同人ゲーム企画に関する林家氏のコメントについての管理人の見解

 

 ご存知の通り、林家氏は去年の春に同人ゲームの制作を表明されましたが、予定であった「去年内」には結局ゲームが頒布されることは無く、そして、その事に関するアナウンスも一切ありませんでした。
 恐らく、多くの方は「結局出ないのかも……」「いや、でも……」といった相反する想いを抱きながら、心の奥では期待し続けて来られたのではないでしょうか。私のサイトの掲示板には最近も同ゲームへの期待の書き込みがありましたし、私がたまたま読んでいた林家氏とは全く関係のない同人サイトの掲示板に、林家氏の同人ゲームに期待する書き込みがあったこともありました。

 そして、同人ゲームに関する最後のアナウンス(去年の夏コミのサークルカット『パソゲ(WIN)も有。』『WIN版オリジナルADV』)からちょうど一年。今年の夏コミカタログで、同ゲームに関するアナウンスがとうとうあったのです。


   


 ……正直なところ、全く理解できません。
 無論、ゲーム企画がぽしゃったことについて言っているのではありません。それは残念ではありますが、仕方のないことです。私が理解できないのは、そのことを読者にアナウンスする際に、なぜ怒りを以ってそれをしなければならないのか、ということです。
 私は、これは読者に対してあまりにも失礼なものではないかと思い、この場を以ってこのコメントについての見解を述べさせて頂きます。



 まず、林家氏のこのコメントなのですが、これを普通に読み取るのなら、同人ゲームをこれまで楽しみにしてきた全読者に対して林家氏は怒りを表明されていることになる訳ですが、作品を楽しみにするのは読者として当然の行為であり、それに対して怒るというのは読者にあまりにも失礼なのではないでしょうか。
 また、このコメントが問題ある一部の読者に対してのものである可能性もありますが、林家氏の同人ゲームが制作中止になったことに関して読者にそれ程の問題があった、という状況は考えにくいように思います。少なくとも、このコメントから「あ、××をした困った読者がいたんだな」と一般読者が判断するのは無理でしょう。

 このコメントの怒りの対象は不明ですが、これでは読者としては「突然、ワケも分からない内に怒られた」としか捉えようがなく、つまりこの怒りは不当なものであるとしか思えないのです。
 読者に対してそのような発言をされるとは、私としては正直なところ、林家氏の創作姿勢に疑問を感じざるを得ません。



 ただ、林家氏の怒りに正当性があるとは思えないとは言っても、それはあくまで私の想像できる範囲内でのことである、というのは事実です。私が思いつかなかった正当な理由で、林家氏が怒っておられる可能性はあるでしょう。

 ですが、例え林家氏の怒りが正当なものだったとしても、今回の林家氏の行為にはやはり問題があったと私は考えます。
 何故なら ――氏の今回の怒りが正当なものであるなら、それは一部の読者に対してのものであることになるわけですが―― 一部の者を非難するために不特定多数にその非難を表明するやり方そのものに、問題があるからです。

 例えば、私がWeb日記を付けていて、ある日他に何の説明もなく、下のような日記を書いたとします。

×月×日      

(怒)

 あるいは、

×月×日

やれやれ。

 または……

×月×日

……バカ?

 このような日記を見たら、このサイトのお客様はどう思われるでしょうか?
 この前日などに、例えば私のサイトの掲示板に荒らし的な書き込みがあったのなら、恐らく皆さんは納得されるでしょう。しかし、そういった、明らかに誰もが怒りの矛先だろうと判断できる対象が見あたらなかったら?
 その時はきっと、多くの方は大変困惑されるのではないでしょうか。

 きっと私のこういった日記を見たら、ここ数日ほどの間に私のサイトの掲示板に書き込みをされていた方、私にメールを送られていた方などは疑心暗鬼に陥ってしまうでしょう。さらにはウチとリンク関係にあるサイトの方、私が見ていることを知っているサイトの方、ネット外で最近会話した友人なども、「何か変なこと言っちゃったかな?」と不安がられる可能性が高いのではないでしょうか。

