三遊亭圓生音源データノート
蝦蟇の油−1
1.TS-02593A3
2.1977.1.29,NET,新宿末廣亭,「末廣演芸会」
3.12:40
4.なし
5.出囃子 正札附
えー、昔はこの、縁日と言うものが、ァッ、盛んでございまして。えー蝦蟇の油なんてぇ物を売りましたが。なりの拵えはと言うと、黒木綿の紋付きに、ぇー袴を、まちだかの奴をはきまして、これで、えー、片々の台の上には干涸びた、蝦蟇が五六匹、その後ろに、薬の入りましたこの、箱があって、えー蛤の空き殻が渦高くゥ、ゥッ、積み上げてあろうと言うこっちにはまた、棗がありまして刀が一本、半紙というような物が備え付けてある。蝦蟇の油の口上と言うものはなかなかあれェ、いかめしいもので「さァ、御用とお急ぎでないお方は……
6.新宿末廣亭よりの中継。
7.NET TV 末廣演芸会 放送録音 1977.1.29
8.短い時間に合わせて枕を少なめに、いきなり口上へと入る。
蝦蟇の油−2
1.TS-02685D2
2.1979.5.23,東京12チャンネル,日本武道館
3.19:58
4.なし
5.出囃子 正札附(長唄風のいかめしいもの)
えー、あたくしが、ここィ参ります前に、えー、前の靖国神社ィ、お詣りをして、ェッこちらへ伺おうと思っておりましたが、えー、もしお詣りをして、三遊亭圓生が靖国神社へ参詣をしたと言うのが、明日、議会で問題になりまして、ぇーエッヘッヘッ、何か事を起こしてはいけないと思いましたので、お詣りは致しませんで参りましたから、どうぞ、御安心を願いまして。えー、靖国神社と、今は申しますが、えーあたくしども子供の時代から、若い時は、ぇー招魂社と言いまして、「今日は何だよ招魂社のお祭りだから行って見ようよ」なんてな事を言う。えー、お詣りに来るとあの見世物と言う、様々な物がァ出ておりまして、ぇーなかなか楽しい物でございましたが。…… ……<お化け屋敷〜べな〜大笊小笊〜六尺の大鼬>…… ……まァ様々な物がありまして。中にはこのォ、蝦蟇の油なんてぇ物を売りまして。これはそのゥ、あの仲間では立師と言いましてなかなか幅の利いたもので。黒木綿の紋付きに、小倉の袴を裾短に履きまして、こちらの台の上には、ぇー干涸びた蝦蟇が五六匹、ぇー蛤の空き貝がこォー、空き殻が山の様に積んでありまして、箱の中には膏薬が入り、こっちには半紙が一丈、刀が一本、棗が一つあると言う。アー蝦蟇の油の口上なんてぇものはまたいかめしいもので「さァ、御用とお急ぎでないお方は……
6.日本武道館という、とてつもなく広い場所での録音。
7.東京12チャンネル 放送録音
8.確か、圓生師の追悼番組として放送された録音。落語を演ずるには全くもって不適当な武道館ライヴ。落語だけの会では無かった様で、客も良くないし、音声も残響が多く聞き辛く、演ずる方も演じ難そうである。靖国神社のギャグから見世物への導入はさすがと言える。
蝦蟇の油−3
1.TS-02736B2,VT=TV-39036-1
2.1979.8.31,TBS,国立小劇場,落語研究会第136回
3.32:26
4.パイオニア.EE-007(LD)
5.出囃子 正札附
