「失礼します、総帥」
「なんだ」

 ギレンは手を止め、冷静な声で答えた。下ではシャアは突然の事態についていけずに目を見開いて硬直している。
 ゆっくり、内部に収めた指を引き抜いていく。もう片方の手に絡まっていたシャアの手を一本ずつはずすと、ギレンは彼の顔の両脇に手をついた。静かに、と囁く。シャアは固まったままだ。

「もうじき散会ですのでご挨拶していただきたいと、ドズル中将がお呼びです」
「わかった。すぐ行く」

 返事をして、ギレンはそっとシャアに口付けた。濡れた手をシーツで拭い、髪を撫でて苦しげに呼吸を繰り返すシャアを宥める。

「私は、少しいなくなるが、その間……」

 ギレンはそこで言葉を区切り、そろりと下肢を見やった。その表情同様苦しげに息づくそこが、蜜に濡れて震えている。腹までめくれたドレスを戻し、ギレンはそれを隠した。

「おとなしく、待っていろ。できるな?」
「は…い……」

 一人で勝手に処理することを禁じて、シャアが弱弱しくうなずくのを満足気に見下ろすと、ギレンはまた髪を撫でた。体を起こすと引き寄せられるようにシャアも上体を持ち上げた。時折びくりと痙攣するように震える体を腕で支えて、縋るように見つめてくるシャアはまさにギレンの愛玩動物そのものだった。ギレンはそんな彼を可愛く思い、その頬に軽く口付けるとまるで何事も無かったように背を向けた。ドアを開けると若い将校がさっと敬礼する。その目がすばやく室内を見回して、あきらかに性的紅潮したままのシャアを見つけると、かすかにうろたえた。ギレンはそんな将校の様子に気がついたが、何も言わずに足を踏み出した。若い将校が続く。
 足音が遠ざかり、やがて聞こえなくなると、シャアは糸が切れたように仰向けに倒れこんだ。何度も深呼吸を繰り返し、暴れまわる熱を散らそうとする。口を大きく開けて呼吸をしているせいで、喉の奥が冷えてきた。荒い息遣い。自分でもそれが聞こえるようになって、ようやく少し思考が回復してきた。もう一度、深呼吸。

「は……。く…」

 まだ体の震えは収まらない。
 何をしているんだと、落ち着いた声が頭の中で聞こえる。邪魔をするものはいないのだから、熱を解放しようと誘惑する。決定的な刺激が欲しかった。
 しかしその声とは反対に、今のうちにここから逃げてしまおうという声もする。逃げればギレンのことだから次にあった時が恐ろしいが、このままここで、ギレンに抱かれるのを待っているなんて、耐えられない。だけど、こんな状態を、他の誰かに見られたら―――…。とんでもない。ここから出て行くわけにはいかない。せめてもう少し、熱が引くまで。それともやっぱり、達してしまおうか。そうでなければこの熱が静まるはずがない。

「……………」

 しかし、その後は―――…。この体は男を受け入れることを待ち望んでいる。いったん火がつけば燃え尽きるまで燻り続けるだろう事は予想できた。
 結局、ギレンが戻ってくるまで待つしかないのだ。このまま眠ってしまえたらラクなのにと、シャアは両腕で顔を覆った。

「シャア、怪我の具合はどう?」

 ノックの後、返事をする間もなくガルマが顔をのぞかせた。ギレンと共に会場に戻らなかったシャアを心配したのだろうが、タイミングが悪すぎる。ベッドに仰向けになったまま、言葉も無いシャアに、心配そうに近づいてくる。

「総帥は…?」
「兄上はまだ演説中だよ。僕はこっそり抜け出してきたんだ」

 ようやく言えたのがギレンのことだった。ガルマはムッとしたように答える。せっかく会いにきたのに、自分よりも総帥を待っていたのか。子供じみた嫉妬心だったが、しかしそんな思いは目の前のシャアの様子にかき消される。彼は本当に具合が悪そうだ。
 怪我をしたのは肩のあたりだったはずだが、思いのほか深かったのかもしれない。なんだか熱っぽいようだ。それに、手当てをした形跡が無い。

