教徒にとって垂涎の的ですが、2017年頃からネットプリントを用いて会場に行けないファンにもペーパーが入手できるよう手配してくれる作家さんも見かけるようになりました。

 なお、小冊子、ポストカード、イラストカード等は単体で有償頒布されることも多く、そういう場合にはこの記事では同人誌として扱います。

(3)普段と異なるジャンルであることによるもの

 TK様(サークルA)は、長年全年齢向けの同人誌を制作されており、それらについては都度SNSで告知され、同人誌即売会と書店委託両方で頒布されていました。しかし、氏はあるとき成年向けの同人誌を制作され、それについてはSNSでの告知と書店委託をされませんでした。氏は後にもう一冊成年向け同人誌を制作された際にも告知・書店委託をされず、この二冊は書店委託で購入するTK様のファンにとっては入手困難となったはずです。それどころか、TK様のファンのうち同人誌即売会に行かない人は、これらの同人誌の存在を知らないままになっている可能性もありそうです。
 また、長年全年齢向け専門で同人活動をされてきた作家さんが成年向け同人誌を制作するようになる場合、別ペンネーム・別サークル名で発行するケースはしばしばあります(サークルSのN様、サークルVのTM様)。これらのケースでは、同人誌即売会では全年齢向け作品も成年向け作品も同一サークルスペース内で頒布されたのですが、SNSでは別アカウントで告知されるなど、買い逃しやすくはなっていました。

 他にも、NH様(サークルTY)は、長年都度SNSで新刊の告知をし、同人誌即売会と書店委託の両方で同人誌を頒布されてきたのですが、2017年の同人誌一冊だけについては告知をされず、書店委託のみで頒布されました。この一冊だけが告知なしで書店委託のみで頒布された理由は分かりませんが、氏は2009年頃からは2025年現在まで基本的にオリジナル同人誌のみを制作されており、この一冊のみ二次創作だったことが関係しているのかも知れません。
 また、ゲームクリエイターのTT様・NK様(サークルT)が数年ぶりに同人誌即売会にサークル参加された際に、新刊三冊のうち一冊のみ書店委託されず、入手困難となったことがありました。この一冊が書店委託されなかった理由は不明ですが、両氏はこれまでオリジナル専門で活動してきたクリエイターであるのに対し、この一冊のみは二次創作だったことが関係しているのかも知れません。

 これらのケースのように、普段と異なるジャンルの同人誌が制作されると、入手困難な形で頒布される場合があります。

(4)ジャンル上の制約によるもの

 二次創作同人誌の場合は、公式の二次創作ガイドラインにより入手困難となることもあります。
 例えばゲームメーカーのN社の二次創作ガイドラインでは、二次創作物の書店委託は禁止で同人誌即売会でも冊数(個数)の上限は200以下、売上額の上限は10万円以下と定められています。また、2018年のアニメSでも二次創作ガイドラインにより同人誌の書店委託が禁止されています。

(5)告知も書店委託も一切しない方針によるもの

 T様(サークルB)は、謎に満ちたクリエイターです。氏はプロの漫画家でもそうそうない高クオリティの同人誌を継続的に制作されているのですが、商業での活動経歴は一切不明で、SNSや画像投稿サイトのアカウントも不明です。そして氏は同人誌を書店委託されたこともないようです。告知も書店委託も一切されない以上、T様の同人誌はいつどこで頒布されるのか分からず、入手困難です。氏の同人誌を買おうとするなら、なるべく多くの同人誌即売会のカタログでサークルBが参加していないかチェックするしかありません。この活動方針によりT様はそこまで有名ではないものの、中古市場では氏の同人誌は高額で取引されています。

 これほど極端ではなくても、他にも人気があっても決して書店委託をしない作家さんは多数います。こういう作家さんの同人誌は、第一章(4)で書いた芸術家の作品のようなもので、コンプしようと考えるだけ無駄なのだと思っています。

(6)マイナージャンルであることによるもの

 K様(サークルH)は、それまでは同人誌を同人誌即売会と書店委託両方で頒布されていたのですが、ある時期に制作されたシリーズもの同人誌については一巻目の発行後1年経っても委託されませんでした。理由をうかがったところ、書店と委託について交渉中だがマイナージャンルの二次創作であるため売れないのではないかと渋られている、とのことでした。結局この同人誌はシリーズ一巻目の発行から5年ほど後に、ようやく書店委託されました。

 この同人誌シリーズは高クオリティだったため、一時期中古市場では販価の百倍の値段がついていました。これほどのクオリティでもマイナージャンルだと書店は委託を渋るのか、と印象的でした。

(7)勤務先の規定によるもの

 ゲームメーカーのA社では、同人誌を書店委託するのは副業禁止規定に抵触するとされて所属イラストレーターは同人誌を書店委託できず、入手困難となっていました。現在は同社のイラストレーターも書店委託が可能となっています。

