ほとんどの人々が知らない「おこ」という言葉

2017年3月12日

 「おこ」という言葉をご存知ですか?……と聞くと、多くの人が「怒ることを略しておこというのだ」、と答えるようですが、 ここで私が言いたいのはそちらの「おこ」ではありません。辞書にも載っている、本来の日本語の「おこ」の方です。

おこ〔をこ〕【痴/××滸/尾籠】

[名・形動]愚かなこと。ばかげていること。また、そのさま。「痴の者」

goo辞書 - おこ」より

 最近は、こちらの意味で「おこ」という言葉を使う人はほとんど見かけなくなりました。 せいぜい、「おこがましい」という言葉で使う位でしょうか。
 これでは、本来の意味が知られなくなってしまってもおかしくありません。

 なおこの問題についてあるサイトの管理人は、知人女性に「おこなの?」と言われたときに「馬鹿なの?」 と言われているのかもと考えるとドキドキする、などと意味不明な供述をしており、 警察はこの知人が本当に実在するのか慎重に調査すると発表しています。

「慣れ」は悪いことなのか?

2017年3月12日

 最近、「慣れ」という言葉を悪い意味で使うケースをよく目にするようになりました。 私がこういった認識を初めて知ったのは2016年の前半で、新しい業務を担当してしばらく経った知人が上司に「新しい業務はどう?」と聞かれ、 「やっと慣れてきました」と答えたところ、「仕事に慣れるとは何事か」と窘められた、という話を聞いた時でした。

 この認識が広まっていることを強く感じさせられたのが、週刊新潮2017年2月9日号の坂上忍さんのコラムでした。

自分を疑い、準備を怠らないことが仕事の大敵「慣れ」を防ぐ

(略)わたしが我社の全スタッフに口を酸っぱくして言い続けていることは、「慣れるな!」ですから。 ノウハウを覚えることは大切です。というか当たり前です。でも車の運転と同じで、慣れた頃が一番危ないんだと強く自分に言い聞かせないといけません。では、慣れないように努めるにはなにをどうすればいいのか? 準備をすればいいんです。(略) 偉そうなことをほざいておりますが、わたしももれなく慣れたがる人間のひとりでございます。ですが、みっともなく映りたくはないので、なんとか慣れないよう、日々足掻いているのでございます。

週刊新潮2017年2月9日号P.81「自分を疑い、準備を怠らないことが仕事の大敵「慣れ」を防ぐ」より

 要約すると、慣れは仕事の大敵だ、慣れないようにするためには準備を怠らないことだ……ということのようです。

 しかし、このような悪い意味が「慣れ」という言葉にあるのでしょうか。いくつかの辞書を調べてみましたが、 そのようなニュアンスは見当たりませんでした。
 以下は、goo辞書からの引用です。

な・れる【慣れる/×馴れる】 の意味
  1. その状態に長く置かれたり、たびたびそれを経験したりして、違和感がなくなる。通常のこととして受け入れられるようになる。「その土地の気候に―・れる」「移動する車中での睡眠に―・れる」「彼女の気まぐれにはもう―・れた」「住み―・れる」
  2. 経験を重ねて、そのことがうまくできるようになる。習熟する。「患者の扱いに―・れる」「―・れた手つき」「旅―・れる」
  3. 道具などが、からだになじむ。「―・れた靴で出かける」「―・れた万年筆で書く」
  4. (馴れる)
    1. その人に対して、違和感がなくなる。その人に親しみの気持ちをもつようになる。「子供が家庭教師に―・れる」「新しい上司に―・れる」
    2. 動物が、人間に対して、警戒心などを抱かなくなる。「人に―・れない馬」

goo辞書 - 慣れる」より

 端的に言ってしまえば、人がミスをするのはその行為に慣れたからではなく、慣れていないからでしょう。 慣れたように見える人がミスをするのは、慢心・惰性などの問題であり、単に慣れが不十分だったからに過ぎません。
 慣れが仕事のミスを生むというなら、熟練の職人は誰よりも仕事に慣れているはずなのでミスばかりでしょう。

 つまり、「慣れ」が問題だというのは誤用であると考えます。

 確かに言葉の意味は変わるものですが、この言葉の場合冒頭で紹介した知人とその上司の例のように、 即座にトラブルになりかねないので心配です。 できれば「慣れ」という言葉を悪いニュアンスとするのは止めた方がいいと思うのですが……。