「シャア、大丈―――」

 大丈夫?と伸ばされた手は、触れる前に振り払われた。驚いて立ちすくむガルマに、気まずそうにシャアは自分の体を抱くように、腕を回した。

「大丈夫じゃない。だから、かまわないでくれ」
「何を言ってるんだ。大丈夫じゃないのなら…」
「さ、わらないで、くれ」

 ガルマはベッドの端に腰掛けて、シャアを覗き込んだ。汗ばむ額に張り付いた前髪をかきあげると、シャアの体があからさまに震えた。眉をひそめ、切なげに息を吐く。

「―――………っ」

 一瞬、ガルマが目を見開いて息を呑んだ。その気配に気づいてシャアは顔を背けた。気づかれてしまったことに、羞恥と焦りが生まれる。治まりかけていた熱が再び燃え上がるのを、シャアは感じた。このままでは、抱いてくれと懇願してしまいそうだった。
 必死で耐えているシャアを見下ろして、ガルマは混乱していた。いったい、どうして。ギレンに連れ去られた時、まさかとは思った。だがあの場で総帥に逆らうことはできない。嫉妬と動揺を誤魔化すために、ガルマは捕らえられた男の事情聴取に付き添った。それが終わり、パーティが散会になるというので会場に戻って来たところに、ちょうどギレンも戻って来たのだ。ギレンは情事の後の雰囲気はさせていなかったから、ひと安心した。演説が始まり、全員がギレンに注目しているのを見計らって、抜け出してきた。
 だが、まさか、この状態のシャアを、放ったままで?ガルマの目に、丸められてベッドの隅にある下着が飛び込んできた。その意味するところは、一つしかない。カッとなって、激情のまま、ガルマはドレスをめくりあげた。

「あっ」

 いきなりの狼藉に、シャアは慌ててドレスを手でおさえたが、その前にガルマはシャアのそこがどうなっているのかを見てしまった。
 彼の両手首を掴みあげて顔の両脇で押さえつける。シャアの体に乗り上げると、彼は目を見張って逃れようと暴れた。

「ガルマ…ッ」
「逃げないで」

 手つきの乱暴さに比べて、懇願するような声だった。シャアは抵抗を止め、体をすくめつつガルマを窺う。ガルマはゆっくりと、レースに覆われたくびすじに顔を埋め、舌でなぞった。濡れた感触に鳥肌がたつ。

「ん…っ。やめろ、ガルマ…」
「嫌なのか」

 両手首を掴む手に力がこもる。シャアはゆるりと首を横に振った。嫌ではないから、やめてほしいのだ。

「君を…総帥の代わりになんか、したくない」
「代わりでもなんでも、このままじゃ辛いだろう」
「もうすぐ、総帥が戻ってくる。…こんなところを見られたら……」
「見られたら?」

 ガルマは顔をあげた。シャアがホッとしたように息を吐く。力の抜けきった体も、婀娜めいた表情も、やるせなさそうに潤んだ瞳も―――シャアのなにもかもがガルマに抱いて欲しいと訴えているのに、言葉でガルマを拒む。黒い嫉妬心が込み上げてくるのを、ガルマは止めることができなかった。

「総帥となら、いいと言うのか」
「え…。あっ!」

 手早くボトムを寛げて、ガルマはシャアの膝を持ち上げると、まだ萎えたままの自分のそれを捻じ込んだ。すでにギレンによって慣らされていたせいか、さして抵抗無く入り込んだものの、シャアのそこはまるで悲鳴をあげるように締め付けてきた。

「……………っ!」

 ひゅう、とシャアが息を吸い込んだ。

「いや…、あ―――………」

 消え入るような悲鳴があがった。言葉は拒絶したが、シャアの体は別だった。脅えていたのは一瞬で、歓喜するようにガルマに絡み付いてくる。

「あ……、あ……」

 シャア自身もそれを感じとっているのだろう。視線を彷徨わせ、戸惑った声をあげる。

「…シャア……」
「ん……っ」

 なかなか動きだそうとしないガルマに、体の感覚が痺れていく。頭ではだめだとわかっているものの、焦らされていた体は素直だった。素直で、貪欲だ。もっと、と腰が揺らめきだすのを、止めることができない。埋め込まれたものを奥へと誘うように、内壁が蠢く。体内でガルマが大きく、硬くなっていくのを、ダイレクトに感じてしまう。だめだ、とシャアは何度も自分に言い聞かせた。

