三遊亭圓生音源データ

盃の殿様−1

1.TS-02512D1

2.1972.3.17,NHK,イイノホール,東京落語会第153回

3.35:52

4.無し

5.出囃子 正札附

えー、昔は、ァーッ士農工商なんという事を申しまして、えー、お侍というものがこりゃまァ、一番権利のありましたもので中で、ェッお大名と言う、こりゃァ特権階級でございまして殿様というものは、ァーッ無理な事をおっしゃいますが、家来の方で、(白湯を啜る)それをまた、ァッ黙って通したと言う訳で。えーお大名なんてぇと大変この馬鹿の様に言われておりますが、一国一城の主が、ァーッ馬鹿で勤まる訳はありませんが。えー、下々の事は丸っきりご承知がございませんまァ家来の方でも、殿様にはなるべく、そういう事は聞かせない様にと言うので。ウーッ従ってまァ下情には通じておりませんそれにェーッ我儘な所がありまして、えー、お大名だからといってただ、ァーッ、一ン日ぶらぶら遊んでいる訳ではございませんたんとこの、日課は決っているんだそうで。「今日は、アーッ剣術のお稽古にござりまして、道場へお出ましを願いとう存じます」家来に言われて、ェッ俺は剣術は嫌いだなんてぇ事はこりゃ言えませんで。えー侍たる者が、嫌だてぇ訳にはいかない。ゥしかし、逃げ口上はありましてね。「余は病気である」とおっしゃる。病気ならァどうもこりゃしょうがない無理にてぇ訳にいかないから、家来の方でも「ハーッ」てんで下がってしまう。「今日は、ァッ弓のお稽古にござります」「余は病気である」「ヘーッ」「本日は、ァッ馬術のお稽古にござります」「余は病気である」なんてんでね。えー嫌な事はみんな病気で片付けてしまいまして。ま病気だと言った、アーッ手前でもうそれ、喜んで飛んで歩いてる訳にはいきませんから、え一間へ入って、暗い所で何かこォう考えている。でこれが段々昂じて来ると本物ンなりましてね、今で言う神経衰弱、昔は気鬱性と言ったそうで。まァこうなりますてぇと、益々どうも扱いにくくなりまして。でそういう時にはお侍ではどうも堅くていかんと言うので、お坊主と言う物が主に、御用を勤めたんだそうで。えー茶坊主と一口に申しますが、十万石以上になりますと、表坊主に奥坊主と、別れていたそうで。それに、二十坊主にカス坊主、これへ雨が飛び込んでまァンな事はどうでもよろしゅうございますが。珍斎と言うお坊さんでこりゃ大変、殿様のお気に入りで。お居間には無闇には入る訳には参りませんが特別のお許しがありますので、「えー、御前。お加減はいかがなものでござりまするが……

6.東京落語会での録音。

7.NHK・R 放送演芸会 放送録音 1972.6.7

8.

盃の殿様−2

1.TS-02610A1

2.1977.2.23,TBS,国立小劇場,落語研究会第106回

3.40:50

4.Cr.CRCY-10076(CD),CRTY-10076(CT)

