「温泉に行きたーい!」
「――――とか言われたら期待するだろ。フツウ」
「へ? 何が? 何で?」
悟浄の言葉に、悟空は首をかしげる。
「期待するのは勝手ですが、現実を見ない期待はただの妄想ですよね」
「だから、何の話?」
八戒の言葉に、悟空はやはり話を読めず尋ねる。
「いーや、別にィ」
「あー、ほんといい湯加減ですねぇ」
「もういーよ!」
完全に会話から除け者にされ、拗ねた悟空が二人に背を向けて、向かったのは三蔵のもと。
悟空が三蔵にじゃれつくのはいつものこと。
三蔵がそれを振り払うのもまたいつものこと。
だが、眉間に寄った皺がいつもより多いことに気付いていないのは、きっと悟空だけだろう。
「三蔵サマ、かーわいそーう」
本当なら悟空と二人きりで、この温泉に来ていたはずなのに。
そうしたらもしかして今頃は、何かしらアヤマチが起きていたかもしれないのに。
悟浄は深く同情する。
「とか言いながら一緒にって悟空に誘われて断らなかったのアナタじゃないですか」
「だっておもしろいに決まってるだろ。そういうオマエだって断らなかったくせに」
「僕は純粋に温泉に行きたかったんです」
……目下三蔵の不幸は、鈍い相手より、横槍を入れたがる部外者の存在かもしれない。
「――――とか言われたら期待するだろ。フツウ」
「へ? 何が? 何で?」
悟浄の言葉に、悟空は首をかしげる。
「期待するのは勝手ですが、現実を見ない期待はただの妄想ですよね」
「だから、何の話?」
八戒の言葉に、悟空はやはり話を読めず尋ねる。
「いーや、別にィ」
「あー、ほんといい湯加減ですねぇ」
「もういーよ!」
完全に会話から除け者にされ、拗ねた悟空が二人に背を向けて、向かったのは三蔵のもと。
悟空が三蔵にじゃれつくのはいつものこと。
三蔵がそれを振り払うのもまたいつものこと。
だが、眉間に寄った皺がいつもより多いことに気付いていないのは、きっと悟空だけだろう。
「三蔵サマ、かーわいそーう」
本当なら悟空と二人きりで、この温泉に来ていたはずなのに。
そうしたらもしかして今頃は、何かしらアヤマチが起きていたかもしれないのに。
悟浄は深く同情する。
「とか言いながら一緒にって悟空に誘われて断らなかったのアナタじゃないですか」
「だっておもしろいに決まってるだろ。そういうオマエだって断らなかったくせに」
「僕は純粋に温泉に行きたかったんです」
……目下三蔵の不幸は、鈍い相手より、横槍を入れたがる部外者の存在かもしれない。
ラブ&ピース 【シ】
鍵を開け、部屋の扉を開いた瞬間、パンパンパン!……という音の衝撃が三蔵を襲った。
「メリークリスマス!」
一日のバイトを終えて帰宅した大学生を迎えるには、少々派手すぎる演出だ。
驚愕から立ち直ると、留守にしていた部屋の中には、クラッカーを持った悟空の姿があった。
「……どうやって入った」
言いたいことはいろいろあるが、まずはっきりさせておくべきはその点だ。
「管理人さんに開けてもらった。ちょっと喋ってたら仲良くなったんだけど、すげー親切な人だな」
悟空の口からあっけらかんと明かされた内容を聞いて、三蔵は瞬間的に管理人に殺意を抱いた。
簡単に三蔵の部屋を開けた職務態度にも腹がたつが、それ以上に聞き逃せないのは、短時間で三蔵の部屋を開けてもいいと思うほどに悟空と仲良くなったという事実だ。
今後、注意する必要がある。と、三蔵は心の中の閻魔帳に管理人の名前を刻む。
「で、何の用だ?」
「三蔵とクリスマスしよーと思って。ケーキ買ってきた!」
可愛いことを言われ、三蔵はうっかり感動しそうになるが、見ればコンビニの二個入りショートケーキは一個と三分の一がすでになくなっていた。
「待ってるあいだお腹すいたから、ちょっと食べちゃったけど。あ、でも三蔵の分はほら、イチゴのとこちゃんと残してあるから!」
