DailyLife
08
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「さーんぞ、いつまで寝てんのさ」
夢と現実の狭間に、甘くやわらかな声がすべりこんでくる。
まどろみとその声はあまりに心地よく離しがたく、もうしばらく浸っていたくて、三蔵は気づかないふりをする。
すると声の主は小さく甘い息をついた。
やわらかく髪をすいていく手は優しく、いたわるような空気が三蔵を包み込む。
そして額に落とされるキス。
くすり、と小さく笑う声がした。きっと悟空はいま、三蔵しか知らない顔で微笑んでいる。
――その顔を見たい。けれど目を開けたら消えてしまいそうで、三蔵は逡巡する。
ためらっているあいだに、空気が動いた。
何かが降ってくる。三蔵の顔や腕に、時折羽のように触れていく。
それは緑の薫りがした。
「――おはよう。起きた?」
目を開け、まず視界に入ってきたのは、花。そして、悟空。
悟空が腕に花を抱きかかえていた。
さらに、その花は、三蔵が眠っていたベッドにも散らばっている。
「そうやってると、眠れる森の美女みたいだよ」
「誰がだ」
「だから三蔵」
反論をまともに受け止められ、大真面目に悟空が答えるものだから、三蔵はいっそ苦笑するしかない。
「なら、それらしい起こし方があるだろう」
どうせなら、と三蔵は便乗する。
「もう起きてるくせに」
悟空は笑いながらも、屈んで三蔵にキスをした。
「――で、それは?」
「もらった」
悟空は三蔵にとって聞き捨てならない台詞を実にあっさりと言った。
「何だと?」
「三蔵?」
何が問題かは認識していないが、さすがに悟空は三蔵が不機嫌になったことには気がついたようだ。きょとんとして無防備に三蔵を見つめる。
「捨てろ」
言うが早いか、悟空の持つ花を奪いにかかる三蔵を、悟空は慌てて制した。
「え? ……ちょっと待てって、何か勘違いしてるだろ! これくれたのは子供だって」
――全然勘違いなんかじゃなかった。
子供でも何でも、よりによって三蔵の目の届かないところで悟空の気をひこうとするなど、言語道断だ。
「子供でも、駄目だ」
悟空は絶句した。
唖然とした顔は、しかしやがて、小さな笑みでほころぶ。……しょうがないなぁ、と。
三蔵の我が儘に少しだけあきれながらも、きいて甘やかしてくれる顔。
「……そんな心配しなくたって、俺は三蔵だけだよ」
そうして、なだめるようにまたキスをくれるから、三蔵は三蔵の熱情を悟空に思い知らせるため、そのキスを深くした。
【花】