何故か中学生の頃から魅せられてしまって、録音しはじめた落語。いつの日かそのテープは壁を埋め尽くすほどになっていました。しかし、かたくなまでにオープンリールで録音し続けたそのライブラリーは、デジタル時代を迎えオープンリール方式の衰退とともに将来が危ぶまれる危機に陥りました。もとより自分の楽しみのために録音しはじめたこのコレクションですが、次世代へ継承したいと、もう一度整理しなおそうと考えました。同じ様にコレクションをし続けてきた仲間にも呼びかけ、我々の集めた名人芸の数々を形を決めて残し、できる事なら「落語・音の博物館」を作って殿堂入りさせたいと思っています。私はとても「音の博物館」を作り上げるような蓄財などありませんし、我々の仲間も落語に登場する人物さながらの貧乏人揃いです。しかし、「音の博物館」に入れるにふさわしいライブラリーは所持しています。入れる箱は無くとも中身だけは作って行こう、とこの「極楽亭プロジェクト」をスタートさせました。公開については、まだ具体的にどうするかは何も決まっていませんが、これから落語を聞こうと言う人のためにも、いずれはなんらかの形で公開したいと思っております。
とにかく、古いテープの数々、レコード類のリストアを開始しました。
◎古いもののリストアを優先させる。
◎同じ音源が複数あるものは、音質やカットの有無を調査したうえで、一番オリジナルに近いもの、音質の良いものを選んで保存する。
◎LP、カセット、CDなどで市販されているものに関しても、音質やカットの有無を調査したうえで、一番オリジナルに近いもの、音質の良いものを選んで保存する。
◎市販されたものについては、出来る限り元のソース(レコード・カセット)より保存する。
◎ピッチ誤差などがあるものは修正して保存する。
◎必要とあらば可能な限り音質改善をして聴きやすい音にして保存する。
こんな方針で、作業は開始されました。
私のライブラリーは、1967年から録音開始されていますが、当時の中学生が落語番組全部を残せるほど財力はありませんし、当時の耳で選んだものしか残されていません。今回のプロジェクトに賛成してくれた、やはり数多くのオープンリールテープを残している誰もがみな、財力(とにかくテープは安くなかった)と暇(タイマー録音などままならない時代)との戦いで、残したものは放送番組全部では無いのです。が、夫々のコレクションを合わせると、番組データのかなりの数をチェック出来るのです。夫々のコレクションを交換し合って我々は自らのコレクションを増やし、楽しんで参りました。しかし、私のライブラリーもそうなのですが、オリジナルのテープは年月とともに着実に老朽化しています。苦労して録音したテープを確実にリストアして共通財産にしよう、いや、これはもうすでに貴重な文化遺産なのです。放送局だって全ての演芸番組を残しているとは思えません。落語をはじめとする演芸の「音」を、しっかりと保存しようとする動きが、公的機関にまだ存在しない限り、こうして残された音は我々の手でしっかりと継承して行かねばならないでしょう。それが「音の博物館・極楽亭プロジェクト」です。
私も既に人生の折り返し地点を過ぎてしまいました。いつか「極楽亭」が完成するのを夢見て、コレクションを楽しみながら整理しようと思っております。まずはデータベースになり得る、音のカタログを作ると言う作業過程です。
「音の博物館・極楽亭プロジェクト」で、私は古いテープ類、レコード類をリストアして、デジタル化し保存する役を担当しています。一応音の面ではプロでもありますから、その経験を基に、音源の鑑定ならびに選定を行い、音質やピッチの修正を行った上で保存する役をお引き受けしています。まずはレコード化されていない、放送録音のテープのリストアがその重要な役目であり、なんとか番組表を数多く塗りつぶすのを目標とします。それとともに、古いレコード、LP、そしてSPもカセットも、完全な形での変換を行いっています。LPでCD化されているものも、差別用語などの問題でLPのままCD化されているとは限りません。それらの音源の中から、より音質の良い、なおかつカットの無いオリジナルを探し、選んだ上で残さなくてはと考えています。私とて、全てのレコードやカセット・CDを全部チェックしている訳ではありません。皆様お手持ちの古いテープ、レコード、カセットに「お宝」が隠されているかも知れないのです。私のコレクションにも、抜けている音は数限りなくあります。コレクションされたテープや、廃盤になって久しい古いレコードやカセットの借用など、今後お願いする事になると存じます。是非とも皆様のご協力をもって、「落語コレクターによる、落語コレクターのための、完璧な落語コレクション」による「極楽亭」にご協力下さい。
多くの協力者を得て、数多くの音源が集っています。これらの音源は現在のところ著作隣接権などの問題もあり、公開するには至りません。ただ、音として残っていると言うだけではなく、放送日などのデータのはっきりした膨大なデータベースとして機能し始めました。まだ僅かではありますが、これらの音源の中から、各所の許諾や著作隣接権などをクリアした上でCD化された作品も発売されております。また、放送局等でのデータ不明音源の解明などに役立っております。今後とも有効利用に向けて模索して参る次第です。