ROSES and SUNSHINE 01
「さんぞークリスマスしよー」
ガラリ、西向きの窓が開いたかと思うと、右手にケーキの箱、左手にシャンパンを抱えたサンタクロースが顔を覗かせた。
……否、それは三蔵の幼なじみだ。何を思ったのか(そしてどうやって手に入れたのか)サンタの衣装を着た悟空は、危なげなく窓から彼の部屋に侵入を果たした。あまり上品とは言えない行動だが、悟空の部屋と三蔵の部屋は窓ごし1メートルの距離だ。玄関経由などというまどろっこしいことをする理由はない。
悟空は部屋の中央のテーブルにケーキとシャンパンを置くと、勝手知ったるで階下に向かい、グラスを二つ手に持って戻ってきた。
「三蔵、夕飯は?」
冷蔵庫何もなかったけど、と悟空が問う。
「ピザ」
答えと同時にインターホンが鳴った。
「用意いーじゃん」
「偶々だろ」
テーブルに並ぶのはざっと五人前はありそうなピザとサイドメニューだが、他に誰か来るわけでもない。乾杯の挨拶もすることはなく、二人は目の前の食べ物にありつきはじめた。
冬休みどうする、とか雪降るかな、とか雑談をしながら、その大半が悟空の胃袋に消えていく。三蔵より小柄な身体のどこにこれほど収まるスペースがあるのか、いっそ感心するほどだ。
あっという間にピザを平らげてしまった悟空は、今度はケーキの箱を開いた。三蔵が食べないと知っているから、六号ホールに大胆にフォークを突き刺す。
三蔵はシャンパンの入ったグラスを傾けていたが、あまりの悟空の食べっぷりのよさに、つられて思わずケーキに手を伸ばした。が。
「……甘ぇ」
眉をひそめ、やつあたりにテーブルの下で悟空の足を蹴飛ばした。
「何だよ」
「てめーがうまそうに食ってるのが悪い」
「ひとのせいにすんなよなー」
悟空は三蔵の足を蹴り返し、再びケーキを口に運ぶ。
よくこんなものをワンホールも食べる気になれるな、と三蔵は呆れた。
「そーだ、はいこれクリスマスプレゼント」
そう言って悟空がひと抱えの包みを差し出したのは、テーブルからほとんど食べ物が消えた頃だった。
三蔵に促されて悟空の手により包装が解かれ、現れたのは小さなクリスマスツリー。
「三蔵の部屋、ぜんぜんクリスマスらしくないんだもんなー」
悟空はそれを部屋の一角に飾り満足げに頷いたが、三蔵はため息を吐き出した。
「年に一度しかいらねーようなもん、無駄なだけだ」
本当に毎年毎年、よくこんな役に立たないものばかり見つけてこられるものだと思う。
しかし悟空は、軽く首をかしげると、いとも簡単に言ってのけた。
「なら、ずっと飾っとけば?」
片付ける手間も省けるし、と付け加えられるに至って、三蔵はひどく脱力した。
「それよりさー」
しかも、「それより」ときたものだ。「何だ」と三蔵がおざなりに返事をすると、悟空は小さなこどもがするみたいに服の裾を引いてきた。
「さんぞーは俺に、プレゼントは?」
上目遣いでねだってくる。だが、そんな気のきいたものを三蔵が用意してあるはずもない。
悟空も知っていて訊いているのだ。握った三蔵の服を示して、にまりと笑った。
「これ、くれよ」
三蔵が着ているのは、特にどうということもないハイネックのセーターだ。なぜ欲しがるのかまったくわからなかったが、断る理由もなかったのでその場で脱いで渡した。
「あ、やっぱすげーあったかー」
悟空はサンタの赤い服の代わりにぬくもりを残したそれを着込み、喉を撫でられた猫みたいに目を細める。
「……袖、余ってるぞ」
「いーよ別に」
こうして、今年もクリスマスの夜は更けてゆく。
「静嘉聖夜」......end.