▼雪舟の弟子や、流れをくむ者による作品が並んでいました。と言っても、根幹の雪舟から枝葉がかなり分かれた状態。 最も雪舟寄りだったのは、弟子・周徳の「溌墨山水図」。筆の勢い、墨の滲み具合など上手く模しています。それに反し、遥か遠くに在ったのが、等梅の「曳馬図」。アクの強い馬や人物の描写、こってりした色彩は中国直輸入品であります。この作者は流れをくむ系らしい。これらの結果は、弟子と流れの差ということでしょうか。 制作過程に興味ありは、珠阿「仏涅槃図」。周囲に3人しか集まっていません。人数削減の理由はどこに。ちなみに作者は弟子。 ところでこの展示、大元の雪舟は不在。寂しい。見せて比べさせてください。2月13日まで。
▼新春特集陳列 十二天画像と山水屏風 −平安の雅− 1月2日〜2月13日
年の初めに、天皇の健康・国家安泰・五穀豊穣を祈り、両界曼荼羅・五大尊・十二天などの掛幅画を並べて行われる「後七日御修法」。この行事を、現代に再現してみましたという趣向。平安時代の宮中にトリップ。は、しませんけど。
十二天画像は、十二幅残っている事実がすごいのではないかと。優美だったり、少々間が抜けていたり、凄みきかせてたりと表情が面白いです。キャラの描き分けが出来てるんでないの。て、漫画賞の寸評みたいですが。截金や当時の色彩が最も良く見られるのは、帝釈天と思われます。
他に、平安時代の仏画が展示されていました。この辺りが、個人的クライマックス。「釈迦如来像」(赤釈迦)の、植物文様にやられたり。凝っています、手抜きなし。加えて台座部分には、透明感や美しい色彩を想像。制作当時はどんなにか…いや、今見ても綺麗だけど。「如意輪観音像」は、傷んでおり画面が暗いのですが、残った截金はなめらかな線を形作っており、傍らの花も繊細で美しそう。こちらも想像をかきたてられる一品。最近発見されたそうです。あと、「釈迦金棺出現図」を久しぶりに見れたり。大画面と群集は圧倒的。
▼新春特集陳列 高台寺蒔絵と南蛮漆器 1月2日〜2月20日
高台寺蒔絵は、綺麗な定番という感じ。対比が見事な文庫が展示されていました。稲妻線に引き裂かれ、黒と金の世界が浮かび上がります。図像も直線の竹、曲線で縁取られた秋草と対照的。結構でかいです。
南蛮漆器は、螺鈿を多用。光が敷き詰められた海外仕様。施されているのも、洋櫃(いわゆる宝箱形)、キリスト教関連用具など海外ならでは。欲しいモード炸裂したのが、「花鳥蒔絵螺鈿角徳利及び櫃」。簡略化された図像と、過剰に陥らずとも華やかな螺鈿で埋め尽くされています。四隅に入る南蛮独自の文様も、程好いアクセント。用途は葡萄酒入れらしい。日本人向け南蛮漆器もありました。これらは異国情緒を愛でるという趣向で、南蛮人や洋犬、煙管などが必須アイテム。しなる煙管が有機的な「煙管蒔絵箪笥」が興味深かったです。
病草紙があったのだけど、「不眠の女」だから傍目には普通。眠れないという悩みや焦りみたいなものも特に感じられず。どうせならあんなのやこんなのが見たかった。2月13日まで。と、またダラダラ書いてしまった。いや、展示作品多いので。(01/08)
2004/12/04-01/10 板橋区立美術館
▼めでたい長寿、祝えや長寿、長寿にあやかり縁起物。絵画には高砂の尉と姥、寿老人、浦島太郎など、不老長寿の象徴が並びます。その周囲には松がどっしり構え、鶴や蝙蝠が舞い、足元には亀。完璧な布陣です。加えて、漁師の晴着や袱紗があったりと、様々な場面における祝いアイテムが見られました。
▼めでたさから離れ、老いや人生に関する展示も。「熊野観心十界図」は、いかに年を重ね、人生を歩んで行くかを問い掛けてきます。事と次第によっては、地獄で喰われたり。喰われそう。あらあら肉片に。
▼全体の雰囲気は、こちらの美術館独自のもの。作品は江戸期中心で、奇想や面白が発動していました。最高潮だったのが、「寿老人と福禄寿」コーナー。狩野芳崖・曾我蕭白による不気味な寿老人がいたり、河村若芝の「群仙星祭図」が濃厚だったり。高砂図各種も楽しかったです。西川祐信筆・若返りバージョンとか。それから、当たり前ですが老人がいっぱい。月僊「百老之図」だけでも百人。総数は如何程だったのやら。(01/10)
