以下では勝手な未来予測をしてます。
朝鮮半島が統一されたり日米同盟が解消したりしてます。
アメリカさんや中国さんが酷いと感じられるかもしれないので
お好きな方は申し訳ありませんが避けてください。

























■ありえない露日で未来予想図





 うららかな日差しを浴びて、日本は居間で茶をすすっていた。ず…と音を立て息を吐き出す。庭先では雀がのんきに餌を漁っている。
 「平和ですね…」
 日本はポツリと呟いた。

 しかし実際は、日本を取り巻く状況は平和どころではなかった。



   ■   ■   ■



 そもそもの発端は韓国が統一されたことだった。長い間分裂の緊張状態にあった縁深い国が、ようやく念願を果たしたのだから、祝福してやるべきなのだろう。だが韓国は統一した途端混乱し始めた。その事態は日本にはとうに予測できていた。具体的な敵がいる間はいいが、見える敵がいなくなった途端に国内で血で血を洗う争いを始める。それで何度も国の危機を招いているのに、韓国は過去から何も学んでいないらしい。統一は喜ばしいが、韓国に倒れられれば津波を被って迷惑をこうむるのは近所にある日本や中国だ。日本は口を出さないではいられなかった。
 いまだに日本のことを弟分だと思っている韓国は、それが気に入らなかったのか、中国と一緒になって日帝の再来だと騒ぎ立てた。国内が混乱している鬱憤を晴らしているのだろうが、とんだとばっちりで非難を受ける日本はたまらない。韓国は国内の問題から目を逸らしている場合ではないというのに。日本はぐっとこらえて辛抱強く助言を試みたが、韓国が日本の忠告に耳を貸すことはなかった。
 東アジアの問題には関心が低いアメリカも、同盟国である韓国の混乱を放ってはおかなかった。統一韓国は名目上は民主制だが、自壊して権力を明け渡した北の勢力がいつ復活するかもしれない。何しろ共産主義の大国・中国と国境を接しているのだ。すでに自由主義vs.共産主義の対立構造が幅を利かせる時代ではないが、韓国は何かとやりづらい共産政権であるより、政治形態が同じ国家であるほうが望ましい。ところが韓国はアメリカの介入も拒んだ。それどころか、同盟すらも否定した。もう北はいないのだから、アメリカと同盟を結ぶ必要はないと言い放った。日本はその展開に仰天した。早速こちらにまで津波がやってきそうだ。しかし口を挟めばまた日帝がと騒がれる。気を揉んでいると、韓国はついに決定的な一言を放ってしまった。
 「俺は北の兄弟が作ったミサイルを持ってるんだぜ!だから俺とアメリカは対等なんだぜ!」
 思えば、自分で日本と戦って自国を解放することができずにww2後はずーっとアメリカに頭を抑え続けられて、不満を募らせていたのだろう。しかし自分の“恨”を晴らすことだけを優先して言い放った言葉の代価はあまりに高いものだった。

