万里の長城。うねうね。
わかりやすいぐらいの中国の象徴である。で、まあ速水もそこへ行ってきた。案内してくれたのは親父殿と、招待元である北京理工大学の先生。行き先は八達嶺(ばーだーりん)。北京近郊の、長城見物といえばそこ、というようなメジャーな観光地だ。
正直言えば、速水は早いとこ北京を一人でうろつき回りたかったのだ。が、そこはさすがに万里の長城。、おのぼりさんとして行かねばならないような気も確かにする。
ところが、仕方がない、つきあうべえと八達嶺に向かった速水を待っていたのは意外なものだったのです。
八達嶺はホントに観光地である。でかい駐車場完備。土産物屋ずらり。そこを切符売り場へ向かっていた速水の目の前を、歩調をとって行進していく一隊があるではないか。
おお! 人民解放軍だ! それもおねえちゃんだ!
ナナ、ナニゴト? 演習かナニかでありましょうか? それにしても、手に手にコンビニのビニール袋のようなものをぶら下げて、いささか様子が違う。はて。
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そして、長城の入り口付近にやってくるとあたりはヒト、ヒト、ヒト。
実は、中国では10月1日の国慶節近辺はゴールデンウィークのようなもので、ほぼ1週間ぐらいが休日になるそうなのだ。つまり、我々はゴールデンウィークど真ん中の金閣寺に来たようなものなのだ。
ああ、そりゃ人が多いわ、と思っていると、やけに軍人さんが目につくではないか。
あれは陸軍。あれはたしか海兵隊。水兵さんまで集団でいるぞ???
その日は10月2日。そう、彼らは前日、国慶節当日に天安門広場を行進した精鋭部隊の方々だったのだ。なにせ彼らは半年以上も行進の訓練ばかりしてきたのである。たしかに休暇のひとつでも貰えるのが当然なのだ。大人数で修学旅行のように来ているのが微笑ましかったが、考えてみれば北京に来たのもはじめてという地方出身者が多いに違いない。
いよいよ長城。すべり台のような急な坂を下りたり昇ったり。そしてそこもヒト、ヒト、ヒト……。
で、やっぱりどこを向いても必ず人民解放軍がいるのである。これで喜んだのが普通のおのぼりさん達だ。素直にカッコイイのが好きなのだろうが、やたらと一緒に記念写真を頼んでいる。それにつきあう兵士達の方もまんざらではなさそうだ。特に学生らしき女の子と一緒に撮られるときはなおさらだろう。
面白いのは、普通の陸軍の兵士が比較的人気がなかったことだ。女性兵士や海兵隊、水兵は盛んに頼まれているというのに。やっぱ、珍しくないとダメなのね(笑)。
彼ら、もとはといえばほにゃらら省の農村出身だったりするんだろうなあ。そりゃ嬉しかろうなあ、と思っていた速水の頭に電波が走った。
俺も頼めばイイのではないか!
この、女性兵士というのがなかなかにかわいい娘さんが揃っているのだ。それが迷彩服を着てたくさんうろつき回っている。日本ではヲタクの妄想にしかあり得ない光景がいま、ここに……!
ここにおいて速水はためらわなかった。ぐあっ、しかし中国語はまるでダメ。案内の先生に通訳を頼み、レッツトラーイ! オッケー!
パシャ。
アヤシゲな日本人の頼みにもいやな顔ひとつせずに引き受けてくれた彼女たちに感謝、感謝。
しかし、彼女たちは幼いと言っていいほど無邪気に長城観光を楽しんでいた。走り回ったり、お互いに記念写真を撮ったり。まるきり修学旅行そのままである。とても昨日天安門を行進したのと同じ娘達とは思えない。これは他の兵士達、士官候補生達にも言えたことだ。中国の警察、軍人といえば無愛想の極致のような印象があったのだけれども……。
なんとなくほっとしつつ、素直に彼ら、彼女たちが前線に出るような日が来ないことを祈ってしまうのでありました。
コンビニのビニール袋……なかに入っているのはクッキーとか、お弁当というよりはお菓子っぽいものが多かったようだ。
半年以上も行進の訓練……天安門でパレードをする部隊の人間模様を描いた『大閲兵』といういい映画がある。オススメ。えんえん行進の訓練。感動もので面白いんだけど、素直に軍隊はイヤになるなあ(笑)。
修学旅行……引率の将校もいたし。娘さん達がはしゃぐなか、そのおじさんだけはどこか孤独でありました。
長城……壁がラクガキで埋め尽くされていたのが印象的だった。ラクガキというか、ナイフかなにかで彫ってあるんだけど。ほとんどが中国名のなかでウィグル語らしきものやハングルや、日本語もあったり。ロシア語も見つけましたぜ。面白いのが、入口に近い方が古いラクガキであること(年も一緒に刻んであるから)。あのロシア語のラクガキは中ソ蜜月時代のものなのかしらん。
珍しくないとダメ……実際、陸軍はその後北京のあちこちで見かけて。いやー、飽きるわあれは。
かわいい娘さんが揃っている……パレードに向けて選抜されたワケだから、顔で選考とかあったのかしら。