2016年3月20日
二次創作活動について、これまでに何度も次のような見解を目にしました。
「公式の絵が上手いと、二次創作作家は萎縮してしまい二次創作作品は少なくなる。『月姫』『東方project』『ひぐらしのなく頃に』の二次創作人気は、公式の絵が下手だったのが大きな要因だ」……と。
以下に引用するのはそういった見解の一例で、TYPE-MOONの人気の理由について述べたものです。
- 三毛招きさんからの意見
宮島さんの意見に近いのですが、二次創作のやりやすさにあると思います。
ただ、私の場合それは世界観とか文章上の理由ではないと思いますよ。一番の理由は「絵」だと思います。
Fateあたりからはともかく、月姫のころだと絵が下手な部類に入ると思います。
絵が下手だと二次創作しやすいんですよ。原作より下手に描いて叩かれることはあっても、原作より上手く書いて叩かれることはないですからね。
商業になっても人気だったのは同人の客がそのままついてきたからじゃないかなーと思います。
たぶん、最初から商業だったらライアーソフトとかと同じく、
「名作だけど知る人ぞ知る」的な部類に入ってたと思いますよ。同様の理由で二次創作されやすい(人気がある)ものに、
同人ならひぐらし、東方、商業ならKeyがありますね。
しかし私は、公式の絵が上手いと二次創作が減るという見解には疑問を持っています。 (例示された作品の絵が下手かどうかにも異論がありますが、それはここでは擱きます)
私はしばらく『艦これ』をプレイしました。この作品は多数のイラストレーターさんがキャラクターを分担して描かれていて、
率直なところ絵の上手いイラストレーターさんもそうでないイラストレーターさんも描かれています。
そしてこの作品の二次創作を見てみると、描かれているのは圧倒的に絵の上手いイラストレーターさんのキャラクターなのです。
それはPixivで描かれた回数で見てもそうですし(参考:「2015年の『艦これ』Pixiv人気艦娘ランキング」)、
同人誌の数を見てもそうです(参考:「コミケで売られてた『艦これ』同人誌の数を艦娘別で集計!」)。
特にここ数か月、『艦これ』の二次創作で恐らく最も多く描かれているキャラクターが「鹿島」なのですが、
このキャラクターは原作で人気のイラストレーターさんに描かれていて、原作の中でも上手いイラストです。
本当に公式の絵が上手いと二次創作が減るのであれば、「鹿島」が一番人気になるとは考えにくいのではないでしょうか。
確かに、公式の絵が上手いと二次創作が描きにくい、という作家さんはいます。
しかし逆に、公式の絵が上手くてキャラクターが魅力的に見えることで二次創作を描きたくなる作家さんもいるのではないでしょうか。
また、公式の絵が上手いと二次創作が描きにくいが、そういう作品/キャラクターの方が人気があり、つまり需要があるから二次創作を描く、という作家さんもいるかも知れません。
いずれにせよ、『艦これ』の二次創作を見る限り、「公式の絵が上手いと、二次創作作家は萎縮してしまい二次創作作品は少なくなる」という見解は疑わしいように私には思えます。
……まあ、私の審美眼が世間とずれている可能性もありますが。
2015年10月12日
創作作品には、「異世界もの」と呼ばれるジャンルがあります。 主人公がそれまで暮らしてきた世界とは異なる世界に行くという作品で、特に近年のライトノベル業界では人気のあるジャンルのようです (参考:「異世界とは (イセカイとは) [単語記事] - ニコニコ大百科」)。
ある時私は、アニメイトで配布されている小冊子の2015年7〜8月発売のライトノベル新刊タイトルを見て少し驚きました。
下線を引いた部分を見て頂けると分かるように、この期間に発売されるとある出版社の作品10タイトル中、 3タイトルに「異世界」という言葉が入っています。
「こんなに何回も同じ言葉をタイトルに使ったら、読者にすぐに飽きられてしまうんじゃないか?」……そんな心配も浮かびました。
しかし、それは序の口でした。その2か月後、同出版社の9〜10月発売の新刊タイトルはこうでした。
なんとこの期間に新刊が出る13作品の内、下線を引いた7作品に「異世界」という言葉が入っています。 更に、「異界」という言葉がタイトルに含まれる作品も1つあります。もはや異世界がゲシュタルト崩壊を起こしそうな勢いです。
「異世界」というのは、そんなにも魅力的な言葉なのでしょうか。 タイトルに「異世界」と入っていれば多数の読者が食いつく、そんな時代がいつの間にか来ていたのでしょうか。驚きでした。
2017年6月4日
二次創作同人誌の権利上のリスクについて述べる方は多いですが、一次創作同人誌の問題について述べる方はほとんど見かけません。 しかし、原作付き・あるいはマルチメディア展開されている作品の公式の漫画家・イラストレーターの方にとって、一次創作同人誌は二次創作よりも権利上リスキーなことが多いと私は考えています(アニメーターやゲームのCGを描く方にとってはそうでもないようですが)。 なので、ここで簡単に述べてみたいと思います。