えー、当節この、えぇー、露店と言うものが、ァッ、ございませんで。昔はまァ、四季に、よらず、ゥーそれぞれのみな、ァーッ、いろ、売り物がございまして。えーッ夜店と言うものは随分繁盛したものでまァ、本来は夏の物ォでございましょうが、団扇かなにかを片手に持って、これで風を入れながらあのアセチリンとか、ァッ、アセチレンてぇますか、えーカーバイトと言いまして、臭い匂いのするあのガスを嗅ぎながら、えーぶらぶら、ァーなにかこうひやかして歩くと言う誠に、楽しみな物で。えー食べるものも随分ございましたが、ま時候で言うとこれからは、焼き栗でございますかな、玉蜀黍、えんどう豆なんてぇものを、こりゃァもうよくやっていましてね。「炒りたてぇー豆豆ェー」なんてんでね、パチパチパチパチ音をさして、こいつをあのこう三角になりました新聞紙で、こう、なんかこう、えー貼ってありますその中へ入れて貰ってこいつをポツポツ、齧りながら、ァッ歩くという様な。見世物と言う物も随分ございまして、えー河童の化けもんだとか、あるいは、轆轤首だとか、ひとつやのお婆さんなんと言う。地獄極楽、色んな見世物がありましたが。…… ……<轆轤首〜河童〜蛙娘の口上〜化物屋敷〜べな〜大笊小笊〜六尺の大鼬〜弘法様の石芋〜馬並み>…… ……まァこう言う色んな、ァー昔は見世物がありましたり、(白湯を啜る)売り物があると言う。えぇー、蝦蟇の油とか或いは、エヘン、居合抜きをすると言うあれは、えぇああいうお仲間の中では幅が利いたんだそうで立師と言いましてね。蝦蟇の油なんと言う物は、なかなかそれ一寸大袈裟なもんでね、木綿の紋付きの着物、壇小倉の袴を裾短に履きまして、片々にこう台がありまして、この上へ、えー、棗が一つ乗り、半紙が一丈、でこっちに、ウーン、膏薬の入りました箱と干涸びた、蝦蟇なぞを、前。でそのゥ後ろの方に貝殻がどっさり。蛤の空き貝でごございますねこりゃ積み上げてある。刀がこちらに一本あろうと言う。蝦蟇の油の口上と言うものはなにかいかめしいもので「さ、御用とお急ぎでないお方は……
6.落語研究会の圓生最後の口演。死の2日前の録音である。露店の枕をたっぷり振っている。「おはよう名人会」でも再放送されている他、LD化されている。
7.TBS TV 落語特選会 放送録音 1981.9.5
8.当日、国立小劇場でこの口演を見た私は、その2日後の朝、圓生師の訃報を知らされたが、信じられなかった。今聞きかえしても死の2日前の録音とは思えぬ良い出来である。
蝦蟇の油−4
1.TS-02745B2
2.1977.10.14,砂防会館ホール,独演会
3.25:33
4.To.TY-60024
5.出囃子 筑摩祭り
えー、近頃この、縁日と言うものが、とんとございませんで。まァー、全然無いと言う訳でもあ、ございませんが。昔の様でなく、あのう夏場、アセチリンと言いますかアセチレンてぇますか、あのカーバイトと言う、臭いガスの匂いを嗅ぎながら、団扇を片手に、えーぶらぶら歩いて、ェーッ、何かあのー、見るという。大変楽しみなもので。あのゥ良く売っておりましたのがえんどう豆と言う。なんとなくあの声はのどかなもんで。「炒りたてぇー豆豆ェーー」なんてんでね。えー、大変あれは、ァーッ、いいもんでございますがそれから玉蜀黍だとか、あるいは今頃ですと丹波の焼き栗なんと言う。ゥぇー、食べる話しばかりしている様ですが。ゥーン、見世物と言う物も随分ございましてね、えー轆轤首だとか、河童だとか言ってね。…… ……<河童〜轆轤首〜猫じゃ猫じゃ〜化物屋敷〜蛙娘の口上〜べな〜大笊小笊〜六尺の大鼬>…… ……呆れ返ったもんで、えーこういうもんでもやっぱり、金を出して江戸っ子は、「どうも変な物を見せやがった」なんてんでね、怒らないてぇ所がおかしなもんで。