 アメリカは早速世界会議に韓国の制裁動議を提出した。理事会では、アメリカと中国が鋭く対立した。アメリカは韓国を爆撃しようと言い出し、中国は弟分の危機を阻止しようとする。非常任理事の席を占めた日本は身の置き所もなくそれを眺めていた。
 「日本ッ!」
 突然鋭い声が日本を呼んだ。反射的にビクリと肩を揺らし、自分を呼んだアメリカに顔を向けると、アメリカと中国がこちらを見ている。この組み合わせは厄介なことになりそうだと思いながら事態がまずい方向に転がっていくのをただ眺めることしかできない。
 「日本は俺の意見に賛成してくれるよね!?」
 「兄弟を爆撃なんて、日本が賛成するわけないあるよ!」
 ―――韓国に端を発した特大の津波で日本はびしょぬれだ。
 周囲の国々があちゃーという顔で日本を眺めている。同情するならフォローを入れてくれ!と思ったがアメリカと中国という大国相手に下手な発言をして睨まれるのは皆たまらない。というわけで日本はたった一人でこの困難な状況に立ち向かわなければならなかった。
 日本はあまり自己主張が得意ではない。といわれるが、意見を持っていないわけではない。しかし世界を変えようとして叩きのめされてからは自分の意見を述べることはあまりしてこなかった。世界にまかり通るのは高邁な理想などではなく強国の理論だ。おせっかいにも世界をより良い方向に変えていこうとして潰されるのは二度とごめんだった。
 色々な歴史的ないきさつもあって、たいていの場合アメリカの意見に従うが、今回ばかりはそうも行かない。何しろ議題は日本にも縁深い隣国の危機。憎まれ口ばかり叩く国だがやっぱり心配なのだ。意を決して日本は口を開いた。
 「…私も制裁には反対です。アジアのことは、アジアできっと収めますから、もう少し待っていただけませんか?」
 自分に逆らうはずがないと思っていた日本に反対され、アメリカは逆上したが、日本はさらに言った。
 「今までにあなたが武力介入してうまく行ったためしがありましたか?システムが違う地域に自国のやり方を強要して、他国を混乱に陥れた挙句どうしようもなくなって手を引いて、後には紛争地帯が残るばかりです。なんでも武力で解決しようとするのはよくない傾向ですよ」
 「…君はいつも俺をそんなふうに見ていたのかい!?」
 韓国をかばうことに神経を集中して、うっかり八橋で包むのを忘れてしまったかもしれない。気がつくと、アメリカは凄まじい形相でブルブルと震えていた。
 「今まで何も言わずについてきたくせに!心の中では何考えてるか分からない日本は信用できないね!ああもういいよ、友達はやめだ!同盟は解消しよう!」
 イギリスをはじめ周りの国が何か言おうとするのにまったく耳を貸さずにアメリカは言い募った。
 「…………………………そうですか」
 何か言い掛けた日本は結局何の反論もせずにアメリカの絶交を受け入れた。

 怒りに我を忘れたアメリカがズカズカと出て行ったおかげで、韓国の制裁はお流れになった。それはよかったのだが、韓国はアメリカとの同盟を破棄し、日本は絶交された。極東でアメリカと同盟を結んでいるのは今や台湾だけだ。それには心もとなさを感じざるをえなかった。というのも中国の存在である。
 きっとアジアで収めますから…という言葉どおり、日本は懸命に韓国に手を差し伸べようとした。それに韓国は反発するばかり。そこに中国が乗り出してきた。昔からの兄貴分の我に任せるよろし、というわけだ。中国に任せるのは少々不安ではあったが、自分の言葉を聞く気配はない。半分嫌になって、まあ悪いようにはしないだろうと任せてみると、あれよあれよという間に中国は韓国を属国化してしまった。これにはアジア全体が騒然となった。中国と国境を接している国はどこも中国からのプレッシャーをひしひしと感じている。しかし世界は意外なほどに変わらず平穏に流れていく。何か言うかと思ったアメリカは、いまや日本を抜いて第一位の貿易相手国になった中国の膨張主義に対して何も言わなかった。



   ■   ■   ■



 世界には平和な時代が続いている。小さな(いや、小さくもないか)紛争はあちこちに転がっているが、世界を巻き込む大戦が起こっていないという意味では世界は表面上平和だった。日本もあれから中国に南方を少しずつ削り取られている。アメリカが日本から軍を引き上げてから、中国は遠慮がなくなった。台湾は中国の動向にピリピリしている。韓国は相変わらず元気だ。韓国のために日本はアメリカと絶交し中国に削り取られていくのに、属国化しても意外と満足そうな韓国を見るとため息が漏れる。
 アメリカの後ろ盾がなくなったあとも、日本の経済大国としての地位は一応変わらなかった。国交は冷えていても、アメリカや中国・韓国との互恵関係は続いている。絶交だと言いながら貿易は続けるアメリカや少しずつ日本の領土を削り取りながら商品を売りつける中国も、不満を持ちながらそれらの国が第一の貿易相手国である日本も、とんだ狸だと思う。この平和は何と薄っぺらいことか…日本はシニカルな笑みを熱いお茶と一緒に飲み下した。

