三遊亭圓生音源データ
三軒長屋−1(上)
1.TS-02692A1,VT=TV-39042-3,TV-39001-2
2.1977.12.26,TBS.国立小劇場,落語研究会第116回
3.33:15
4.SCHWAN.SRVT-3911(VT)
5.出囃子 正札附
えー、ェッ、当節はこの、長屋と言う言葉は、ァッ、使わなくなりました様で、えー以前は随分長屋長屋と言いまして勿論まァ、そのゥ、九尺二間の棟割り長屋なんと言うのは極く、最下等でございますが。えー、二軒からは、ァーッ長屋と言う。棟が一つでございまして、ウーン、二軒長屋三軒長屋と言うこりゃまァ幾らもありましたもので。ェこの噺へ出ます長屋と言うのはまァ二階もあり、庭もあろうと言う、ウーッ間数も幾らもございますので。えー、右の端に住んでおりますのが、仕事師の鳶頭と言う、誠に勇みな稼業で、若い者が集まりまして、折々はどうもこの木遣りの稽古をするとか、あるいはちょいと、エッヘ、端唄でも唄おうなんと言う、誠に賑やかでございまして。えー真ん中に住んでおりますのは、お囲いものでございますが、えー、囲いものと言ったって果物じゃありませんで、(白湯を啜る)今は囲いもんてぇと間違えますが、二号、お妾さんと言う。えー女中を一人使って、こりゃもう、ォーッ、極く、静かでございまして。ェ時折、三味線なぞを取り出して、一中節でもやるとかあるいは薗八なんと言う様な、ウーッ誠に、ィッ落ち着いた家庭でございますが。また左の端に住んでいるのがこれが剣術の先生。道場と言うので、ここへ集って来る連中がこりゃァどうも誠にえーっ、…年若いみな、ァーッ荒っぽい人ばかりでね、オー、段小倉の袴をはき、ヵーッ胸毛なんぞも生えてね、物凄いのがある。えー三十三間堂と言う。どう言う訳で三十三間堂だてぇと、ォーッ三十三間堂むなぎの、胸毛の由来と言う。えー、エーッ上手く言わないと舌が回らない。えーとにかく、集まるてぇと武張った話ばかりしておりまして。「すかすこのォ何であるな」なんてんでね。ゥー『しかし』てぇ事が言えないんでね『すかし』ってましてね。ヘヘッ、そう無闇にすかされた日には回りの人が臭くってしょうがない。「すかし、アー、宮本武蔵と言う者は、あっばりなる腕めえである。うん。アー、佐々木巌流と、試合を致したる折りなぞは、この、巌流が、ァー武蔵の、側を払う、空天へ舞い上がり、飛び降りる時にこの、木剣をもって脳上をしたたかに打って勝利を得たと言う。誠にあっぱりなる者であるが、元来この、ウーン、精神のよろしくねぇのは佐々木巌流と言う者で」なんてんでね、あんまり粋な話はしませんでもう、寄ると集まるてぇと、ォッ血の出る様な事ばかり言ってね。えー三軒が穏やかな時は何でもございませんが、これが一つもつれが出来るてぇとまた面倒なもんで「こんちわっ。オアイ」「誰だ」「こんちわ」「何だ、熊公じゃァねぇか。入んなこっちィ」「へえ、よろしゅうござん。えー、鳶頭は何ですか居ねぇ、ヘッ鳶頭」「鳶頭は居ねぇよ」……サゲ=まァそのうちに、あたしの物になれば両隣は発たして一軒にするからまァ我慢しなよ」っと、旦那の方ではなだめるつもりで言ったのが、これが一つの手違いに相成りますと言う。『三軒長屋』の、半ばでございますが、下はまた追って申し上げます事に致しまして。
6.国立小劇場での落語研究会で第116回と第119回の二回に別けて口演した録音である。VTRに残っており、映像でも楽しめる。
7.TBS TV 落語特選会 放送録音 1979.12.7
8.