(白湯を啜る)それからあの居合抜きだとか蝦蟇の油売りと言うこりゃ、あのお仲間では立師と言いまして、なかなか幅の利いたもので。蝦蟇の油なぞを売りますには黒木綿の紋付き、まちだかの袴を履きまして、こちらの台の上には干涸びた蝦蟇が、五六匹並べてあって、えぇー、蛤の貝殻がこゥ山の様に積んであります。で箱の中に、こりゃァ薬が入っているこっちには、台の上に刀が一本半紙、それから、棗が置いてあろうと言う。あのォ蝦蟇の油の口上と言うものはまた特有なもので「さ、御用とお急ぎでないお方は……
6.砂防会館ホールでの独演会の録音。この日は「吉住萬蔵」を長演した後、この「蝦蟇の油」を演じた。疲れてしまったのか少々声が荒れている。
7.To.TY-60024 DISC COPY
8.蛙娘の口上で、この時は『金馬が風邪をひいた様な…』と表現しているが、毎回『金馬に正蔵が乗り移った…』などと言って爆笑させている。
蝦蟇の油−5
1.TS-02848B2
2.1976.12.28,東横劇場,東横落語会第192回
3.21:28
4.K.KHA-3024,CKS-294(CT),K18H-5204(CT),KICH-3116(CD),KITH-3116(CT)
5.出囃子 正札附
えー、今このゥ、縁日と言うものが、なくなりまして、我々は何かこう寂(さむ)しいようで。食べるものではえんどう豆なんと言う。あれをこォー、パチパチパチパチ炒りましてね。「炒りたてぇー豆豆ェーー」なんと言う。何か誠に、ィーッ、売り声がのどかでございまして。まァ見世物と言うものが、大きい縁日には必ず出まして、轆轤首だとか、河童だとか、あるいはこのゥ、ァー因果物と言いましてね、えぇ蛇娘鳥娘、蛙娘なんと言う、色んな物がある。えーあのゥ呼び込みと言うものは大変難しゅうございましてね、あれの如何に因ってお客様が入るか入らないかで。あんまりこの綺麗な声はいけませんで、なるべくこォーゥしゃがれた押し潰された様な声でね、それでないとこの見世物らしくないと言う。…… ……<蛙娘の口上〜化物屋敷〜べな〜大笊小笊〜六尺の大鼬>…… ……それでも何でも江戸っ子てぇ者は「なァーン変な物を見せやがんじゃねぇか」なんてんでね、笑ってその済まそうと言う。それからこのォ居合抜きだとか或いは、蝦蟇の油を売るなんと言う、これはその、あの仲間では立師と言いましてなかなか幅の利いたもんだそうで。黒木綿の紋付きに、まちだかの袴を履きましてね、片々にこのゥ、膏薬の入りました箱、干涸びた蝦蟇が、その前に五六匹あって、貝殻が、このどっさりこォ積み重ねてある。でこっちの方には刀が一本半紙、棗なんと言うものが備え付けてありましてね。「さあ、御用とお急ぎでないお方は……
6.東横劇場の東横落語会の録音。『べな』の所で脇の鉄瓶を叩いているのが東横らしくて良い。
7.K.K18H-5204 CT COPY
8.蛙娘の口上は『金馬が風邪をひいた様な…』。
蝦蟇の油−6
1.TS-02906C1
2.1975.11.10,11,CBS・ソニー,スタジオ,客なし,「圓生百席第百二席」
3.53:28
4.CS.60AG-562,SR.SRCL-3821(CD)
5.出囃子 甚じろ 受囃子 吉野