一次創作同人誌で比較的最近話題になったのが、種村有菜様の「おそ松さん」同人誌のトラブルです。
公式で「おそ松さん」のイラストを描かれていた種村様が同作の成人向け同人誌を出そうとしたところ、
公式から注意されて中止するという出来事がありました(参考:「【炎上】種村有菜先生のおそ松さんBL同人誌「空飛ぶ魚*海の猫」が頒布・発行を取り止め!【目黒帝国】」)。
また、一次創作同人誌のトラブルで有名なのがみずのまこと様のケースでしょう。みずの様は「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズの公式コミカライズを担当されていましたが突然打ち切られて他の方が同作のコミカライズ担当となり、
みずの様のコミカライズは公式になかったことにされました。
連載の突然の打ち切りは、みずの様が同作の全年齢向け同人誌を出したことが問題になったのではないかと言われています(参考:「Wikipedia:涼宮ハルヒシリーズ-『涼宮ハルヒの憂鬱』(みずのまこと版)」。
みずの様の連載の打ち切りの真相は定かではありませんが、
同様にアニメ「ストライクウィッチーズ」のコミカライズを角川系列で担当された京極しん様は、コミカライズの開始に際して同作の二次創作イラストを多数掲載していたご自身のウェブサイトを削除し、
それまでに多数出されていた同作の同人誌も出されなくなりました。京極様は連載終了後は同作のキャラクターは一切描くことができなくなるとブログに書かれていて、角川でのコミカライズの際の契約には同人誌の制作に強い制約があるのは事実のようです。
また、私は同人誌即売会で作家さんにスケブをお願いすることがあるのですが、
原作付き・あるいはマルチメディア展開されている作品の公式の漫画家・イラストレーターの方にそれらの作品のスケブをお願いすると「その作品はちょっと……」と断られることが珍しくありません。
またそういうスケブは描いて頂けた場合でも、サインは入れて頂けなかったり、これを描いたことは秘密にしてください、と言われたりすることがしばしばです。
なお、スケブとは何かについては拙稿「私設コミックマーケット対策委員会 第五章-スケブをお願いしてみよう」をご覧下さい。
これらの出来事から、原作付き・あるいはマルチメディア展開されている作品の公式の漫画家・イラストレーターの方の一次創作同人誌は二次創作以上に権利的に問題になりやすい、と私は考えています。
さらに、原作付き等でなくても一次創作同人誌が問題になるケースはあります。納都花丸様は、ご自身のオリジナル漫画「蒼海訣戰」を商業誌で連載しながら同時に同人誌でも展開されていましたが、 掲載誌が変更になると新しい出版社との契約により、同人誌での展開が不可能になりました。そして新しい掲載誌が廃刊になってもその出版社との契約は終了せず、納都様は数年間商業でも同人でも同作を描くことができなくなりました。
小説家の鷹見一幸様はこうツイートされました。
最近は出版契約書に「主人公や地名を変えても、タイトルを変更しても同一の世界観の物語を書いてはならない」みたいな縛りが盛り込まれていて、私のように、どこかで繋がっている世界観の物語を書きたい人間には、実に厳しい。契約書の文面変更を申し出たこともあるが、法務がいい顔をしないらしい。
こんな契約があっては、一次創作同人誌は不可能になってしまうでしょう。上で挙げた納都様も、このような契約のために「蒼海訣戰」を長期間描くことができなかったそうです。
ただ、公式の漫画家・イラストレーターの方は決してその作品の同人誌を描けないというわけではありません。
アニメ「ガールズ&パンツァー」の公式コミカライズを担当されている才谷屋龍一様は同作の全年齢向け同人誌を多数出されていますし、
アニメ化もされたゲーム「リトルバスターズ!」「Rewrite」の公式コミカライズを担当されているZEN様もそれらの作品の全年齢向け同人誌・同人グッズを多数出されています。
また、上で角川でのコミカライズの際の契約には同人誌の制作に強い制約があると書きましたが、角川だからと言って公式作家に絶対に同人誌が出せないわけでもないようです。
例えば、角川系列で出版されアニメ化もされた小説「冴えない彼女の育てかた」の公式イラストレーターである深崎暮人様は、同作の全年齢向け同人誌を2冊出されています。
また、同じく角川系列で出版されアニメ化もされた漫画「悪魔のリドル」の作者である南方純様は、同作の全年齢向け同人誌・同人グッズを多数出されています。
また、同じく角川系列で出版されアニメ化もされている同名ゲームのノベライズ「艦隊これくしょん ‐艦これ‐ 一航戦、出ます! 」の挿絵を担当されているGUNP様も、