一次創作同人誌のリスク

2017年6月4日

 二次創作同人誌の権利上のリスクについて述べる方は多いですが、一次創作同人誌の問題について述べる方はほとんど見かけません。 しかし、原作付き・あるいはマルチメディア展開されている作品の公式の漫画家・イラストレーターの方にとって、一次創作同人誌は二次創作よりも権利上リスキーなことが多いと私は考えています(アニメーターやゲームのCGを描く方にとってはそうでもないようですが)。 なので、ここで簡単に述べてみたいと思います。

実際のトラブル

 一次創作同人誌で比較的最近話題になったのが、種村有菜様の「おそ松さん」同人誌のトラブルです。
 公式で「おそ松さん」のイラストを描かれていた種村様が同作の成人向け同人誌を出そうとしたところ、 公式から注意されて中止するという出来事がありました(参考:「【炎上】種村有菜先生のおそ松さんBL同人誌「空飛ぶ魚*海の猫」が頒布・発行を取り止め!【目黒帝国】」)。

 また、一次創作同人誌のトラブルで有名なのがみずのまこと様のケースでしょう。みずの様は「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズの公式コミカライズを担当されていましたが突然打ち切られて他の方が同作のコミカライズ担当となり、 みずの様のコミカライズは公式になかったことにされました。 連載の突然の打ち切りは、みずの様が同作の全年齢向け同人誌を出したことが問題になったのではないかと言われています(参考:「Wikipedia:涼宮ハルヒシリーズ-『涼宮ハルヒの憂鬱』(みずのまこと版)」。
 みずの様の連載の打ち切りの真相は定かではありませんが、 同様にアニメ「ストライクウィッチーズ」のコミカライズを角川系列で担当された京極しん様は、コミカライズの開始に際して同作の二次創作イラストを多数掲載していたご自身のウェブサイトを削除し、 それまでに多数出されていた同作の同人誌も出されなくなりました。京極様は連載終了後は同作のキャラクターは一切描くことができなくなるとブログに書かれていて、角川でのコミカライズの際の契約には同人誌の制作に強い制約があるのは事実のようです。

 また、私は同人誌即売会で作家さんにスケブをお願いすることがあるのですが、 原作付き・あるいはマルチメディア展開されている作品の公式の漫画家・イラストレーターの方にそれらの作品のスケブをお願いすると「その作品はちょっと……」と断られることが珍しくありません。 またそういうスケブは描いて頂けた場合でも、サインは入れて頂けなかったり、これを描いたことは秘密にしてください、と言われたりすることがしばしばです。
 なお、スケブとは何かについては拙稿「私設コミックマーケット対策委員会 第五章-スケブをお願いしてみよう」をご覧下さい。

 これらの出来事から、原作付き・あるいはマルチメディア展開されている作品の公式の漫画家・イラストレーターの方の一次創作同人誌は二次創作以上に権利的に問題になりやすい、と私は考えています。

 さらに、原作付き等でなくても一次創作同人誌が問題になるケースはあります。納都花丸様は、ご自身のオリジナル漫画「蒼海訣戰」を商業誌で連載しながら同時に同人誌でも展開されていましたが、 掲載誌が変更になると新しい出版社との契約により、同人誌での展開が不可能になりました。そして新しい掲載誌が廃刊になってもその出版社との契約は終了せず、納都様は数年間商業でも同人でも同作を描くことができなくなりました。

 小説家の鷹見一幸様はこうツイートされました。

最近は出版契約書に「主人公や地名を変えても、タイトルを変更しても同一の世界観の物語を書いてはならない」みたいな縛りが盛り込まれていて、私のように、どこかで繋がっている世界観の物語を書きたい人間には、実に厳しい。契約書の文面変更を申し出たこともあるが、法務がいい顔をしないらしい。

最近は出版契約書に「主人公や地名を変えても...」より

 こんな契約があっては、一次創作同人誌は不可能になってしまうでしょう。上で挙げた納都様も、このような契約のために「蒼海訣戰」を長期間描くことができなかったそうです。

一次創作同人誌の許可を取られた公式の漫画家・イラストレーターの方々

 ただ、公式の漫画家・イラストレーターの方は決してその作品の同人誌を描けないというわけではありません。
 アニメ「ガールズ&パンツァー」の公式コミカライズを担当されている才谷屋龍一様は同作の全年齢向け同人誌を多数出されていますし、 アニメ化もされたゲーム「リトルバスターズ!」「Rewrite」の公式コミカライズを担当されているZEN様もそれらの作品の全年齢向け同人誌・同人グッズを多数出されています。

