2004年10月

江戸の版画芸術展 −黄檗美術と江戸の版画−
10/02-11/23 町田市立国際版画美術館

▼2部構成。第1部「黄檗美術と詩箋」では、黄檗寺院の所蔵品を展示。異国情緒漂いつつ少々濃密な絵画が並びます。中国からやって来た「詩箋」の展示もあり。詩箋とは絵入り便箋のこと。絵の部分は版画で、淡い色彩の花鳥図が多いです。こちらは、黄檗宗関連+浮世絵のルーツという位置付けのよう。
あとは、黄檗宗と言えば若冲(?)ということで、「出山釈迦像(〜10/17)」、「乗興舟」、「玄圃瑶華」、「素絢帖」、平木浮世絵美術館蔵「薔薇に鸚哥図(〜10/27)」「櫟に鸚哥図(同)」「鸚鵡図(同)」が紹介されていました。衣服の皺が朱色の層、色鮮やかな「出山釈迦像」を除き、すべて版画です。「乗興舟」は2巻出展。1巻は千葉市美術館蔵で、もう1巻は所蔵先記載なし。千葉市美術館の方が状態が良いです。記載なしの方は、版木と並べての展示。同じ場面が出ており、見比べられます。この辺り、版画美術館ならではという感じ。流石です。「素絢帖」が隠元豆の頁だったのも流石。その他、若冲への影響や関連性が指摘される鶴亭、河村若芝の作品も見られます。

▼第2部「江戸時代の浮世絵」は、北斎、国芳、芳年他の展示。詩箋よりもたらされた版画技術が、日本ではあーなってこーなって江戸末期にはこんな感じになりました。てことなのでしょうか。起承転結から承と転を取った形というか、あまりにも唐突。1部と2部って別物でしょう。(10/16)


[常設展]町田市立国際版画美術館

▼版画いろいろ第3期 9月25日〜12月23日
1年間を4期に分けて入れ替えするそう。常設展示室は入場無料。

▼フローラの神殿 もっとも美しい植物図鑑
R.J.ソートン編「フローラの神殿 リンネの雌雄蕊分類法新解説図集」より展示。“もっとも美しい”という枕詞に違和感無し。
植物の姿は微細にわたり描かれ、表現されています。そして、細密さの向こうには嘗めるような視線が。気のせいか。したたる雫、ハチドリに絡み付くかのような触手、落下する花弁、どことなく歪んだクローズアップ。それらにも嘗めるような視線が…。美しさに覆い被さる妖しさ、そして象徴。
図版の背後には、これまた細密な情景が広がっています。背景画には、植物に呼応する物語が込められているそう。この辺りが神殿の鍵のひとつか。と、適当なことを書いて終わらせるのでした。(10/16)




特別公開 永青文庫の国宝
09/14-11/21 永青文庫

▼「時雨螺鈿鞍」目当てに訪問。で、見た印象は、とにかく細かい。鞍の前後には、細い線で表された松や葛が絡まり合っています。さらに葦手が隠れてる。葦手なだけに植物と同化しています。見えにくい部分にも文様が散らしてあったり。そうですね。500分の1口出資中の愛馬に装着したい。1勝馬や未勝利馬しかいませんけど。嘘です。

▼この展覧会における自分勝手なテーマは、文様。「金銀錯狩猟文鏡」「金彩鳥獣雲文銅盤」に見られる虎と騎馬人物の戦いやら、のたうつ渦巻やらが気になってしょうがない。「金銀錯禽獣雲気文管金具」には、猿、鹿、猪(?)、孔雀(?)など、沢山の動物が散りばめられてたり。文様が岩山のような役割をしており、動物がちょこんと乗っているのが御愛嬌。

▼国宝、重文、重要美術品が惜しみなく出ているのは良いのですが、菱田春草の「落葉」が右隻のみというのはどうかと思います。ぶつ切りだー空間広がらないなー。(10/16)