同作の全年齢向け同人誌を多数出されています。
これらの事例を見ると、角川系列のアニメ化された作品でも、一次創作同人誌は不可能ではないように思われます。要はその作家さんの契約次第なのではないでしょうか。
なお厳密には、公式に許可されていても一次創作同人誌がトラブルになる場合はあります。
ゲーム「シャイニング」シリーズのキャラクターデザインを担当されているTony様が同作の成人向け同人誌を出すと発表されたところ、Tony様のサイトの掲示板に過激な荒らしが現れ、
最終的にTony様はその同人誌を出すのを断念された、という出来事がありました。Tony様は公式にその同人誌の許可は取られていたようなのですが、それでも同人誌という形式が嫌いな人はいるということなのかもしれません。
さて、これまでの事例では公式の作家さんが出すことに成功した一次創作同人誌はいずれも全年齢向けで、成人向けの同人誌を出そうとした作家さんは失敗されていました。
公式の作家さんが成人向けの一次創作同人誌を出すことは、全年齢向けのそれより色々と難しいのだと思われます。
しかし、公式の作家さんが成人向けの一次創作同人誌を出されるケースもあります。
よくあるのが、アニメのエンドカードを描かれた作家さんが成人向け同人誌を出されるケースです。
例えばアニメ「ローゼンメイデン」のエンドカードを描かれた冬扇様は、その前にもその後にも多数の同作の成人向け同人誌を出されていますし、
「冴えない彼女の育てかた」のエンドカードを描かれたなかむらたけし様、みぶなつき様もその前にもその後にも同作の成人向け同人誌を出されています。
ある意味では、これらも公式の漫画家・イラストレーターによる一次創作同人誌とも言えるでしょう。
また、ペンネームを変えて公式の作家さんが成人向け同人誌を描かれるケースもあります。 例えばアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の成人向け同人誌を出されたY.S・イレブン様は、同作のキャラクターデザイン・コミカライズを担当された貞本義行様と同一人物とされています。 もっとも、別ペンネームで描かれた同人誌はさすがに一次創作とは言い難いでしょうが。
ところで、この記事では「公式の漫画家・イラストレーターの方にとって、一次創作同人誌は難しいが、アニメーター、ゲームのCG描きの方にとってはそうでもない」と書いてきましたが、
「では小説家はどうなのか?」という疑問を持つ方もおられるかと思います。これについてはサンプルが少なく、よくわからないというのが正直なところです。
私の知る限りでは、上でも触れた小説「冴えない彼女の育てかた」の作者である丸戸史明様や、
同様に角川系列で刊行されアニメ化もされている小説「境界線上のホライゾン」の作者である川上稔様はそれぞれ同作の同人誌を出されていますので不可能ではないのでしょうが、
上で紹介した鷹見様のツイートを見るとそう容易ではないのかも知れません。
なお、公式の作家さんによる同人誌を一次創作と呼ばないのではないか?という意見を見たことがありますが、私の知る限り同人誌業界的にはそれは一次創作であるようです。
最も明確な例としては、一次創作専門の同人誌即売会コミティアでもこういった同人誌は一次創作と認められ、しばしば頒布されています。
上で挙げた才谷屋様はコミティアに毎回のように参加されて「ガールズ&パンツァー」の同人誌を頒布されていますし、
「けものフレンズ」のたつき監督が先日コミティアで出された同作の同人誌は、ネットで話題にもなりました。
上でも述べたように、公式の漫画家・イラストレーターの方による同人誌とは違い、アニメの監督・スタッフによるそのアニメの同人誌自体は珍しいものではないのですが、
それが一次創作専門の同人誌即売会で頒布可能ということは、そういった同人誌は一次創作であると考えて差し支えないのでしょう。
作者本人による同人誌というのは、多くの場合ファンにとっては理想の同人誌なのではないでしょうか。出版社がそれを認めたがらないのも理解できなくはないのですが、 できればもっと本人による同人誌が増えてくれればと思います。
2018年4月9日
「あにこれ」というサイトがあります。
アニメの人気ランキングサイトを謳っていて、投稿された多数のレビューを基にアニメのランキングを行っているように見える、日本のアニメレビュー界では最も有名なサイトです。
海外のアニメファンの間でも同サイトは知名度があるようで、海外のアニメファンが同サイトのランキングを基に、「日本のアニメファンはセンスがないな」等と語り合っているのを目にすることがあります。
