寝入りばなを不快な騒音で叩き起こされた。
日付が変わったばかりの深夜、インターホンという文明も知らず扉を叩きつづけるのは明らかに酔っぱらいの仕業だ。
しかも訪問者は三蔵の名前を連呼する、ときている。
やむなく扉を開けると、いきなり大きな荷物を押し付けられた。
「……おい、」
何の真似だ、と三蔵の言葉を最後まで聞かず、悟浄という名のはた迷惑な訪問者は上機嫌で口上を述べた。
「さーんぞーさまおたんじょーびオメデトーこれは俺からのプレゼントでーす」
三蔵は『プレゼント』に視線を移す。
「可愛がってくれよな?」
それは、いわゆるメイド服を着た、悟空だった。
渡すものを渡したら満足したのか、悟浄はにししと笑いながら千鳥足で帰って行った。
残されたのは、三蔵と『プレゼント』だ。
「…………悟空」
「なーに?」
悟空はゴキゲンだ。こんな馬鹿げた格好をしているのだ、どのくらい飲んだかなんて確認する必要もないだろう。
これをどうしろというのだ。
何やらめまいがしてくるような三蔵の気も知らず、悟空は可愛らしく首をかしげた。
「どうしたの、ご主人様?」
三蔵は絶句する。
ああ、もう、本当に。
――どうにかしてしまいたい。
日付が変わったばかりの深夜、インターホンという文明も知らず扉を叩きつづけるのは明らかに酔っぱらいの仕業だ。
しかも訪問者は三蔵の名前を連呼する、ときている。
やむなく扉を開けると、いきなり大きな荷物を押し付けられた。
「……おい、」
何の真似だ、と三蔵の言葉を最後まで聞かず、悟浄という名のはた迷惑な訪問者は上機嫌で口上を述べた。
「さーんぞーさまおたんじょーびオメデトーこれは俺からのプレゼントでーす」
三蔵は『プレゼント』に視線を移す。
「可愛がってくれよな?」
それは、いわゆるメイド服を着た、悟空だった。
渡すものを渡したら満足したのか、悟浄はにししと笑いながら千鳥足で帰って行った。
残されたのは、三蔵と『プレゼント』だ。
「…………悟空」
「なーに?」
悟空はゴキゲンだ。こんな馬鹿げた格好をしているのだ、どのくらい飲んだかなんて確認する必要もないだろう。
これをどうしろというのだ。
何やらめまいがしてくるような三蔵の気も知らず、悟空は可愛らしく首をかしげた。
「どうしたの、ご主人様?」
三蔵は絶句する。
ああ、もう、本当に。
――どうにかしてしまいたい。
ラブ&ピース 【ニ】
「あれ?」
部屋に入ってきた悟空は、三蔵に声をかけもせず、室内を見回して首を捻る。
「あれ?」
そう何度も呟きながら、部屋の主である三蔵の許可も取らずひとしきり部屋を荒し回ると、絶望的な声を上げた。
「ない!」
そして三蔵を振り返る。
「チョコは!?」
「……俺は甘いもんは食わねぇ」
「知ってるよ! そうじゃなくて、バレンタインだろ! もらってねーの!?」
悟空の奇怪な行動は、一生懸命チョコレートを探し回っていたのだ。
三蔵はひとつ間を置いて、無情な答えを告げる。
「ない」
瞬間、悟空の顔がそれは悲愴なものに変わる。まるで、この世の絶望をすべて背負ったかのように。
――まったく、大げさだ。
だが呆れる三蔵など目もくれず、悟空はおのが身の不幸を滔々と演説しはじめた。
「俺のゴディバ! モロゾフ! ロイズ! 全部食べるために今日はおやつだって一口も食べなかったのに!」
悟空が大食漢だと知っているだけに、その涙ぐましい努力にうっかり同情を誘われそうになるが、悟空のことだ、おやつを食べない代わりに食事をいつもの倍食べたにちがいない。
そう指摘すると、やはり図星だったのか悟空は綺麗に聞き流し、逆に三蔵に迫った。
「責任取れ!」
いったい三蔵に何の責任があるというのか。
眉を寄せただけで、悟空は三蔵の意思を読み取ったらしい。
「俺の一年に一度の楽しみを奪った!」
「お前を楽しませる義務はねえ」
三蔵は無情に言い放つ。
そう、悟空を楽しませるなんてまっぴらだ――下心たっぷりのチョコレートの仲介なんかさせられて。
三蔵の元に届くチョコレートの中には、明らかに悟空が食べることを意識したものがあった。
それに気付いた時、三蔵は手元のチョコレートをすべて破棄する決意を固め、すぐに実行したのだ。
狭量と言われようが、横からひょいとかっ攫われては堪らない。
「三蔵のオニ! アクマ!」
悟空が悪口を並べ立てるのを聞きながら、さてどうやって黙らせるべきかと三蔵は思案した。
部屋に入ってきた悟空は、三蔵に声をかけもせず、室内を見回して首を捻る。
「あれ?」
そう何度も呟きながら、部屋の主である三蔵の許可も取らずひとしきり部屋を荒し回ると、絶望的な声を上げた。
「ない!」
そして三蔵を振り返る。
「チョコは!?」
「……俺は甘いもんは食わねぇ」
「知ってるよ! そうじゃなくて、バレンタインだろ! もらってねーの!?」
悟空の奇怪な行動は、一生懸命チョコレートを探し回っていたのだ。
三蔵はひとつ間を置いて、無情な答えを告げる。
「ない」
瞬間、悟空の顔がそれは悲愴なものに変わる。まるで、この世の絶望をすべて背負ったかのように。
――まったく、大げさだ。
だが呆れる三蔵など目もくれず、悟空はおのが身の不幸を滔々と演説しはじめた。
「俺のゴディバ! モロゾフ! ロイズ! 全部食べるために今日はおやつだって一口も食べなかったのに!」
悟空が大食漢だと知っているだけに、その涙ぐましい努力にうっかり同情を誘われそうになるが、悟空のことだ、おやつを食べない代わりに食事をいつもの倍食べたにちがいない。
そう指摘すると、やはり図星だったのか悟空は綺麗に聞き流し、逆に三蔵に迫った。
「責任取れ!」
いったい三蔵に何の責任があるというのか。
眉を寄せただけで、悟空は三蔵の意思を読み取ったらしい。
「俺の一年に一度の楽しみを奪った!」
「お前を楽しませる義務はねえ」
三蔵は無情に言い放つ。
そう、悟空を楽しませるなんてまっぴらだ――下心たっぷりのチョコレートの仲介なんかさせられて。
三蔵の元に届くチョコレートの中には、明らかに悟空が食べることを意識したものがあった。
それに気付いた時、三蔵は手元のチョコレートをすべて破棄する決意を固め、すぐに実行したのだ。
狭量と言われようが、横からひょいとかっ攫われては堪らない。
「三蔵のオニ! アクマ!」
悟空が悪口を並べ立てるのを聞きながら、さてどうやって黙らせるべきかと三蔵は思案した。