日本の美「琳派」展 2004
10/05-10/17 日本橋三越

▼光悦・宗達と来て、光琳、抱一、其一へ至るまで展示。加えて、他作家の出品も多く、「琳派」を概観するに充分な展覧会となっていました。宗達の新出・「雷神図屏風」の初公開もあり。

▼その「雷神図屏風」は、雷神の口がデカイ。耳の辺りまで口。ちょっと間抜けで愛らしかったです。その他気になったのは、其一筆「草花図屏風」。下部に千代紙が貼られた謎の意匠。目的は何処に。絵はとりあえずスタンダードですが、芥子には其一風味が表出。阿片と呼びたい仕上がりでした。

▼思っていたより、ずっと濃口でした。あまり見ない作品があったり、陽明文庫の抱一画を久しぶりに見れたり。デパートを甘く見てはいかんという一例でした。


図録
というと、手提げ付きビニール袋に入っているのが常。ところが、これはひと味違いました。出品作・光琳筆「馬上布袋図」をあしらった風呂敷にくるまれていたのです。包み方の妙で、きちんと丸い手提げも出来ている。その姿に心奪われ、風呂敷に目が眩み、思わず購入。(あと、初公開・宗達筆「雷神図屏風」の図版を押さえたかったとか、諸々の理由もあり)購買意欲そそられまくりです。今後、風呂敷仕様の増加希望。
表紙も少々変わっています。見返しの折り方が逆といいましょうか、パタパタとめくれるようになっています。そのたび、図柄もパタパタ変化するという。
内容は、オールカラーの図版、作品・作家解説、関連年表、目録。それから、「琳派伝説逍遥〜謎の画家と幻の系譜〜」「三越と琳派の浅からぬ縁〜百貨店と美術展〜」(どちらも安村敏信)が収録されています。前者は、「琳派」という画系は有りなのか、宗達〜光琳〜抱一に至る系譜ってどうよ、画業を丸々継承しているのか?継承のみに留まっているのか?果たして。という事項を出発点にし、展開がなされていきます。すみません、乱暴に略してしまいました。ていうか、破壊してたり。

山口晃原画展示:同会場の山口晃原画展示を見に行ったら、御本人が来ていてトークショー&サイン会を行っていました。装飾過多の天女像を背に、司会のお姉さんと2ショット。シュールな図でした。「同居人に色塗りを手伝ってもらった」とか「趣味は落書き」とか「温泉宿(だったかな)で上げ膳据え膳で襖絵を描きたい」とか話してました。原画は三越関連。線の感じとか、印象が違う。印刷は、線が太っちゃってます。(10/17)




歸空庵コレクション 日本洋風画史展
08/21-10/24 板橋区立美術館

▼2度目の訪問。骨組みやら雰囲気やらは、前回より引き継いでおりました。

▼前回、今回と見た中で、気になった事柄や作品など。
宋紫石「岩に牡丹図」、小田野直武「岩に牡丹図」、佐竹曙山「紅紫牡丹図」に見られる流れ。伝播する牡丹。洋犬も伝播しており、長谷川等意「狗鷹図」、「洋犬図」、「洋犬人物図」には瓜二つな細身犬が鎮座。計3頭。
特異な題材で抜け出たのは、石川孟高「天使図」。天使が絹本著色。天使が東洋系の目鼻立ち。かみ合わなさが、特異さに花を添えます。
亜欧堂田善「山水人物図」の奇岩や、「滝山水図」の奇スプラッシュ。安田雷洲「捕鯨図」のこれまた奇山と、不気味に幼稚な太陽と鯨。大沢南谷「水辺人物図」の現代の絵本に通ずるような画風と世界観。これらの作品にも心奪われ。あと、洋風画における波の表現って、結構独特だと思う今日この頃です。賛がオランダ語だったりするのも、独特というか念が入ってるなと。(10/23)

図録
表紙図版からして反転。なんと。
中身も、一部作品しかカラーで見れないし、図版の寂しさを資料等で埋めてくれるわけでもない。でも、購入してしまいました。面白い作家や作品が収録されてるなと思って。