2004/10/25-01/16 原美術館
▼よりぬき原美術館。日本、アジア、欧米を、現代美術で横断。
▼中途で古美術との出会いがあり、雪村+現代美術、円山応挙+現代美術といった、時と国境を超えた共演が繰り広げられます。応挙の「淀川両岸図巻」近辺には、杉本博司や周鉄海による水面があったり。水に因む、気の利いた展示。しかし、「淀川両岸図巻」の解説は、その場で読むには長過ぎるので、コピーを配ってくれればと希望。それなら、後からじっくり読めるのに。
▼久しく行かない間に、いくつもの部屋が出現していました。奈良美智の「My Drawing Room」は、小奇麗でシンプルで可愛らしく、今は亡きオリーブを彷彿とさせます。が、白いシャツの下に、苦くて息苦しさを覚える毒をしのばせていたりして。残念ながら私には見えないので、推測してみました。真相は藪の中。森村泰昌部屋は、珍日本紀行に違和感ゼロで溶け込むことでしょう。決して嫌いじゃないです。須田悦弘は、いつでもどこでも須田悦弘といった風情。いや、しかしそれを好んでいるもので。なんというか、書くにつれ、御無沙汰具合が剥き出しになってるような。さすがにレイノー部屋は、見たことありました。傷口に塩。
▼久しぶりの原美術館。会場は若者主体、新鮮な光景だ。という感想が頭に浮かび、己を危惧する午後のひととき。(01/10)
01/12-03/06 東京国立博物館
▼だだっ広い平成館を贅沢に使用し、金堂と御影堂の堂内再現がなされています。金堂は、盧舎那仏坐像、梵天・帝釈天立像、四天王立像を配し、建物の一部分と共に再現。像は、全て後ろから前から見回せ、細部を確認出来る位に近付けます。建物は材質からしてバッタもんで、なくても構わない代物でした。御影堂は、鑑真和上坐像と東山魁夷の障壁画全部。障壁画は、御影堂と同じように配されているようです。広がりを感じさせる力作。「障壁画」を把握した、空間・場面構成を披露しております。
見事な二点豪華主義。奈良時代の仏教美術、東山魁夷・画業の集大成を体感する、またとない機会です。それは紛れもない事実。しかし、東山魁夷にそれ程興味がないため、豪華さが豚に真珠でした。
▼二点以外の部分は(も)、空間を生かし過ぎの展示。ツッコミ入れたい。が、「金堂平成大修理記念」というサブタイトルには、しっかり合致してたり。どうも、ツッコミ要素が出ないよう作っている節があって、いやらしさを感じてしまいました。それでも、三彩瓦断片の色彩や、金堂隅鬼の顔つきと肉感の表現具合にはよろめきましたが。隅鬼は愛すべき存在だった。江戸期のは、木目や彫りが猿の毛並みたいでよろしくなかったけど。(01/16)
▼博物館に初もうで 新春特別展示「酉・鳥・とり」 1月2日〜1月30日
干支にちなんだ特集。鶏多し、鳳凰もなかなか多し、その他の鳥もいるという展示。
鶏は、つがいや雛にて仲睦まじき夫婦・親子を演出。「色絵鶏文平鉢」は、中央につがいが描かれ、周囲を波の文様と魚が固めています。定番模様とはいえ、鶏が波にのまれそうであります。色彩は伊万里独特のもの。用途は婚礼関係でしょうか。「単衣 紫絽地竹ニ鶏模様」は、左右に鶏が縫い込まれています。良く見ると、それぞれ鶏冠の形が違う。向かって右が雄、左が雌のよう。というか、左は雛を背にのせたりと母性満々なのだった。他の部分では、竹が気になりました。割れた筆先が描くラインを、金糸で表現。刺繍で絵画。「鶏図目貫」は、微細なスペースに雄・雌・雛・卵が収まっています。卵に割れ目が入っていたりと、芸が細かい。
別の存在感や意味を持つ鶏も。蘿窓「竹鶏図」は孤高であり、浅井忠「鶏合」はひょうきん。「鶏合」は日本画で、線が雄弁です。そして「袱紗 紫地鶏桜火焔太鼓模様綴織」の鶏は、平和の象徴として、太鼓の上に落ち着いているのでした。