 また、アニメーターが自ら制作に携わったアニメ作品の同人誌を制作する場合、書店委託されず入手困難となる場合が少なくありません。それらが委託されない理由は不明ですが、アニメスタジオとの契約によるケースはあるのかも知れません。

(8)経済的理由によるもの

 I様(サークルR)は、久しぶりに同人誌即売会にサークル参加される際に、エアコン修理で金欠のため新刊は100部しか発行しないと告知されました。 I様は同人誌を書店委託もされないため、この本は超希少本となっています。
 このように、作家さんの経済的理由により入手困難となる同人誌もあります。

(9) 一次創作となったことによるもの

 二次創作同人誌を描いてきた作家さんが二次創作の元ネタとしてきた作品の公式イラストレーター等になった場合、以降はそれまでのような方法での同人誌頒布をされなくなり、入手困難となる場合があります。 これは、以前書いた「一次創作同人誌のリスク」に関連するものなのかも知れません。

第三章:同人誌が意図的に入手困難とされた例

 第二章では、何らかの事情により意図せず入手困難となってしまった(と解釈しうる)同人誌の例を挙げました。しかし、このような事情があって入手困難となった(と解釈しうる)同人誌はごく一部で、大半のケースでは同人誌が入手困難となる理由は部外者には全くわかりません。そのようなよくわからないケースには、以下の(1)〜(3)のように意図的に入手困難となるように制作された同人誌であることが明言されるケースもあります。

(1)モロモロのケースその1

 Dr.モロー様(サークルモロモロ)は、コミケカタログに挿絵や漫画を掲載されていることでも有名な漫画家さんです。 氏が1998年に同人誌「COMIC REVOLUTION 10周年記念本」に寄稿された漫画は、一般参加者を嘲笑するために意図的に同人誌を入手困難としたエピソード2つを描いたものです。

 そのエピソード一つ目は、以前「立ち読み禁止の同人誌の話」に書きました。再掲すると、

「COMIC REVOLUTION 10周年記念本」(ニセHP研究会)P.41・42より引用

 上下巻の同人誌をそれぞれ入手困難にするというのは、なかなかにコンプ教徒にとっては酷と思えます。Dr.モロー様のファンでも、恐らくこの上下巻両方を読んだ人はごく少数なのではないでしょうか。

(2)モロモロのケースその2

 Dr.モロー様が「COMIC REVOLUTION 10周年記念本」に寄稿されたもう一つのエピソードは、このような内容です。

「COMIC REVOLUTION 10周年記念本」(ニセHP研究会)P.43〜46より引用

 これは端的に言うなら、ファンを嘲笑するために一般販売しない豪華同人誌を制作し見せつけ、一般販売したと嘘をついたエピソードと言えるでしょう。

 私は作家さんが読者を嘲笑するのは全然かまわないと考えており、これらのエピソードについてDr.モロー様やS田真子様、Tつねこ様を批判する気はありません。ただ、読者を嘲笑するために作品を入手困難にする作家さんの作品は、いつ続巻が購入できなくなるか全く分からず、読んでも楽しめません。私は、Dr.モロー様や新田真子様、たつねこ様の同人誌や単行本を購入したことがあったのですが、 この漫画を読んでそれらは全て処分しました。その後、三氏の作品を読もうと思ったことはありません。

(3)モリオン航空のケース

  HISADAKE様・モグモ様(サークルモリオン航空)は、「機動戦士ガンダム 水星の魔女」の原案立案やキャラクターデザイン原案等をしたことでも有名な、クリエイターコンビです。私はモグモ様の作品を10年ほど買い続けてきたのですが、 同サークルの作品には突然の路上同人誌即売会限定で頒布されるなど(参考:「5/20(土)に江戸川区の平井で路上同人即売会をやります。」)、入手困難なものがいくつかあるのが気になっていました。同サークルは継続的に、完売しなくても以後の同人誌即売会で頒布しない作品を制作されているようでした。そしてHISADAKE様は、2024年1月にアブダビ(アラブ首長国連邦)でのイベント限定で頒布された同人誌について、以下のように投稿されました。

コンプリートがやたら難しい傲慢なコレクションカードを作る夢が叶いつつある。 pic.twitter.com/J93TuDrcbo

— HISADAKE (@morion_airline) February 1, 2024

 私は、以前「ガンダム新作を企画したモリオン航空とモグモ様の凄さ」で書いたように初めてイラストを見てからずっとモグモ様のファンだったのですが、 この創作方針を理解してからはモグモ様の同人誌を読んでも「この続巻が出ても購入できないかも知れない」という思考で頭が一杯になるだけで楽しめなくなりました。
 HISADAKE様は作品をコンプ困難とする方針について「遊び」とおっしゃっています。

