三遊亭圓生音源データノート
肝潰し−1
1.TS-02506C1
2.1968.8.16,NHK,ヤマハ・ホール,「東京落語会第110回」
3.27:03
4.なし
5.出囃子 正札附
えー、(カット)御贔屓を頂きまして有難く、ァッ御礼を申し上げまして。えー、昔からこの、ァーッ『人は病の器』なんと言う、諺がございまして、まァ人間はこのゥ、ァーッ、病気と言うものが色々ございますが。ま大体これェ、ェー幾つ位有る物かと思っておりましたら、えぇー、四百四病と言いましてね、…… ……<曽我の狂言〜脳充血〜肺病〜癌〜ちょいちょい来たまえ>…… ……それからこのゥ、ォーッ、無くなった病というのがあります。えー、昔あって今無いと言うこれはその恋患いと言う。あの病気は今はとんと、聞いた事も無し、まァ、ァーッ絶対無くなったんでございましょうが昔は良くあったそうですな恋の病と言う。こりゃァやはり、ィーッ美人でなければいけないン。幾ら患ったってあァたァ、ねぇ、ブルドッグがベレー帽を被ったような顔をしていたんじゃァ、同情がしにくいがやはりいい女で、色の白い所ィ、病の為に少しこう青くなりまして、蛍光灯の様な顔色、でここィ、鬢のおくれ毛が二三本顔ィ下がるという。らァ誠に色気のあるもんで。もっともま色の白い所ィ黒い毛が下がるから色気がある。黒い顔へ白い毛が下がる様になった日にはこりゃァもう色っぽくもなんともないン。これを前歯でくわえて向うを睨んだ顔色なんてぇのは無いン。ぇー、間抜けな人が見ると、ブルブルッと震えて小便を漏らすてぇますがね汚い奴ァ無いン。ぇー男の恋患いてぇのはこりゃァいけませんで。第一髭という物が生えまして汚な細工で。まァ勿論、男の恋患いは無いとは、申せませんで。有名なのが…… ……<坊主に桜>…… ……今はもう患ってるなんてぇ事はありませんで、えー御婦人だって活発ですからね。もう直接談判に及ぶから事が早いね。「あのォこの間申し上げたあの縁談のお話でございますがまだ、今もってお返事もございませんがどういうなんでございます」「いや、実はァ、その事で、国元の父と相談をした所が、アハン、まだ両三年は早いからと言う」「あそうですかァいいえ、別にあなたでなければならないてぇ訳も無いんですのあァ、じゃァあのゥ木村さんと吉田さんの方を伺って見るわ」なんてまるで空家を探しているように。これじゃァ患おうったって患えやァしませんが。「おい、どうした、いるかァ。…どォしたい、まだいけねぇか。…どうだい具合は。いや塩梅(あんへえ)はどうだい」「お陰で、おいおい」「…そうかァ、いい方、え、いいのか」「悪い方で」……
6.東京落語会の録音である。東京落語会はそれ程出演回数が多い訳で無いのに、1965年から1971年の間に3回もこの『肝潰し』を掛けているのは不思議である。冒頭にカットがある。
7.NHK R 古典落語 放送録音 1968.9.24
8.この噺は上方ねたで、余り演り手もなく、他に二代目円歌の録音が残っている位である。
肝潰し−2
1.TS-02530D2
2.1974.10.29,TBS,国立小劇場,落語研究会第80回
3.24:30
4.なし
5.出囃子 正札附
