■解説、キャップめくり■
それは小学校で繰り広げられる熱いバトル
速水が小学生の頃だから、まぁ大体1980年前後の話である。
当時、京都府長岡京市立長法寺小学校明治5年創立の男子児童のあいだでは、
キャップめくりというゲームが盛んだった。
キャップというのは牛乳瓶のフタである。
盛んだったどころか、小学校6年間、室内での遊びの王道がキャップめくりだったのだ。
それはどのようなものだったか?
まず、当時の児童はキャップを数十枚は持っているのが普通だった。そして休み時間が来ると……。
1. 対戦相手を求めて勝負を挑む。
2. 互いに何枚キャップを出すか協議する。
「5枚勝負」なら5枚ずつ、「10枚勝負」なら10枚ずつ、参加者は場にキャップを出すわけだ。
「100枚勝負」のような大勝負となれば、昼休みをまるまる費やさねばならない。
3. 重要! ところで、キャップには様々な種類がある。
基本単位となるのが、給食で出る農協牛乳のキャップである。
これはなにもしなくても毎日手に入るし、その気になればいくらでも集めることが出来るので価値は低い。
「〜枚勝負」を決める際の枚数は、農協牛乳のキャップで計算する。
余談だが長法寺小学校には給食室があり、給食センターから配送される食事ではなかったせいか
なかなか美味だったことを覚えている。給食室の横にはお茶の出る蛇口があったりしたが、それはまた別の話である。
次に位置するのがコーヒー牛乳やフルーツ牛乳など、学校では手に入らないキャップである。
TCG風に表現するならアンコモンであろうか。
そして、もっとも価値が高いのが大きな瓶のキャップである。
サイズもより大きく、キャップを開けるための取っ手が付き、
さらに重要なことに全体が平べったいのである。
この種のキャップは「ペッタン」と呼称され、児童たちの憧れの的であった。
また、牛乳瓶のキャップをコレクションするという趣味は一定普遍的だったらしく、
おもちゃ屋に行けば、オリジナルの(つまり偽物の)キャップやペッタンも売っていた。
勿論、そのようなキャップはキャップめくりの勝負では一切通用しなかった。邪道なのである。
4. そして、キャップの種類によって交換レートが変化する。
コーヒー牛乳なら農協牛乳5枚分、ペッタンなら10枚分、といったように。
勿論決まったレートがあるわけではなく、対戦相手との交渉でその価値は決められるのだ。
この結果、例えば「10枚勝負」の際片方は農協牛乳10枚を出し、
相手はペッタン1枚で勝負する、というような風景が見られることになる。
5. 場にキャップが出ると、ジャンケンで勝負する順番を決定する。
そして、手順が来たプレイヤーは自分に向けてキャップを配置する。
この並べ方は様々な流儀があり、個人個人の癖や戦術によって変化したが、
基本的には自分を頂点にした逆三角形にすることが多かったようだ。
また、場に出ているキャップはすべて混ぜて使用する。
相手と自分のキャップの見分けがつかなくなるが、別に構わない。
6. さて、若干話が横にずれるが、勝負は机の上か、床の上で行われる。
もちろん大勝負になると床で戦うことになるのだ。
教室の床は人通りがあったり十分な広さが無かったりするため、廊下でプレイされることも多かった。
7. さて、キャップを配置し終わると、いよいよ勝負本番である。
プレイヤーは、両手を床に沿わせ、勢いよく打ち合わせる。
すると、その風圧によりキャップが数枚裏返る。運が悪ければ1枚もめくれない。
重要!
打ち合わせる手は、若干手のひらをふくらませて空気を送り出すような形にすることが望ましい。
手のひらが直接「ぺちん」と打ち合うような状態では、ほとんど風は発生しないのだ。
また、手は出来るだけ床すれすれに打ち合わせねばならない。
床を擦るぐらいが丁度いい(廊下の方がプレイしやすい一因でもある)。
理由は、出来るだけキャップをあおるように風を発生させるためである。
ペッタンが重要な理由は、こんなところにもあったのである。
周囲がなめらかで、またサイズも大きい(すなわち重い)ペッタンはなかなかめくり難いのだ。
ただ単に数が少ないから貴重、というわけではなかったのである。
8. 一回手を打ち合わせると、プレイヤーの手番は終了して相手の順番となる。
相手は「5」の手順に戻り、自分に有利なようにキャップを配置し直すのだ。
この際、すでにめくれているキャップは横に別にしておく。
9. この手順を交互に繰り返す。
そして、最後に残っているキャップをめくった者が勝利者となり、
場のキャップを全て自分のものにすることができるのだ。
この恐るべきルール。負け続ければあっという間に破産である。
また、ここでは二人での対戦を念頭に置いて説明してきたが、複数人数による対戦も盛んだった。
記憶に頼って書いたため、間違いがある可能性はある。
また、時期によって細かいルールの差異などもあり得るだろう。
しかし、キャップめくりとは大体この様なゲームであった。
他の小学校でも、キャップを使った遊びはあった様だが、
聞くところによればメンコのように投げるやりかたが普通だったようだ。
長法寺小学校のように、手を打ち合わせて遊ぶキャップめくりは他では今のところ確認されていない。
また、速水が卒業後ほどなくして牛乳瓶がなくなり、
紙パックで出るようになったのでこのユニークな遊びも消滅したものと考えられる。
以上、貴重な記憶として記録してみた次第である。
この様なゲームを、我々は6年間ずっと飽きもせず遊んですごしてきたのだ。
次回は「ドロタン」を取り上げてみよう。
他の地方では「ケイドロ」「ドロケイ」と呼称されていたようであり、
「ドロタン」という名称は極めて希少であり、かつ……(略)。
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