5.出囃子 正札附

えー、古い川柳に、「大名は大名だけの暑さかな」と言う。えー我々から考えまして、ェーッ、お大名なんというものは大変呑気なもので、いい物を着て、ェー美味い物を食って、ごろごろ寝てばかりいたんだろうなんと言う、どうもつまらない事を考えますが、アーッ決してそう言う事は無いんだそうで。昔は大名と書いて人間のもやしと読むなんと言う、悪口を言いましたが。まァ一国一城の主となりますのに、馬鹿やなにかで、エッ勤まる訳はございませんま大体その、えーお勤めと言う物がちゃんとあるんだそうで。今の宮城でございますね、お城勤めと言って、えー時刻は、ァッ、五つと申しますから、(白湯を啜る)今の時間で言うと、ォーッ八時でございます。……  ……<お城勤め>……  ……えしかし、お国へ帰れはそらァ大変なもので、殿様と言うのは第一でございますが。ンーこちらにおいでンなる内は、なかなかそう言う勤めもありますし、それにィお稽古日と言うものがきちんと決っておりまして、今日は何の日何の日という。「今日は、えーっ剣術のお稽古でございまして道場の方へお出ましを願わしゅう存じます」ぇ家来の方から知らせがある。ところがどうも剣術はあんまり、殿様はオーお嫌いなんですがね。「余は剣術は嫌いだ」なんてぇ事は言えませんこりゃ侍ですから。でそういう時は病気とおっしゃる。「余は病気である」「へぇーっ」ィォーッ病気だてぇものを無理にとは言えないから、家来の方でも引き下がるという訳で。「今日は、弓のお稽古にござりまして」「余は病気である」「ヘッ」「馬術のお稽古で」「余は病気である」なんてんで。えー嫌な事はみんな病気だ病気だてんで断るんですがね。そう言ったァ手前どうもそれ、嬉しがって座敷を飛んで歩く訳にはいかない。なんとなく病人らしくしなくちゃァならないと思うから、暗い部屋へ入ってこォう考えている。で、そういう事が段々重なって来ると、気鬱性と言いましたが今で言うまァノイローゼとか神経衰弱なんでしょうが、えー人に逢うのも嫌ンなる、口を利くのも面倒臭いなんてぇ事ンなる。アー、こうなると益々どうも扱いにくくなりまして。えー御家来ではどうも堅くなると言うので、御用と言う物は主にお坊主と言う者が主にしたんだそうで。えー十万石以上になりますと、表坊主に奥坊主と言うものかちゃんと、別れていたそうで。表坊主奥坊主、えー二十坊主にカス坊主、それィ雨が飛び込んで、まァンな事はどうだって構いませんけれ ヌ。えー珍斎と言うお坊さんでこりゃァ大変殿様のお気に入りで。お居間の方へは、みだりに入る訳には参りませんがこらァ特別のお許しがあると言うので。(白湯を啜る)珍斎が何か持って、殿様のお居間へ「アッ、えー、今日は。御機嫌は、いかがでござりまするか……

6.落語研究会の録音、VTRにも残っている。

7.TBSTV 落語特選会 放送録音 1977.4.2

8.1995.3.13に「落語特選会」で再放送された。

盃の殿様−3

1.TS-12620A1

2.(1965.9.27)(?),TBS

3.26:04

4.無し

5.出囃子 正札附

えー、ェーッ、昔はこの、お大名なんと言うと、ォーッ大変お贅沢な事をなさいまして、ま自分の言い状は何でも通したと言う。えー(カット)それに、どうしても、ォーッ家来の方で奉りますから、我儘と言う物があります。「えー今日は、ァッ剣術のお稽古でございます」なんと申し上げる。ェこれはどうもその嫌だてぇ訳にはいかない。えー侍たる者が「俺は剣術は嫌いだ」とは言えないから、こう言う時は上手い逃げ口上がある。「余は病気である」「ヘーッ」病気であるとおっしゃるからこりゃァどうも無理にてぇ訳にはいかない。また翌日ンなる「今日は、ゥッ弓のお稽古にござりまして」「余は病気である」「ヘーッ」「今日は馬のお稽古で」「余は病気である」なんてんでね。何でも嫌なものは病気だ病気だてんでね、片付けてしまう。しかしまァ病気だと言った手前どうもはしゃいで、飛んで歩くわけには行かない。病人らしい顔をして当人も一間へ閉じ込めて、こォう下を向いて考えていらっしゃる。で今で言う、これがその、ォーッ、ノイローゼと言う奴ですかな。えー自分でも本当の様な心持ちンなりまして、人と逢うのも嫌だ口を利くのは面倒臭い。なるべくは、ァッ人を避ける様にして、一間へ閉じこもって暗いとこで考えるさァこうなりますと、益々扱いにくくなる。えー、珍斎と言う、お坊さんこれは大変殿様のお気に入りで、お居間の方へお許しが無ければ入る事は出来ませんが、これは特別のなにがございますのでずかずか奥へ入って来る「オッ、ウーッ、御上には、御機嫌がいかかでございますか。……

6.TBSの公開録音。放送時間枠に収める為に(カット)の部分にはっきりしたカットがあ  る他、明らかなカットが数ヶ所ある。アナウンスのあった放送日は記録に無く、不明であ  る。

7.TBS・R 放送録音

8.1983年頃に再放送された音であるが、放送日を記録し損ねている。再放送時に回転が速く  放送されており、スピードを修正したものを保存してある。

盃の殿様−4

1.TS-02817B1

2.ビクター,ビクター・スタジオ,客無し

3.28:50

4.V.JV-112,JV-1291,SJV-6551,VCK-522(CT)