明治の世相 〜浮世絵と写真でたどるニッポン〜
09/11-10/24 たばこと塩の博物館

▼タイトル通りの展示。世相を辿りつつ、月岡芳年、小林清親と井上安治が見られたりします。ビゴーの風刺画、日露戦争をパロったフランス製絵はがきに苦笑いしてみたり。

▼オリジナルネタと言えそうなのが、たばこ関連の展示。ポスター、パッケージ、封入されていたカード。どれも、今見ると新鮮でキッチュなデザイン。「村井兄弟」製が、特に気に入りました。

▼他館コレクションを含みつつの展示。159点の出品に、しっかりした作りのガイドブックが付いて100円。相変わらずお得感溢れています。今後もこの路線を希望。(10/23)


[常設展]たばこと塩の博物館

▼立体的な展示が特徴。手を変え品を変えた展示方法、映像・模型などで鑑賞者の関心を惹き、飽きずに楽しませようと試みています。多分。テーマは、「たばこの来た道」「日本のたばこ」「日本の塩・世界の塩」。たばこの起源や歴史、喫煙具、塩資源や製塩の歴史他を一巡。

▼好みは、たばこパッケージの展示。明治の民営期における「ハイカラの村井」と「天狗の岩谷」の対比、専売後の杉浦非水デザインなど。パッケージの一部は絵はがき化されており、ショップで手に入れることが出来ます。
昭和以降のパッケージでは、「記念たばこ」が興味深い。オリンピック・国体・博覧会開催、東海道新幹線開通と、事あるごとに発行していた様子。美術系たばこもあり、当時の展覧会開催状況が窺えます。展示品では、つくば博が最近のものになるようですが、現在は出していないのでしょうか。
記念たばこ《博覧会と展覧会》
ミロのビーナス特別公開 昭和39 1964 4月 メソポタミア展 昭和42 1967 4月 日本万国博覧会 昭和45 1970 3月 日本万国博覧会 - 第一次会場風景(3個1組) 昭和45 1970 3月 日本万国博覧会 - 第二次世界地図(3個1組) 昭和45 1970 5月 メトロポリタン美術館展(東京) - ゴーギャン「タヒチの女たち」(1899頃) 昭和47 1972 8月 ゴヤ展(京都) 昭和47 1972 1月 東京国立近代美術館開館20年記念 - 安井曾太郎「金蓉」(昭和9) 昭和47 1972 9月 創立100年記念東京国立博物館所蔵名品展 「普賢菩薩像」(平安) 昭和48 1973 1月 松方コレクション展 - ロダン「考える人」(1880) 昭和48 1973 10月 セザンヌ展 - 「自画像(デッサン)」(1882-83) 昭和49 1974 5月 沖縄国際海洋博覧会(3個1組) 昭和50 1975 7月 日本国宝展 - 康弁「竜灯鬼立像」 昭和51 1976 5月 全米美術館収集世界名作展(東京) - レンブラント「フローラ」(メトロポリタン美術館) 昭和51 1976 9月 山梨県立美術館開館 - ミレー「夕暮れに羊を連れ帰る羊使い」 昭和53 1978 11月 科学万博つくば'85(3個1組) 昭和60 1985 3月

▼「企画展示 明治民営期のたばこ広告資料」:看板、盃、手ぬぐい、引札、パッケージの展示。「土人印看板」が、どうしても目に飛び込みます。紙巻煙草土人印 / 貮十本入 / 金五銭 / 原田製。今なら製品化困難。というより、企画にものぼらないことでしょう。

▼こちらへは以前、見学会で訪れたことがあります。その時はみやげに岩塩をもらいました。塩関係の展示では、1.2tのポーランド産塩がド迫力です。塊。(10/23)




