リンクとマナー

 色々なウェブサイトを見ていると、しばしば(私の場合は1〜2%程の割合?で) 『無断リンク禁止/直リンク禁止』といった但し書きを見かけます(注1)。
 実際の所こういった但し書きには何ら強制力は無く、お願い以上のものではあり えないことはよく知られていますが(注2)、それでもこういった、 ある種のリンクが良くない行為であるかのような主張は後を絶ちません。

 ルール上は何ら問題の無い行為であるはずなのに、どうして「禁止」という主張がなされるのか……?  調べてみると、そういった主張をされる方の最大の根拠は、 「無断リンク/直リンクされるのは気分が悪い。人が嫌がることをするのは、 マナー違反である」といったもののようです。
 誰もが嫌がることをするのは確かに失礼であり、そのような行為はマナーに反していると言えるでしょう。 では、「無断リンク/直リンク」はマナーに反しているのでしょうか?
 率直なところ、私はそれらは決してマナーに反する行為ではないと考えます。
 確かにそういった行為を嫌がる方がいるのは事実です。しかし「だから、そういう ことをしないのがマナーだ」とは決して言うことはできないのではないでしょうか。 何故なら、ウェブページを公開する行為は著作物の公開と同じであり、 「誰に見られても良い」という意思表示をしたものとみなされるからです。

 考えてみて頂きたいのですが、例えば買った本の後書きに「著者の許可なくこの本を 他人に紹介することを禁じる」とあったら、あなたはどう思いますか?
 私は、そのような命令には従わないでしょう。それは確かに作者の意図に反する 行為ではありますが、それが読者として問題ある行為だとは思いません。 むしろ、この件でマナー違反をしたのは誰かと問われれば、私は「作者のおかしな 命令こそがマナー違反だ」と答えるでしょう(注3)。 この命令は、読者に不当な手間をかけることを強いているのですから。
 著作物を公開する以上、作者の知らないところで勝手に言及され、時には批判される のは避けようのないことです。ましてやリンク自体は参照に過ぎないのですから非難 できようはずもなく、それが嫌だと言われても「それなら公開しなければ いいのではないですか?」としか答えようがありません。
 著作物を公開するというのはそういうことなのではないでしょうか。

 ここで、もしかすると「無断リンク禁止/直リンク禁止」を主張される方の中には、「私はプロの 作家などではなく、そんな責任はない」と仰る方もいるかも知れません。
 そういう方がもしおられたら、はっきりと申し上げます。あなたにウェブページを公開 する資格はありません。
 ウェブで著作物を公表するというのは他の媒体でのそれと同様、重大な責任を伴う行為 です。例え本人が意図していなかったとしても、それまで無名だった人間が社会に影響を 与えたり、逆に法的な処罰を受けることもあります。素人がサイト公開で負う責任は、 プロの作家や企業のそれと変わりはないのです。
 無論賞賛されることもあるでしょうが、それも批判される可能性とセットでのものであり、 切り離すことはできません。あなたにその覚悟がないのでしたら、どうぞウェブページの 公開をお止め下さい。
 (……とは言っても、責任感や覚悟があろうがなかろうが作品を発表できてしまうのが ウェブではあります。ただ、他人にはそれらのない人を守ってあげる義務は当然ありません。)

 無論、人を喜ばせることがよいことであることは間違いないでしょう。無断リンク/直リンク をして欲しくない、と言う人にはそうしない方が親切ではあると思います。
 ただ、人が望むことをしなかったからといって、それが「マナー違反だ」というのは 随分とわがままな話だと言わざるを得ません。
 例えば、ほとんどの作家は読者から感想の手紙をもらえれば嬉しいでしょうし、 後書きなどにそう書いてある本も珍しくありません。しかし、だからと言って 感想の手紙を送らなかった読者はマナー違反だなどと言えるでしょうか?
 もしかすると律儀に手紙を送る読者もいるのかも知れませんが、それはその読者が親切なだけでしょう。 手紙を送らないのは読者として問題がある、などとは決して言えないのではないでしょうか。
 私は、「相手が無断リンク/直リンクをされるのが嫌だと言うのなら、そういうことはしない」 といった考えの方は、そのようになさればよいと思います。 それはそれで、立派な一つの考え方でしょう(注4)。
 しかし、「皆がそう考えるべきだ」というのは無茶な主張であり、 ましてやそれはマナーなどとは決して言えないのではないでしょうか。
 自分の考え方・価値観を相手にも持たせようというのは無茶なことであり、また、自分の 考え方・価値観で相手の権利を否定しようというのも無茶なことでしょう。

 言ってみれば、私には「無断リンク禁止/直リンク禁止」という主張は、街中を歩き ながら「私は青い色が嫌いだ、だから私の近くを通る時には青い服を着ていてはいけない」と 叫ぶのと同じようなものに思えます。
 確かに、そういう人の前では青い服を脱いで歩くなどした方が親切ではあるでしょう。 しかし、そのような手間をかけることを命令されることには疑問を感じざるを得ませんし、 そういった命令に従わないのはマナー違反だなどという主張はどうしても理解できません。
 そのような主張には意味がないばかりか、むやみに相手を不愉快にさせるものでしかない のではないでしょうか。

