『バード』 青山広美

竹書房近代麻雀コミックス全2巻

『バード』2巻P.72より

 数十年に渡って敗北を知らず、日本の裏社会の利権を支配する伝説の麻雀打ち・蛇。 そして彼を倒す為に呼ばれたのは、ラスベガスで活躍する天才マジシャン・バード。 果たしてバードは、怪物・蛇を倒せるのか!? 蛇の魔技・「自動卓天和」の秘密とは!?

 ……という訳で、今回お勧めするのは青山広美さんの麻雀漫画『バード』です。麻雀漫画ということで、 残念ながら麻雀を知らないと魅力を半減してしまうのは間違いないでしょう。それでも面白いとは思うのですが、 やはりそういう意味で読者を選ぶ漫画ではあります。

 本作は、上で述べた通り麻雀漫画です。但し、普通の麻雀漫画ではありません。
 かつて、麻雀漫画で重視されたのは正統な麻雀技術、キャラの魅力、派手な演出などだったように思います。無論、それ以外の要素を加えた作品も多くありましたし、その要素の一つには「イカサマ」もあったのですが、それはあくまでも「良くないもの」として扱われることが多く、作品の重要な要素としては認められなかった、と思うのです。
 そんな状況で、福本伸行(注1)氏が『天』『アカギ』で「イカサマ(トリック)も麻雀テクニックの一つ」として描き、  ヒットすると、多くの漫画家がトリックを題材にした作品を描くようになりました。(注2)
 そして本作は、「イカサマも麻雀テクニックの一つ」というコンセプトを「イカサマだけが麻雀テクニック」というレベルにまで拡張し、成功を収めた作品なのです。(注3)

 「イカサマだけがテクニック」と聞いて、普通の方は驚かれるのではないでしょうか。では普通の麻雀テクニックは無意味なのか、と。はっきり言って、この作品に於いてはその通りです。
 日本にやってきたバードは、早速テストとして麻雀を打たされますが、彼の打ち方に周囲は唖然とします。彼は何と全局ダブルリーチをかけ、そして数順で和了ってしまうのです。
 無論、これはイカサマです。……が、それが解っていても、誰もバードの指の魔法を見破る事は出来ません。
 「バード」達は言います。
 『「ツモ」は不要牌を山に戻す作業』、『「チー・ポン」は他人の捨て牌をかすめ取る時の格好のカムフラージュ』、『多牌は多いほど有利』、『誤ポン誤チーは戦略上の重要なオプション』……。
 そう、最早このレベルでは相手の和了を阻止する事など殆ど不可能であり、『麻雀とは卓上のすべての牌を利用して、いかに早く十四枚の和了形を集めるかの勝負』なのです。
 『なによそれ!? そんなの麻雀じゃないわ!!』『麻雀だよ』……正にこの作品の本質を表す会話でしょう。

 そしてバードの対戦相手である蛇もまた、驚くべき麻雀打ちです。彼は積み込みが不可能であるはずの自動卓で、平然と天和を和了ります。……一体どうやって?
 蛇の演出過剰気味なキャラクター(本物の殺人鬼!)もさることながら、彼の謎の技術は圧巻です。
 蛇の秘密へのアプローチと、バードの意表を突く数々のトリック。この二つがこの作品の両輪であり、一気に最後まで読ませる魅力となっています。

 かつて、ある漫画解説漫画(…)は、麻雀漫画についてこう説明しました。
 『ハッタリ。麻雀漫画の本質を一言で言い表すならばこの言葉に尽きよう。(略)即ち、(1)効果のハッタリ、(2)セリフのハッタリ、(略)(3)顔のハッタリ』、と。
 そしてこの作品は、それらのどれにも当てはまらない、言わば「イカサマのハッタリ」の作品なのです。

 マイナー誌に掲載された漫画はヒットする為のハードルが極めて高いものですが、 麻雀漫画はそのジャンルの特殊性ゆえ、さらに一般の人に読まれることが難しくなっています(注4)……が、本作はそれで終わらせるには惜し過ぎる作品です。
 麻雀のルールをご存知ない方は、この漫画を読むために憶えても損はしないでしょう。
 お勧めです。

補足
 コレを掲載して約2ヶ月、他のサイトで本作を既に紹介しているのを知りました。しかも紹介の仕方が似ていて(作中からの引用部分、福本伸行作品と『ONE OUTS』との比較)、盗作と言われても仕方なさそうな感じです。
 MHK改装中「砂漠の勝負師バード」 1巻 「砂漠の勝負師バード」2巻(完結)
…………う〜ん。

(01年6月筆、同月掲載、同月注釈(1〜4)を追加、同年8月補足を追加、同年9月改稿、画像を追加)