三軒長屋−1(下)
1.TS-02692A2,VT=TV-39042-4,TV-39001-3
2.1978.3.31,国立小劇場,落語研究会第119回
3.30:13
4.SCHWAN.SRVT-3912(VT)
5.出囃子 正札附
えー、ェッ、『三軒長屋』の下でございますが。ウーン、昔はこの長屋と言う物は、ァーッ随分言葉を使いまして、今は余りそう言う、ゥッ事を申しませんが、えー棟が一つならばこりゃもう長屋でございまして二軒から長屋と言いまして。右の端が仕事師の鳶頭真ん中が、お妾で、左の方が、ァーッ剣術の道場と言う誠に変わった取り合わせで。えー昔はまァ今の様に、ラジオテレビなんと言う物はございませんし、まその他、ァーッ新聞も無し、まァ読み物と言うと、ォーッ以前はこの草草子なんと言う物がありましてね、えー娯楽が、ァッとんと無い訳で。ェそこでェ井戸ィこの水を汲みに来る。お女中衆がみんなここで集まりましてね、えー互いのそのニュースをここで取り交わそうと言う訳で。ウーンこりゃァもうそのォ、長屋の、ウーン行事見たいになっておりまして。ここでまァべちゃべちゃお喋りをするのが大変楽しみで…………<井戸端会議・朝はおこうこ昼もおこうこ夜もおこうこ>…………っておこうこばかり食べさせるうちは無いが。ゥェー詰まらない事を言っているが互いのこれで、幾らか楽しみになろうと言う訳で。でこの井戸端へ来て、えー旦那が、お妾がこんなうるさい所にはいられないと言ったのが「まァまァいい、えー両隣はたかの知れた仕事師と、ォッ剣術使いだから幾らか金をやって発たして、(白湯を啜る)三軒を一軒にして住まわせる。まァまァもう少しだから我慢しなよ」と言ったのが、ウーンまァ旦那の方ではなだめるつもりだったのを、女中がちょろりとお喋りし、でこれが、鳶頭の姐御の耳ィ入ったからたまりません勝気な人で、カーこいつを聞くてぇと、カッカー腹ン中はもうひっくり返る様。御亭主は三日も帰(かい)って来ないと言う。
これがまたやきもちやなにかとこんがらがりましてね、オーッむかむかしている。ェ鳶頭だってもう三日もうちを空けて帰って来る、少ォしは間が悪いから、アーッ体裁に小言を言いながら、「おうおうおう、奴奴。チェッ、しょうがねぇなァ。どうしたんだ掃除をしねぇのかァ。表ェこんなに散らかしといちゃみっともねぇじゃねぇか掃除をしろい」「あー、奴奴。いいんだよ掃除なんぞしなくたって、どうせ空店になるんだから。店発てを食ってるうちなんだからいいよ掃除なんぞしなくても」……
6.国立小劇場での落語研究会で第116回と第119回の二回に別けて口演した録音である。放送は上下を一緒に放映された。共にVTR化されており、映像でも楽しめる。
7.TBS TV 落語特選会 放送録音 1979.12.7
8.