 ウェブページは、命令されて作るものではありません。まずどんな個人も組織も、 自らの意思で作成し、公開しているはずです(自分で作るとは限りませんが)。
 つまり、インターネットにウェブページを公開するという行為は、他の人が作った システムを利用させてもらい、何らかの主張や交流、作品発表などを行うということ なのです。
 そして、WWWは紛れもなく「公開」のために作られたシステムであり、リンクが自由 なものであることはその設計者であるティム・バーナーズ=リー氏も明言しています。
 公開のためのシステムを利用させてもらいながら、何故一部の人々は勝手にそのシステムの 一部を非公開にするルールを作り、それを他人に押し付けているのでしょうか。私には全く 理解できません。ウェブ上でページを公開したいのなら、無断リンクも直リンクも当然の ものとして受け入れて下さい。それが嫌なら公開しなければいいだけのことです。

 マナーというのは、相手のことを思いやってこそのものでしょう。他人の当然の権利を 否定して自分の都合を押し付ける人が、どうしてマナーなどと言えるのでしょうか。
 私は、「無断リンク/直リンクはマナー違反」などといった主張をなさる方々こそ、 もっとマナーについて勉強された方がよいのではないかと思います。

注釈▼

※注1……「直リンク」という言葉は「画像・ダウンロードファイル等 への直接のリンク」を示す場合もありますが、ここでは「トップページ以外のページへの直 接のリンク」という意味で用います。同「ディープリンク」。
(ちなみに、こういう表示のさせ方→他人が、その人のサーバーにアップロードした画像とお考え下さいこういう表示のさせ方、いずれも「画像の直リンク」 と言われます。ディープリンクと直リンクの違いは拙稿『「無断リンク禁止/直リンク禁止」 命令に関する想定問答集』の注1に詳しく述べましたので、そちらをご覧下さい。)

※注2……「無断リンク禁止/直リンク禁止」という主張が無意味であるこ とをご存知無い方は、「 リンク禁止・無断リンク禁止はナンセンスですよ!」を、少なくとも 「無断で リンクを張ることは著作権侵害となるでしょうか」だけはご覧下さい。

※注3……実際問題として、私はこれまでに何度も『勝手に「無断リン ク禁止/直リンク禁止」だなんて命令をされるのは嫌だ』という方を目にしています。そういう 方がいなければ「 リンク禁止・無断リンク禁止はナンセンスですよ!」なんていうリンク集は できないでしょう。
 他人を嫌がらせるのがマナー違反なら、不合理な命令をしてリンクしようとする側や閲覧者を 嫌がらせるのはマナー違反ではないのでしょうか?

※注4……ちなみに私は、『このHPに来た人は、必ず掲示板にカキコすること!  カウンターの数字よりカキコの数が少ないなんて耐えられない!』という注意書きのあるサイトの 話を聞いたことがあります。「人の嫌がることはしない」とお考えの方は、もしそういうサイトを見たら やはり必ず書き込みをされるんでしょうか。

補遺一

 尚、無論私は別にわざわざ人を嫌がらせたいわけではありません。 「無断リンク禁止/直リンク禁止」に妥当な理由があると思ったのなら、 そういった命令にも喜んで従うでしょう。
 しかしながら、そういった主張には正当性を感じられるものがほとんどなく、それどころ かそういう主張をされる方々はウェブに文章などを公開することの責任を理解されていない (参考:「 よいウェブページを書こうとする人のためのヒント」)――少し厳しい言い方を させて頂くなら「身勝手な」――ようにしか見えない場合がほとんどで、私はそういった主張 には疑問を持たざるを得ないのです。
 私の知る例では、有志を集めてある漫画家の応援の同人誌を作り、贈呈するためのサイトで、 「事前に御本人に知られないようにして突然本を渡して驚かせたいので、それまで秘密を守る ためリンク禁止」といった但し書きを見たことがあります。これは私にとっても利益のある 命令であり、喜んで従わせて頂きました。
 このように、リンクしようとする側にとっても利益のある命令なら、「無断リンク禁止」 だろうが「直リンク禁止」だろうが、別に問題はないと思います。

補遺二

 ちなみに、「無断リンク禁止/直リンク禁止」という主張の根拠として、 『ウェブサイトは「家」のようなもので〜』といった主張がなされているのを何度か目にしま したが、私はその比喩には無理があるように思います。家が個人の所有物であるのに対して、 ウェブサイトはハイパーリンクをクリックしたり、URLを入力したりすることで世界中の どこのパソコン内にだろうとコピーされてしまう無形の著作物であるからです。
 個人的には、例えるなら、ウェブサイトをサーバーにアップするというのは 「世界中の人が集まる本屋に自分の本を委託して、無料で販売してもらう」ようなものだと 思っています。
 「その本は友人だけに手にとってもらいたい」と作者が思うのは勝手だが、「ここに面白い 本があったよ」と他人が勝手に紹介することは否定できない。「その本は巻頭から読んでもら いたい」と作者が思うのは勝手だが、「この本の第三章が面白かったよ」と他人が紹介するこ とは否定できない。
 そんな感じなのではないかと。

(2002/5/11公開、2003/2/5最終更新)

 尚、本稿の公開後、やはりリンクに関するコンテンツである 『「無断リンク禁止/直リンク禁止」命令に関する想定問答集』 を作成・公開しました。併せてお読み頂ければ幸いです。