三遊亭圓生音源データ
お若伊之助−1
1.TS-02830B1
2.1978.3.29,東横劇場,東横落語会第207回
3.35:34
4.AP.KSZ-2035(CT)
5.出囃子 正札附
えー、お若いうちと言うものは、昔からとかくゥーッ間違えが起りやすいと言いますが。えー、横山町三丁目に、栄屋と言う、ゥッ薬屋がありまして。旦那が早く亡くなったがおかみさんがなかなかしっかりしておりまして、商売の方も、ォッ手広くやろうと言う訳で。このここにこの娘が一人おりまして、名前がお若さんと言う。年が、ァッ十八で、栄屋小町と言われたこれが、ァーッ美人で。勿論ま昔はいい女と言うと、(トン)第一に頭の毛がァ、良くなくちゃァいけませんでね、髪は烏の濡れ羽色と言う。今は赤くしたりなにかするのがありますが。えー昔はまァ赤い毛は嫌がれたもので、えー黒い方が宜しいと言う訳で。えー、額の所が雁額。眉(まみげ)が三日月と言うので。まァ二ァつあるから六日月と言っても宜しいぐらいで。目が鈴を張った様な黒眼勝ちと言うン。尤もまァ黒目勝ちだからいい訳でね、白眼勝ちだった日には向うが見(め)えないが。えー鼻筋がツーンと、通っている。御婦人はあんまりこの鼻の高いのは険があると言いまして、低い方が大変いい。えーもっともまァこの低いと言ったってそりゃ程度がありましてね、三年一緒になってるが女房の鼻をはっきり見た事が無いなんてんで。天気のいい時に日向へ寝かして、拡大鏡で見ると微かにこんもり高い所がある。「あの辺が鼻のあった跡かしらン」なんてんでね、そんなに低くっちゃァいけないが。お若さんのは、ツンと高いが険も無ければ匕口も無いと言う誠に平和な鼻でございますが。えぇー唇のこの余り厚いのは、何だか、口中が臭そうで、といって薄いてぇとお喋りをしそうで、厚っぺらで無く薄っぺらで無く丁度いいっぺらと言うぺらと言う。なかなかこりゃァ難しいもので。それからこの、ォー歯は冬瓜の種を並べたと言う様に、揃っておりまして。…… ……<肩〜乳〜尻>…… ……足だってそうですよこの、象が脚気を患った様にぶくぶくしていちゃァいけない。まァ万事に均整が取れておりまして、非の打ちどころの無いと言う美人で。えー一人娘でもあれば色々我儘を言いまして。「おっ母さんわたくしも色々、お稽古ゥはさして戴きましたがまだ、一中節と言うものを習っておりませんので、お稽古をしたいと思いますが」……
6.東横落語会の録音。
7.AP.KSZ-2035 CT COPY
8.
お若伊之助−2
1.TS-02911C1
2.1975.5.14,CBS・ソニー,スタジオ,客なし,「圓生百席第六十五席」
3.48:19
4.CS.60AG-301,FCLY-1,FKLY-1(CT),CSTC-9013(CT),SR.SRCL-3816(CD)
5.出囃子 たぬき前弾き 受囃子 たぬき段切れ
噺家の仲間に、符牒ではございませんが、『化ける』と言う言葉を使います。これは平生お客様が来ない席へ、何かの事で不意に、大入りンなったりなにかする、でそれを『化ける』と言います。「どォーも今夜はあすこは、大変な化け方」「そうかい」「オーッ、驚いたね、大化けですよ」「ウーンそいつは有難いね」なんてんで。お客様の来ることを『化ける』と言う。ぇそれから芸の上でも、「この人はもう、将来大した事は無いだろう」なんてんで、見縊っていたのが、何かの事で、急にそのゥ、良くなりまして、ずんずん芸が上って来る。「この頃は化けましたねぇ」「えぇ」「大変な化け方だね」なんてんで。ま『化ける』と言う事は我々の方ではいい事に使いますが。俳優と言うものはあれは、舞台の上で色々、化けると言う訳で。…… ……<役者が化ける〜鯉鶴の話〜女の化粧〜髷の話>…… ……『人愚か美人と言えど皮一重、骸骨の上を粧うて花見かな』なんと言う。えー悟った様な事を言っていますが、やはりどうもそれ、綺麗な物を見れば目に美しいから、それに迷うと言うのがこらまァ人情でございますが。