『愛気』 ISUTOSHI

少年画報社ヤングキングコミックス8巻まで

『愛気』5巻P.21より

 武術の世界では伝説となっている青年・承久國俊。 彼は中学生の時点で各地の有名武術家達を打ち破るほどの天才だったが、 その傲慢な性格を危険視した父親の整骨術によって数年前に力の大半を封じられてしまう。
 力を失って静かに暮らす承久だったが、周囲は彼を放っては置かなかった。 過去を知る人々により、彼は新たな戦いに巻き込まれていくのだった……。

 今回紹介するのは、ISUTOSHIさんの格闘漫画「愛気」です。 格闘漫画と言えば少年・青年向け漫画誌では定番とも言えるジャンルですが、 本作はそれらの中でも傑作と呼ぶに値する作品であると思います。

 この作品の最大の魅力は、やはり迫力の格闘シーンです。
 主人公・承久は力の大半を失ったとは言え、大抵の武術家を凌ぐ力は持っています。 その彼の繰り広げる格闘シーンは、ISUTOSHIさんの画力ともあいまって実に格好いいのです。 力や速さによる戦いではなく、銃弾すら回避する先読みとタイミングによる戦い。 荒唐無稽とも言える技の数々と、それらに疑問を挟む暇も与えないスピード感。 これがもう最高なのです。
 私の考えでは、本作を含むいくつかの格闘漫画には「武術思想」とでも呼ぶべき、 強さに関する考え方があります。 それは、「格闘で重要なのは力や速度ではなく、タイミングだ」といった考え方です。 この思想を持つ漫画には本作以外にも「セイバーキャッツ」「拳児」「関節王」など名作が多いのですが、 そういった作品の格闘シーンは格好いいものの、どうしてもおとなし目の表現になってしまうきらいがありました (「銃夢」という例外もありますが)。しかしこの漫画は、武術思想でありながら 格闘シーンは実に派手で、その迫力は「ドラゴンボール」を思い出させるほどです。

 また、相手は相手で様々なオリジナルの武器や武術を使ってきて、目が離せません。 チタン合金とカーボンでできた超軽量日本刀による高速剣術なんて、 考えただけでもワクワクしてきませんか?  ちなみに上の引用画像で使われているのは鈎(ゴウ、または双鈎/ソウゴウ)という、実在の中国武器です。

 そしてまた魅力的なのが、承久のキャラクターです。 彼は天才らしい傲慢な性格をしていますが、武術に対する真摯さは逆に 清々しさを覚えるほどです。
 彼は一対一の戦いの最中に第三者からこっそり毒を散布されても、 強敵との戦いの直後で満身創痍の時に第三者に挑戦されても、決して卑怯だとは言いません。 武術の世界ならどんな手段を使ってこられても当然だ、それでも勝つのが本物だ……それが 彼の覚悟なのです。

 ところで実はこの「愛気」、思うに大きな問題を抱えています。 それは、失礼ながら掲載誌である月刊ヤングキングが不人気過ぎることです。 以前から同誌は取扱店舗が少なかったのですが、ここ数か月でさらに入手が 難しくなっているように思います。先日、新宿の漫画専門店二軒で連続して「扱っていない」と言われた時には どうしようかと思いました。 本作は2009年5月号で第一部を終え、7月号からの再開が予告されています。 しかし正直なところ、私は不安に思ってしまうのです。 同誌は遠からず廃刊になってもおかしくないのではないか、そうなった時に「愛気」は どうなってしまうのか……。
 ですので、そうならないように皆さんもぜひ本作をご覧頂きたいと思うわけです。

2009年5月4日掲載