 日本の家に満ちる薄ら寒い平穏は突然破られた。
 だだだだだっ!騒がしい靴音が響く。ああ、この家は土足厳禁だというのに…と日本は眉をひそめた。
 「ドロップキィーック!!」
 騒がしい声が叫んだと思ったら、腰に凄まじい衝撃が走った。
 何の構えもしていなかった日本は横倒しに床に叩きつけられた。持っていた湯のみがころころと畳の上を転がっていく。ああ…畳が濡れてしまいました…、日本は遠い目で茶をこぼしながら転がる湯のみの行方を追った。
 狼藉者を軽くにらんだが、当の韓国は日本の視線に頓着することなく日本の身体を引き起こした。腰に鋭い痛みが走る。まったくこの国は何を考えているのか…相手が私ならば、何をやってもいいとでも思っているのでしょうか…と頭が痛くなってくる。どんなに親しい仲でも、他国をいきなり攻撃するなど国際法上許されることではないのに(そもそも日本と韓国はそれほど親しいわけではなかった)。怒りよりむしろ無作法な相手がこのままでは国際的に孤立するのではと心配になった。
 「いいかげんにしてください!」
 かつて面倒を見ていた頃の癖なのか、日本は韓国に対しては妙に保護者のようになってしまう。大体こんなヤンチャは彼の宗主国が黙っていないだろうに。
 「まったく、こんなことしてただで済むと…」
 「ただで済むあるよ、我がさせたことあるから」
 日本は口をつぐんだ。目の前には物騒なことに青竜刀を下げた中国がいた。うちには銃刀法があるというのに…と日本はまた眉をひそめた。

 韓国に背後から両腕をねじり上げられて突き出されるような格好になり、中途半端に腰に力が入る。日本は痛みにわずかに顔をしかめた。
 「日本の軍隊はなまくらになったあるね、全然大したことなかったある。…一切反撃しないなんて何をたくらんでるある!衛星軌道上から核で殲滅するつもりあるか!?」
 刀を持って乱入してきたのは中国のほうなのに、中国は日本を警戒していた。ずいぶん荒唐無稽な想像をするものだ(しかも日本にそれがあると信じているフシがある)…それだけ日本の技術力を高く買っているということかもしれないが。
 「まあいい、どんな秘密兵器があろうともここまで肉薄してしまえば使うことはできんあるよ!覚悟するよろし!」
 中国は青竜刀を日本の鼻先に突きつけてせせら笑った。
 日本はため息をつきながら中国の発言を訂正する。
 「中国さん、日本には軍隊はないんですよ。核兵器も保有しておりませんし」
 「嘘をつくなある!世界有数のバカ高い軍事費はどこに消えたある!?」
 「あれはアメリカさん用でした。私の家は非武装だと今まで散々申し上げたでしょう、信じてなかったんですか?」
 日本が本当は武力を手放していないと信じて攻撃を仕掛けてきた中国は、こんな状況になっても武器を取り出そうとしない日本に、初めて焦った表情になった。
 「…信じられん、正気の沙汰じゃないある!」
 「あなたがそれを言いますか。…私もそう思いますよ」
 「自殺行為ある!」
 ふう、とまたため息をつく。よく磨きこまれた青竜刀の表面が白く曇る。突きつけられた武器を無視して、よく手入れされた庭に焦点を合わせた。もう争いはたくさんだ、100年も前のことで糾弾されるのも嫌だ、波風を立てずに平穏に生きていきたいだけなのに、そのために日本はたくさんの代償を払ってきたのに、どうして世界はいつまでたっても日本が望むようには平穏でないのだろう。
 目の前でギラリと光る武器はすでに日本の現実ではなかった。世界(正確には世界全部ではなくアメリカやイギリスやそのほかの国々)を敵に回して戦った過去は遠い。日本の国防を心配してくれる国々には怒られるが、きっとあのときに一生分の覇気を使い果たしてしまったのだろう。今更武器を取ることはできない。
 「お前はこのまま何もせずに死ぬつもりか!それでいいあるか!それでも我のっ…」
 「…余生ですから」
 命乞いすらせずに、黙って首を差し出す日本に中国は動揺していた。かつて―――もう100年も前の話だが、日本は中国よりはるかに強かった。世に出藍の誉れというが、中国の文化を吸収し、いつの間にか自分を踏みつけ越えていった弟の存在は疎ましくもあり、誇らしくもあった。離れていこうとするのが嫌で、過去の罪に縛り付けてはみても、たった一人西欧の奴らと対等に渡り合う日本はやはり自慢の弟だった。
 それが何だ、年下の癖に、何なんだこの達観したかのような態度は!中国は不意に激しい怒りの感情に襲われた。
 「もう何も為すことがないというのなら、その首、いただくあるよ!」
 「……………どうぞ」
 中国の攻撃などないかのように、日常生活のまま日本はすっと目を閉じた。その飄々とした態度が余計に中国の怒気をあおった。アメリカに絶交されたときもそうだったが、どうして現実に対してあがこうとしない、とじりじりと焦れる。日本を攻撃する、それは大きな挑戦だった。かつての可愛い弟分を前にしてためらわずに攻撃できるか心配だったし、そもそも日本の反撃にやられてしまうかもしれないと思っていた(一人ではかなわないだろうともう一人の弟まで動員した)。中国の記憶の中の日本は、好奇心に目をキラキラさせた子供であり、生き残るために世界を敵に回した鬼神のように強い隣国だった。生きる気力を一切見せず、無抵抗に屠殺される愚か者ではなかった。自分を殺す太刀筋を見ようともしない、武人の誇りまで失ってしまったとは、とんだ期待はずれではないか。日本のように臆病でない自分は目をつぶったりしない、日本を殺す太刀筋をしっかりと見届けてやる。胸の奥を焦がす感情を怒りでごまかす。
 「永別了…!」
 青竜刀を掲げ、日本の首めがけて振り下ろした。韓国が焦った表情で何か言いかける、阿呆面が中国の視界の端に映った。



