『ビューティフルマネー』 SABE

単行本未刊行(注1)

『ビューティフルマネー』P.47より

 この作品は、一言で言うと「頭のおかしいキャラクター達が変なことをする4コマ漫画」です。まあ、ギャグ漫画のキャラはむしろ変なのが普通なので、別に奇妙には思われないかも知れません。
 ですが、この漫画は違うのです。この漫画のキャラの異常さは、通常のソレを明らかに踏み越えているのです。

 この漫画に登場するキャラ達は、ギャグ漫画的な、人間には不可能な行動をとったりはしません。彼らの行為は我々でも行えるものばかりであり、そういった意味では彼らは普通の人間です。
 ……が、その言動は圧倒的に異常です。
 普通のギャグ漫画のキャラが変わり者だったり、バカだったりするのに対し、この漫画のキャラはキチガイなのです。この作品ではひたすら、異常なキャラの理解不能な言動が繰り返されるのです。

 通常、漫画に限らずギャグには基準となる日常があり、それを踏み外した時に初めてギャグになります。
 そのため、いくら変なキャラでも大抵は何が普通で何が変なのか知っていますし、その周囲には常識的なキャラがいて、「変」に対する何らかのリアクションをとります。そうやって日常とのバランスを取らないと、ギャグは成立しないのです。(注2)
 しかし、この漫画にはそのような日常はほとんど存在しません。ここにあるのはキチガイの異常な言動や妄想、それだけなのです。

 「狂気を演じられるのは理性である」と言った人がいます。
 ギャグには常識とのズレを計るある種のセンスが必要であり、一見気楽に描かれているギャグ漫画にも、そこには作者の高度な計算と、深い思慮が込められているのです。……が、この作品を読むと、私は不安になってしまうのです。本当に計算してこんな作品が描けるものなのか? 作者は本当に、頭がおかしいんじゃないだろうか?と。

 ですが、誤解しないで欲しいのです。確かにこの作品のキャラ達はキチガイであり、その言動は理解不能です。が、それなのにこの作品は間違いなく面白く、だからこそ私は不安になるのです。
 言うなれば、これは面白すぎる漫画なのです。

 このような作品をギャグとして成立させるとは、SABE先生は天才としか言いようがありません。某書で「現在最も恵まれていない才能」と紹介されたのも頷けるのです。

 この作品は単行本化されていませんが(注3)、氏には他作品の単行本もあります。面白過ぎるが故に読者を選ぶ感はありますが、はまる人は本当にはまります。人生を損しないためにも、取り敢えず一読をお勧めします。

(98年3月筆、01年2月掲載、9月画像を追加)