アウトランド エッセイ(2)

 初めてヤリイカの産卵場面を撮った興奮で、眠れない夜を過ごした翌日、日が昇る前にまた海に潜った。
 漸く撮れたのだから、ゆっくり寝てればいいと思いながらも、何かに憑かれたかのように、起きてしまった。

 早朝の海はうっすらとした明るさで、水が靄っているように見通しが悪かった。が、潜ってすぐ前方に、白く揺らめく無数の影が見えてきた。

 それは素晴しい光景だった。朝の柔らかい光のなかで、ヤリイカのカップルたちが、産卵の儀式を行っているところであった。「もうすぐ日
が昇ってしまう、早く生まなければ。邪魔な人間には構ってられないわ。」とでも言っているかのように、私にぶつかるほど近くで産卵し続けた。

 あの産卵の日から、6週間が過ぎた。生み付けられた卵嚢のなかで、ヤリイカのあかちゃんは、順調に育っている。問題は、いつヤリイカのあかちゃんは、卵嚢からハッチアウトするかである。

情報を集めて見ると、どうも5週間から6週間で、出てくるらしいということが分かってきた。しかし、ぽつぽつと出てくるところは見られても、一度にたくさん出てくるところには、なかなか出会えなかった。

満月の大潮の日から、6週目は新月の大潮になる。

生まれ出てきたヤリイカのあかちゃんが、他の魚に食べられないで、生存する確率が高くなる為には、闇に紛れて隠れるしかない。更に、潮の干満の差が大きい引き潮に乗って、なるべく早く安全なところに移動したほうが良いのではないか。そう考えると、今日がすべての条件を満たしている。

つづく