ROSES and SUNSHINE 12
「はい、これ。たんじょーびプレゼント」
悟空の差し出した包みを、三蔵はすぐには受け取らなかった。紫暗の瞳を眇め、警戒の眼差しで見つめる。
外見は異常なし。店のロゴが入ったビニール製の袋は三蔵も見覚えのあるもので、中身が入れ替えられてさえいなければ、最悪でもそこそこまっとうなものが収まっているはずだ。
袋が偽装だとすればわからないが、不自然な凹凸は見当たらず、柔らかそうなものだと推測できる。
「ほら」
押し付けられたそれは、やはり柔らかかった。衣類だと思うが、まだわからない。
悟空を見ると、にこにこ笑っていた。
しかし三蔵は知っている。この笑顔は曲者だ。
いかにも善良そうな微笑みで人を騙すどこかの誰かとは違って、悟空の笑顔それ自体には何の誤魔化しもない。けれどだからこそ――本物と嘘の区別がつかなくて、一層厄介だったりするのだ。
「三蔵、開けねーの?」
いつまでたってもアクションを起こさない三蔵に、悟空は首を傾げた。
そして、三蔵の手から袋を奪い返すと、口を止めてあったテープをピリッと剥がす。
「おい、待て――」
三蔵の脳裏を走馬燈が駆け巡った。
四才の時はカエルだった。ただし悟空に他意はなく、純粋に三蔵が喜ぶと思ったらしいが、バケツの底が見えなくなるほどひしめき合っているカエルの大群は、幼い三蔵の心にちょっとしたダメージを与えた。
九才の時はびっくり箱だ。後にも先にもそんなものを貰ったのはこの時だけだ。お手製というだけあって腹が立つほど良く手が込んでいて、悟空は傑作だと自画自賛していたが、確かに色々な意味であれは傑作だった。
思い出すのも忌まわしい十三才の時は――――……
ふわり、と。
三蔵の肩に柔らかい物体が掛けられる。
目の前では悟空がにこにこ笑っている。
「どう? 気に入った?」
それはマフラーだった。どこからどう見ても。
特に奇抜なデザインでもなく、むしろ趣味が良い。
しかし悲しいかな、まっとうなものであるだけに、どんな落とし穴があるのかと三蔵は身構えてしまう。毎年嫌がらせとしか思えないプレゼントを貰い続けている弊害だ。
そういえば――と、気付いた。
このデザイン。濃いグレイに青のラインは、何とはなしに見覚えがあるような……?
「――てめーのと色違いじゃねーか!」
一週間ほど前、新しいのを買ったと悟空が見せびらかしていたのは、薄いベージュに橙という色の違いはあるものの、ラインの入り方が特徴的で、それは今三蔵の肩に掛けられているものと同じだった。
「そうそう。どっちもいい色だから欲しくてさー。片方三蔵にあげればいつでも好きな方使えると思って」
悟空はまったく悪びれずに白状した。
道理で今年はまともなはずだ。……いや、そうとも言い切れないか。
三蔵は機嫌に比例した低い声で告げた。
「取り替えてこい」
「ムリ」
即答だ。
「それ、俺のとペアだもん。セット販売」
…………。
「今、何て言った?」
「三蔵、老化現象じゃねーの? だからそのマフラーは、」
「いや、やっぱり言うな。聞きたくねえ」
珍しく狼狽えたような、らしくない三蔵の言動に悟空は瞬く。悪口に仕返しもしないなんて、おかしすぎる。
三蔵は眉間に手を当てて微動だにせず、何事かを考えているようだった。
が、ふと顔を上げたかと思うと、肩のマフラーを投げ捨てるようにして怒鳴った。
「そんなもん寄越すんじゃねえ!」
応える悟空の口調はのんきなものだ。
「いーじゃん別に。彼女いるわけでもないんだし。ペアでも」
「そういう問題じゃねえ!」
何とも熱烈に拒否されて、悟空はちょっとむうっとした顔をする。
「……三蔵、自意識カジョー」
ぴくり、と三蔵のこめかみが引きつった。
「誰もそんなこと気にしないって」
だから返品不可、と悟空は三蔵の首にぐるぐるとマフラーを巻き付けた。
――やはり一度締めておくべきか。
三蔵は物騒な考えをめぐらせたが、引くことを知らない悟空の押しの強さに、気力を削がれ諦めを選択した。
「…………もういい」
三蔵は溜息をつく。
結局、そうなるのだ。毎年のことだ、そんなことはわかりきっていた。
それもこれも全部、最初の年につい許してしまったのが悪いのだ。
「生誕佳日」......end.