『雪乃すくらんぶる』 井原裕士

学研ノーラコミックス全3巻

『雪乃すくらんぶる』1巻P.150より

 この作品は、要約すると「超人的な体力を持ち、そのため正義の味方『白雪仮面』をやっている女子高生・倉久雪乃とその彼氏・広崎巽のラブコメ漫画」です。
 その設定は女子高生版『パーマン』という印象を受けますが、この作品はしっかりしたキャラクター、ストーリーを持ち、恋愛ものとして独自の面白さを持っています。

 この作品のユニークな点は、その設定は勿論ですが、巽が第一話で雪乃に告白し、二人が公認の仲になるところでしょう。これは普通の恋愛ものとは正反対です。(尤もこれは、この作品がまず読み切りとして描かれた為でしょうが。)
 しかし、雪乃が正義の味方である事実や、彼女が危険な仕事をしているのに何もできないという劣等感から、彼らの間には溝が出来てしまい、関係はなかなか進展しません。そのため彼らは微妙な関係を続けることになり、恋愛ものとして面白い作品になっているのです。 

 そして、この作品でなんと言っても面白いのが、雪乃を襲うピンチの連続です。
 彼女は正義の味方ですが、彼女の相手は悪人や事件だけではありません。TV局やマスコミは彼女を追い回し、その正体に賞金を懸けます。また、ファンクラブや追っかけができ、時には事件を引き起こします。さらには彼女を捕らえ、その超人的能力を調べようとする学者まで現れます。友人達もだんだん雪乃を怪しみ始め、彼女を追い込んで行くのです。

 そして、それらの問題に決着をつけるラストもしっかりと描かれていて、この作品の読後感を素晴らしいものにしています。
 先に挙げた『パーマン』の最終回が少年の成長という視点から描かれていたのに対し、この作品の最終回は恋愛ものとしてしっかりと描かれていて、この作品の個性を確かなものにしています。

 思うに、この作品には「特別」はありません。
 別に、過去に秘密があったりするわけでもなく、裏設定もない。普通のスーパーヒロインがいて、普通に彼氏がいて、二人の普通の恋愛があって、そしてスーパーヒロインゆえの普通の事件が起きて…。
 私は、この井原氏の描かれるそんな「普通」の物語が大好きです。氏は、日常を実に魅力的に描かれる方だと言えるのではないでしょうか。

 この作品は、ヒロインの設定など、ラブコメ漫画としては少々特殊ですが、全体にレベルの高い良作と言えると言えると思います。正直なところ、少年サンデーあたりに連載されていれば、結構ヒットしたのではないでしょうか。
 少なくとも最近の高橋留(表現不適切の為、削除いたしました)。そう考えると、実に惜しい作品です。

(98年3月筆、01年1月掲載)