06/01/01〜06/01/03
DailyLife
03



「かわいーなージープ。俺もペット欲しいなー」
 八戒宅に遊びにきた悟空は、ペットのジープを膝に乗せてご機嫌だ。可愛さ2乗で、八戒も至極満足する。
「三蔵におねだりしてみたらどうですか?」
 甘やかしたい欲求を溢れさせている三蔵のことだ、悟空が頼みごとをすればそれは喜ぶだろうし、何だって叶えてくれるだろう。たとえゴジラだって、悟空が欲しがれば生け捕りにするに違いない。
 八戒はそう思ったのだが、悟浄はまた違う意見らしい。
「いやーダメだろ。オマエんちじゃペットは飼えねーって」
「何でだよ?」
「世話できねーだろお前は」
「するよちゃんと!」
 悟空は言い返すが、悟浄は相手にしない。
「無理無理。だってお前、あーんな手のかかる旦那抱えてそんな余裕あんのか? それに第一、お前の嫉妬深い旦那様が、お前がかいがいしくペットの世話焼いてんの黙って見てると思うワケ?」
 思わず考え込んだ悟空の代わりに、八戒が答えた。
「……確かに三蔵が、ペットといえども悟空を取り合う存在を許すとは思えませんねぇ」
 しみじみと頷く。独占欲の強い旦那様を持つと大変だ。
 右からも左からもそんなふうに言われ、しかも思い当たる節がなきにしもあらずだから、悟空は少し頬を染めておとなしく聞いているしかない。
「ま、三蔵一人で我慢しておけよ。寂しいならベッドでたっぷり可愛がってもらえ、な?」
 下世話なことを言う悟浄は、ひとまず頭をはたいておくとして。
「悟浄の馬鹿は放っておいて、いつでも好きなときに来てジープと遊んであげてくださいね、悟空」
 八戒はにっこりと笑って言う。……ただ心配事は、ジープが三蔵に八つ当たりされることにならなければいいのだが。


【ペット(ジープ)】




「すげー可愛いっ!」
 満面に喜色をたたえ、三蔵の視線の先で悟空が歓声を上げた。
 家の近くの大きな公園は、犬を散歩させたり遊ばせたりする人が多い。晴れた日に行くと、誰かしら犬連れの人と遭遇する。
 悟空はそんな一人に、犬と遊ばせてもらっていた。
 服に芝生をくっつけてハスキー犬と戯れる悟空を、三蔵はそばのベンチに腰かけて眺めている。
 確かに可愛い。見ていて飽きない。
 ひとしきり遊んで、悟空は犬と別れ戻ってくると、今度はその犬の可愛さを一生懸命三蔵に教えてくれる。
 最後のせりふは、ため息とともに。
「いいなー持って帰りたいなぁ」
 そしてふと、何かを思いついたように、悟空は身体ごと三蔵に向き直った。上目遣いで見上げる。
「三蔵は欲しくない? 可愛くない?」
「――お前の方が可愛い」
 三蔵は顔色ひとつ変えず、さらりと言った。
 真っ赤になったのは悟空だ。
「か…、かわいいとか言うな!」
 新婚さんの例にもれず、生クリームのように甘い生活を送っているとはいえ、こんなふうに思いも寄らぬ場面で甘い言葉を告げられると、悟空は動揺してしまう。
 さらに追い打ちをかけるように、悟空だけに聞き取れる声で、三蔵はささやいた。
「持って帰りたい」
 同じせりふなのに、三蔵が言うと、なぜこんなに艶めかしいのか――悟空はくらくらしながら、「バカ」とつぶやいた。


【ペット(いぬ)】




 仔犬が欲しいと言ったら、三蔵は可愛い仔犬のぬいぐるみを買ってきてくれた。
 おかえりのちゅーのあいだも、悟空は気になってしかたなかった。三蔵の背中に隠れきれない大きな包み。
 ほら、と渡されて出てきたのは、さらさらの黄金色の毛並みが上品な、ゴールデンレトリーバー。
「どうしたの、これ?」
「欲しいと言っただろう?」
 本物の仔犬じゃなくて、仔犬のぬいぐるみ。ゴールデンレトリーバーのぬいぐるみ。
 ……三蔵と、ぬいぐるみ。
 いったいどんな顔をして選んでくれたんだろう、と想像すると、ほほえましい。
 思わず三蔵をまじまじと見ると、少し心配そうな表情が浮かぶ。
「気に入らないか?」
「まさか!」
 とんでもない。三蔵が、選んでくれた、ぬいぐるみだ。
 ぬいぐるみなんておよそ縁のない三蔵が、悟空のためにきっと真剣に選んでくれた、世界でたったひとつのぬいぐるみなのだ!
 これは、もう、絶対に手放せない。
 新しい家族に、ようこそと歓迎のあいさつを込めてうちゅっと悟空がキスをしたら、何だかじーっと自分を見つめる視線を感じた。
「もしかして妬いてるの?」
 笑って問えば、答えは憮然と。
「妬いてねえ」
 けど、と三蔵が付け足す。
「キスは俺の方がうまい」
 そんなことを堂々と言うから、悟空は笑ってしまって、しょうがないからもう一人の家族にもキスをした。
 そんなまわりくどい言い方をしないで、妬いてるって素直に言えばいいのに。


【ペット(ぬいぐるみ)】


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