   ■   ■   ■



 ドガッ!
 ガキィッ!!

 日本の黒髪のすぐ上で、鈍い音をたてて青竜刀は止められた。同時に日本を縛めていた拘束が解け、韓国は壁際まで吹っ飛ばされた。
 目を閉じていた日本がふっと目を開けると、目の端でふわりと金髪が揺れた。
 ―――え?
 「いいかげんにしてくれるかな…?」
 口調は優しげだが、片手で青竜刀を止めながら、中国の黒い瞳を見つめる青い目は笑っていない。
 「俄羅斯…!?」
 何故ここに彼がいるのか分からず中国は眉をひそめた。
 アメリカとの同盟を破棄されたというのに飄々として何の備えもしていなかった日本が、さては中国の頭越しにロシアと取引していたからあんなに余裕だったのかと、日本をにらみつけると、日本は馬鹿みたいにポカンと口を開けていた。驚きに固まったまま、ロシアの太い腕の中に納まっている。
 (…そうだった、日本はそんな外交ができるほど器用じゃないある)
 ではどうして、と考えて、そういえばロシアも日本との間に領土紛争を抱えていたと思い出した。
 「君、最近ぶいぶい言わせてるみたいだけど、僕の近所であんまり調子に乗るとひどいよ…?韓国君を属国にして、その上日本君にまで手を伸ばされちゃあ、黙ってるわけにはいかないな」
 もうたくさん持っているくせにまだ欲しがるロシアは、このたびも自分の取り分を主張しに来たのだろう。仕方がない、日本の国土を分けるのは気が進まなかったが、ロシアとことを構えるよりは譲ってやったほうが得策だ。
 「分かったある、日本の国土は山分けにするあるよ。北海道と東北地方が欲しいのか?」
 確かww2後にロシアは欲しがっていたはずだ。中国の発言にロシアの目が細められたが笑ってはいなかった。むしろコルコルコル…と聞こえてきそうな底冷えのする威圧感が増した。
 「僕は君と取引をしに来たわけじゃないよ。出てってくれるかなっ…」
 中国の渾身の力を込めた一撃を、先ほどロシアは片手でしかも水道の蛇口で止めたのだが、今度はその蛇口を軽く横に払った。片腕であしらわれて中国はよろけてしまった。国力を増しアメリカやロシアに対抗できるほどに力をつけたと思っていたのだが、かつての超大国の力はまだ健在のようだ。
 アメリカならばともかく、ロシアに対して食い下がっても無駄だ。ロシアの執念深さはよく知っている。今日はあきらめるしかないだろう。しかし、中国は中々その場から去ることができなかった。主権を持つ他国の首都にまで乗り込んできて、自分がいなくなったらロシアは日本をどうするつもりなのだろう。攻撃しようとしたくせに、いざ日本が他の国の脅威に晒されると心配するなんて、なんて矛盾した感情だろう…!
 水道の蛇口を鼻先に突きつけられて中国はジリ…と後ろに下がった。
 「そんな覇気のない日本なんて、侵略する価値もないあるっ…今日のところは見逃してやる!」
 捨て台詞を吐いて、中国は、ロシアに横っ面を張り飛ばされて気絶した韓国を担いでその場から立ち去った。

