ガンダム新作を企画したモリオン航空とモグモ様の凄さ

公開:2022年11月20日 最終更新:2023年3月14日

 モリオン航空は、キャラクターデザイン・イラスト担当のモグモ様と原案・デザイン担当のHISADAKE様の二人による同人サークル(注1)です(公式サイト)。 モリオン航空は私が知る限り2012年頃から活動されてきましたが特に2020年頃からの躍進は目覚ましく、 モグモ様は2022年10月から放送中の「機動戦士ガンダム 水星の魔女」のキャラクターデザイン原案を担当されました。 高い実力を持ちながら注目を集められないまま活動を休止されるクリエイターは多く、 「実力のあるクリエイターが世に出る確率を上げる方法はないのだろうか」と以前から気になっていたのですが、 モグモ様のインタビューを見たところモリオン航空の活動はこの疑問への解答となっていたため、この記事でその凄さについて語りたいと思います。

 なお、この記事はモリオン航空とモグモ様の活動の全てを網羅するものではありません。 事実誤認があれば訂正しますが、基本的には記事の公開後に活動内容を追記することは想定していませんのでご了承ください。 また、この記事はいちファンが勝手に書いたものでありモリオン航空とモグモ様の監修を受けたものではありません。

注1……同人誌・同人サークルという言葉は他の意味で使用される場合もありますが、この記事では「企業ではなく個人が制作し、一般の流通以外の場(コミケ等)のみで頒布される本」が同人誌、 「同人誌を制作するための一人又は複数人のグループ」が同人サークル、とお考え下さい。 なお、「同人誌イコール二次造作」と誤解されている方は少なくないようですが、同人誌の何割かはオリジナルであり、この記事で言及する同人誌も全てオリジナルです。

1.モリオン航空とモグモ様の2019年頃までの活動

 私がモリオン航空を初めて知ったのは2013年5月の同人誌即売会で、この時期にはオリジナル企画「乙女戦線」の世界観やキャラクター等を紹介する同人誌を制作されていました。 モグモ様のイラストのあまりの洗練ぶりに私は即座に購入を決意し、サークル主の方にお願いしスペース内展示用のタペストリーまで売っていただいたほどでした。 私は好きな作家さんにサインやスケブ(注2)を頂きたいと思う性質なのですが、伺った限りではこの時期にモグモ様がサークルスペースにいらしたことはありませんでした。

 その後数か月ほどでモリオン航空は同人誌即売会に参加されなくなってしまい、Twitterアカウントやウェブサイトも気が付くと見当たらなくなっていました。 モグモ様は2013年9月にKADOKAWAのライトノベル「葵くんとシュレーディンガーの彼女たち」(文は渡来ななみ様)のイラストを担当されたものの、一時期私はもうモリオン航空は創作活動をやめてしまわれたのかも知れないと考えていました。

 しかし、2015年12月のコミケ89のカタログをチェックしていた私は、モグモ様のイラストと思しきサークルカットがあるのに気づきました。 サークル名は「mogmognet」で、Twitterアカウントやウェブサイトは復活していなかったもののモグモ様のサークルと確信した私は、 サインを頂けないかと以前購入したタペストリーを持参しました。 期待したとおりmogmognetはモグモ様の個人サークルのようで、魔女をテーマにしたオリジナルのイラスト同人誌を頒布されていました。 スペースにはご本人がおられ、私は念願のタペストリーへのサインとスケブを頂くことができました。

 その約1年半後、2017年5月からモリオン航空は活動再開され、mogmognetも2018年5月以降時々同人誌即売会に参加されるようになりました。 2017年以降の同人活動では、モリオン航空は主にオリジナル企画「永久×バレット」(2017年から計5冊)、「KEMONO FABRIC」(2018年から計4冊)、「TOTORIBE」(2021年に1冊)の世界観やキャラクター等を紹介する同人誌を制作されています (いずれも2022年11月時点。なおモリオン航空は缶バッジやポスター等のグッズも制作されていますが、この記事では注1のとおり本の作品のみをカウントしています)。 また、mogmognetではその後も魔女をテーマにしたイラスト同人誌を主に制作されています。

