大典によると、若冲は中国画の模写に専念、その数は千点にも及んだということです。
「白鶴図」の場合
明代画家、文正による「鳴鶴図」を模写。この作品は、千点のうちの一点なのでしょうね。「鳴鶴図」は、狩野探幽も模写を行っています。

■左:文正筆「鳴鶴図」(相国寺蔵) ■右:若冲筆「白鶴図」 波の具合が、若冲の本領発揮。くるくるうねうね。
「虎図」の場合
「猛虎図」を模写。この作品は、李龍眠筆と伝えられています。
若冲は、中国画の模写から実物の写生へと移行していきます。が、実際に見ることができない虎は、どうにもなりませんでした。「虎は日本にいないので、中国画を写すのだ」(我れ物象を画くに、真に非ざれば図せず。国に猛虎なければ、毛益
* に倣いて模す)と、「虎図」の中に自ら記しています。そんなこんなで生まれたのが、下記の虎たちです。
*「毛益」作としているが、実際は李龍眠筆

■左:李龍眠筆「猛虎図」 京都の正伝寺に伝わる。 ■中:若冲筆「虎図」 原画に忠実だけど、独特の風味は隠しきれず。原画より可愛く飄々としつつ、脚をなめています。 ■右:同じく若冲筆「竹虎図」 背景を少々アレンジ。虎の毛流れが、何となくロン毛に見える一品。
「釈迦三尊像」の場合
中国の仏画師、張思恭による作品を写したもの。若冲は「かつてこの三尊体を観て感動し、その心要を模倣し、三尊三幅を完成した」と、述べています。
現在、張思恭の三尊像は、一幅はアメリカ、残るニ福は静嘉堂文庫美術館に収蔵されているそうです。悲しいことに離れ離れ。

■図版は、若冲筆「釈迦像」
「老松孔雀図」の場合
動植綵絵「老松孔雀図」と、図柄が重なる作品があります。その作品とは、岡岷山
*1 の「牡丹孔雀図」。試しに両作品を並べてみました。左が若冲、右が岷山です。

これら2図の間には、共通の題材が存在すると考えられています。同じ作品に、若冲と岷山が別個に接し、倣った結果が「老松孔雀図」と「牡丹孔雀図」なのではないかという。その題材 *2 が何であるかは、今のところ明らかになっていないようです。 *1(1734〜1806) 名は煥。字は君章。通称利源太。広島藩の藩士で、江戸へ出て宋紫石に入門か(?) *2南蘋派の作品と推測されています
若冲は、自らが模写するのみではありませんでした。様々な形で、模写されてもいたのでした。
酒井抱一
江戸の琳派画家、酒井抱一(1761-1828)は、「絵手鑑」のうち十一図で画帖「玄圃瑤華」の模写を行っています。
着色画が抱一です。若冲の十八番、ぐるぐるんとしたつるや虫食いの葉は何処へ。また、抱一の描く生物は、なめらかで普通っぽい感じがします。若冲は大豆、抱一は葛と、植物が変わってる箇所もありますね。抱一には、この作品をカバーした動機を聞いてみたいです。ぜひ。

■玄圃瑤華:左から、向日葵(ヒマワリ)、未草(ヒツジグサ)、大豆(ダイズ)、玉蜀黍(トウモロコシ)、南瓜(カボチャ)

■絵手鑑:左から、向日葵に百足、蓮池に蛙、葛に蜥蜴、玉蜀黍に甲虫 静嘉堂文庫美術館 > 所蔵品紹介に、画像と作品解説があります。
中島華鳳
明治、大正の画家(1866-1925〜)。「若冲画模本」なる作品を残しています。「伏見人形図」を模した「伏見人形布袋図」は、若冲の作品に比べて色がぼってりついてる感じ。似せた印章を使用してる所が、遊び心(?)があって面白いです。この方は模本制作がお好きだったようで、長澤蘆雪版もあるそうです。
川島織物
「動植綵絵」を、原寸大の綴織で再現。30枚のうち15枚は、1904年に開催されたセントルイス博覧会で公開されました。なんでも、「若冲の間」があったとか。とても華やかそうな部屋であります。
山下清
「放浪の画家」と呼ばれる山下清(1922-1971)。彼は「群鶏図」を陶器の絵付け、貼り絵で模しています。貼り絵、陶器共に鶏の配置、重なり具合を忠実に再現。一方、羽の表現などには、山下清の色がいい意味で出ているように思います。ところで、山下清は「群鶏図」のどの辺りに惹かれたのでしょうか。細密に描き込まれた羽の模様や、鮮やかな色彩かな。
追記:「群鶏図」は山下自ら選んだのではなく、八幡学園の園長が与えた図版がたまたまその作品であったとのこと。(「平凡社ギャラリー11 若冲」より。「八幡学園」とは、入園していた千葉県の養護施設)

■動植綵絵「群鶏図」
摸写とは違う方々ですが、こちらで紹介を。
内山昭太郎
若冲の作品を元にした映像作品「若冲幻想」を制作しています。
天明屋尚
「動植綵絵」に触発され、ネオ動植綵絵シリーズを制作。全10幅。作品はこちらで。(TENMYOUYA HISASHI HOME PAGEより)
平松礼二
「モネの池に若冲の鳥が」という作品があります。睡蓮と花びらで埋まる池の上を、動植綵絵「秋塘群雀図」から抜け出たような鳥が2羽飛んでいます。
森村泰昌
「果蔬涅槃図」を元にした作品があります。