 実は、上の例での私の怒りは全く別のことについてのものだったのかも知れません。……が、そんなことは他者には分かりようがありません。つまり、対象が明らかでない悪意が表明された時、それを見た者の多くは無用な不安に陥らざるを得ないのです。
 これは余りにも不合理なことであり、そのような予測もせずにこういった悪意を公開する行為は、問題なのではないでしょうか。

 私を例に挙げるなら、今回の林家氏のコメントを見て、私は(自意識過剰を疑いながらも)自分に対しての怒りである可能性を考え、自分のサイトの掲示板の過去ログを調べ、それ以外の掲示板に書いた林家氏の同人ゲームに関するコメントを思い出し、トップページでの私の紹介文などについてもチェックを行いました。
 今のところ私には自分の発言などに問題があったとは思えませんが、それでも「もしかして私?」という思いはぬぐえず、ことあるごとに気になってしまう……というのが正直なところです。(※1
 今回、他にも同様の不安を感じられたかたは多いのではないでしょうか。例えば、林家氏に「ゲーム、楽しみにしてます」的な内容の手紙などを送られたファンの方などは、特に。
 林家氏が全く気付かないところでも少なからぬ読者がこういった状況に陥っている可能性は充分にある訳で、そういう読者について林家氏はどう思われているのでしょうか?



 そして、このような形で悪意を表明することの問題の一つに、「非難された相手には反論がほとんど不可能である」こともあるように思います。

 例えば、私の上の例のような日記に対し、私のサイトの掲示板に最近書き込みをされたあるお客様が「これは私の書き込みに対してのものかも知れない」と感じられたとします。
 この時、このお客様が「しかし、この管理人は、私の書き込みを勘違いしているのではないだろうか、つまり……」といった反論をすることは難しいでしょう。「あなたの怒りは、私に対してのものとしか思えません。しかし、それには反論が……」だなんて、どうやっても道化にしかなりません。

 このようなやり方は、自分の発言の責任をとらない卑怯なやり方と言われても仕方がないのではないでしょうか。(※2



 もしも、怒りや不満などを公表するのなら、必ず問題となっている行為を明らかにするべきです。もしくは、その相手を明らかにしなければなりません。
 それをせずに不特定多数に対して悪意を表明するというのは、それを聞かされた相手全員に対して失礼ではないでしょうか。

 (無論、明らかに問題のある行為が行われていて、それを皆が知っている状況なら、対象を明確にしない非難はあり得ます。例えば、先に挙げた例の、掲示板への荒らし的な書き込みの存在など。しかし、今回はどう考えてもそういった行為があったとは言えないでしょう。) 



 私は別に、林家氏に「読者を批判するな」と申し上げるつもりはありません。おかしなこと、失礼なことを言われたらその相手を批判する権利は誰にでもあるわけで、それを否定する気は毛頭ないです。
 ただ、批判すべきことがあるのなら、批判の対象を明確にされるべきだと申し上げたいのです。

 林家氏はプロの作家であり、そのために一部の読者の行為を取り上げてことさらに批判することは立場上、難しいのかも知れません。しかし、それができないのなら、初めから批判を行われるべきではありません。
 一部に変な読者がいた。その人だけを批判するのはやりにくかったので、全部の読者に批判をぶつけた――もし今回の林家氏のコメントがこういう物であるのなら、そのやり方には問題があると言わざるを得ません。



 私は率直なところ、林家氏は今回のご自身のコメントに関し、何らかの場できちんと真意を説明された方が良いのではないかと思います。
 林家氏のためにも読者のためにも、その方が良いように思うのですが……如何でしょうか?







 

※1……もし本当に私が何か問題のある行為をしており、それに対して林家氏がお怒りだったのなら、その時は当然ながら謝罪させて頂きます。
 私は立場上人よりも多く同ゲームに関して発言をしているわけで、正直なところ、自分でも認識できない内にそういったことをしてしまっている可能性は否定できないと思います。もしそうだったのなら、まことに申し訳ありません。
 ただ、例え私が本当に失礼なことをしていて、あれがそのことに対してのコメントだったとしても、それを見て勘違いする読者がいる可能性が高い以上、林家氏は絶対にああいった形で発言をされるべきではないと思うのです。

※2……この点に関しては、こちらの文章が参考になるかと思います。
     恥を知れ、中島梓――第二十二回日本SF大賞・中島梓の「選評」批判



(2002/07/22)



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