5.出囃子 行列

「大名は大名だけの暑さかな」と申しますが、まどんな方でも、これでもういいと言う、止まりはございませんで。まその身分になって見るとやはり不足と言う物が出て参りますが。昔のお大名は、ァーッ馬鹿の様に、おっしゃる方がありますが決してそんな事はございませんが。まその代わり、気ままな所がございまして、お稽古日と言うものがちゃんと定まっている。「今日は、剣術のお稽古にござりまして、道場へお出ましを願わしゅう存じます」「余は剣術は嫌いだ」なんてぇ事は、こりゃお侍ですから言えませんが、こういう時は、病気とおっしゃる。「余は病気である」「ヘェッ」病気じゃどうもしょうがないから、ご家来の方でも引き下がる。「今日は、馬術のお稽古にござります」「余は病気である」「弓のお稽古を」「病気じゃ」「ヘーッ」嫌な事はみんな病気で片付けてしまう。まそう言った手前どうも、座敷を面白そうに飛んで歩く訳にはいかないから、暗い部屋へ入りまして、病人らしくこう考えている。でこういう事が段々、重なって来ると本物になります。今で言う、神経衰弱、ゥッノイローゼと申しますか昔は、気鬱性と言います。さこうなると、益々どうも扱いにくくなる。でこういう時にはお侍ではいけませんので主に、お坊主と言う者がお相手をしたもんだそうで。一口に茶坊主と申しますが十万石以上になる、表坊主に奥坊主とありまして、これに二十坊主にカス坊主、雨が飛び込んでまァンな事はどうでもよろしいが。珍斎と言うお坊さんが大変、お気に入りでございます。特別のお許しがあるので、お居間の方へ「アー、ァッ、御前。御気分はいかがでございますか……

6.ビクターから発売されたスタジオ録音のもの。何度か再発売を繰り返し、一部はカセット  テープにもなったが、現在では廃盤で手に入らない。

7.V.JV-1291 DISC COPY

8.1963年頃の録音で、まだ若々しい口調が聞ける。レコードの片面に入れる関係上かなり無  駄を省いた演出となっている。

盃の殿様−5

1.TS-02834A1

2.1978.4.28,東横劇場,東横落語会第208回

3.36:44

4.AP.KSZ-2038(CT)

5.出囃子 正札附

えー、ェッ、「盃の殿様」と言う。ンー昔はこのお大名と言うものが、特権階級でございまして。こりゃァもう、オーッ誠に結構なもので。贅沢にお暮らしンなって、エッ何にも用が無く、ただのそのそしていたんだなんてぇ事を、我々は一寸考えますが決してそんな事はございません。まァお大名だから、物を知らないなんと言いますが、まァ下々と言う事には、通じておりません。まァ家来の方でもなるべくは下情な事は、お耳に入れない様にと言う。ところがどうも隠されるてぇとちょいとその、ォーッ知りたいと言うのが、こりゃァもう人の常でございまして。お大名が米相場を聞いたなんという話が……  ……<大名の米相場〜大名の米の水加減>……  ……えこう言う所が誠にお大名らしい所でございますが。まァこのゥ、ォーッ、お屋敷おいでンなってもただぶらぶらしている訳じゃァない。やはりお稽古日と言う物はちゃんと決っておりまして。「本日は、剣術のお稽古でございますどうぞ、道場へお出ましを願わしゅう存じます」なんてんで。ゥェー殿様はあんまり剣術をやりたくないン。ウフッ、しかし、どうも侍として「俺は剣術は嫌いだ」なんてぇ事は言えませんが、こういう時は誠に重宝で、えー病気だとおっしゃる。「余は病気である」「へぇーっ」病気だてぇものを無理にとは言えないから、家来の方も引き下がる。「本日は、馬術のお稽古にござりまして」「余は病気である」「ヘーッ」「弓のお稽古を」「余は病気である」なんてんで。嫌な事はみんな病気で片付ける。ところがどうも病気だと言った以上、えーそこいらを嬉しがって飛んで歩いてる訳にはいきませんし、なんとか病人らしくしなくちゃァいけないと言うので、(白湯を啜る)暗い部屋へお入りンなって、何かこォう考えている。でこういう事が段々重なると本物になりましてね、今で言う、ノイローゼーとか、神経衰弱、昔は気鬱性と言いました。こうなりますと、段々物が扱いにくくなる。えー御用を勤めるのはお侍ではいかんと言うので主に、お坊主と言う者が、えー勤めたんだそうで。えー一口に茶坊主と申しますが十万石以上になりますと、表坊主に奥坊主と言うものが別れていたそうで。ウーン表坊主に奥坊主、二十坊主にカス坊主、これへ雨が飛び込んでまンな事はどうでもいいが。えー珍斎と言うお坊さんこりゃァ大変お気に入りで。お居間の方へ無闇に、他の者は入る事は出来ませんが、格別のお許しがあるので。「アーッ、御前今日は御加減は 「かがでござりまするか……

6.東横落語会の録音。この形がホールで演じる時のスタンダードな演出であろう。

7.AP.KSZ-2038 CT COPY

8.