三軒長屋−2(上)
1.TS-02858B1
2.1964.1.31,東横劇場,東横落語会第49回
3.27:52
4.CS.50AG-910
5.出囃子 正札附
えー、ェーッ、『三軒長屋』と言う、お噺でございますが。まァ長屋と言うと、ァーッ、何か、えー、九尺二間の、ァー、棟割り長屋と言う物を、想像致しますが、えーこれはその、ォッ長屋と言いましても、棟は一つでございますが、相当、間数もございまして、えー右の端へ住んでいるのが、勇みな御商売、鳶頭と言う。でぇーそこへ、若い者なぞが集まりまして木遣りの稽古をするとか、あるいは端唄の一つも唄おうと言う様な、誠に陽気な暮らしでございまして真ん中に住んでいるのがこれが、お囲い者でございまして、両四ツの三味線に、えー台広の駒、本二十匁の糸をかけまして、ェーッ一中節をやるとかあるいは薗八でもと言う様な、極く、しっとりとした、ァッ暮らしで。でぇ左の端がこれがまた変わっておりまして、剣術の先生と言うので、ここィみんな集って来る人はもう筋骨逞しい、胸毛など生やしましてね、もう三十三間堂胸毛の由来と言う様なもう、いかめしいのが、ァーッごつごつして、アー話でも何でも武張っておりまして。「アー、その時な貴公、ああっ、アー、佐々木巌流が、このゥ、宮本武蔵の、側を払う。宮本が、空天へ飛び上がり、今度舞い降り降りる時にこの、アーしたたかに脳天を、ぶち割って、アーめでたく、ゥー巌流を討ったと言うあっぱれなる腕前であるが、元来このォ、ウー精神のよろしくねぇ奴であって、要するに」なんてあんまり粋な話をしませんで。もう寄るとさわるてぇと、ァー斬ったとか張ったとか、そんな話ばかりでございますが。まこの三軒が、えー何事も無い時は宜しゅうございますが、一つもつれが出来た日にゃァどうにもなりませんもので「こんちわっ。オウイ」「誰だい、アー、何だい熊公じゃねぇか。上がんな」「へいっ、こんちわ。えー鳶頭は居ねぇんすか、えっ鳶頭は」「ウフン、鳶頭か居ねぇよ」「えっ」「居ねぇよ」……サゲ=「ありまァ、旦那の頭とやかんと鉢合わせに…。旦那のやかんへ盛りが出来て」「馬鹿な事言っちゃいけないよ」えらい騒ぎで。これが元で、長屋に一つのもつれが出来ます。まだお長いお噺でございます『三軒長屋』の上でございますがお時間でございます。
6.東横ではこの時しか掛けていない。上単独の口演で、下は演じられていない。東横劇場の記録用のテープより収録されたもので、音質が甚だ痩せている。
7.CS.50AG-910 DISC COPY
8.
三軒長屋−3(上)
1.TS-12556B1
2.1961.5.1,(1961.5.9),TBS,「お茶の間寄席」
3.28:20
4.Te.TETR-20029(CT),TECR-20029(CD)
5.出囃子 正札附
えー、ェーッ、世の中と言う物も段々、以前と違い、ィーッ、この、オーッ、忙しくなって参りましたが、まァ東京とこの、地方へ参りますと、ァーッ今でも、多少の違いがございまして、えー人なぞを尋ねまして「ェーこのォ鈴木さんてぇお宅はどちらでございましょう」「どこの鈴木さんだね。あーそうかいあァ。えーあすこのねぇ、えー今の鈴木さんのお父っつぁんてぇ人はねぇありゃまァ、長生きでしたなァ…………嫁入りン時にはまァ箪笥が二本で、こういう模様の着物を持って来て」なんてんでね。ァーもう何でもこみずに、ィーッ心得ていらっしゃいますが。まァ東京なぞでは、ァーッ隣ィ住んでいる人が何をしているのかもう一向分かりませんでね、「オー、ォーッ隣の人はどこへ勤めてんだえー、アーそうかいあすこでヘーッ、ウーンじゃすぐそこなんだなァアーちっとも知らなかった」なんてんでね、もう二十六年目にやっと隣の人の、ォッ商売が分かるなんと言う、誠にまァ考えて見ると、ォーッそう言う呑気な所もございますが。えーっまァ、遠い、親類よりは近くの他人なんと言うァッ譬えがございますがまァいざ、事のありました時は、えー隣近所に住んでいらっしゃる方と言うものはこりゃまァ、色々力になってくれるものでございますが。えー、まこれがァーッ円満に行くと言うのはよろしいが、もつれが出て来た日にはどうにもなりませんが。え昔のお話でございますが、一棟で、えー三軒のこの長屋に別れておりまして。えー左の端に住んでいるのが、勇みなご商売、仕事師の鳶頭と言うので、若い者が、ァッ時折集まりまして、二階で木遣りの稽古をする。