三遊亭圓生音源データノート

蔵前駕籠−1

1.TS-02907D3

2.(1961.4.3),NHK,スタジオ,客なし,「芸能ホール:圓生五夜第一夜」

3.13:24

4.なし

5.出囃子 正札附

えー、名物に、昔はこの江戸と申しました時代、『武士鰹大名小路生鰯、茶店紫火消錦絵』、まだこの他に追加がございまして、『火事喧嘩伊勢屋稲荷に犬の糞』なんと言う。嫌な名物で、犬の、ォーッ、肥料なんてぇ物は余り綺麗な名物ではございませんが。ぇ第一に武士と言う事を謳ってありますがこれは別に、江戸の武士が別に強(つお)い訳では無いんだそうで。お侍の数と言うものが大変、ェーッ、多くごございまして。二百六十四大名旗本八万旗、まその他随分この、ォーッ、お侍が、往来をもうぞろぞろ歩いておりましたので。そこでその名物になったんだそうで。江戸府内におります間は、ァーッ、将軍家お膝元と言うので、大名の行列なぞがあっても脇ィ寄れば宜しい。で江戸から一歩でも出ますと、道中格式と言うので、下座ぶれと言うのが参りまして……  ……<加賀か〜千住の青物市場の芋〜唐人に釣鐘>……  ……さァ世の中が追い追い乱れて参りまして、さあ、諸国から浪人組なんてぇ者が入って来てね、徳川公へお味方がせんが為に参ったなんてんで、まァ考えりゃァ誠に、徳川様が迷惑な話で、そんな無頼漢を頼んだ訳じゃァ無いが勝手に名前を付けて、押し込んで参ります。えー、切り取り強盗は武士の習いであるなんと言う勝手な言って。真っ昼間抜刀を持って、豪商豪家ィ厳談に及ぶと言うので。……  ……<軍用金強盗>……  ……でその時分一番激しかったのはこの、蔵前通りィ追剥ぎが出まして、これは吉原行きの駕籠と見るとやられまして。駕籠屋さんの方でも威勢良く、中へ繰り込もうてんですから「ホッ、…ェホッ、…ェホッ、…ェホッ」なんてんで来る。「何処へ行くんだ」「…たま…たまたま、へーたまンたま…ェー田町に叔母が、ォッ…叔母がございまして、急病でございますが、…これからみまいまいまいに参りますんで…」「何だはっきり口を利け。何、田町の叔母ンとこィ、病気見舞いに参ります嘘をつけ。病気見舞いに行く奴が赤ぇ面ァして折りをぶら下げて行く奴があるか。そうじゃァねえんだろ。ウーン、遊里ィ行って、無駄な銭を使うのだ。左様な、泡銭があったら、こちらへ貸してくれ、軍用金に致して遣わすから、これ、貸すか、貸さんか」嫌な心持ちで、刀のひらで頬っぺたなんぞを叩かれるから「ヘヘヘヘヘヘヘッ宜しゅう宜しゅうございます。残らずァッ、差し上げますからどうぞ、命だけはお助けの程を願いまして」「命までも取ろうてんじゃァねぇ、さァさァ、裸ンなれ」 uおいおい、寒い時分じゃァ、襦袢だけは許してやれ」「ンー、そうか。しからば、襦袢は許して遣わすから」「ヘッどうも誠に、御親切に有り難うございます」なんてんで。自分の物を取られて礼を言うんですからこんな馬鹿な話は無い。……

6.珍品である。噺としては珍しい物では無いが、圓生の演じるのは晩年では殆ど記録に残っていない。

7.NHK R 芸能ホール 放送録音 1961.4.3 重富氏ライブラリー

8.

