『ゲームセンターあらし』 すがやみつる

小学館てんとう虫コミックス全17巻 小学館コロコロ文庫全3巻(共に絶版(※当時))

『ゲームセンターあらし』1巻P.97より

 大変有名な作品ですが、少々古い為か読んだことのない方も多いようです。

 主人公の少年「あらし」がいろいろな強敵達とテレビゲームで戦い、様々な必殺技を用いて勝つ…… という必殺技漫画の流れを汲んだ作品で、私も幼い頃に読んだだけで断片的にしか覚えていなかったのですが、 最近古本屋で見つけて第3巻を購入し、その物凄さに唖然となりました。

 まず目次を見ると、「決定! TVゲーム世界チャンピオン」というタイトルが目に入ります。
 「3巻で世界一を決定して後が続くのか?(古本屋には17巻まであった)」という疑問が浮かびますが、 実際に続いたのだから大したものです。とりあえずこのテンションの高さは尋常ではありません。
 わくわくしながらページをめくると、最初は宇宙をバックにナレーションです。

 『いま この宇宙で 恐ろしい陰謀が始まろうとしている……。』

 いきなりこれです。
 TVゲームで恐ろしい陰謀? しかも宇宙規模の? 私は一瞬、本を間違えたのかと思いました。

 そして本編が始まり、突然アフリカのサバンナや中国の山奥など、世界中に筐体がばらまかれます。 少々無茶な様にも思いますが、世界規模の陰謀の前に不可能はないのかも知れません。

 そして、これらのゲームをクリアすると表示されるメッセージに従って 世界中から8人のゲーム戦士達が集結し、文字通り命を賭けてゲーム勝負をします。
 負けた者は谷底や滝壷に落とされてしまうのですが、 世界中から集まったゲーム戦士達は全然見せ場もセリフもないまま次々と死んでいき、 一体何の為に登場したのか分かりません。

 しかし、ゲーム戦士達は実は全員生きていて、最後の敵との戦いを前にあらしと再会します。 これは確かによくあるパターンと言えますが、私はこのテンションの高さに騙され、 彼らが生きているとは思いませんでした。このあたりの見せ方は相当なものだと思います。
 ただ、地雷を踏んで、乗っていた戦車ごと吹っ飛んだはずのキャラがピンピンしていたりして、 ただ単に私の考え過ぎかもしれません。

 そして、最後にとうとうあらし一人が勝ち残り、首謀者である巨大コンピューター「デビル」が登場し、 人工衛星を使って宇宙に巨大なギャラクシアンを映し、あらしにプレーさせます。 あらしはこのゲームの異常な難しさにてこずりますが、辛うじてクリアします。
 どうやら宇宙規模の陰謀とは、宇宙空間に改造基盤(無論違法です)の映像を映すことだったようです。

 ところであらしの必殺技は、1秒間に2百万回以上手を動かしてマイコンを狂わせる「炎のコマ」、 両腕をこすりあわせ高圧電気を起こしてマイコンを狂わせる(←こればっか)「エレクトリックサンダー」、 原理は分かりませんがとにかく竜巻を起こす「たつまき落とし」等、色々な意味で危険なものばかりで、 これらの技を使うと自機がワープしたり、敵キャラが一撃で全滅したり、相手がプレー不能になったりします。

 これって卑怯、というか反則だと思うのですが、 相手は相手でとんでもない改造ゲーム(違法です)で挑戦してきたり、 あらしと同等かそれ以上の必殺技を繰り出してきて、あらしもかすんでしまうほどの凄まじさです。
 そしてそれに対抗するためにあらしも次々と新必殺技を編み出し、 ただでさえとんでもないあらしの必殺技はとどまるところを知らずエスカレートしていきます。

 後の話ではあらしが直接対戦相手に必殺技をぶつけたり、 相手がゲームの最中にダイナマイトを投げて来たりして、もう何の勝負だか分かりません。
 勝負のスケールもどんどん大きくなっていき、「銀河系の消滅を防ぐため」という、 宇宙戦争どころではない勝負も繰り広げられます。しかしそんな無茶を押し通してしまう勢いが、 この作品にはあるのです。

 とにかくこの作品のテンションの高さ、戦いの無意味さ、必殺技のわけの分からなさ、 そしてそれを押し切るスピード感は普通ではありません。
 かつてはこのような必殺技漫画は珍しくなかったと思いますが、 ここまで馬鹿馬鹿しいものはそうはないはずです。

 この作品が描かれたころにはまだまだテレビゲームの地位は低く、 テレビゲームには悪いイメージが多かったはずです。そんな状況でテレビゲームを題材にし、 アニメ化までされたこの作品は物凄い作品fだったのではないでしょうか。
 最近の漫画にこのようなパワーのある作品が見られないのは残念でなりません。

(97年9月筆、00年10月掲載)