何もしてなきゃ偉いのか - 悪趣味を笑う無関心

2008年12月31日

 北朝鮮で行われる「人間サファリ」についての報道を、今年いくつか目にしました。

 以下は、週刊文春2008年10月16日号「成金・中国人の新娯楽 北朝鮮「人間サファリ」は人道のかけらもなし」からの引用です。

 中国国境の中国側の街・丹東。いまここで人道のかけらもない娯楽が人気になっている。称して「人間サファリ」。(略)

 問題はその内容。ツアーのお楽しみは、金、食べ物、タバコなどを草むらに投げ込み、国境を守る兵士や住民がそれを拾う様を見て 楽しむという、おぞましいもの。
「見張り場の兵士は、船が帰ると密かに拾うようです。中国人たちはそれを見てクスクスと楽しそうに笑っていました。 食べ物を投げ込んだ中国人ガイドは自慢気でした。ただ、同じ民族である韓国人の客の中には涙を 流す人もいると言います。私自身、非常に怒りを感じました」(略)

週刊文春2008年10月16日号P.50より

 これらの報道への反応を見てみると、やはりと言うかこのようなツアーへの非難が多数ありました。 週刊文春の記事にもある、人道のかけらもない、悪趣味だ、等といった反応です。しかし、私はそのような反応には疑問を感じます。

 北朝鮮の食糧難は広く知られています。通説では1980年代以降2400万人の人口のうち数十万人が飢餓で亡くなったとされ、 500万人死亡とする推計すらあります(参考:「飢餓の北朝鮮で何が起きているか」)。
 北朝鮮の人々にとっては、餓死はまさに今そこにある危機なのです。 人間サファリツアーを非難する人々がそれを知らなかったとは思えません。 そして、このツアーを非難する人々は北朝鮮の人々にこれまで何かをしてきたのでしょうか。

 人間サファリツアーに参加する人々は、少なくとも北朝鮮の人々の飢餓状態をほんのわずかではありますが改善しています。 このツアーによる食糧で命をつないだ人だっていたかも知れません。 それに対してこのツアーを非難する人々は、ほんのわずかでもそういった改善をしたのでしょうか。 していないのなら、わずかでも飢餓をやわらげている人々を非難するのはおかしいでしょう。
 人間サファリツアーには人道のかけらもない? 飢餓状態の人々に全く援助をしないよりは、まだしも人道的でしょう。
 人間サファリツアーは悪趣味? 飢餓を知りながら何もしない無関心よりも、悪趣味の方が飢餓状態の人々にとってはましな態度でしょう。

 上で引用した週刊文春の記事では、このツアーへの韓国での『ゴミのような人間のアイデアだ』という反応を紹介しています。 なるほど、確かにゴミのような人間がこれを考えたのかも知れません。 しかし逆に、北朝鮮の人々に何とかして食糧を送りたいと心から願った人でも 「観光ツアーを組んで参加者の優越感をあおって食糧を投げ込ませよう」と、このアイデアに辿りつく知れません (偶然でしょうが、このツアーの参加者は 『800元(約1万1250円)分の食べ物などを義務的に買わなければならない』 という報道は、この仮定と符合します)。

 このツアーを非難する人には、恵まれない人々に実際に援助をしている人もいるでしょう。 また、もしかすると「嘲笑して援助するよりも、何もしない方が人道的だ」という考えの人もいるのかも知れません。 そういう人には私は何とも思いません。しかし、大半はそうではないのではないでしょうか。

 ウェブでよく見かける(そして支持されている)言葉に、「しない善よりする偽善」というものがあります。 私にはこの言葉は善と偽善の意味を誤解してのものであるように思えますが(※注釈)、 人間サファリツアーを非難する人々に対してはこの言葉を言えば良いのかも知れません。

注釈……善と偽善の違いは思いやりから善行をするか、それとも利己的な意図を持って善行をするか、です。 たとえば、電車でお年寄りに席を譲る際に、純粋にお年寄りを助けたいと思っていたら善、 冷たい人間だと思われるのが嫌だった・英雄的な行為をしたかった等と思っていたら偽善、という違いです (参考:「goo辞書【偽善】」)。 つまり、善と偽善は内心が異なるだけで行為としては同じであり、 「しない善よりする偽善」というのは「しない善よりする善」といっているのと同じで、あまり意味の無い言葉です。

「ヘンペルのカラス」のおかしな解答

2009年9月14日

 最近知ったのですが、「ヘンペルのカラス」という有名な問題とその解答があるのだそうです。 ……が、その解答は間違っているとしか思えません。
 以下は、「ヘンペルのカラス - Wikipedia」 を要約した、その問題と解答とそこから導き出される結論です。

問題 : カラスを一羽も調べずに、全てのカラスが黒いことを証明する方法は?
解答 : 全ての黒くないものを調べ、その中に一羽もカラスがいないことをチェックすれば、 「黒くないものの中にカラスはいない=黒くないカラスはいない=全てのカラスは黒い」ことを証明できる。
 ※なお、この証明方法は直観的には間違っているが理論的には正しい。つまり人間の直観はあてにならない。

……だそうです。しかし、この解答はおかしいのではないでしょうか。

 『全ての黒くないもの』を調べるためにはまず全てのものを調べ、黒いものと黒くないものを 選り分ける必要があります。当然全ての黒いものも調べなければ、『全ての黒くないもの』を選び出すことはできません。 つまりこの解答の証明を実行するには結局は全てのカラスを調べなければならず、この解答は答になっていないのです。

 どこかでこの問題が(あるいは解答が)間違って伝わっているのではないかとも思い、上の問答の提唱者 「カール・ヘンペル - Wikipedia」 のページを見てみると、そこでは「ヘンペルのカラス」について全く別の説明がされています。こちらでの問答とそこから導き出される結論を要約します。

問題 : 全てのカラスが黒いことを証明する方法は?
解答 : 演繹法によれば、『部屋の中にある黒くないものを観察するだけ』でこの証明に近付くことができる。
 ※なお、この証明方法は演繹法としては正しいが現実には間違っている。つまり演繹法は間違っている。

 しかし、こちらの解釈にも無理があると言わざるを得ません。『部屋の中にある黒くないもの』のみを観察する という作為的な選択をしては、演繹法とは言えないでしょう。

 Wikipediaのこれら二つのページはいずれも間違っているのでしょうか。それとも、二つの内いずれかのページは正しく、 単におかしな問答が批判も受けずに流布しているだけなのでしょうか。ご存知の方、教えて頂ければ幸いです。

※上記Wikipediaの内容は、2009年6〜8月時点での内容を元にしています。

【宣伝】注目サイト

2009年9月14日

 最近気になっているイラスト系サイトをご紹介します。なかば黎明さんのサイト、 「黎明紀行 Nakaba ReiMei Illustration Sanctuary」です。

 率直なところまだあまり有名ではないように思うのですが、特に美しい/カッコいい女性を描くことについてはかなりの実力を持った方で、 魅力的なイラストを多数公開されています。

 個人的に特に気に入っているのは2009年6月25日のブログで 公開されているイラストです。クールかつキュート! どうです、素晴らしいでしょう!……って、私が自慢することではありませんが。

サンプル画像
※一部分のみの引用です。画像全体はご本人のサイトでご覧ください。

 恐らく、なかばさんは今後もっともっと注目され、活躍の場を広げて行かれるのではないでしょうか。要チェックです。

※2010年9月17日、リンク先移転に対応