 モリオン航空とモグモ様は2018年からDJRIO.eth @ REALITY様等バーチャルキャラクターのデザインを手がけられるようになり、 2019年7月には、 HISADAKE様原作、モグモ様イラストの小説「VR探偵 尾野乃木ケイト アリスとひみつのワンダーランド!!」(文は前野メリー様)が講談社から出版され、活躍の場を広げていきました。

注2……この記事ではスケブとは「同人誌即売会で、作家さんにスケッチブックを渡して即興でイラストを描いていただくこと」とお考え下さい。作家さんによりスケブ一枚にかける時間は数分から数時間まで様々で、 そもそもスケブを受け付けていない方も多数おられます。

2.モリオン航空とモグモ様の2020年〜2022年11月までの活動

 2020年からモリオン航空とモグモ様は躍進を急加速させます。
 2020年10月から、上記企画「永久×バレット」が講談社ヤングマガジンで「永久×バレット 新湊攻防戦」(作画は藤村緋二様)、同good!アフタヌーンで「永久×バレット -怪獣学園-」(作画は玄道様)としてコミカライズされ、商業連載となりました。
 2021年1月には、上記企画「KEMONO FABRIC」のイラスト集「KEMONO FABRIC TOKYO モグモ Artworks」が、HISADAKE様の文章付きでKADOKAWAから出版されました。
 2021年5月には、Cygamesの新作アクションゲーム「Project GAMM」のキャラクターデザインをモグモ様が担当されることが発表されました(参考:「Cygames 新作ゲーム『Project GAMM』 音楽に鷺巣詩郎、キャラデザにモグモ」)。
 そして2022年10月から、モグモ様がキャラクター原案を担当された「機動戦士ガンダム 水星の魔女」が放送中です。

 近年、同人作品が商業化するケースは珍しくなくなってきていることは以前拙稿「同人漫画を商業連載にする近年の傾向」でも言及しました。 しかし、これまでに商業化されてきたのは基本的に同人漫画やゲームであり、モリオン航空のように世界観やキャラクター等を紹介する同人誌が商業化されるケースはかなり珍しいはずです。 一つの同人サークルから複数の作品が商業化するケースとして考えても、TYPE-MOON(「月姫」「空の境界」)や07th Expansion(「ひぐらしのなく頃に」「うみねこのなく頃に」)のようなケースはあるもののかなり珍しいはずで、 この点を考えても「永久×バレット」「KEMONO FABRIC」が相次いで商業出版されたモリオン航空の躍進は異例のことと思えます。

 そして、「機動戦士ガンダム 水星の魔女」です。 上で書いたとおりモグモ様は以前から魔女をテーマにした同人誌を制作されており、サブタイトルを「水星の魔女」とするガンダムの キャラクターデザイン原案をされるのは偶然ではないように思え関連が気になっていました。 しかし、モグモ様のインタビューを見てその疑問が解けました。

(略)「新しいガンダムの企画コンペがあるので、参加しませんか?」とお誘いを受けました。 そこで僕といっしょに「モリオン航空」というグループで同人誌をつくっているHISADAKEさんと協力して、主人公の女の子に加えて、世界観イメージなどをまとめた企画書をつくったんです。 それをコンペに提出したところ、合格したという流れです。

KADOKAWA「月刊ニュータイプ」2022年11月号P.20より

 なんと、今回のガンダムの企画自体がモリオン航空によるものだったのです。 HISADAKE様も以前『『機動戦士ガンダム 水星の魔女』 キャラクター原案:モグモ 設定協力:HISADAKE で参加させていただいてます。よろしくお願いいたします!』とツイートされていましたが、まさか企画段階から携わっておられたとは思いませんでした。 同ガンダムの岡本プロデューサーは、後に公開されたインタビューで以下のとおり語られています。

何人かの方に企画やアイディアを出して頂いたのですが、今回設定協力で参加して頂いているHISADAKEさんと、キャラクターデザイン原案のモグモさんが所属するクリエイターチーム「モリオン航空」さんから出たものが『水星の魔女』でした。

