12/04/05-12/11/29
ラブ&ピース          【ク】
「なんだめずらしいな。お前、弁当?」
 学食の食堂で、テーブルに弁当箱を広げた悟空がいた。
 めずらしいものを見つけたと、悟浄は近付いて声をかける。
「ん。作ってもらった」
 誰に、とは問うまい。
 悟浄は悟空の隣に座る三蔵に目を向ける。……かいがいしいな、オイ。
「コイツの親が、俺宛に大量の肉とか野菜とか送ってきたんだよ」
 尋ねもしないのに、三蔵が仏頂面で答えた。
 そういえば、悟空が毎日三蔵の家で夕飯を食べている、という話を聞いたような気もする。
「……親にそこまで気ィ遣わせるなんて、お前、どれだけ入り浸ってるんだよ」
 悟浄が声に呆れを滲ませると、悟空はむっとした顔の中に、ちょっとだけ不安げな表情を覗かせた。
 その不安は、隣の三蔵に向けられる。
「三蔵、俺、めーわく?」
「別に」
 三蔵は即答だ。
「よかった。三蔵のメシすげーうまいから、食べられなくなるなんて嫌だし」
「心配しなくても、一生俺がお前に食わせてやる」
 ……………………それってプロポーズみたいじゃね?
 悟浄は思わず固まった。
 しかし言われた方はまったく気づいていないし、言った方も自覚しているのかわからない。
 悟浄はアホらしくなって、とっととその場から立ち去ることにした。




ラブ&ピース          【ジュウ】
「三蔵の誕生日、何あげればいいと思う?」
 ちょうど人のいないゼミの教室でうんうんうなっている悟空に声をかけてみると、そんな質問が飛び出してきた。
「そんなの適当でいいだろ」
 とは、男にプレゼントをする意味がわからない悟浄の意見だ。もっとも、何か他の目的があるなら別だが。
「そーいうわけにはいかないし」
「何か理由でもあるんですか?」
 悟浄は役に立たないと切り捨てたのか、悟空は詳しく尋ねる八戒に体ごと向いて話す。
「俺の誕生日は、三蔵にプレゼントもらったから」
「ちなみに何を?」
「服。っていうか、パジャマ」
 悟浄と八戒は顔を見合わせた。
 一般的に男が女に服を贈ることの意味は、三蔵も知っているはずだ。悟空は女ではないが、三蔵が意味を意識しなかったとは思えない。だいいちパジャマなんてあからさま過ぎる。
 ――おそらく、というか絶対に、悟空は意味に気づかなかったであろうが。
 すると悟浄がいかにもいいことを思いついたという顔をして、悟空と八戒の間に割り込むように身を乗り出した。
「俺がアドバイスしてやる。お前は誕生日に三蔵のベッドの中で裸で帰りを待ってろ。それが一番のプレゼントだ」
「それって悟浄が女からもらいたいプレゼントの話だろ?」
 間髪入れず悟空は悟浄の『アドバイス』を切り捨てる。
 悟浄もあながち間違ってないんですけどねぇ、と考えながら、八戒は悟空の背後を指さした。
「いっそ本人に聞いてみたらどうですか? ちょうど、そこにいますし」
 教室の出入口には、いつのまにか三蔵の姿があった。
 くるりと振り向いた悟空は、「あ、ほんとだ」とつぶやいて三蔵に直接尋ねた。
「三蔵、誕生日に何欲しい?」
「…………二人で温泉」
 あー寒くなってきたもんなー、などと相槌をうつ悟空は気づかなかったが、その後ろで悟浄と八戒は「……根に持ってるな」「執念深いですね」とひそひそささやき合ったのだった。
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