江戸川区路上がSR。アブダビ限定頒布がおそらくSSR。そういう遊びです。 pic.twitter.com/cSAXszzL1i

— HISADAKE (@morion_airline) August 18, 2024

 確かに、遊びなら意図的に作品をコンプ困難とされることもあるのかも知れません。作品を入手困難とするのも作家さんの自由であり、モリオン航空の創作方針を批判する気はありませんが、 この創作方針を理解してから私は、これまで買ってきたモグモ様の同人誌、複製画ディスプレイクーラー等を順次処分しています。

第四章:同人誌が意図的に入手困難とされる理由

 こういった、意図的に入手困難となるように制作される同人誌は、なぜそのように制作されるのでしょうか。第三章(1)(2)のケースでは読者を嘲笑するためと明言されましたが、他にも同人誌即売会には入手困難な同人誌は多数あります。それらのうち第二章で挙げたような意図せずに入手困難となったと解釈しうる同人誌はごく一部で、大半は意図的に入手困難となるように制作されている印象があります。
 もしかすると、意図的に入手困難となるように制作される同人誌には、以下のような理由によるものはあるのかも知れないと考えています(私には想像のつかない他の理由もあるかも知れません)。

(1)作品を購入できず悔しがる読者を嘲笑するため

 第三章(1)(2)のケースでは、前述のとおり作家さん がファンを嘲笑するために意図的に作品を入手困難とされたことが明言されています。この漫画には、作品を入手できなかったことを悲しんだり悔しがったりするファンたちが醜悪に描かれています。

(2)同人活動に箔をつけるため

 サークルに行列ができたり作品が完売したり作品が入手困難となったりし、大手サークルと見做されるのは作家にとって勲章のようなものだ、という考え方があります。同人誌即売会が開催されるようになって間もないころからこのようなサークルがあったことは知られており、例えば、「同人用語の基礎知識」の「牛歩サークル」の項では、より大手と見做されたいサークルの手法がいくつか紹介されています。
 こういう考え方により、意図的に入手困難となるように同人誌が制作されるケースもあるのかもしれないと考えています。

(3)読者を振るい落とすため

 意図的に読者を振るい落とすため、入手困難となるように同人誌が制作されるケースもあるのかもしれないと考えています。意図的に読者を振るい落とすというのは奇妙に見えるかも知れませんが、様々なジャンルに存在する考え方です。例えば、「ガールズサイトのデザイン事情」や「頼むから博物館のチラシとHPには「都道府県」から書いてくれ→「近隣住民にしか来てほしくない」理由がある?」で言及される考え方は、まさに意図的に読者を振るい落とすためのものと言えるでしょう。同人サークルでも、かつて個人ウェブサイトが盛んだった時期の検索避け等、読者の振るい落としはしばしば行われてきました。
 このような振るい落としのため、意図的に入手困難となるように同人誌が制作されるケースがあるのかも知れないと考えています。この場合、入手困難な同人誌は、神が信徒に与える試練のようなものと言えるのかも知れません。

第五章:まとめ

 何度も述べてきましたが、私は企業が売り上げ増加のための特典商法等で作品をコンプ困難とすることも、作家個人が読者を嘲笑するために作品をコンプ困難とすることも、非難する気は全くありません。企業にも作家個人にも読者の希望を叶える義務などなく、作品をコンプ困難にするのも自由です。コンプ教徒は作品を入手できないのが不満なら、ファンをやめるか棄教すればいいだけです。
 コンプ教徒の中には、作品を入手困難とした企業や作家を非難する人もいるようで、上記のDr.モロー様の漫画にもそういう人が醜悪に描かれています。しかし、企業や作家が作品を入手困難とするのが自由である以上、そういう非難は間違っています。作品を買いたいというのはファンの都合であり、購入困難であることに文句を言うのはファンの我儘でしかありません。

 恐らく世の中の多数派は、コンプ教徒ではないはずです。例えば「この映画は26回観なければ特典をコンプできません」と言われても、入手しようか悩んだり「リピーター商法だ!」と不快になったりするのは厳格なコンプ教徒だけでしょう。私のような軽度のコンプ教徒は「これは厳格なコンプ教徒には大変だろうな……」と心配するだけですし、そもそもコンプ教徒でない人々は気にも留めないのではないでしょうか。

 コンプ教徒は、しばしば誰もが作品をコンプしたがっているように考え、作品をコンプ困難とする企業や作家はおかしいと考えてしまいます。しかし、誰もがコンプしたいと考えるほどその作家・作品に熱中しているわけではない以上、作品は様々な理由によりコンプ困難となります。コンプに失敗するとコンプ教徒は大きなショックを受けることもありますが、それは恐らく入れ込み過ぎの状態です。コンプ教徒は様々な理由により作品がコンプ困難となることを理解し、コンプに失敗してもあまり悔しがったりせずにファンをやめるか、棄教したほうがよいと思っています。

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