「似合っているぞ」

 医務室で二人きりになるなり、笑いをこらえかねたようにギレンが言った。恐れ入りますとぶっきらぼうにシャアが返事をすると、とうとう声をあげて笑い出した。

「どこからどう見ても、絶世の美女だな。なぜそんな格好をしている?」
「任務です。ドズル中将から、ガルマ大佐に悪い虫がつかぬようにと」
「悪い虫……」

 ドズルらしい、とギレンはまた笑う。顔に似合わずドズルは恋愛結婚だ。弟に山のような縁談が持ち込まれているのを心配しているらしい。が、今回ばかりは逆効果だ。

「一番性質が悪い相手を側においておくのも一興、というわけか?」
「…私ですか」
「ガルマは喜んだろう」

 楽しそうにしていたガルマを思い出す。あれは決して気心の知れた親友といる時の顔ではない。そうでなければ恋人か、などという噂になるわけがない。
 腹の底を舐めるような、焼け付く思いが湧き上がってくる。ギレンはそれを持ち前の自制心で無表情に変えた。そうして弟の前から、こうしてシャアを攫ってきたのである。

「ガルマといえば、ドルシネアと呼んでいたが、あれは何のことだ」
「さすがに私の名を呼ぶのはまずいので、偽名を考えたのです」
「ドルシネア、か………」

 ギレンの手がシャアの頬に伸び、強く上向かせた。シャアは喘ぐように答えた。これではまるで、尋問だ。
 もう片方の手でギレンはドレスのポケットを探った。小さなダガーを取り出す。先ほど男を取り押さえたダガーだった。それを床に放り投げるとシャアの目が軌跡を追いかけた。自分の得物のありかを知っておこうとする、軍人の瞳で。

「他にも持っているのか」

 シャアは黙って両脇に垂らしたままだった手を軽く振った。袖口からダガーが覗く。ギレンはそれも抜き取ると、また放り投げた。先に床に落ちていたダガーとぶつかって、小気味良い音がした。

「用心深いことだ」
「こちらに来るまでは…何の任務かわかりませんでしたので……」

 混雑するパーティ会場では銃は使い物にならない。接近戦なら小回りが利いて狙いの定めやすい小型の武器のほうが有利だった。女装で任務、というわけのわからない事態であったから、すぐに取り出せるように袖に仕込んでおいたのだ。ポケットではいざという時の一瞬、手間取って遅れをとる可能性がどうしても消せない。そしてそれは正解だった。

「総帥……」

 引き寄せられるままにキスをされて、シャアは目を閉じた。ここに連れ込まれた時にこういうことになるだろうなとは思っていたが、パーティの喧騒が聞こえてくる、離れているとはいえガルマもいる同じ場所で、こうしてギレンに触れられるのは苦痛以外のなんでもない。

「手当てをしてくださるのでは、ないのですか」

 遠巻きの拒否を、もちろんギレンが許すはずがない。そうだなと男は笑い、シャアをベッドへ放り出した。狭い医務室のベッドの上で、ドレスが花のように広がった。シャアは諦めたように瞼を伏せている。いつもの強気な瞳はなりをひそめ、憂いげに揺れていた。ゴクリとギレンが喉を鳴らすほど、それは悩ましい姿だった。誰を想ってそんなに悲しそうにしているのかわかっているだけに、一層苛虐心に火がつく。もう二度と、ガルマの前になど出られないほど抱いて、貶めてやりたい。
 いつまでたっても降りてこない愛撫の手に、シャアが不思議そうにギレンを窺い見た。ギレンはあきらかに欲情した瞳で見下ろしている。視線に舐められているような感覚が湧き上がって、シャアは身じろいだ。それが合図だったように、ギレンが言った。

「ドレスを持ち上げていろ」
「え………」

 一瞬、シャアは戸惑った。いつもなら自分で脱ぐのも脱がされるのも、さほどの抵抗は無い。だが、ドレスを着る決心もやっとの思いだったのに、自分でそれを持ち上げて、秘部を晒せというのか。拒否をすることはできない。躊躇いがちに伸びた手は、震えながらドレスとパニエとペチコートをそろそろと持ち上げた。次第に露わになっていく肌が外気に冷やされるたび、そこに男の視線を感じた。ぎゅっと目を閉じて、必死に羞恥心を耐える。

「………っ」
「どうした……?」

 震えるシャアの手が太股でとまった。濃い藍と真紅と、そこから覗く白い肌のコントラストは、ためいきがでるほど艶やかだった。その表情は羞恥と屈辱に染まりながらも、これから与えられる快感への期待が滲みでている。
 ギレンはそのシャアの顔に魅入り、口元を歪ませた。まったくこいつは、男を誘うことにかけて天才的だと思った。わざとやっているとしか思えない。

「総帥……っ」

 救いを求めるようなシャアの声。請われるまま、ギレンは手を伸ばして内股に触れた。ビクリと緊張し、震えながらシャアの脚が開かれていく。上へと男の手を誘うように。

「あ……」
「見せろ。……全部を、だ」

 命令に従って、手が動く。下腹部が見える辺りまでドレスが持ち上げられると、ようやくギレンは満足そうにうなずいた。ドレス姿とはいえさすがに男物だった下着の上を、触れるか触れないか、ぎりぎりのもどかしさで指が走る。