「だ、だめ…、だめだ、ガルマ…ぁ」

 うっとりと半ば眼を閉じて快楽に酔いながらも、うわ言のようにシャアは拒絶の言葉を紡ぐ。
 それが、ガルマには許せなかった。さらに脚を高く上げて、ぐっと奥へ侵入すると、びくんっとシャアの体が跳ね上がった。ゆるく頭を持ち上げていただけだったシャアの前はすっかりたちあがり、再び蜜を垂らしている。

「いつも…そうやって総帥に抱かれているのか、シャア?」
「な、なに…?いや……」
「総帥に抱かれるように、抱かれてみなよ」
「そう…すい……?」
「そうだ」

 シャアが総帥と、ギレンと体の関係があるだろうということは、軍内では有名な噂だった。前線での戦いの中でも、シャアはわざわざギレンの元に報告に来るからである。多忙の身であり、しかも優秀な兵士を前線から外してまで報告に寄越す理由なんでどこにもない。直属の上司であるドズルに言えば住むことなのだ。

「総帥に…抱かれるように…?」

 なぜそんなことを言い出すのか、シャアは混乱した。見上げるガルマの顔は嫉妬と怒りで歪み、とりすました貴公子の面影は剥がれ落ちて彼の真情を吐露していた。何もかも―――全部が欲しいのだと。

「ガルマ…」

 ぞくりと背筋が泡立った。そんな暗い情念をまともにぶつけられるのははじめてだった。怖くなって、シャアは首を振った。こんなガルマを見るのもはじめてだった。

「君は…ガルマだ。そんなことができるわけ……」
「総帥だと思えばいい。なんなら、目を閉じていなよ」

 冷たい声だった。再度否定しようとしたのを遮って、ガルマが律動を開始する。大きく抜きさしされたと思えば、奥の感じるところばかりを狙って突き上げられた。

「ああぁっ」

 たまらず嬌声をあげて縋りつこうとしたシャアの手を遮って、手が絡み付いてきた。促すように膝の裏へと手を回される。何をさせようとしているのかを察して、シャアの手がそこを掴んだ。自分の手で脚を広げ、自分を蹂躙する男に向けて秘部を曝している。これ以上はないほど屈辱的な体勢をとらされ、声を殺すこともできずに喘がされる。満足気に喉を鳴らす目の前の男は、紫色の髪をしている。本当に彼はガルマなのだろうか…と、揺さぶられながら思う。涙の膜でぼやけて顔が良く見えない。けれど、ガルマにこれほど乱暴な抱き方をされたことなどなかった。もしかしたら、本当に…ギレンなのかもしれない。

「あ……ぁ…、総帥……」

 びくりと一瞬男の動きが止まり、次にはさらに激しく突き上げられる。

「ん
……っ、」

 くびすじに纏わりつくレースの端を咥えて、シャアはなんとか絶頂の声をもらすことを耐えた。
 次の瞬間締め付けた男のものがびくびくと脈うって体の奥に熱液を注ぎ込まれるのを感じた。嫌悪と快楽を同時に味わう一瞬だ。男はそのまま何度か突き上げ、最後の一滴まで飲み込ませようとする。脚を広げていた手から力が抜けて、シーツに落ちた。

「あ……?」

 ようやく終わったと、余韻に浸る間もなく腰に手を回されて、シャアは戸惑った。力の抜けきった体を、腰を重点にして上体を持ち上げられる。繋がったままだったそれの先端が、また奥を抉った。

「ん……っ」
「く……」

 膝立ちになって向かい合う形になったシャアは、目の前の軍服に縋りついた。頬を胸に擦り付けて、弱弱しく息を整えようとする。腰に添えられていた男の手が上へと辿り、背中でドレスを留めていたボタンを外しはじめた。男が抱きしめるように両手を背中で交差させると、するりとドレスが滑り落ちた。白い肌が露になり、ぴんと張り詰めた胸の双果が男の眼に曝される。

「や……」

 シャアは慌ててドレスを引っ張りあげた。背筋を伸び上がらせた拍子に、体内のものが引き抜かれていくのがわかった。



怒っていいんだぞ、ガルマ!
…と励ましながら書きました(笑)



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