えー、色々この、世の中と言うものも、ァーッ、変ってまいりますが。えー、病でさえも、ァーッ今と昔とは、ま様々に変りましてまァ増えました病は随分ございましょうが、逆にこの、エッヘン無くなったと言う、ゥー病気もありまして。昔あって今無いのが何かてぇとあの恋患いと言う。(白湯を啜る)あの病気は、ァーッとんと聞きませんようで。えー恋の病、(チリン)こりゃァやはり、ィー美人じゃなければいけませんでね。折角患っても、ァーブルドッグが、毛糸のシャッポを被ってるようじゃァ、こりゃァどうも、同情がしにくいがやはりいい女で、色の白い所ィ病の為に少しこう青くなりましてね、蛍光灯の様な顔色ンなったところへ、鬢のおくれ毛が二三本顔ィこのぱらっと下がるという。誠にどうも色っぽいもので。もっともまァ色の白い所ィ黒い毛が下がるから色っぽいん。ぇー黒い顔へ白い毛が下がる様になった日にゃァもうどうにもしょうがないン。ぇこれを前歯でくわえて向うをこう睨んだ顔色なんてぇのはありませんよ。ねぇ、気の小さい人が見るとブルブルッと震えて小便を漏らすてぇがね、汚い奴は無いが。男の恋患いという物をこりゃァまァ、ァーッ、無いという訳ではございませんが。…… ……<坊主に桜>…… ……まどうも少しィ、話がおかしな事がなりましたが「おい、おい、どうしたい」「ゥ…」「…どうだい、具合は」「ゥン」「唸ってちゃァいけねぇな。いえどうだって聞いてんだよ」「お陰で、おいおい」「…そうかァ、いいのか」「悪い方で」……
6.国立小劇場の落語研究会での録音。国立ではこの一回の口演記録しかない。
7.TBS TV おまちかね名作寄席 放送録音 1974.12.30
8.まくらが手短に、すっきりと纏まっている。
肝潰し−3
1.TS-02961B2
2.1965.3.12,NHK,ヤマハ・ホール,東京落語会第69回
3.26:33
4.なし
5.出囃子 正札附
えー、昔からまァ、何事も変ったと言う事は、ァッ毎度申し上げておりますが。えー、病が変わり、まァこのゥ、ァーッお医者様でございますが、昔は、お医者様という、ァ事がすぐに、お目にかかると分りましたが近頃は、えーっ、向こう様で、ェーッあたしは医者だとおっしゃるか、名刺でも頂かないと、ォ分りませんが昔はもう、えーお目にかかるとすぐに「あーこりゃァもう先生だな」てぇ事が分ったん。えどういう訳だてぇと、ォーッ医者の臭いがいたしましてね。医者の臭いてぇとおかしい様ですが。その時分にはあの、ヨードホド、ホルムと言うんですか、えーあの薬を使いまして外科でも内科でも、傷薬でございますが。石炭酸の様なこの、強(つお)い臭いがいたしまして。であれがもう自然に、ェーッ服ィこう染み込んでおりましてね、で会う途端にあのプーンと、ァヨードホルムの臭いがするんで「あーこりゃもう先生だな」てぇ事がすぐに分ったもので。えー病と言うものも、まァ近頃は随分、ァーッ色んなのが増えて参りまして、えー昔から思えば、ァ数は増えましたものでございましょうが。逆にこれが減った病がありまして。え昔あって今、ァー無くなった病気は何だと言うと、あの恋患いと言う。あの病気は今は、ァーとんと聞いた事もありませんが。えー、昔はこのゥ、ァーッ、恋の病と言いまして、(白湯を啜る)これはまァ御婦人が主に、多い様でございますが。えー、お気が小さい、まァ、一つに思い詰めるから、恋患いをすると言う。まァ、ァー今はそういう事は無いと言うのは、昔と違ってもう御婦人がその図々しくなっえーいゃアーッ、なんでございます、あのゥ、えー、ずうー、もうずうっと、利口になってらっしゃいますから、ンー患うなんと言う事は、ありませんでもう、ォーその前に向うへ直接談判に及ぶから、事が早い。…… ……<直接談判〜美人の恋患い〜男の恋患い〜坊主に桜>…… ……「どうしたい、おい、いるかァ。おう」「ゥーン」「どうだい、具合は」「ゥン」「何だ唸ってちゃァしょうがねぇな。塩梅(あんべえ)はどうだってんだよ」「…お陰で、おいおい」「…そうかァ、おいおいいいのか」「悪い方で」……
6.東京落語会の録音である。1965年から1971年の間の3回の『肝潰し』の中で、一番古い録音である。
7.NHK R 古典落語 放送録音 1966.5.10 野口氏ライブラリー
8.