中国国宝展
09/28-11/28 東京国立博物館

▼2部構成。I「考古学の新発見」は、楚の発掘品が出色。「羽人」は、物の怪?、鳥、羽人の三段重ね。「鳥形脚豆」と「豆」では、龍、蛇、鳥が絡み合って立体図像と化し、蛇を掴んだ鳥の上に器がのっている。「酒具盒」の豚さん?は、今でも通用するデザインで愛らしさも装備。これらの奇異で面白な造形が、国の滅亡と共に失われてしまったのは残念です。他にも、モティーフてんこもり系や、屋根瓦みたいな武具、バリエーション豊かな俑など、見所多々。

▼II「仏教美術」は、仏像が沢山見られます。個人的には、山東省の仏像群に心奪われました。柔和な表情と、全体を覆う優美なラインが実に魅力的。色が残ってる仏像もあったり。他には、普通に座ってる青銅製仏像とか。少々異形。
仏舎利部門は、「描金堆漆舎利箱」に尽きます。繊細な彫りに捉えられました。なかなか離してくれません。中央の絵画は大分薄くなっていますが、角度を変えると見えないこともない。こちらも素晴らしそうな雰囲気。

▼東博のパスポートで特別展見られるし。入ってみるか。と、軽い気持で見始めたのですが、充実した展示で予想外に楽しめました。(10/23)

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巡回:2005/01/18-03/27 国立国際美術館




開館20周年記念 田園の夢
10/16-11/23 福島県立美術館

▼「室町時代から近現代にいたる日本画75点によって、田園のイメージの諸相を明らかにします」という展示。耕作図・風俗図として描かれた田園が、理想郷や郷愁の対象となっていくのが興味深い。あとは単純に懐かしかったり。「田園の夢」って子供の頃の夢ですね。周りに田畑があったので。牛はいなかったですけど。
田園のめぐみということで、蔬菜図の展示もあり。作者の個性が結構出てます。

▼全国の美術館博物館、寺、個人など、様々な方面から、テーマに沿った作品を集めています。集めっぷり、かなり良し。そこに、自前のコレクションを加えた展示。多彩な顔ぶれだし、個人的には作品の質も高いと思います。久隅守景・英一蝶・呉春らによる耕作図、北斎による異彩を放つ図像、小川芋銭・森田恒友の浮遊感漂う風景、速水御舟の細密描写、千種掃雲の木洩れ日などが見られます。始興、雪村、探幽、若冲もあるです。(10/24)


[常設展]福島県立美術館
10/16-11/23 福島県立美術館

▼近代以降の日本・西洋美術が中心。郷土作家の作品も含まれてます。

▼2004年度第III期 10月5日〜11月16日
似通った雰囲気の作品が並んでいました。妖艶部門は、根上富治「笛」と勝田蕉琴「出城釈迦図」。目付きが…。城を出る方はオリエンタル風味が濃いです。白馬もいる。山本丘人「月夜の噴煙」、太田正弘「北壁」、横山操「黒い工場」の並びにも関連あり。「黒い工場」の迫る感覚、握力の強さに引き寄せられ、立ち止まってみたり。
関根正二は6点展示。ミニ特集といってもよいかも。「死を思う日」は、うなだれ歩く人と鉛色の空と陰鬱な木々と野原と。どこをどう辿ってもタイトルへ帰着してゆく。
田中淳子「WORK 1968」は、円形の作品。可動式で、回っている状態が本来の姿らしい。しかし、現在は古さのため動かせないよう。しかし、動くと聞いたら見たくなるのが人の常。

▼生誕120年・油井夫山特別展示 10月5日〜12月26日
福島市に生まれ、福島市を拠点に旺盛な活動を行った洋画家、油井夫山について。油彩画、関連資料などを展示。 作品そのものより活動内容に興味が湧きました。
特に気になったのが亜欧堂田善の研究と顕彰。最近、板橋で亜欧堂田善を見る機会があったので。タイミング良し。板橋から郷里の福島へ飛び、つながった感じ。該当の展示は、研究書の原稿や対象である亜欧堂田善の銅版画でした。(10/24)






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