今となっては企画内容の原型はほぼ残っていないのですが、タイトルにもある「魔女」というキーワードは、小林寛監督と大河内一楼さんも「面白い」ということで、そこがすべての始まりとなりました。キャッチコピーの「その魔女は、ガンダムを駆る。」もモリオン航空さんの企画書に当初からあったものですが、モリオン航空さんの持つ独自なセンスは、本作品を形作る上で大切なエッセンスになっています。

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』PDが語る「PROLOGUE」と本編の取り組み」より

 これらのインタビューと、モグモ様が継続して魔女をテーマにした同人誌を制作されてきたことから考えれば、同ガンダムがモグモ様の魔女好きにより生まれたことは間違いないように思えます。 以前から描き続けてきたテーマで人気シリーズ新作の企画コンペに合格するというのは、クリエイター冥利に尽きる話なのではないでしょうか。

 モリオン航空とモグモ様がこれまで複数の同人誌を制作されてきた企画やテーマ「乙女戦線」「永久×バレット」「KEMONO FABRIC」「魔女」のうち、三つはそれぞれ何らかの形で商業化されたことになります。 この打率には驚嘆するほかありません。

 これまでにもこのサイトで書いてきたように、優れた実力を持ちながらヒット作を生み出せず、注目を集めることのないまま休業されるクリエイターは少なくありません。 クリエイターが、特にイラストレーターがヒット作を生み出せるかどうかは運の要素が大半なのではないかと思っていました。 しかし、モリオン航空は人気シリーズ新作を自ら企画しコンペに合格することで一気に知名度を上昇させ、優れたクリエイターなら自ら企画を立ち上げ大企業に提出することでヒット作を生み出す道もあると私に示してくれました。 無論、そもそも新作ガンダムのような大きな企画コンペに参加できる立場になるのは容易ではないはずですが、 それでもこれは私にとって「月姫」でブレイクしたTYPE-MOONに匹敵するサクセスストーリーでした。

 モリオン航空と同様にオリジナル企画の同人誌を制作しているサークルは稀ではありませんし、その企画を商業で展開しようとしているサークルもあります(むしろ私が知らないだけで、オリジナル企画を立てるサークルの多くは商業化を狙っているのかも知れません)。 しかし、モリオン航空のように実際にそういう企画を商業化させているサークルを私は他に知りません。

 冒頭で私は「実力のあるクリエイターが世に出る確率を上げる方法はないのだろうか」という疑問を提示しましたが、 その答えは「人気シリーズの新企画のコンペに参加する」です。 なお、そうなると当然「人気シリーズの新企画のコンペに参加できる立場になるにはどうすればいいのか」という疑問が生じますが、並外れた実力があればそこまでは運に頼らずともなんとか……ならないでしょうか。

3.モグモ様のイラストの凄さ

 ここまで私は主にモリオン航空の企画力の凄さについて述べてきました。 しかし、モグモ様は無論企画力だけで人気シリーズのキャラクターデザインに抜擢されたわけではないでしょう。

 私が知る限り、モグモ様がこれまで特に積極的に描かれてきたのは美少女、魔女、動物をモチーフにしたキャラクターデザインや服飾デザイン、風景、メカ、怪獣等と多岐に渡り、それらのどれもがべらぼうに上手です。 画風も、細密に描き込まれた凄みを感じさせるものからアニメ調まで変幻自在です。

pic.twitter.com/hhoIRn3j31

— モグモ (@m_o_g_m_o_g_555) May 9, 2022

第5話ご視聴ありがとうございました!!
ファラクトかっこいい!#水星の魔女 #G_Witch pic.twitter.com/cPql1trrEx

— モグモ (@m_o_g_m_o_g_555) October 30, 2022

 また、描かれる頻度は低いものの、漫画も「さっきの子が永久×バレット設定資料集3で永久6号と遭遇してドンパチやったモグモ氏の漫画が世の中には存在する。」「人類の敵が服を買うだけの漫画等魅力的です。