 また、上で角川でのコミカライズの際の契約には同人誌の制作に強い制約があると書きましたが、角川だからと言って公式作家に絶対に同人誌が出せないわけでもないようです。
 例えば、角川系列で出版されアニメ化もされた小説「冴えない彼女の育てかた」の公式イラストレーターである深崎暮人様は、同作の全年齢向け同人誌を2冊出されています。 また、同じく角川系列で出版されアニメ化もされた漫画「悪魔のリドル」の作者である南方純様は、同作の全年齢向け同人誌・同人グッズを多数出されています。
 また、同じく角川系列で出版されアニメ化もされている同名ゲームのノベライズ「艦隊これくしょん ‐艦これ‐ 一航戦、出ます! 」の挿絵を担当されているGUNP様も、 同作の全年齢向け同人誌を多数出されています。

 これらの事例を見ると、角川系列のアニメ化された作品でも、一次創作同人誌は不可能ではないように思われます。要はその作家さんの契約次第なのではないでしょうか。

 なお厳密には、公式に許可されていても一次創作同人誌がトラブルになる場合はあります。
 ゲーム「シャイニング」シリーズのキャラクターデザインを担当されているTony様が同作の成人向け同人誌を出すと発表されたところ、Tony様のサイトの掲示板に過激な荒らしが現れ、 最終的にTony様はその同人誌を出すのを断念された、という出来事がありました。Tony様は公式にその同人誌の許可は取られていたようなのですが、それでも同人誌という形式が嫌いな人はいるということなのかもしれません。

更に難しい、公式による成人向け一次創作同人誌

 さて、これまでの事例では公式の作家さんが出すことに成功した一次創作同人誌はいずれも全年齢向けで、成人向けの同人誌を出そうとした作家さんは失敗されていました。 公式の作家さんが成人向けの一次創作同人誌を出すことは、全年齢向けのそれより色々と難しいのだと思われます。
 しかし、公式の作家さんが成人向けの一次創作同人誌を出されるケースもあります。

 よくあるのが、アニメのエンドカードを描かれた作家さんが成人向け同人誌を出されるケースです。
 例えばアニメ「ローゼンメイデン」のエンドカードを描かれた冬扇様は、その前にもその後にも多数の同作の成人向け同人誌を出されていますし、 「冴えない彼女の育てかた」のエンドカードを描かれたなかむらたけし様、みぶなつき様もその前にもその後にも同作の成人向け同人誌を出されています。
 ある意味では、これらも公式の漫画家・イラストレーターによる一次創作同人誌とも言えるでしょう。

 また、ペンネームを変えて公式の作家さんが成人向け同人誌を描かれるケースもあります。 例えばアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の成人向け同人誌を出されたY.S・イレブン様は、同作のキャラクターデザイン・コミカライズを担当された貞本義行様と同一人物とされています。 もっとも、別ペンネームで描かれた同人誌はさすがに一次創作とは言い難いでしょうが。

ありそうな疑問とまとめ

 ところで、この記事では「公式の漫画家・イラストレーターの方にとって、一次創作同人誌は難しいが、アニメーター、ゲームのCG描きの方にとってはそうでもない」と書いてきましたが、 「では小説家はどうなのか?」という疑問を持つ方もおられるかと思います。これについてはサンプルが少なく、よくわからないというのが正直なところです。
 私の知る限りでは、上でも触れた小説「冴えない彼女の育てかた」の作者である丸戸史明様や、 同様に角川系列で刊行されアニメ化もされている小説「境界線上のホライゾン」の作者である川上稔様はそれぞれ同作の同人誌を出されていますので不可能ではないのでしょうが、 上で紹介した鷹見様のツイートを見るとそう容易ではないのかも知れません。

 なお、公式の作家さんによる同人誌を一次創作と呼ばないのではないか?という意見を見たことがありますが、私の知る限り同人誌業界的にはそれは一次創作であるようです。 最も明確な例としては、一次創作専門の同人誌即売会コミティアでもこういった同人誌は一次創作と認められ、しばしば頒布されています。
 上で挙げた才谷屋様はコミティアに毎回のように参加されて「ガールズ&パンツァー」の同人誌を頒布されていますし、 「けものフレンズ」のたつき監督が先日コミティアで出された同作の同人誌は、ネットで話題にもなりました。
 上でも述べたように、公式の漫画家・イラストレーターの方による同人誌とは違い、アニメの監督・スタッフによるそのアニメの同人誌自体は珍しいものではないのですが、 それが一次創作専門の同人誌即売会で頒布可能ということは、そういった同人誌は一次創作であると考えて差し支えないのでしょう。

 作者本人による同人誌というのは、多くの場合ファンにとっては理想の同人誌なのではないでしょうか。出版社がそれを認めたがらないのも理解できなくはないのですが、 できればもっと本人による同人誌が増えてくれればと思います。