横山町三丁目に、栄屋と言う、薬屋がありまして旦那は亡くなりましたが、おかみさんがなかなかしっかりしているので、以前よりは商売を、手広く、ウー盛大にやっていると言う訳で。ここにお若と言う娘がありまして年が十八で、栄屋小町と言われたこれが美人。尤も、ンー昔はいい女と言うと髪の毛が黒い。今はどう言う訳ですかあの赤く染めたりなにかしますがな。えー、毛の位として、赤いのよりは、黒い方が上なんだそうですね。えぇ金髪と言うものが、まこれが第一で、でその次には、黒い毛だと言いますが。これはやはりこうしっとりとして黒い。髪は烏の濡れ羽色なんと言う。額の所が雁額で、眉(まみげ)が三日月眉。二ァつあるから六日月と言っても宜しいぐらい。…… ……<目〜鼻〜唇〜歯〜肩〜乳〜尻>…… ……足も象が脚気を患った様にぶくぶくしていちゃァいけませんで。万事に均整が取れておりましてもう実に、非の打ちどころが無いと言ういい女で。一人娘でもあり、色々、自分の我儘も言いまして。「おっ母さんわたくしも色々、お稽古を致しましたがまだ一中節と言うものを習いませんので、お稽古ゥをさして戴きたいのでございますが」……
6.「圓生百席」の録音。これを元にした速記が中公文庫「圓生人情噺(上)」に収められているが、枕が一部割愛されている。
7.CS.FKLY-1 CT COPY
8.
お若伊之助−3
1.TS-02956A1
2.1966.3.18,NHK,東京落語会第81回
3.27:45
4.なし
5.出囃子 正札附
えー、お若伊之助と言う、お噺でございますが。まァお若いうちと言うものはどうもとかく、ァーッ間違えが出来やすいと言いますが。えー、(カット)横山町三丁目に、栄屋と言う生薬屋がありまして。旦那は亡くなりましたがおかみさんがなかなか、ァッ、男勝りで、商売の方も、ォー手広くやっておりまして繁盛しているがここに娘がありまして、お若と言う一人娘で、年が、ァッ十八と言う、ぇ栄屋小町と言われる程のこれが美人でございまして。昔はまァいい女と言うと、頭の毛が黒くなくちゃァいけませんで。今はまァ赤く染めたり、ィー黄色く染めたり、五色の色がございましてまァ、えー、色々でございますが、昔はまァ髪と言うものは、女は黒いのが第一としてありまして髪は烏の濡れ羽色なんという。で額の所が雁額でございまして眉(まみげ)が三日月と言う。二ァつあるから六日月と言っても宜しいぐらいで。えー目が鈴を張った様な黒眼勝ちと言う。もっともま黒目勝ちが宜しいんでしてね、白眼勝ちだった日には向うが見(め)えませんけれども。ぇー鼻筋がツーンと通っておりますが、御婦人はあんまり鼻の高いのは険があると言う。あれは低い方が愛嬌があるてぇますが勿論まァ、低いと言ったってこりゃ程度でございまして、三年夫婦になってるが女房の鼻をはっきり見た事が無いなんてんで。お天気のいい時に日向へ寝かして、拡大鏡で見ると微かにこんもり高い所がある。「あァ、あの辺が鼻のあった跡かしらン」なんてんでね、そんなに低いのはいけないが。えーお若さんは、高いが、険も無ければ匕口も無いと言う誠に平和な鼻でございまして。え唇のあんまり厚いのはこの、ォー口中が臭そうで、といって薄いてぇとお喋りをしそうで、厚っぺらで無く薄っぺらで無く丁度いいっぺらと言うぺらで。なかなかこの加減が難しいところで。で万事に均整が取れておりましてもうどこと、非の打ちどころも無いと言う美人で。い一人娘でもアあれば色々、我儘も申しまして「おっ母さんわたくしも、色んなものを稽古をさして戴きましたが、まだ一中節を習っておりませんので、お稽古がしたいと思いますが」……
6.東京落語会の録音。(カット)の所で明らかなカットがある。
7.NHK R 古典落語 放送録音 野口氏ライブラリー
8.それ程口演回数の少ない噺では無いが、余り音が残っていない。放送録音は今の所この一本だけである。
お若伊之助−4
1.TS-02989A1
2.不明
3.36:26
4.CTA.RZ-16(CT)
5.出囃子 正札附