 しかも、モグモ様の凄さは単に絵の上手さだけではありません。 キャラクターを風景に溶け込ませ、世界観・物語性を感じさせる一枚絵に纏めあげるところにモグモ様の真価があると私は考えています。 分かりやすく言うなら、キャラクターのみならず背景をも描写する絵画的なイラストも描かれることもモグモ様の大きな魅力であり、 それがガンダムの新しい企画を認めさせる力の一つだったのではないでしょうか。

■永久4号と怪獣
永久たちは正体不明の巨大生物型兵器「怪獣」を意のままに操る。

主流になっていたAI搭載型ドローンも同じく干渉可能で、大災時に出動した軍の機体は全てコントロールを奪われた。#トコシエバレット https://t.co/qtvUmNSwv9 pic.twitter.com/jXyI6thSQO

— 永久×バレット(モリオン航空) (@tokoshie_morion) September 13, 2020

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』
キャラ原案、ティザービジュアルなど担当させていただいております。
何卒よろしくお願いいたします! https://t.co/rY3rFupXhD

— モグモ (@m_o_g_m_o_g_555) June 17, 2022

 岡本プロデューサーも上記ニュータイプ誌でのインタビューで『個人的には作品を重ねていくごとに、少しずつ新しい血を入れていきたいという思いはありますが、そこにはきちんと実力も伴っていないと難しい。(略)モグモさんはキャラクターだけではなく一枚絵で世界観をつくれる才能が素晴らしいですし(略)』と語られており、 やはりモグモ様のイラストの世界観・物語性には大きな力があるのでしょう。

 そして、モグモ様のキャラクターデザインです。 クリエイターは消費者の一歩先を行く創作ができなければならないという言説を以前目にしたことがありますが、 そういう観点から見てもモグモ様の創作能力は凄まじく、一歩どころか二歩も三歩も消費者の先を行っていると思えることが稀ではありません。 それも、大半の消費者がついていけないような方向にではなく、ついていける方向を見極めて先行されています。
 水星の魔女の主人公・スレッタのデザインが公開されてしばらくの間、その特徴的なデザインについて否定的な声を何度か目にしました。 しかし、同アニメの放送が始まるとすぐにそういった声は鳴りを潜め、『最初にスレッタを見たときは垢抜けない・野暮ったいキャラで、ガンダムという大看板を背負うのに大丈夫かなと思ったものだけど、実際にアニメになって動くと凄く魅力的ね。ホントによく出来たキャラクターだと思う。』(モグモ様のインタビューへのコメントより)等、彼女のデザインを称賛する声をたびたび目にするようになりました。 モグモ様のキャラクターデザインはまさに消費者の二歩も三歩も先を行き、多くの消費者を導いたのではないでしょうか。

 またモグモ様の絵柄はオリジナリティも高く、多数のイラストレーターが活動される現代においても、ハッキリと分かる個性を持っています。 「KEMONO FABRIC」シリーズでテーマにされてきた動物モチーフのデザインを他の作品でも活用されていることがその理由の一つなのかも知れません。 例えば、上で引用したツイートの魔女のイラストは、蛇のような瞳にすることで迫力を増しています。 また、記憶する限りでは公式に語られてはいないものの、「水星の魔女」の主人公とヒロインはそれぞれ狸と狐を連想させる対照的なデザインとなっています(追記:アニメディア誌2023年2月号でのインタビューで、それぞれ犬と猫のイメージと語られました)。
 このように、様々なテーマのイラストを描かれてきたことによる相乗効果が、モグモ様のイラストに独自の魅力と説得力を与えているように思えます。

 これからも、モリオン航空とモグモ様の活躍から目が離せません。

 最後に、モグモ様からいただいたスケブの一枚を掲載します。 これは、モグモ様のツイート「ゴスロリすき」のイラストを描いていただいたものです。 上記イラストは当時のモグモ様のツイートとしてはかなりのリツイートを集め、私も大好きでしたので翌月の同人誌即売会でモグモ様にお願いしました。 そのしばらく後にモグモ様はツイッターアイコンを上記イラストに変更され、同時期にモリオン航空とモグモ様の快進撃が始まったため、個人的には上記イラストはモリオン航空とモグモ様の躍進の起点となったような印象があります。

モグモ様から頂いたスケブ

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