蔵前駕籠−2

1.TS-12697A2

2.(1962.3.7),TBS,「演芸お笑いセンター」

3.13:06

4.Cr.CRCY-10065(CD),CRTY-10065(CT)

5.出囃子 正札附

江戸と申しました、ァーッ、時分にこの、名物と申しますと『武士鰹、大名小路生鰯、ィーッ、茶店紫火消錦絵』と言う。でこの他にまだ、ァーッ追加がございましてね、『火事喧嘩伊勢屋稲荷に犬の糞』なんと言う。あんまりどうもいい名物はございませんが。まァ一番始めにこの武士と言う事を、ォッ謳いますが、こらァま江戸の武士が別に強(つお)い訳では無いんだそうで。お侍の数が大変多いので、ェッ江戸の名物になりまして。まこの、ォーッ、将軍家のお膝元と言うので、江戸府内にいる間は、お大名の行列なぞがあっても、脇ィ寄れば宜しいのでございまして、こらァまァその、ォッ他の者から見ると江戸っ子は幅の利いたもんで。……  ……<加賀か〜千住の青物市場の芋>……  ……献上に上がる長芋がこの位な勢いで、二本たばさんだ、ァッお侍と言うものは、町人の目から見りゃァ確かに恐かったんでございましょうが。徳川も末になって参りますと段々世の中が乱れて参りまして旗本の次男三男になると、剣術ハッなんてぇ物はまるっきり御承知が無い。その代わりにどこの若様は、ァッ長唄がお上手でいらっしゃるとかね、声色を大変良くお使いになるなんてんで、大小を差して声色なんぞを使ってる様な料簡ですから、追い追いにねだが緩んで参ります。諸国から浪人組なんと言う者が入り、えーこれが、ァーッ切り取り強盗は武士の習いであるなんと言う、勝手な事を言ってね、方々でこのすっぱ抜きをしたり、追い剥ぎと言う奴で。一番激しかったのはこの蔵前通り。何故、蔵前通りが多いかてぇと、これはその吉原行きの駕籠てぇものが通りましてね、ウーン、遊(あす)びに行こうてんですから幾らか、懐へお金を持っている。こいつを狙おうてぇ奴で。駕籠屋さんの方でも威勢良く、鳴きを弾まして「ホッ、ェホッ、ェホッ、ェホッ」なんてんで、蔵前通りへ掛かる「待て、…オーッ」「へぇ」「何処へ参る」「…たまたまたま、田町に叔母ウワウワ、…叔母がございますので、これからフワフワ田町の叔母の所へまいまい参りますので…」「ウーン、何かわからんだはっきり、物を言え。何、田町の叔母ンとこィ、病気見舞いに参ります。嘘をつけ。病気見舞いに行く奴が赤ぇ面ァして折りをぶら下げて行く奴があるか。そうじゃァあるめぇ。吉原の女郎のとこへ見舞えに行くんだろう、ウーン。この助平野郎。遊里ィ行って、無駄な銭を使うんなら、軍用金に致すから、これを身ぐるみ脱いで置いて参れ。我々は、諸国から参った浪士の者だ。軍用金にして遣わすから、その荷ぐるみ脱いで置いて参れ。これ、貸すか」なんて嫌な心持ちで。刀のひらで頬っぺたをペタペタ叩かれるから「えヘヘヘヘヘヘ宜しゅうございます。どうぞ、命ばかりはおた、お助けの程を願いまして」「命までも取ろうとは申さん、さァさァ、着物を脱げ着物を」「おいおい、中村、寒い時じゃァ襦袢だけは許してやれ」「しからば、武士の情けだ、襦袢は許して遣わすから」「はっ左様でげすかどうも、誠に御親切にありありあり有り難う存じます」なんてんで。自分の物を取られて礼を言うんですから世の中にこんな気の利かない話は無い。……

6.こちらはライヴによる口演。

7.Cr.CRCY-10065 CD COPY

8.スタジオ録音に無かった、「この助平野郎」が実におかしい。

蔵前駕籠・解説

これも、圓生の演目としては馴染みの無いものである。寄席でこの噺に当たった人もいない様だ。戦前の記録に残っている程度で、ホールでの口演記録も無く、放送もこの二回だけの様である。噺はお馴染みの物で圓生だからと言って特に変わった所が無い。蔵前通りの榧寺付近で追い剥ぎが出たと限定している事や、追い剥ぎの口上が金馬師(上手な方の)のものと異なる程度である。蔵前通りと言えば、お馴染み野口若旦那や三品さんが思い浮かぶ。ひょっとして追い剥ぎは二人の先祖かも知れない。

時代設定:明治維新直前。

舞台:江戸勘店先、蔵前通り榧寺。

登場人物:女郎買いの客、江戸勘の駕篭かき2名、追い剥ぎ7〜8人。

ベストテイク:やはりライヴで「蔵前駕籠…2」。

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