私は、昨年夏の木次線と、今年夏の肥薩線及び豊肥本線の旅で、はからずも日本に4箇所しかない「三段式スイッチバック」を全て体験してきました。 そこでスイッチバックについて、ごく簡単に説明しておきましょう。 というのも、スイッチバック、スイッチバックといっても、鉄道ファン以外には何のことやら分からないと思うからです。さて、スイッチバックには二種類あって、私が体験した「三段式スイッチバック」と「待避式スイッチバック」とがあります。下の図は、(図1)が「三段式スイッチバック」で、(図2)が「待避式スイッチバック」です。

(図1)三段式スイッチバック (図2)待避式スイッチバック
この二つのスイッチバックは性格が完全に異なり、「三段式スイッチバック」は、山岳地帯の急勾配を乗り切るために、山裾をジグザグに登ることで、少しでも急勾配を緩和するものです。「待避式スイッチバック」は、平坦な場所に駅もしくは信号所が設置できないために、急勾配の路線の脇に駅もしくは信号所を設置し、特急など通過する列車は、そのまま本線を走り去るというものです。「待避式スイッチバック」には、土讃線の「坪尻駅」や、篠ノ井線の「姨捨駅」が有名ですね。 そして、「三段式スイッチバック」は、山岳線の多い日本にとって、そうした急勾配のための路線、たとえば「ループ線」や「アプト式登坂線」とならんで、引かねばならないことが多く、特にスイッチバックは、列車の進行方向を変えるといういわばパフォーマンスが、鉄道ファン を惹きつける所以です。
「三段式スイッチバック」は、現在以下の3路線・4箇所にしかありません。
路線 |
駅間 |
勾配 |
駅間距離 |
駅間時間 |
木次線 |
出雲坂根〜三井野原 |
30.0‰ |
6.4km |
約17分 |
肥薩線 |
大畑〜矢岳 |
30.3‰ |
9.5km |
約20分 |
肥薩線 |
真幸〜矢岳 |
25.0‰ |
6.8km |
約15分 |
豊肥本線 |
立野〜赤水 |
33.3‰ |
7.9km |
約17分 |
凡そ、1000メートルで25メートル以上の勾配という狭い山間部に鉄路を引くための苦肉の策といえるのですが、その分高い標高まで登るため、登りきった場所での眺望は、絶景と言えるでしょう。事実、木次線の三井野原駅はJR西日本での最高地点(海抜726m)にある駅だし、肥薩線の矢岳駅は海抜537mにある駅です。また豊肥本線も阿蘇のカルデラの中を通っているので、凡そ海抜500m付近を走る路線です。 特に肥薩線の「大畑駅」は、ループ線の途中に三段式スイッチバックがあるという点で、全国唯一の駅です。
ところで肥薩線ですが、以下の時刻表は、1969年10月発行の時刻表の肥薩線・下りのものです。

多くの急行が走っていますが、「えびの」「やたけ」にしても、人吉〜吉松間はほぼ各駅停車になっています。とくに急行「やたけ」は全ての駅に停車しています。急行「えびの」は、列車によって停車駅が異なりますが、例えば、急行「えびの1号」は、大畑駅と真幸駅が通過になっていますが、これは時刻表のトリックで、この2駅は「三段式スイッチバック」なので、確実に停車しています。なぜなら運転手が運転席を前から後ろに行かなければならないからです。つまり、この列車は駅には停まるものの、ドアが開かないということなのです。
それにしても、この時代は、急行列車以外はほとんど蒸気機関車もしくはディーゼル機関車に牽かれた客車列車なので、大畑〜矢岳間が約30分掛かっているのに対し、平成19年には、
全てが気動車となっているので、それが約10分短縮して、約20分で到着しています。約40年前の急行と、
ほぼ同じスピードしか出せないといえるでしょう。それこそが、肥薩線が今日、逆に観光路線となっているわけです。とはいえ、40年前も現在も、急行を除いては走っている列車本数が変わらないというのが、なんというか肥薩線の有り様がわかって面白いですね。