■親露政権■

А. 余はいかにしてロシアファンとなりしか

ビバ ソ連海軍


 始まりはなにごとも他愛ない。1986年、速水はまだ初々しい中学生だった。当時巷ではトム・クランシーの小説『レッド・オクトーバーを追え』が人気であり、冒険小説は当時から好きだった速水もちょろっと買って読むことにしたのだ。

 小説自体は、なんだかヤケにアメリカ万歳な話だなあ、と思いつつも普通に面白く読んだのだが、ここでハタと困ったのである。登場する軍艦がサッパリ分からないのだ。
 当時の速水はありがちなミリタリー少年であり、「戦場まんがシリーズ」の洗礼を受けた数多くの同輩と同様、実にわかりやすい第二次大戦のドイツ&日本軍ファンだった。そんな少年に、現代の軍艦……「ロサンゼルス級」だの「カーラ級」だのといったフネがどんなものなのか分かろう筈もない

 そこで速水は殊勝にも資料を探すことにした。そこで買ったのが光文社文庫の「ミリタリー・イラストレイテッド」シリーズ『米ソ原子力艦隊』である。
 余談だがこのシリーズ、写真を多用した文庫で、予算の少ない中学生がミリタリー入門用としてそろえるにはなかなか好都合な出来映えである。ゲームブックまであったのは正直どうかとも思ったが(笑)。
 で、その『米ソ原子力艦隊』を広げると……おお! なんだ、このソ連艦艇のかっこ良さは!! この本、米ソ両方の艦艇が紹介されているのがミソで、どうしても比較しながら見てしまうのだ。

 まずソ連艦艇。

ソ連、カーラ級巡洋艦。的確な表現は「凶悪」

 あと、やたら技術的無茶が多いのもソ連艦艇の特徴である。およそ洗練といった言葉からはほど遠いものが多いが、「とにかくアメリカンスキーをどつければエエねん」という発想が素人目にも見えてなんというか、わかりやすい。そんなひたむきさが速水を打ったのかもしれない(笑)。もちろん、そんなフネに乗せられるロシア人からすればたまったものではないのであるが。

安直な解決

 それにひきかえ、アメリカ艦艇のなんとつまらないコトよ。芸もなにもない船体に箱を2、3個ほいほいとのっけただけのような味気ない外見。塗装もモノトーンで面白みというものにまったく欠ける(ソ連艦艇は甲板が茶色に塗装してあり、なんとなく親しみが沸く(笑))。貴様、浮かべる城としてのプライドはどこへやった!? とビンタのひとつでも飛ばしたくなるようなダウナー系のスタイルだ。

 こちらはわかりやすいかっこ良さに憧れる純真なミリタリーヲタク予備軍の中学生である。どちらを選ぶかは一目瞭然であろう。
 速水はこれで一気にソ連海軍ファンになってしまった。そして、ソ連の陸軍や空軍に興味を持つのも当然の成りゆきといえた。あとは歴史や小説や音楽にどっぷりはまっていくのである。ロシアファンになったきっかけがソ連海軍、というのはこれはなかなか珍しいプロフィールではないだろうか?

 考えてみれば幸せな入口だったのかも知れない。1986年といえばゴルバチョフ政権になった直後。その海軍は少なくとも外から見る限り順風満帆で、アメリカ海軍と肩を並べるのも遠くはないと思わせたものだ(実際のソ連海軍は張り子の虎もいいところだった。注目すべきユニークな点は多々あったにせよ、システムも技術も致命的に遅れを取っていた)。
 そして、今日のロシア海軍にかつての栄光はない。西側がその動向に神経をとがらせていた大艦隊は、港で赤錆にまみれて朽ち果てようとしている。が、速水は未だにロシア海軍が大好きだ。タチの悪い女につかまったようなものである。おしろいがはがれてその素顔が明らかになったいまでも、ファンを辞められるものではない。いまさら辞めてたまるもんですか、ええ。


『レッド・オクトーバーを追え』……ソ連の新鋭ミサイル原潜がアメリカに亡命しようという話。映画にもなった。いまの速水にとっては国辱小説以外のナニモノでもない。
「戦場まんがシリーズ」……松本零士の短編マンガ集。速水の魂のマンガ。それを読むと男の魂はうちふるえ、歯ぎしりし、すすり泣くのだ。
分かろう筈もない……たいていの人には分からないと思いますが。ハイ。普通の人が知っている軍艦の名前って、大和ぐらいじゃないかしら(笑)。
ゲームブック……タイトルは忘れたが、ベトナム戦争でファントムのパイロットになってどうこう、というものだったような気が。あ、当然ボクは北ベトナム軍ファンなんでひとつヨロシク。
技術的無茶……きわめて無茶なんである。あまりに無茶で、乗組員全員が士官だったりする潜水艦もある。
味気ない外見……ステルス性がうんたらというおかげで、最近の軍艦はますます味気ない。あーあ。
ダウナー系のスタイル……往々にして、そういう軍艦をつくる国の海軍は強い。
1986年……「ソ連軍の資料はどこだぁ」と探すのが大変だったことを知っている最後の世代じゃないかしらん。おいら。


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