 ロシアは日本の首に片腕を回したまましばらくじっとしていた。やがて腕の中の日本がポツリと呟いた。
 「な…んで…?」
 「うーん…?君のことが好きだから?」
 ロシアはできるだけ優しい声を出した。理由を聞かれても分からない。中国に攻められる日本を見て、いてもたってもいられなかったのだ。極東で中国の勢力があまりに強くなると困る、という理由も思いついたが理屈で考えた後付だろう。
 固まっていた日本は急に吐き捨てた。
 「もうっ…私のことはほっといてください!」
 「ダメー、ほっとかないよ」
 「どうして…!私がいいって言ってるんですよ!」
 「嫌がらせの一環かな」
 「どうせ私なんてっ…一人では自分の身を守ることもできないどうしようもない国なんですっだからもうっ」
 駄々っ子のように言い募る日本は珍しい。どちらかというと駄々っ子になるのはロシアのほうで、日本はいつでも駄々っ子をなだめる母親の役割ばかりしていた。だからこんなふうにわがままを言われると、どうしていいか分からなくなる。両腕を回して日本の小さな身体をぎゅうぎゅうと抱きすくめる。
 「それでいいじゃない、前にソビエトが壊れちゃったとき、君が言ったんだよ国も一人では生きられないって。僕、自分ちで凍らない車も作れないけど、君が作ってくれるから冬も車を乗り回せるし。君がいなくなると困るよ」
 でも、でも、と日本はまだ首を振る。ロシアがこんなサービスするなんて滅多にないのに。
 「…もういいんです私なんて…!」
 「…もう嫌になった?…消えてしまいたかったの?」
 国を守る力もなく、近所の国に敵意を向けられ、世界会議での発言力は相変わらずなく、散々尽くした海を挟んだ向こう側の国には絶交されて四面楚歌といった心境か。
 「アメリカ君と友達やめたくらいでそんなに落ち込まないで…」
 アメリカに唯々諾々と従っているときですら、日本が弱いと思ったことはなかったのに。語調の強さに比べて今の彼の存在のはかなさは何事だろう。
 「ねえ…消えてしまっては嫌だよ…」
 ロシアは抱きすくめた日本の後頭部に顔を押し付けた。その声が何だか泣いているようだったので、日本は口をつぐんだ。泣きたいのは私です、どうしてあなたがそんな声を出すんですか、と心の中ではロシアに向かって叫んでいた。
 「…ねえ、友達に戻ろうよ…」
 まるで置いていかないでと泣く子供のように頼りない声。つらいのは日本なのに、一人ぼっちの子供を見捨てるような罪悪感を感じなければならないのは理不尽だ。
 「…………ひきょうですよ…」
 生きている意味を見出せないこの身でも、勝手に消えてしまうわけにはいかないらしい。先行き心もとない老人の肩にすがるように回された腕にそっと手を添えた。