盃の殿様−6

1.TS-02857A1

2.1964.3.31,東宝演芸場,東宝名人会

3.29:23

4.Ca.C18G-0316,PN.20P-2207(CT),PC.18P-60015(CT),PCCG-00060(CD)

5.出囃子 正札附

えー、ェーッ、昔はこの、人間に、ェーッ身分なんと言う事を申しまして、「あれはどうも、ァーッ人間は利口だが身分が悪いんでいけませんよ」なんてぇ事を申しましたが。今は、ァーッそう言う事はございませんが、お大名なぞと言う、アーッ特権階級がありまして、まァ殿様と言うものはどんな無理な事を言っても、家来がそれを通したと言う今から考えるとまるで、ェーッ嘘の様でございますが。えーしかしまァ、どんな偉い方でも、なかなかそう、ォーッ自分の、ォッ自由自在と言う訳には行きませんもので、えー昔はこの、お稽古日と言うものがちゃんと決っておりまして、御家来がそれへ出て、「今日は、ァーッ剣術のお稽古にござります。道場へお出ましを願います」エーッ、ァーッ俺はけぇ剣術は嫌いだなんてぇ事は言えませんで。でそういう時は、えー上手い逃げ口上がありまして、「余は病気である」「ヘェーッ」病気だとおっしゃるから、こらどうも無理にと言う訳にはいかないから、ァッ御家来も引き下がります。翌日になる「今日は、馬術のお稽古にござりまして」「余は病気である」「ヘッ」「今日は弓のお稽古で」「病気である」「ヘーッ」ウーン、嫌な事はみんな病気で片付けてしまう。えーしかしまァ病気だと言った以上、幾ら何でも、オーッ嬉しそうにして飛んで歩いてる訳にはいきませんから、えー暗いとこへ入って、部屋でこう考えておいでンなる。でこれでこういう事が段々重なりますと、いよいよこの本物ンなりましてね、昔で言う気鬱性と言う、ま今で言えば、神経衰弱とか、ァッノイローゼと言うんでしょうが、まこうなりますといよいよ扱いにくくなりまして。そういう時は、御家来なぞではどうも具合が悪いので、お坊主と言う者が主に、ィーッお相手を致しましたもんだそうで。えー一口に茶坊主と申しますが、十万石以上になりますと、表坊主に奥坊主と言うものがあったそうで。表坊主奥坊主、二十坊主にカス坊主、えーこれへ雨が飛び込んでまンな事はどうでもいいんでございますが。殿様の、えー大変お気に入りで珍斎と言うお坊さんで。まァお部屋の方へ無闇に入る訳には参りませんが、(白湯を啜る)特別のお許しがあるので。ゥッ珍斎坊さん何かにこにこ、ォッ笑いながら「ウーッ、ゥッ今日は、御機嫌はいかがでござりまするか……

6.東宝名人会の余一会の録音。寄席のトリなどでの演出はこの様な形であったと思われる。

7.Ca.C18G-0316 DISC COPY

8.

盃の殿様−7

1.TS-02932D2

2.(1962.5.17),NHK

3.27:40

4.Col.FS-7143,CHY-9055(CT)