肝潰し−4
1.TS-02987A2
2.1976.5.13,CBS・ソニー,スタジオ,客なし,「圓生百席第六十四席」
3.29:37
4.CS.60AG-137,SR.SRCL-3824(CD)
5.出囃子 保名の出 受囃子 虫の音
昔からこの、ォッ、病でも、増えた病減った病と色々あると言いますが、あのゥあたくしども子供の時分に、疝気という事を良く言いましてね、「どうしましたァ」「どうもねぇ疝気で困ったんだよ」なんてんで。えー今のお医者様に伺っても、なんか良くご存じがない様ですが、えー昔は良く疝気だ疝気だってぇましてね、腰の所が何かこう突っ張るとか、ま冷えから来るゥ病気なんでしょうか、えーひとしきりおかしかったのがこのゥ、席を休んで、聞くと「疝気です」とこう言うんですね。…… ……<三遊亭圓橘の疝気>…… ……えーそれからあの恋患いなんと言う、病気もォとんと聞きませんで、恋の病、ゥりゃァやはりいい女でしょうねぇ患うにィ。折角患っても、どうもォカバがベレー帽を被ってる様な顔じゃァどうも同情がしにくい。えー、色の白い所へ、青味を帯びるなんと言う。抜ける様に白い所ィ黒い、後れ毛が二三本顔ィ下がるなんと言う大変いいもんで。ゥえーっ尤もまァ、白い顔へ黒い毛が下がれば宜しいんですが、黒い顔へ白い毛が下がる様になった日にはこりゃァもう色っぽくは無い。えーまァ恋患いと言う物は、幾らもあったと言う。どういう訳かてぇと御婦人と言うものは思う事を口に出せない、只胸に思い詰めて、くよくよしているからそういう病気になると言う。ナーそこへいくてぇともう今の女は図々、ゥー何ですゥ、ウウーン、えーもうずうっと、活発でいらっしゃいますから、ねぇ、えー恋患いなんてぇ物をする訳が無い。向うへもう、すぐに談判に及ぶから…… ……<直接談判>…… ……まあ稀にはそういう事もあると言う「おい、どうしたい、おう」「ゥーン」「どうしたい、まだいけねぇのか」「ゥン」「どんな様子だい」「こんな様子だァ」「おい、こんな様子じゃァ分らねぇやなァ。いえどうなんだよ具合は」「ゥーン、…お陰で、おいおい」「…おいおいいいのか」「悪い方で」……
6.「圓生百席」の録音。
7.CS.60AG-137 DISC COPY
8.
肝潰し・解説
元々は大阪ねたなのだそうだが現在は桂米朝師が演じるぐらいで、東京でも圓生師と円歌師が演じた位である。芝居噺風にも演じる事の出来る噺だが、圓生師はあえて芝居かがる演出はしていなかった。なんとも不思議な病『恋患い』を扱った噺。大概『恋患い』と来ると若旦那が出て来るもんだが、これはごく普通の町人である所が珍しいと言える。『紺屋高尾』や『搗屋無間』はおおよそ恋患いに無縁そうな田舎者が恋患いになる設定が笑いの元になっているが、一般人の『恋患い』は貴重だ。『今はそういう事はございませんが…』と言っているが、今でもこの病に近い症状の患者がいないとは言えない様である。しかし、女より男に良く見られる様で、やはり御婦人は活発になられたのだろう。圓生師のこの噺で不思議なのは、余り数多く出ていない東京落語会で1965年から1971年のたった6年間に3回もこの噺を掛けている事である。プログラムの上なので、本当に3回掛けたのかは分からないが少なくとも2回は録音が残っているので確かである。4つの録音の内2つがこの東京落語会の録音である。
時代設定:江戸時代。
舞台:民宅、兄ィ宅。
登場人物:民、その兄ィ、その妹、医者。
ベストテイク:「肝潰し…2」の国立小劇場、落語研究会の物を採ろう。
PS.「肝潰し」はもう3席上のデータに未公開の音源があります。もう少々しましたらUPします。