えーさもなければァッ都々逸をやるとか、二上り新内でも唸ろうなんと言う、誠に粋な、ァーッお住まいでございますがその隣は、極くしんみりしております。これはこのお囲い者と言う。えー、台広の、駒に、本二十匁の糸をかけまして、えー一中節でもやるか、ァーッあるいは薗八でもと言う様な極く、しんみりとしたお住まいでございますが。えー一番またァーッ右の端は、これは変わっておりまして剣術の先生と言うので、ここィ集って来る連中はもう筋骨逞しい、えっ、ごつごつした人ばかりで。ァー話でも何でも、ォーッ非常に武張っておりましてね。「アーその時な貴公、この、オーッ、佐々木巌流が、宮本武蔵の、…………要するにこの」なんてんでねあんまり粋な話はしませんで。もう寄ると集まるてぇと、ォーッどこで人を斬ったとかな、えー血生臭い様な話ばかりしておりまして。まこの長屋が何でも無い時は、宜しいのでございますが、申し上げた様に一つもつれが出た日にゃどうにもおさまりがつかない「御免なさい」「誰、オー、何だい、鉄公じゃねぇかい。何だい」「へいっ、こんちわ。えー、なんすか、鳶頭は、居ねぇんすか、えっ、鳶頭おいでンなりますか」「うちのは居ないよ」「えっ」「居ないよ」……サゲ=「オーッ何しろ始末もつけたいが、もう放送の時間が無いから今度ゆっくり始末をつける」……
6.上のみの口演である。これに対応する下は無い。
7.Te.TETR-20029 CD COPY
8.1961年の口演で枕の構成が晩年のものとかなり異なっている。
三軒長屋−4(下)
1.TS-12556B2
2.1960.4.9,(1960.4.22),TBS,「お笑い帆掛船」
3.27:27
4.Te.TETR-20029(CT),TECR-20029(CD)
5.出囃子 正札附
えー、ェーッ、目に青葉、ァーッ山ほととぎす初鰹。江戸っ子と言うとこのォ、ァー鰹と言う物を大変に賞美致しましたもので、えー別にこの江戸で、ェッ鰹が捕れるてぇ訳ではございませんが、ぇーこれはまァ鎌倉から、ァー入ってくる。えー、まァまこのォ、ォーッお職人衆なぞは一ン日も早く、これを食べると言うのが一つの自慢でございましてな。……<初鰹去年食った〜初鰹寒かった>…………まァ江戸っ子てぇものはこう言う、ァーッ誠に呑気な所があります。えー、三軒の長屋がございまして、まァ長屋と言いましてもこりゃァ二階もあり、えー、棟割り長屋ではございませんが。えー左の端が、これは鳶頭でございます。勇みな誠に御商売で。ここィ若い者が集まりましてちょいと、木遣りの稽古でもしようとかあるいは、二上り新内か都々逸でもやろうと言う様な、えー粋なお住まいでその、隣の真ん中のうちはこりゃァまたお囲い者と言うので、えー両四ツの三味線に、台広の駒をかけまして、本二十匁の糸と言うので、えー一中節でもやるとかあるいは薗八、端唄でもやろうと言う様な極く、しんみりとしたお住まいで。こちらの端はこれはまたこりゃァ変わっておりまして剣術の先生と言うので、ここィ集って来る連中は誠にどうもそれね、無骨な連中ばかりで。えーごつごつして、ハァーもう話でも何でもこの、えー何となく殺気立っておりましてな。「その時な、ウーン、佐々木巌流が、宮本武蔵の、側を、払う。宮本武蔵は空天へ飛び上がって、飛び降りざまに、巌流のこの額(ひたえ)の所を、したたかに打ち込んで、勝利を得たと言うあっぱれなる腕前である。ウーン大体この、巌流と言う者はであるな、アー精神の甚だよろしくねぇ奴であって、要するにこの」なんてあんまり粋な話をしませんでね。えー寄るとさわるともうァーッ、血生臭い様な事を言っちゃァ喜んでるまァこの三軒が、何事も無い時は宜しゅうございますが一つもうもつれが出た日にァもうどうにもなりませんで。えー鳶頭は、寄合の帰りから、三日ばかりうちを空けまして、いくら自分のうちだって、ェーッちょいと入りにくいと見(め)えてね、入口から小言を言いながら体裁に「おうおうおう、奴奴。何をしてるんだァしょうがねぇなァ。表を散らかしといちゃみっともねぇじゃねぇかなァ。掃除をしとけ掃除をええっ。掃いとけ」「奴 z。いいよいいよ、掃除なんぞしなくたっていいよ。どうせもう空店になるんだから。うっちゃっときな」……
6.下のみの口演で、上の枕が語られている。テイチクより発売されたものは、上・下連続でなく、上のみと下のみの口演を組み合わせたものである。
7.Te.TETR-20029 CD COPY
8.
