コンビニエンスストア、ファミリーマートの角バーガーというものをご存じだろうか? 「つのバーガー」ではなく「かくバーガー」、である。
はたちごろの速水にとって、角バーガーは昼食の定番になるほど重要な地位を占めていた食材なのだが、不思議なことにその存在を知る人に京都以外で会ったことがない。それどころか「ネタだろう」とあざ笑われる始末である。ななな、なんてことを言うんだキミタチは、こんな善良なヒゲをつかまえて!
しかし、たしかに速水も京都市下京区の某ファミマ以外で角バーガーを見たことはない。そんなわけで、今回は輝けるジャンクフード、角バーガーの解説をしていこうと思う。
コンビニのハンバーガーといえば、棚に並んでいて電子レンジでチンしてもらうのが一般的である。ところが、角バーガーはなんと手作りという手間ひまかけてつくられる逸品なのだ。
まずレジで「角バーガーくださーい」と元気よく注文すると、バイトのあんちゃんがレジの後ろでいよいよ調理に取りかかる。
病院の殺菌ガーゼ入れを思わせる冷凍庫から出てくるのは、MOを二枚重ねたほどの肉。この四角い肉の形で「角バーガー」と名付けられたのだろう。センスがあるなし以前の、妙に事務的な名前である。これを1、2分油で揚げるのだ。揚げているあいだ、バイト君はバンズの準備に取りかかる。
うすっぺらくてヤケにばさばさのバンズを取り出してくると、ケチャップおよび「マスタードともマヨネーズともつかないモノ」をべたべたとバンズに塗りたくる。どちらかがたまたまなかった場合、バイト君は素知らぬ顔でどちらかを省略する。
そうこうしていると肉ができあがる。真っ黒な色をしていて、見るからに食欲をそそらない。で、その肉をバンズにはさんで包み紙でくるみ、電子レンジで暖めてできあがり。
都合100円。
これはご存じの方も多いだろうが、ファミマでは他にコロッケバーガーなども売っている。レジ横の保温機にあるコロッケをはさんで出してくれるものだ。たしか120円ほどではなかったか。
このコロッケバーガー、当時は存在意義が分からなかったものだ。角バーガーは、目の前で肉を揚げてくれて100円。それに対し、ただのマッシュポテト揚げが(しかも保温機から出すだけ)120円である。育ち盛りの若者が、より安く動物性タンパクがカタマリで入っている角バーガーを選ぶのは当然なのだ。
当時、速水は京都市下京区のとある公民館のような施設に入り浸っていた。大学にも行かずに、昼間からそこのロビーで本を読んだり絵を描いたり、同じく大学さぼり組のダメ人間仲間とだべったりしていたのだ。そんなときの昼食が角バーガーだった。飲み物はロビーの自販機で売っているカップ式のココアかカフェオレ。昼食代占めて160円余り。ビバ。
いよいよ角バーガーを食べてみることにしよう。まず包み紙を開く前から鼻を刺す独特の臭気。「肉の香り」などという上等なモノではない。実に安っぽい、肉の匂いを真似した化学薬品のできそこないのような、まさに「臭気」が立ち昇ってくる。
包み紙をひらいてかぶりつくと……これぞ「ジャンク」の味。ビーフとかポークとかそういうものを超越した、「くず肉」を寄せ集めてコテコテにした油くさい味わい。そこにケチャップおよび「マスタードともマヨネーズともつかないモノ」の味が刺激的に混じり会う。
力技である。この肉(肉、ではある。たぶん)、冷えたらとても食えるシロモノではないのだろう。ハンバーガーにして、肉を直接見えないようにした判断は正しい。ご飯のおかずにしたら、子供は泣くに違いない。それを揚げて熱くして、ケチャップおよび「マスタードともマヨネーズともつかないモノ」の濃い味でとにかく無理矢理「うまいと思え!」とねじ伏せてくる。
こういう事を書いていくと、どうも角バーガーが嫌いなようだが、それは大きな誤解である。少なくとも、レンジで暖めるバーガーやサービスエリアの自販機バーガーなどに比べると、比較にならないほど食べ物のふりをしている。それに、2個も食べると充分すぎるほど満足させられてしまう。げっぷをすると、あの「臭気」が上がってくる。もう食べられないよ。昼食も安くすむ。ブラボー!
「こんなものが食べ物と言えるのかね」と吹き替え調でぼやきつつ、かぶりつく角バーガーにはワイルドな魅力があることを認めないわけにはいかないのだ。
なつかしい角バーガーの味。まだ短い我が人生の中でもきわめて無為な時代のメモリィ。
そんなわけで、いまでも速水はファミリーマートに入る度に角バーガーを探してしまう。
はっきり言おう。速水は角バーガーを愛している。