   ■   ■   ■



 退却する中国はだんだんと冷静さを取り戻していた。
 本当は日本を殺す気はなかった。今から150年ほど前日本は兄に刀を向けたが、日本と違って優しい兄の中国が(と自分で言う)弟を斬れるわけがない。ちょっと威して、命乞いする日本を属国にして、韓国ともども(ついでに台湾も)家族に戻るつもりだったのに。投げやりな日本の態度を見ていたら、頭に血が上ってしまった。こんなはずではなかったのに…!
 韓国を担いで日本の家から飛び出した中国は、玄関先で足を止めた。目の前では、台湾と東南アジアの国々がずらっと家を取り囲んでいた。
 「何のつもりあるか…?どけ…!」
 青竜刀を手にぐるりと一睨みすると、東南アジアの面々はひるんだようだった。中国に凄まれ慣れている台湾が代表して口を開いた。
 「日本さんがやられたら、次は私達の番ね。だから、てめーが日本さんを攻めるっていうんなら、自衛のために戦うよ!」
 察するに、日本に懐いている台湾が東南アジアに呼びかけたのだろう。実際、日本の運命はそのまま台湾に重なる。彼女にとって中国からもたらされる国家存亡の危機は他人事ではない。東南アジアにも中国に領土を脅かされている国はたくさんあった。だがそれが何だというのだ。この世界では国力が全てなのだ。
 「フン、アメリカの了解は取ったあるか。取れるわけねーあるな、アメリカは日本より我との貿易を選んだある」
 東南アジアの国々と中国では軍事力に差がありすぎる。対中国に特化して軍備を整えている台湾は多少うるさいが、同盟国のアメリカがしゃしゃり出てこなければ、ねじ伏せることはできる。何しろ国力が圧倒的に違うのだ。一気に制圧してやろうか?と脅してやると、痛いところを突かれたようで、台湾が眉をしかめる。
 「世界会議は拒否権で黙らせれば何もできないし、アメリカは我には何も文句を言わねーある。てめーらではどうしようもねーあるな!」
 中国は勝ち誇ったように胸をそらせた。
 「…ふぅん、僕のことも忘れないで欲しいな」
 「げっ俄羅斯…!」
 「あっ日本さん!」
 ロシアに支えられて玄関先に出てきた日本に集まっていた国々が群がった。日本はきょとんと集まった国々を眺めていたが、あっという間に周囲には中国から(ついでにロシアからも)かばうように人垣ができた。大丈夫ですか、と次々に声をかけられる。
 中国も日本もそのとき気付いたのだが、さらに外洋には、インドやオーストラリアまで来ていた。監視するようにじっと成り行きを見つめている。
 ここで中国はようやく気付く。どうやら今回はやりすぎてしまったようだ。アメリカには切り捨てられたというのに、まさかこんなに日本に関心を持つ国が多いとは思わなかった。アメリカや世界会議を黙らせることはできるが、近所の国々に有志で攻撃を仕掛けられたらさすがに面倒だ。
 「さてと。それじゃ中国君、帰ろうかー?」
 「ひ…離すあるー!!」
 ロシアがひょいと中国と韓国の首根っこをつかんで引きずっていった。



 「日本さん!よかった、無事でしたか…!?」
 「ええ、ですが皆さんには危ない橋を渡らせてしまったようで…」
 私などのために申し訳ありません、と頭を垂れてしまった日本に周囲はあわてて言い募る。
 「大したことない!今までたくさんお世話になってる!これは恩返しだ」
 「あんなむちゃくちゃな広域災害には一人で対処しようとしなくていいのよ!」
 「…中国さんはTSUNAMIですか?」
 くすくすっ。日本がようやく微笑ったので取り囲む国々もどっと笑った。





>>蛇足:非武装中立シミュレーション(露→日←英よりの日本総モテ+英vs.露)



萌えなどカケラもない堅い話でごめんなさい。
硬い国際情勢の隙間にちらちら見える好意が萌えるかと思ったんですがそうでもなかった(汗)
ありえない露日シリーズと思ってたのに日本総モテになりました。
ありえないシリーズの露様は日本君を好きではなく愛してます(何この違和感!)



うちにいる中台の専門家が言うには中国は沖縄からじわじわと削り取ってくしロシアが介入してくるなら
日本を山分けするって主張します。中国に攻撃されるとしたらまず台湾なんでしょうが(汗)
韓国さんがないがしろでごめんなさい…(汗)ご本家にはまだ北の兄弟は出てきてませんが、
実は韓国さんって一人かもしれないと思ってて…二重人格?<将来的に統一すると思ってるので(汗)
オリジナルすぎる設定をババンと出すのが躊躇われるので韓国さんの扱いはさらっとになります。