5.出囃子 正札附

えー、ェッ、昔はこの、士農工商なんという、ァッ、ェーッ色々喧しい事を言いまして。まお侍と言うものが一番これは権利のあったもので。中でお大名と言う、ェー特権階級がありまして、殿様と言うものは無理な事をおっしゃるがそれを家来の方で通したと言う。今から考えるとどうも嘘の様な話でございますが。えー色々そのお稽古日と言うものが、決っておりまして。「えー今日は、ェーッ剣道の、お稽古日でございます」エーッ申し上げる。「余は剣術は嫌いだ」と、こりゃァ言えませんで。侍の表道具でございましてね。剣術が嫌いだてぇ訳にはいかないこう言う時はまた、方便があります。「余は病気であるぞ」「ヘェーッ」病気だとおっしゃるから、こらァまァ、押して勧める訳にはいかない。まァ何でも自分の、好かない物は、病気だ病気だてんで退ける。ァどうも幾らお大名だってな、病気だと言ったのをそこいらを飛び回ってる訳にはいかない。ェ自分も病人らしく、一間へ閉じこもって何かこう考えている。さァ、こういう事が重なりますといよいよ本物になります。今で言う、えーま神経衰弱とでも申しますか、昔は気鬱性と言う、さァこうなると、益々どうも扱いにくくなります。でこういう時には、お侍やなにかでは堅くていかんと言うのでお坊主と言う者が、主に御用を勤めたもんだそうで。ェ一口に茶坊主と申しますが、えー十万石以上になりますと、表坊主に奥坊主と言うのが別れていたそうで。表坊主に奥坊主、これに二十坊主にカス坊主がいて、雨が飛び込んでまンな事はどうだっていいんでしょうけれども。えー殿様のお気に入りで珍斎と言うお坊さんがありまして、お居間の方へは、無闇に、ィッ人が入る訳に参りませんが、(白湯を啜る)特別のお許しがあるので、珍斎坊さん何か、携えておく、「えー、ェッ、上には、ァッ、御機嫌はいかがでござりまするか……

6.レコードの解説に載っている放送日は、番組調査によると該当が無い。

7.Col.FS-7143 DISC COPY

8.

盃の殿様−8

1.TS-02939C1

2.1976.3.1,CBS・ソニー,スタジオ,客なし,「圓生百席第四十六席」

3.51:01

4.CS.60AG-124,FCLY-1,FKLY-1(CT),SR.SRCL-3836(CD)

5.出囃子 三曲合方

「大名は大名だけの暑さかな」と申しますが、ま今の時代から考えますと、到底想像もつきませんがま昔のお大名といえば、我々から考えていい物を着て美味い物を食って、ごろごろ寝てばかりいたんだろうなんと言う、詰まらん事を申しますが。それにお大名はあんまり利口な人が無いなんと言う。ぇ決してそう言う事はございますまい。まァお勤めと言うものはちゃんと決っておりまして、お城勤め、今の宮城でございますがこれはちゃんと、時刻が定まっているからそれに登城して、で時間が来なければ、帰って来る訳にはいきません。まァ解りやすく言えば将軍様は、社長でしょうね。えー大老と言うのが、専務取締り、えーそれから老中若年寄なんと言うのはそれぞれみな、役付きでございまして。まそう言った様な訳で、お勤めと言うのはちゃんと定まっている。え一万石からお大名、百万石とってもお大名。しかしィ、その生活程度と言う物はかなりの、違いがあったものでしょうが。えー、召し上がる物なぞも、大変喧しゅうございましてね、……  ……<桜鯛>……  ……えーしかし申し上げた様にお城勤めはあり、またァお屋敷へお帰りンなれば、相当用もありますそれに科目がちゃんと、今日は何、今日は何と言う事が定まっておりまして、「今日は、剣術のお稽古日にござります。何卒、道場へお出ましを、願わしゅう存じます」家来が知らせに来るン。ところがこりゃァねぇ、「俺は剣術は嫌だよ」とは言えない。侍たる者が、嫌いだとか嫌てぇ訳にはいかない。ところが大将こりゃァもう出たく無いんですから、こういう時はまた重宝で、「余は病気である」「ヘェッ」これは、病気だってぇものを無理にてぇ訳にはいかないから、ご家来が引き下がって行く。「本日は、馬術のお稽古にございます」「余は病気である」「ヘェッ」「本日は弓のお稽古にございます」「余は病気である」なんてんで、嫌な物はみんな病気だァ病気だってんで。でそう言った手前どうも嬉しがって座敷を飛んで歩く訳にはいかず、なんとか病人らしくしなくちゃいけないと思うから、暗い部屋へ入りまして、なにかこォうしきりに考えておいでンなる。さこういう事が段々重なって来ると、昔は気鬱性と言いまして、今で言うとまァ、神経衰弱とか、ノイローゼと言うんでしょうが、アーこうなって来るともう、口を利くのも嫌だ、人に逢うのは面倒臭いなんという、益々、扱いにくくなりまして。えーこういう時はその御用なぞは、お侍では堅くていけま ケんので主に、お坊主と言う者が勤めたんだそうで。茶坊主と一口に申しますが、十万石以上のお大名には、表坊主奥坊主と別れていたそうで。表坊主に奥坊主、二十坊主にカス坊主、これへ雨が飛び込んで、えーまァンな事はどうだっていいや。珍斎と言うこりゃァ殿様が大変お気に入りでございますので、えー特別のお許しもあり、他の者は無闇にお居間へ入る訳には参りませんが、構わず、珍斎坊さん、お居間の方へずかずかと「ハッ、アー。今日は、ァッ、御機嫌がいかがに、ございまするか……