相手が悟空であることを考えれば、それでも上出来というところだろうか。
悟空に食べ物を与えることは多々あっても、こんなふうに貰うことはめったにないのだから。
しかし、三蔵の考えは甘かった。
三蔵が残っていたケーキを食べはじめようとすると…………悟空がじーっと見ている。
見ている。大きな金の瞳で。
ケーキのかけらをくっつけたフォークを自分の口許まで持っていった状態で三蔵は躊躇い、小さく溜息をついて、フォークを方向転換させて悟空に差し出した。
悟空は嬉しそうな顔でぱくりとそれを食べ、さらに、上目遣いでなおも三蔵を見る。
三蔵はもう一度溜息をついて、今度はケーキの皿ごと悟空の前へ押し出す。
「……食うか?」
「うん!」
結局、残りのケーキもぜんぶ悟空のものになった。
三蔵はせっせとケーキを食らう悟空を頬杖をついて眺めながら、三度目の溜息をついた。
予想できたはずだ。この程度のことは。
すっかりケーキを平らげて満足げな悟空に、三蔵はふとつぶやく。
「…………クリームついてるぞ」
「え、どこ?」
「ほら」
三蔵は何食わぬ顔で悟空の唇をぬぐって、その指を自分で舐めた。
それはクリームなんてどこにも付いていないのに、クリームよりも甘い。
――そのくらい、許されてもいい。
クリスマスなのだから。
「メリークリスマス!」
一日のバイトを終えて帰宅した大学生を迎えるには、少々派手すぎる演出だ。
驚愕から立ち直ると、留守にしていた部屋の中には、クラッカーを持った悟空の姿があった。
「……どうやって入った」
言いたいことはいろいろあるが、まずはっきりさせておくべきはその点だ。
「管理人さんに開けてもらった。ちょっと喋ってたら仲良くなったんだけど、すげー親切な人だな」
悟空の口からあっけらかんと明かされた内容を聞いて、三蔵は瞬間的に管理人に殺意を抱いた。
簡単に三蔵の部屋を開けた職務態度にも腹がたつが、それ以上に聞き逃せないのは、短時間で三蔵の部屋を開けてもいいと思うほどに悟空と仲良くなったという事実だ。
今後、注意する必要がある。と、三蔵は心の中の閻魔帳に管理人の名前を刻む。
「で、何の用だ?」
「三蔵とクリスマスしよーと思って。ケーキ買ってきた!」
可愛いことを言われ、三蔵はうっかり感動しそうになるが、見ればコンビニの二個入りショートケーキは一個と三分の一がすでになくなっていた。
「待ってるあいだお腹すいたから、ちょっと食べちゃったけど。あ、でも三蔵の分はほら、イチゴのとこちゃんと残してあるから!」
相手が悟空であることを考えれば、それでも上出来というところだろうか。
悟空に食べ物を与えることは多々あっても、こんなふうに貰うことはめったにないのだから。
しかし、三蔵の考えは甘かった。
三蔵が残っていたケーキを食べはじめようとすると…………悟空がじーっと見ている。
見ている。大きな金の瞳で。
ケーキのかけらをくっつけたフォークを自分の口許まで持っていった状態で三蔵は躊躇い、小さく溜息をついて、フォークを方向転換させて悟空に差し出した。
悟空は嬉しそうな顔でぱくりとそれを食べ、さらに、上目遣いでなおも三蔵を見る。
三蔵はもう一度溜息をついて、今度はケーキの皿ごと悟空の前へ押し出す。
「……食うか?」
「うん!」
結局、残りのケーキもぜんぶ悟空のものになった。
三蔵はせっせとケーキを食らう悟空を頬杖をついて眺めながら、三度目の溜息をついた。
予想できたはずだ。この程度のことは。
すっかりケーキを平らげて満足げな悟空に、三蔵はふとつぶやく。
「…………クリームついてるぞ」
「え、どこ?」
「ほら」
三蔵は何食わぬ顔で悟空の唇をぬぐって、その指を自分で舐めた。
それはクリームなんてどこにも付いていないのに、クリームよりも甘い。
――そのくらい、許されてもいい。
クリスマスなのだから。