えー、毎度この、ォーッ、えー、色気と言う事を申し上げますが、えー色気と言うのは、ァーッ今のエロとは違いまして、まァ一寸した所に、ィーッ色気の有る無しがございますが。ゥーン御婦人と言うとこらァもう、ォー色気の取締りの様なもので。えー昔からどうも、いい女だなんてぇとこの、ォッとかく問題になりますもので。往来で水なぞを撒いておりまして、余ったバケツの水を右の方へ、ェーッ撒こうてんでバケツを構えてひょいと見ると、二十二三の綺麗な婦人が出て来ましたから、この人に掛けちゃァ大変ててんで方向転換で左へ撒こうとすると、また十七八の綺麗な娘が出てきて、この人にも掛けちゃァ大変だてんでてめえの頭にガブーッと水を浴びたと言う、馬鹿な話でございますが。えー、横山町三丁目に、栄屋と言う、生薬屋がありまして。えー旦那が早く亡くなりましたがおかみさんが誠にしっかりしておりまして、(白湯を啜る)かいって以前よりは商売も手広くやると言う様な訳で。大変繁盛しているがここにお若と言う一人娘がありまして、えー年が十八、栄屋小町と言われました美人で。勿論まァ昔はこのいい女と言うと、えー第一条件がこの頭の毛が良くなくちゃいけませんでね。えー、黒い毛と言う。今は何ですかこの赤い毛が、ァー流行るんですがね。せっかく黒い毛を赤く染めちまったり何かァしてね。昔は赤い毛は嫌がったもんですがね。「何だいあらとうもろこし見てぇな頭だよ」なんてな事を言ってね悪口を言いましたが。今は大変とうもろこしがおやかって参りまして。えー昔はこの髪は烏の濡れ羽色と言う。黒い。ぇ額の所が雁額と言う。眉(まみげ)が三日月。二ァつあるから六日月と言っても宜しいぐらい。目が鈴を張った様な黒眼勝ちと言う、もっともまァ、黒目勝ちだからいいんでね白眼勝ちだった日には向うが見(め)えないが。…… ……<鼻〜口〜歯〜肩〜乳〜尻〜足>…… ……万事に、均整が取れておりましてもォう実に非の打ちどころが無いと言う美人で。一人娘でもあり色々、我儘を申しまして「おっ母さんわたくしも色々、お稽古はさして戴きましたがまだ一中節と言うものを、習った事がありませんので、是非、お稽古をしたいと思いますので」……
6.データが全く不明の録音。どこか小さな会場での録音の様である。出囃子がきちんと付いている事から変な場所ではなさそうだ。人形町末廣かも知れない。
7.CTA RZ-16 CT COPY
8.叩き売り安売りテープの掘り出し物である。データが全くのところ不明だが、非常に良い録音である。
お若伊之助・解説
別名『因果塚の由来』で古今亭志ん生も演じている。三遊亭圓朝作と言われる人情噺であるが、この種の噺に特有な、大人のおとぎ話と言った雰囲気がある。狸が人間に化けるという非現実的な筋立てになっているが、サゲ近くまでは非現実的な筋立てが暴露されないのが噺を引き付ける要素になっており、良く出来た噺と言える。毎度比較してしまうのは酷だが、に組の初五郎の言動により人情噺でありながら笑いの要素が多い噺を圓生が最後で『因果塚の由来でございます』と、あくまでも真面目に終らせるのに対し、志ん生はあくまでも笑いを忘れさせずに終らせる所が、この二人の大きな違いであると思うのだがどうだろう。恐らく一朝老人からの伝承と思われ、林家正蔵も持ちねたに入れてあるが、いつの日か正蔵師がある会で圓生師と共演した折に圓生師がこの『お若』を演じたのを、その直後の別の会で『また、細かに覚えてるんですねぇ…』と評していたのが、とても印象に残っている。その点では圓生師の『お若伊之助』は志ん生師よりも正蔵師よりも正確な伝承である事には違いないものと思われる。
時代設定:江戸時代。
舞台:横山町三丁目栄屋、根岸お行の松今井流長尾一角道場、両国菅野伊之助宅。
登場人物:栄屋一人娘お若、栄屋未亡人、出入りの鳶頭「に組」の初五郎、一中節師匠菅野伊之助26才、今井流遣い手長尾一角、長尾一角門弟衆、伊之助に化けた助平狸。
ベストテイク:正体不明の安売りテープの「お若伊之助…4」が、皮肉にも良い出来である。他の録音も決して悪くはない。