三軒長屋−5(上)
1.TS-12640C1
2.1976.4.12,4.28,CBS・ソニー,スタジオ,「圓生百席第八十六席」
3.31:55
4.CS.60AG-317,FKLA-87(CT),SR.SRCL-3838(CD)
5.出囃子 薩摩くずし
『三軒長屋』と言うお噺で。今は長屋と言う言葉は使いませんが、何か九尺二間の棟割り長屋の様に、御想像なさいましょうがそうではなく、つまり棟が一つ、えー屋根が、一つで、えー二軒から二軒長屋、これが三軒あれば三軒長屋と言う様な訳で。でこのゥ噺に出て参りますのは二階もあり、間数も、沢山ございまして庭も一寸あろうと言う訳で。右の端へ住んでおりますのが仕事師の鳶頭、勇みな稼業でございますので若い者が大勢集まり時折、木遣りの稽古ォでもするかあるいは、端唄でも唄う、都々逸の一つもなんと言う様な、極く、賑やかな暮らしで。でぇーその隣の真ん中は、お妾でございますな。お囲いものと言う。で今は囲いものてぇとォ水菓子かァ野菜かなんかだと、お間違いになるかも知れませんが、二号でございます。本二十匁の糸に、台広の駒をかけまして、一寸、薗八でもやろうかかあるいは一中節でもと言う様な極く、しっとりした暮らしで。左の端がこれがまた、ァーッ剣術の道場と言う。ここへ集って来るのはもう、血気盛んで、ハァー筋骨逞しいおのこが集りましてね、胸毛なぞをこう生やしてね、三十三間堂と言う。どう言う訳だてぇと胸毛の由来と言うあんまりいい洒落じゃありませんが。黒木綿の紋付に。小倉の袴を履き、ハァー言う事が誠に武張っておりまして。「アーその時な貴公。佐々木巌流と、宮本武蔵が、試合を致したる。巌流がこの武蔵の、側をぱっと払う、空天へ飛び上がった武蔵が、木剣をもって飛び降りた時に、巌流の頭上をしたたかに打ち下ろし、これが為に勝利を得たと言うはあっぱりなる腕前であるが、つまりこの、オー巌流と言う者は元来、精神のよろしくねぇ奴で、甚だこのオー」なんてんでねあんまり粋な話はしませんで。もう寄るとさわるてぇと、もう血の出る様な事ばかりを言って。でこの三軒長屋が、穏やかな内はよろしいのでございますが、一つもつれが出るてぇともうどうにもならない。「こんちわっ。オアイ」「誰だ」「へぃっ、こんちわ」「アー、何だ熊公じゃァねぇか。上がんなこっちィ」「へえ、ンちわ。えー、鳶頭は」「居ねぇよ」……サゲ=まァまァ、さっき言った通りこのうちはもうじき、家質に入ってそれが流れたら、三軒を一軒にして住ませるからまァまァそれまで我慢しなよ」っと、旦那の方ではなだめるつもりで言ったのが、一つの手違いに相成ります。『三軒長屋』の、半ばでございます。
6.「圓生百席」の録音。特に「上・下」と別けた記載は無いが、レコードのA面とB面が区切りになっているので、ここでは上下に区分けしてある。集英社文庫から出ている「圓生古典落語1」の速記は、この録音を元にしている。
7.CSファミリークラブ.FKLA-87(CT) CT COPY
8.
