07/02/22
DailyLife
07



 冬の日差しに包まれながら微睡んでいた悟空の意識をすくい上げたのは、くすぐったい感触だ。
 けっして不快ではないが、無視できない。
 こんないたずらをするのは、眠る直前まで一緒に遊んでいた猫だろう。
「……もー、くすぐったいだろー」
 しかし、寝惚け眼の悟空が見つけたのは猫ではなくて。
 ――悟空の首筋を舐めている、三蔵。
「……っ! な! 何してんだよ三蔵っ!」
 一気に目が覚めた。
 そこを、狙ったかのように、三蔵が耳朶に噛みつく。
「……アッ……」
 思わず上がった声に三蔵は小さく笑い、悟空の首にうずめていた顔を上げた。
「誰と間違えやがった?」
 表情に怒りはない。三蔵は悟空の答えを知っているにちがいない。
 けれど、紫暗の瞳の奥には、物騒な光があった。
「だって……」
 一緒に寝ていたのだ。だから、相手は猫だと思うに決まってる。
 三蔵が帰ってきたことも、目が覚めるまで知らなかったのだし。
「――きちんと教え直す必要があるな」
 笑みをちらつかせて三蔵が降らせたキスは、最初から深い。
 悟空はたちまち翻弄され、溺れていってしまう。
 ――と。

 にゃあ

 悟空でも三蔵でもない声が、行為を中断させた。
「わ!」
 猫だ。二人の気配で起きてきたらしい。
 三蔵はちらと猫を見ただけで、再び悟空にキスを落とした。
 そのまま先を続けようとするので、悟空は慌てて押し止めようとする。
「さんぞ…っ、猫!」
 三蔵と悟空が遊んでいるように見えるのか、猫は混ぜてくれと言うように二人の周りをうろちょろしながら様子を窺っている。その、くるりとした青い目。
「それがどうした」
「だって、見てるじゃん!」
 一瞬、三蔵は目をまるくした。
 ……何を言うかと思えば、というのが素直な感想だ。
「猫だろうが」
「猫でも!」
 よく観察すれば、悟空の耳は相当赤い。
 猫に見られたくらいで。――まだ、たいしたことをやっていないのに。
 三蔵はおかしくてしかたない。
「――いつもより燃えるかもしれねぇぞ」
「三蔵!」
 悟空が本気で抗議すると、三蔵は苦笑しつつもようやく応じた。
「わかった。ちょっと待て」
 三蔵は、猫を抱え上げると、ぽいと投げ捨てるように部屋の外へ出した。
 カリカリとしばらく外から扉を引っ掻いていた猫も、部屋の中に甘い声が満ちる頃には、あきらめてどこかへ行ってしまった。

「――ところで、この猫どうしたんだ?」
 ようやくまた部屋に入れてもらえた猫は、嬉しそうに悟空にじゃれついている。
「ナタクが旅行中あずかってくれって」
 少しおもしろくない三蔵は、悟空の膝から猫を取り上げて、自分の膝に乗せた。
「いつ戻るんだ?」
 猫は相手は誰でもいいのか、今度は三蔵にまとわりつく。
「…………」
 三蔵が手を差し出してかまってやると、猫はいっそうじゃれついてきた。
「――悟空?」
 返事がないので三蔵が顔を上げると、悟空は憮然とした顔をしていた。
「……あさって」
 質問には答えたが、やはり憮然としている。
「どうした?」
「――俺が遊んでたのに。ズルイ。猫ばっかかまって俺のこと忘れてるし」
 悟空は三蔵の膝から猫を取り返して、さらに、代わりにそこに自分が収まった。
 ……どうやら仕返しのつもりらしいのだが。
 三蔵にしてみれば、猫に妬かれて嬉しい上に、仕返しの行動は望むところで。
 膝の上で猫と遊ぶ悟空の耳元で、三蔵は意味深な声音でささやいた。
「――寝室には入れるなよ」


【猫】


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