絵画、工芸、考古など、様々なジャンルの鶏がいる中、浮世絵鶏がなかなかの充実度でした。礒田湖龍斎「こどもと鶏」は、子供にかまわれ困り果てる鶏の図。うんざり顔に、鶏の気持が集約されています。限られた色彩と画面を、最大限に生かしてみせたのが、歌川広重「紫陽花に鶏」。鋭敏なデザイン感覚。そこに、少々の叙情性が染み込んでいるのが広重っぽい。奥村政信「美人と鶏」は、「風呂上りの女が汗を流したのに、つがいの鶏を見て妬けてしまい、また汗が出てしまう」図らしい。
そして、鶏といえば若冲、若冲といえば鶏であります。「松梅群鶏図屏風」「鶏図扇面」の出展。「松梅群鶏図屏風」は、朝日新聞に「若冲の屏風は本人筆でないという説がある」と書かれていたと教えてもらってました。そういう話を隅に置きつつ見る。真贋をほじくり返したり、ひっくり返したりを繰り返していくのは、美術ネタの醍醐味(というか、必須事項か)のひとつであるのでしょうが、個人的にはノータッチと行きたい。「鶏図扇面」は、初めて見ました。正面顔です。
干支展示は親しみやすく面白いかった。今後も続けて欲しいです。来年は戌。これまた期待が持てます。
▼博物館に初もうで 新春特別陳列「吉祥―歳寒三友を中心に―」 1月2日〜1月30日
中国絵画の展示。昨年と一部作品が重なっています。蘇延U「四君子図冊」は、菊・竹・梅・蘭(四君子・君子の高潔を表現)を指で描いているらしいけど、本当ですか。すごく出来が良いです。
つらつらと 最古の「浜松図屏風」:その通りの見た目。傷んでます。松の大盤振舞い。
▼(宮廷の美術―平安〜室町 〜2/6) 雪舟等楊「梅下寿老図」:板橋区立美術館で、この作品を元にしたという、狩野芳崖筆「寿老人図」を見たばかり。タイミング良く、元との比較が出来ました。芳崖は構図を変え、不気味さを加味しつつ仕上げたようです。不気味というのは、見る側の受け取り方に過ぎず、芳崖がそれを狙っていたかは不明ですが。リアルさを追求した結果という気も。そして、雪舟・芳崖共に、寿老人が梅花に囲まれています。雪舟版は、昔の少女漫画チック(嘘)。(禅と水墨画―鎌倉〜室町 〜2/6) 尾形光琳「富士山図」:削ぎ落とした富士山。洗練されているとも言えるかも。個人的には、滲みがとてもツボで、それが土のぬくもりのようなものに見えて仕方がありませんでした。光琳は、おめでたい「宝船図」もあり。(書画の展開―安土桃山・江戸 〜2/13) 蒔絵 「蓮池蒔絵経箱」:漆黒に浮かぶ、水面と蓮。静謐さを秘めた図柄。水の表現に着目。 「蓮蒔絵箱」:デフォルメされた蓮の花と、舞い降りる花びら。 「花喰鳥蒔絵香箪笥」:ミニ箪笥を、花鳥が賑やかに可愛らしく彩ります。(漆工 〜3/6)(01/16)
2004/12/07-01/30 SHISEIDO GALLERY
▼今村源、金沢健一、須田悦弘、田中信行、中村政人の5人の仕事を5年間定点観測するシリーズ企画展。本展が4回目。今回は今村源がイニシアチブをとり、他の4人とのコラボレーションを試みた。テーマは「私」。
▼ポイントは、コラボレーションかと。それが効果的に作用したのが、今村源と田中信行による漆で固めたごはん。謎を秘めたまま姿を現したのが、今村源と中村政人。効果と謎の違いは、何かしらの「点」を見出せたか否によるものでは…と推測。点は、互いの共通点に留まらず、反目を認識したうえでの点でもいいわけで。
▼全体の雰囲気は、前回、前々回とあまり変わらんような。距離感というか分散というか。(01/21)
2004/12/27-01/24 松屋銀座・デザインギャラリー1953
▼四季や干支の意匠に包まれた和菓子。そこに息づく、独自のデザイン・色彩感覚に着目した展覧会。
▼馴染みの意匠の合間に、クリスマスツリーやクレヨンを確認。これらは、伝統の殻を打ち破ったということで評価すべきなのでしょうか。個人的には迎合としか思えません。しかし、「桜前線」までは許容範囲でした。見た目も悪くなかったし。