確かに同サイトは日本のアニメレビュー系サイトの中では断トツのレビュー投稿数を誇り、一見同サイトのランキングにはある程度客観性があるように見えます。 しかし私は、同サイトのランキングは運営者によって恣意的に操作された客観性のないランキングなのではないか、と思っています。
同サイトのランキングの基となる各作品のポイントは、一見すると各作品の多数のレビューによって積み重ねられたもののように思えます。が、しばらく同サイトのランキングを見ていると、明らかにそれでは説明のつかないポイントの激減があることに気付きます。
上図は、2017年4〜6月に放送されたテレビアニメの内4作品の2017年6月27日〜2018年4月8日までの同サイトでのポイントの変動をグラフ化したものです(破線部はデータ消失により記憶で再現した箇所です)。
当初、同サイトでは同期のアニメのポイントは「月がきれい」「エロマンガ先生」「冴えない彼女の育てかた♭」「進撃の巨人 Season2」が四強で、5位以下を大きく引き離していました。 私はポイントの差から、同サイトのランキングではこの四強は崩れないだろうと思っていたのですが、この予想は外れました。 「エロマンガ先生」「冴えない彼女の育てかた♭」は突如ポイントを激減させたためです。特に「エロマンガ先生」の10月6日の3.4ポイント減は劇的でした。(「進撃の巨人 Season2」にも一度不自然なポイント減少がありますが、同作品には一度同程度の不自然なポイント増加もあり、結果的にグラフが予想に近い曲線になっています)
同サイトでの各作品のポイントは、基本的に放送終了後レビューが増えると共に微増していくのですが、そんな中で「エロマンガ先生」「冴えない彼女の育てかた♭」のポイントの急減は異常です。ある日突然、これらの作品に低評価のレビューが多数付いたというのなら理解できるのですが、
全くそのようなことはありませんでした。
初めはユーザーのアカウントの複数所持あるいは改竄等によるポイントの不正操作の可能性も考えたのですが、時間が経っても激減したポイントが戻ることはなかったため、この可能性は低いでしょう。ただ、急激に上がったポイントが58日後元に戻った「進撃の巨人 Season2」はそうだったのかも知れませんが。
となると、やはり同サイトの運営者が恣意的にポイントを操作したと考えるのが自然なのではないでしょうか。
運営者がこのようなポイント操作をすることが不正なのかと考えると、不正とは言えないように思います。何故なら同サイトの「ランキングについて」には、 以下のような説明があるからです。
アニメ作品の総合得点は、その作品やキャラクターに投稿されたレビュー・感想の単純平均点ではありません。
- アニメ作品ページに存在するお気に入り登録数
- アニメ成分タグの投票数
- 感想の票数
- レビュー・感想(満足度)の得点
- Twitterでつぶやかれた回数
そしてこれらのコンテンツに対して行動をおこしたユーザーの信頼度(レベル)
つまり作品ページに存在するすべてのコンテンツに対して、あにこれに関わるどんな人が何をしたのかを総合した得点を算出し、独自のロジックで採点してます。※独自のロジックとは?
- 全アニメ作品での偏差値計算
- レビュー・感想(満足度)を投稿した人の信頼度
- Googleのページランクの概念や検索エンジンが上位表示を決めるロジック
- 足し算、引き算、割り算、掛け算、パーセンテージ計算、ルート、微分積分。
これらの要素を得点計算式に導入して、総合得点が算出されています。
「ランキングについて」より
確かに、サイト運営者が独自に足し算引き算までしていいのなら各作品のポイント操作は思いのままであり、それは不正ではないでしょう。 しかし不正ではないにせよ、多数のレビューを集めてやっていることが客観性のないランキングだとしたら、ミスリーディングだと言わざるを得ません。私は、同サイトのランキングを参照する人々に、これが操作されたランキングの可能性が高いことを知って欲しいと思っています。
※2018年4月11日改稿
2018年11月11日
ウェブで様々な作品の感想を見ていると、多くの創作作品に触れてきた人と、そうでない人では感想の傾向に違いがある気がします。 後者は過去作品との類似を指摘したがり、前者は過去作品との違いを指摘したがる傾向があるかな、と。
端的に言ってしまえばこのような感じです。
「作品Aは○○に似ている、ありがちでつまらない」
「作品Aは××という点が過去の作品に無く、斬新だ」
思うに、多くの創作作品に触れてない人にとっては今読んで(視聴して)いる作品が既存の作品に似ていることは珍しいことで、否定的な印象になりやすい気がします。
逆に、多くの創作作品に触れてきた人にとっては今読んで(視聴して)いる作品が既存の作品に似ていることは普通のことで、それだけでは否定的な印象になりにくく、それどころか多数の作品との比較により差異を分析できるのではないでしょうか。