「ん…ん…」
「…早いな」

 まだそれほど刺激をうけていないにもかかわらず、すでに兆しをみせているシャアに、ギレンの笑いを含んだ声が聞こえてきた。

「総帥が…そのようにしたのでしょう……っ」

 羞恥や屈辱さえも快楽にすりかわる。シャアの体はそれを知っていた。貶められることを期待することさえ、この体はしはじめている。
 それを教え込んだのは、他ならぬギレンだった。力でねじ伏せるように、何度も抱いたのは。ギレンは喉の奥でくつくつと笑い、そうだ、と言った。

「だが、お前も、そのほうが好きだろう」
「あっ、い……っ」

 下着に手をかけられ、引き抜かれる。いやだ、と反射的に振り払おうとして、しかしドレスを持ち上げていなければならない状態ではどうにもならなかった。ギレンの指が催促をするように腰をくすぐる。少し、浮かせると、下着は剥がされて下肢を隠すものはなくなった。

「いい眺めだな」

 いまだ幼さを残す丸みを帯びた頬のラインと、整った美しい顔。気の強そうなその顔立ちが今は性的快感にうっとりと浸り、切なさを見せている。その様はどこからどう見ても女そのものであるのに、自ら曝している下肢がそれを裏切って性を主張していた。

「あ…っ、あっ」

 ギレンの手が直接シャアのそれに触れて、上下に動き始めた。期待していたものを突然与えられて、たまらずシャアの体が跳ね上がる。思わずあがった声をこらえるように横を向いて頬をシーツに押し付けると、ギシリとベッドが鳴った。

「あ……ん。い…―――…」

 10本の指はバラバラに動き回り、シャアを追い詰める。とろりと粘りのある液体が伝っていく感触まで敏感に感じとってしまい、シャアは更にシーツに顔を押し付けた。
 おそらくわざとだろう、ギレンは手に粘液を絡め、音を立てて全体に塗りつけた。そしてその指で、シャアの頬をなぞる。

「ひ……あ…っ」

 濡れた指が粘液を擦りつけてくる。逃げるようにシャアは顔を背けたが、ギレンの指は執拗だった。顎をがっちりと捕まえると顔を正面に戻し、人差し指をくちびるに押し当てた。舐めろ、という意味だ。
 いや、と言うよりも先に爪先がくちびるとくちびるの間を割って、侵入してきた。

「ん…、んぅ……」

 爪先は歯にあたるとわずかに開いていた隙間から口腔へと押し入り、指の腹を舌へ押し付けた。独特の、変な味が口に広がる。それが何の味だかわかると、涙が滲んできた。

「う……っ、………」

 シャアは苦しそうにしながらも舌を差し出してきた。指に舌が絡まり、根元まで舐めようとする。ほとんど無意識なのだろう、瞳から蒼い雫が膨れ上がり、恍惚とした表情になるころには、指は2本に増やされていた。中指と人差し指とで舌をはさんだりくすぐったりする間も、性器に絡まった手は休めなかった。シャアの腰がもっとというように揺らめきだす。

「ふぁ…、ん…。総……す、い…」

 口内を弄って唾液で濡れそぼった指を、今度は蕾にあてがうと、舌ったらずな声で切なそうにギレンを呼んだ。
 まだ固く閉ざされた蕾は、唾液を塗りつけるようになぞると、呼吸をするように反応してきた。ゆっくりと2本をそろえて忍び込ませる。今まで必死にドレスを握り締めていたシャアの手が、とうとう崩れ落ちた。

「シャア、」
「あっ、あっ、…も…いやぁ……っ」

 まだギレンはそうしていいと許してはいない。叱り付けるように名前を呼んでみても、シャアはもう限界だ、と指を横に振った。もう一度、ギレンが名前を呼んで促す。が、シャアの手は縋るものを求めてシーツを彷徨った。

「いけない子だ」

 くすりとギレンが笑む気配がして、シャアははっと顔をあげた。ギレンがこういう言い方をする時は、決まって酷いことをされた。脅えてすくみあがる体を見下ろして、ギレンはいきなり蕾をさぐっていた指を一気に根元まで挿入させた。同時に性器を力をこめて握りこむ。両方とも、痛みを感じさせるほど、容赦なく。

「ひぁ…―――!」

 ブルーアイズに溜まっていた涙を散らして、シャアが悲鳴をあげた。挿入のショックで達しそうになったものが、激痛によって塞き止められる。

「あっ、総帥。あっっ」

 シーツを握り締めていた手が、ギレンの腕に縋り付く。引っ張ったり引き寄せたりをして、子供のように強請る。乱暴といえるほど内壁をかきまわされているのに、達することを許されない。まるで、膿んで熱を持ったところを爪の先でひっかかれているようなもどかしさが溜まっていく。後にくる痛みを予想できても、いっそ突き破って欲しいと思うことを止められない。それほどの熱が体じゅうを荒れ狂っている。

「あんっ、あ、あ、あ、…くっ。もう、いやぁ……」

 いかせて、とシャアの手がギレンの腕を辿り、自分を縛めている手へと行きつく。震える指で縛めを解こうとするが、蜜で濡れた手を滑るだけでうまくいかない。肢を広げ、腰を振り、泣きながら、シャアが解放を強請った。―――その時だった。
 コンコン、と叩扉の音が響いた。続いて躊躇いがちな男の声。




すっぱだかよりチラリズムのほうが萌えます。
ギレン、えろオヤジ全開。



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