「ここ、行ってみたいな」
悟空の言葉に特別な意味はなかっただろう。
クリスマスの少し前のことだ。
いつものごとく三蔵の部屋で、テレビを見ながら二人で夕飯を食べていたとき、この近くの観光スポットが取り上げられていた。
「一緒に行くか?」
三蔵がなにげなく誘うと、悟空はすぐ乗り気になった。
「行く行く。いつにする?」
二人の予定を合わせて決まった日が、――たまたま休日と重なっていたクリスマスだった。
「うわー、人いっぱい」
クリスマスイルミネーションが煌めくその場所で、悟空は白い息を吐きながら感想をもらした。
三蔵の感想はちょっとちがう。
たくさんいるのは『人』ではなく『カップル』だ。
クリスマスの寒い夜、ロマンティックなイルミネーション目当てに来ているのはカップルばかりだ。予想はしていた。
そして、自分たちも端から見たらそれにカウントされるだろう。悟空は気づいていないが。
というのも、冬の厚着はただでさえ体格を隠すのに、そのうえ男女どちらともとれるニット帽とコートを身につけた悟空は、外見から性別が判断しにくい。三蔵との身長差もある。
ここにクリスマスの夜という要素を加えると、ジャッジがどちらに傾くかは明らかだ。
本当にデートならどれだけいいだろう、と三蔵は思うが、デート気分を味わえるだけでも満足すべきなのだろう。
「はぐれるなよ」
三蔵は気分を切り替え、さりげなく悟空の背中に手を添える。
「すげーキレイだな」
悟空はイルミネーションに夢中だ。横顔を盗み見る三蔵には気がつかず、イルミネーションをまっすぐに見つめ、目を輝かせている。
「ああ、綺麗だ」
金色の瞳に映し出されるイルミネーションを見て、三蔵もうなずいた。
悟空の言葉に特別な意味はなかっただろう。
クリスマスの少し前のことだ。
いつものごとく三蔵の部屋で、テレビを見ながら二人で夕飯を食べていたとき、この近くの観光スポットが取り上げられていた。
「一緒に行くか?」
三蔵がなにげなく誘うと、悟空はすぐ乗り気になった。
「行く行く。いつにする?」
二人の予定を合わせて決まった日が、――たまたま休日と重なっていたクリスマスだった。
「うわー、人いっぱい」
クリスマスイルミネーションが煌めくその場所で、悟空は白い息を吐きながら感想をもらした。
三蔵の感想はちょっとちがう。
たくさんいるのは『人』ではなく『カップル』だ。
クリスマスの寒い夜、ロマンティックなイルミネーション目当てに来ているのはカップルばかりだ。予想はしていた。
そして、自分たちも端から見たらそれにカウントされるだろう。悟空は気づいていないが。
というのも、冬の厚着はただでさえ体格を隠すのに、そのうえ男女どちらともとれるニット帽とコートを身につけた悟空は、外見から性別が判断しにくい。三蔵との身長差もある。
ここにクリスマスの夜という要素を加えると、ジャッジがどちらに傾くかは明らかだ。
本当にデートならどれだけいいだろう、と三蔵は思うが、デート気分を味わえるだけでも満足すべきなのだろう。
「はぐれるなよ」
三蔵は気分を切り替え、さりげなく悟空の背中に手を添える。
「すげーキレイだな」
悟空はイルミネーションに夢中だ。横顔を盗み見る三蔵には気がつかず、イルミネーションをまっすぐに見つめ、目を輝かせている。
「ああ、綺麗だ」
金色の瞳に映し出されるイルミネーションを見て、三蔵もうなずいた。
ラブ&ピース 【ハチ】
三蔵は困惑していた。
二月十四日、配達日指定でチョコレートが家に届いた。
問題はその送り主で、……悟空の父親、だったのだ。
その時点で三蔵の思考回路は停止した。
何も考えられなくなり、しばらく荷札が付いたままのチョコレートの箱と睨み合っていた。
――膠着状態を破ったのは、例によってご飯を食べるために三蔵の部屋にやってきた悟空だった。
「三蔵にも送ってきたの?」
そして、困惑した三蔵の表情に気づいたのか、説明してくれた。
「うち、母親いないから、代わりに父親が毎年ヴァレンタインチョコくれるんだよ」
「……なるほどな」
でも、なぜ三蔵にまで、と疑問をぶつけると、悟空は他意なく笑って答えた。
「俺と仲いいから、三蔵のことも息子みたいに思ってるのかも」
それは、喜ぶべきポイントだろうか。
いや、喜んでおくべきだろう。
悟空に邪な感情を抱いている分、悟空の親に対しては後ろめたさを拭えないが、嫌われるよりは気に入られた方がいいはずだ。
三蔵はそう自分に言い聞かせる。
一応のところこれで悩みは解決したものの、後日ホワイトデーの存在に思い至り、三蔵は新たな悩みを抱えることになるのだった。
二月十四日、配達日指定でチョコレートが家に届いた。
問題はその送り主で、……悟空の父親、だったのだ。
その時点で三蔵の思考回路は停止した。
何も考えられなくなり、しばらく荷札が付いたままのチョコレートの箱と睨み合っていた。
――膠着状態を破ったのは、例によってご飯を食べるために三蔵の部屋にやってきた悟空だった。
「三蔵にも送ってきたの?」
そして、困惑した三蔵の表情に気づいたのか、説明してくれた。
「うち、母親いないから、代わりに父親が毎年ヴァレンタインチョコくれるんだよ」
「……なるほどな」
でも、なぜ三蔵にまで、と疑問をぶつけると、悟空は他意なく笑って答えた。
「俺と仲いいから、三蔵のことも息子みたいに思ってるのかも」
それは、喜ぶべきポイントだろうか。
いや、喜んでおくべきだろう。
悟空に邪な感情を抱いている分、悟空の親に対しては後ろめたさを拭えないが、嫌われるよりは気に入られた方がいいはずだ。
三蔵はそう自分に言い聞かせる。
一応のところこれで悩みは解決したものの、後日ホワイトデーの存在に思い至り、三蔵は新たな悩みを抱えることになるのだった。