昔この縁日と言うものは非常に盛りましたもので。夏なぞはまあ格別、あのアセチリンと言うかアセチレンと言いますか、カーバイトなんと言いますなあのガスの、臭い匂いを嗅ぎながらこォ歩いている。ぇー、色んな者がありまして。秋口ンなって来ると、丹波の栗なんと言ってね、こいつをパチパチ、こォ焼いております。或いはえんどう豆だとかはじけ豆なんと言う。「炒りたてぇー豆豆ェーー」なんてぇと。パチパチパチパチ音がしてぇる。ああいう物を買いましてぇ食べながら歩くと言う訳で。玉蜀黍なぞも焼いておりましてそれからあのゥ、匂いの良かったのはさざいの壺焼と言う物。どんなに美味しい物かと思うような本当にいい匂いがしたもん、ま実地に食べて見ればさのみ旨くも無いんですけれども、あの醤油ゥがこう、炭の所へこぼれてプーンと、表へ匂って来るのはもう、大した、美味しいもんの様な感じが致しますが。えー、あの店を出す人の事を、『やし』だなんてぇますがそんな事を言うと怒られますが、香具師と言うんだそうです。…… ……<香具師〜両国向両国〜珍物鳴物おっ開き〜轆轤首〜河童〜ずんぶり〜蛙娘の口上〜くっつき〜鼻緒の無い足駄〜べな〜大笊小笊〜六尺の大鼬〜御仏の生れ代り〜化物屋敷〜愛宕下の源次〜やれすけそれすけ〜弘法様の石芋>…… ……またこっちへ来ると蝦蟇の油なんと言う物を売りました。えー居合抜きとか蝦蟇の油売りは、ァッ、あの仲間では立師と言いましてなかなか幅の利いたものだそうで。なりの拵えは黒木綿の紋付き、まちだかの袴を履きましてこれへ襷を掛け、台の上には、蝦蟇の膏薬が入った入れ物、その回りにィッ蛤の貝なぞがこォーっどっさりありまして、干涸びた蝦蟇がそこに五六匹あろうという。また片々の台には、刀が一本、半紙があり棗なぞが乗せてあろうと言う。蝦蟇の油の口上なぞと言うものはまた、ァッ大袈裟なもので「さあ、御用とお急ぎでない方は……
6.「圓生百席」の録音。縁日見世物の噺を全て並べた長演。
7.CS.60AG-562 DISC COPY
8.さすがに百席の録音では『金馬が風邪をひいた様な…』と言うくすぐりを入れないで真面目に(?)演じている。
蝦蟇の油・解説
1979年8月31日、国立小劇場で私は圓生師の『蝦蟇の油』を聞いた。テープで聞く柳好師の『蝦蟇の油』のおかしさは無かったものの、くだらない小咄の羅列に大笑いして帰ったのだが、翌々日の朝、圓生師の訃報を聞き、その時の元気な高座から信じることが出来なかった程驚いたものである。だから圓生師の『蝦蟇の油』と言うと、どうもあの時の朝のショックが蘇ってきてしまっていけない。上野のパンダさえ同じ日に死ななければ、世の中もっとこの昭和の名人の死を大きく話題にしたろうに、実にどうも怪しからんもんで…。そんな『蝦蟇の油』だが、我々のようにテープで色々と過去の名人を聞ける身にとっては先代柳好師の『蝦蟇の油』が余りに偉大なために圓生師の『蝦蟇の油』がどうこうと言う事は無いのである。本篇の蝦蟇の油売りより、むしろ見世物風景のくだらない小咄の羅列や『金馬に正蔵が乗り移った』とか『金馬が風邪をひいた』といったギャグが面白かったし、晩年になってこの様な噺を掛けるようになったのも興味深い。なお、蝦蟇の油売りが本当はどの様に蝦蟇の油を売っていたか、知りたい方は佐藤雅志氏をヨイショすると実演入りで解説してくれる。
時代設定:戦前まではこんな光景が見られたのでは…。
舞台:どこかの縁日。
登場人物:蝦蟇の油売り、観客数名。
ベストテイク:やはり、『蝦蟇の油…3』にとどめをさすであろう。