三軒長屋−5(下)
1.TS-12640D1
2. 1976.4.12,4.28,CBS・ソニー,スタジオ,「圓生百席第八十六席」
3.30:29
4.CS.60AG-317,FKLA-87(CT),SR.SRCL-3838(CD)
5.出囃子 なし
当節と違いまして昔は、娯楽と言う物が全然ございませんで。まァテレビラジオは言うに及ばず、ゥッ新聞雑誌も無いと言う。あどうしても、退屈でございますから、ァーッ長屋の金棒引きなんてぇのがあってね、井戸端会議と言う。こりゃァその水を汲みに来るとか洗濯に来る、えー人が集まります所で、お互いのニュースをここで取り交わそうと言う訳で。 …………<井戸端会議・朝はおこうこ昼もおこうこ夜もおこうこ>…………そんなにおこうこばかり食わせるうちは無いが。ァ、詰まらん事を互いに言い合って、これでまァ幾らか慰みになろうと言う訳で。三軒を一件にして住ませるんだと言う事を、女中が井戸端でちょろっと喋りましたから、やこいつがもうすぐに、近所隣に広まる。鳶頭の姐御の耳ィ入ったからたまりません勝気な人で、カー腹ン中は煮えくり返る様。御亭主は三日も帰(かい)って来ないからやきもちやなんかもこれへ絡まって、鳶頭の方でもいくら自分のうちだって三日も空けりゃァちょいと体裁が悪いからね、えー、表から小言を言いながら「おうおうおう、おう、奴奴。おい、どうしたんだァ、ゴミだらけじゃねぇかい。みっともねぇから掃いとけぇ。入口ン所こんなに散らかしといちゃしょうがねぇじゃねぇか掃除をしろ掃除を」「奴奴。いいんだいいんだ。掃除なんぞしなくたっていいよ。どうせ空店になるんだ追い立てを食ってるうちなんだから、掃除をしなくてもいいから打っちゃっときな」……
6.「圓生百席」の録音。レコードのB面に当たる部分である。
7.CSファミリークラブ.FKLA-87(CT) CT COPY
8.
三軒長屋・解説
この「三軒長屋」と言う噺は、五代目古今亭志ん生、六代目三遊亭圓生、五代目柳家小さんと言う近代の噺家達の録音があり、三者三様の味わいがあってとても面白く聞ける。まず志ん生師のは、軽率な江戸っ子職人のさァと言えば喧嘩の様が面白いし、圓生師のはお妾や姐御といった女性に何とはなしに色気を感じさせる。小さん師のものは剣術の師匠がなんとリアルなことか。それぞれ得意な人物があり、かと言って他の人物が駄目と言う事はさらさら無いが、一つの噺が噺家によって味わいが変わる代表的な例としても良いであろう。長い噺であり、大騒ぎの場面が続くからであろうか、通しで演る例は余り無く、上・下に別けて演じられている物がほとんどだ。圓生師のものも国立での上・下口演のものと「圓生百席」の録音が続き物として残っているだけで、他は上だけであったり下だけであったり通しで演じられていない。かなり古くから手掛けていた様子で、古い物は1960年の録音があるが、面白いのはその当時と晩年とで三軒の並びが逆さになっている事である。まさか蛙だから目が後ろに付いていた訳でもあるまいが、何故であろうか。それにしてもサゲの面白さは落語の中の落語と言った感じであり、我儘勝手なやかん頭をへこます江戸っ子の真骨頂と言える。その後どうなったのであろうか、やかん頭がカンカンになった事だろうが、結局引っ越すのはお妾になったのには違いないだろう。
時代設定:江戸時代。
舞台:二階建ての三軒長屋(鳶頭、妾、剣術の先生の順に並んでいる)。
登場人物:仕事師の鳶頭政五郎、その姐御、鳶の者(熊公、へこ半、がりがり惣次、徳さん、 松さん、竹さん他)、奴、やかん頭逆ボタル伊勢勘こと伊勢屋勘右衛門、お妾、化 物女中清、今井田流指南楠運平橘正猛、門下生(石野地蔵、山坂転太、北風寒右衛 門、近藤、他)。
ベストテイク:「三軒長屋…1」VTRで見るのも良し。