6.「圓生百席」の録音。速記が集英社文庫「圓生古典落語第五巻」に収められている。

7.CS.60AG-124 DISC COPY

8.

盃の殿様−9

1.TS-12674A2

2.(1969.1.17),TBS,朝日生命ホール,「まわり舞台」

3.25:59

4.無し

5.出囃子 正札附

えー、ェーッ、昔はこの、士農工商なんと言う、世の中と言うものが、アーッ階級が色々ございまして。えーその中でまたお大名と言うのがこりゃァもう特権階級で。えどんな無理な事を言っても家来の方が、アーッ御無理ごもっともで、殿様のおっしゃる事は何でも通すと言う訳で。でそれにまァ、ァーッそうやって、四方八方から奉るんでございますから、え自然とその、ォッ我儘と言う物がでまして。「えー今日は、ァッ剣術のお稽古でございまして、道場へお出ましを願わしゅう存じます」えー剣術をやれてんで。侍たる者はどうしてもやらなきゃァならん事で。でこういう時は嫌であると、病気であるとおっしゃいます。「余は病気である」「ヘーッ」病気だてぇば仕方が無いから家来の方も引き下がる。「今日は、ァッ馬術のお稽古にござりまして」「余は病気である」「ヘーッ」「えー本日は、えー弓術のお稽古日にござりまする」「余は病気である」なんてんで。何でもみんな病気で片付けまして。病気と言った手前どうも、オーッ方々、喜んで飛んで歩くわけには行きませんで、えー暗い部屋へ入って、ま自然とその病人らしくぼんやり考えている。でそう言う事が段々これ、重なって参りますと今で言う、えーノイローゼと言うんですか、えー昔は気鬱症と言いまして、こうなるてぇと益々どうも扱いにくくなる。でそう言う時には、傍の御用を勤めますのは、主にお坊主と言う者がお相手をしたそうで。一口に、茶坊主だなんてぇ事を言いますが、えー十万石以上になりますと、お坊主と言いましても、表坊主、奥坊主と言う、ちゃんと区別があったそうで。(白湯を啜る)珍斎と言う、これは大変殿様のお気に入りで、お居間の方へは、無闇に人は入る訳にいきませんが特別のお許しがあるので「えー御前、今日はお加減はいかかでございますか。……

6.30分枠の放送録音だが、無理なくすっきりまとまっている。

7.TBS R まわり舞台 放送録音 1969.1.17 都家歌六コレクション

8.

盃の殿様・解説

落語に出て来る殿様は、何かにつけて笑いの種にされている。堅く言えば「身分の相違による価値観の差異」てぇ様な事だろうが、そんな理屈を垂れる事無く笑い飛ばしながら、生活の知恵を自然に学んで行く事が出来るのが落語の良い所であると私は思っている。みんながみんな「大名は大名だけの暑さかな」を理解し、家来の立場を理解していれば、世の中ぎすぎすしないと思うがどうだろう。せっかく落語の世界に浸っているのだから、せめて落語の好きな人達だけは世の中気楽にやっていきたいものである。留さんの「落語は善の道へ導く」は、けだし名言である。

 しかし、世の中仮病と言うのは何かにつけて用いるものであろう。「余は病気である」てな事を利用した覚えは皆さんあるのでは…。仮病を使っても落語を聴いていれば気鬱性にはならないと思うがどうだろう。

時代設定:江戸時代。太平の世の中。

舞台:江戸お屋敷、吉原、江戸より東海道を下り三百何十里のお国表、箱根山中。

登場人物:殿様、茶坊主珍斎、御意見番植村弥十郎、お留守居役、医者、ご近習約三十名はじめ同勢三百六十余名、花魁・白鳥、雲井、小紫、扇屋右衛門抱え花扇、茶屋勤めオールスター・キャスト、足軽早見東作、箱根山中で盃を交わせし殿様。

ベストテイク:VTRもあり、安定している「盃の殿様…2」。

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