DailyLife
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「三蔵、勝負しよう!」
ずい、とまるでどこぞの印籠でもかざすようなポーズを決めて、悟空はトランプ片手に唐突な勝負を申し込んだ。
……要するに、暇らしい。
「俺が勝ったら、三蔵は一週間皿洗いな!」
「――なら、俺が勝ったらお前は一日裸エプロン」
平坦な口調で言われた言葉に悟空が固まっている間にも、三蔵はその手からカードを奪って早速配り始める。
「ちょ……ちょっと待って、三蔵っ」
慌てる悟空に、三蔵の答えは短い。
「誘ったのはお前だ」
互いにカードは5枚ずつ。残りのカードは二人の間に。
勝負はポーカーと決まっている。
「――も、もう一回!」
もう何度目の台詞だろうか。
二人の間には、エースのワンペアとキングのスリーカード。
「構わねぇが……」
三蔵は、悔しげににらみつけてくる悟空を見ながら飄々と。
「何度やっても同じだと思うがな」
その言葉通り、三蔵は連戦連勝、負け無しだ。
いつもなら、互角――とまではいかなくとも、それなりに悟空にも分がある。こんなふうに一方的な勝負にはならない。
いつもは、三蔵が手加減していたのか。
今日に限って、確実に勝ちをさらい、悟空が付け入る隙を微塵も与えないのは、そうとしか考えられない。
よほど皿洗いが嫌なのか――――よほど裸エプロンに思い入れがあるのか。
悟空はカードで口許を隠しながら、尋ねてみる。
「三蔵…………そんなに、裸エプロン見たいの?」
「そんなに、見たい」
三蔵はてらいもなく答えた。
ここは、照れるべきなのか、怒るべきなのか、悟空はよくわからなくなる。
うめく悟空に、三蔵は小さく笑って、「なら、」と持ちかけた。
「次の勝負、お前が勝ったら、賭けはチャラでいい。だけど俺が勝ったら、期間は一週間だ」
とても魅力的な提案だった。この一度だけ勝てば、これまでの勝負も賭けもチャラ。
けれどリスクがあり過ぎる。一日が一週間。この差は大きい。しかも今日は、悟空は三蔵にまだ一度も勝てていないのだ。
「どうする?」
提案を蹴れば悟空の裸エプロンは確定だ。それならば――たとえ百分の一の確率でも、可能性に賭けてみたい。
「チェンジ」
悟空はカードを交換することで、答えに代える。
かくして勝負は――――、
「…………三蔵、イカサマしてない?」
悟空は疑いの眼差しで三蔵を見る。半分は負け惜しみだが、半分は本気だ。
二人の間には、7のフォーカードと、それからロイヤルストレートフラッシュ。
――あまりにも出来過ぎている。
「ほんっっっとーに、イカサマしてない?」
「さあな」
三蔵は否定せず、その笑みで悟空を黙らせてしまった。
【エプロン】