▼干支菓子は姿形を模したもの、イメージや連想を菓子化したものがありました。具象と抽象。今年の干支・酉は、鶏を入れる「ふせ籠」からの意匠。発想の源は織部饅頭でしょうか。(01/21)
2004/12/11-01/23 東京ステーションギャラリー
▼両絵師の作品を、1.役者似顔絵、2.武者絵・風景画、3.戯画・風刺画・動物画、4.画稿類、5.美人画といったテーマに分けて紹介。
▼熱気を発しつつ、ある意味爽快な展覧会。両者のエネルギーが溢れ、創造力が放出し続ける。熱は、暁斎の方が高目。錦絵、肉筆、下絵、巨大引幕など、バリエーション豊かな出品だからか。で、それらが技術の高さや視点の広さ・深さ等を丸見えにするという。
▼どちらも細部までこだわりあり。遊び心とも言う。暁斎が描く、捕まえられた鬼の動きや表情、天狗の折れた鼻。国芳は、着物柄が大津絵だったり。国芳の猫、暁斎の蛙に代表される、生きもの目線も良し。とにかく楽しい展示でした。(01/22) 暁斎筆「鍾馗図」に見られるような線は、暁斎だとピタリと嵌るなー。他作品で見るにつけ、密かに「粘着線」「不気味線」と呼んでいるのですが。解説曰く、狩野派の線。
01/29-03/27 埼玉県立近代美術館
▼椅子の起源、日本における椅子の暮らしとそこで生まれた独自のデザイン、美術のフィールドに佇む椅子を、駆け足で辿ります。儀式や象徴的な「座」から始まり現代に至るまでに、椅子の意味や用途が変換していく様などは、もう少し腰を落ち着け向き合いたい。一部の展示椅子は座れますが。て、そういう意味ではなく。
▼個々で面白かったのは、1950〜60年代の日本の椅子。背が低い、座椅子みたいな。床との距離感は、畳に触れていた生活の名残でしょうか。木、紐、い草など、材質の選択や使用法に和を見たり。もうひとつ。奈良美智+graf「Room S」に置かれたミニ椅子と、grafの巨大椅子の対比は、まるでガリバー旅行記。両方座れます。「Room S」は隠れ家のようで、秘密基地に憧れた子供時代にひとっ飛び。
▼公募部門「あったらいいな、こんな椅子!」もあり。小・中学生考案の椅子は解き放たれており気持ちよい。(01/30)
▼10月20日〜1月30日 「所蔵名作選−モネからピカソまで」は、埼玉近美を体現。定番はモネの「ジヴェルニーの積みわら、夕日」辺りでしょうか。劣情で括ったら、アンドレ・ドランの「浴女」かと思いますが。手の指がくい込み歪む乳房。だらしない下腹。
▼熊谷守一の世界−へたも絵のうち
借用作品4点を含む17点。コンパクトながらも、画風の移り変わりが辿れる展示。特に「黒つぐみ」が好み。
日本画の名作−四季と動物たち
橋本雅邦と小村雪岱が多かったです。雅邦「乳狼吼月」は、落っこちそうな目に思いっきり裂けた口の狼がひょうきん。ついでに、体と脚の様子が妙。と、以前より思っていたのですが、解説カードには真逆な記述。実際はシリアスなんだ?雪岱はモダンというか。創作の根底に浮世絵ありだけれど、江戸期とは異なる感覚。「青柳」は家屋を俯瞰し、覗き見気分。屋根瓦、青柳の下には縁側、その奥に眼差しを向けると、畳に三味線と鼓がポツンと置かれている。絵に描かれた場面から遡ったり、時を進めてみたり。物語性に富み、想像をかきたてられる作品。個人的には、モチーフがちと多い気もしますが。「見立寒山拾得」は、どちらも小粋な女性。タイトル見ないと、それとは判別がつかず。ほうき位は持たせんと。
▼佐藤時啓 Photo-Respirationシリーズ ライトの無数な残像は、一瞬を切り取る写真に時間の経過を刻み込ませています。見た感じどうよと言われると、口がモゴついてしまいますが。「光のキャラヴァン」というのは面白かった。カメラ搭載車で、韓国撮影巡り。カメラ車は、レントゲン車+見世物小屋みたいなうさんくささ。そこが良い。車体に「これはカメラです」と書いてあるのがポイント。(01/30)
写真:美術館というか公園内に立っている像。逆光が過ぎます。ショーツのみ着用中。