私は48歳。中高年真っ只中である。 夫は2流の会社員。まだリストラの対象からかろうじてはずれている。 なんとかこのまま定年まで行って欲しいものだ。 子供はと言ったら長男は25歳で首都圏で就職している。 長女は大学の3年生だ。バイト三昧。 結婚して25年、知り合って30年以上がたつ。 だんだんと年とともにお腹はでっぱり、頭は薄く、白髪まじりになった。 引き締まっていた体もたるみ、オジサン化してきている。 無論、私もそうなのだろう。しかし、夫ほどではない。と思っている。 私は専業主婦。といっても地域のボランティアに参加していたり、婦人会の 役員をやっていたりとj結構忙しい。お金を頂かない仕事は気が楽である。 それでいいのだ。 そんなフツーに暮らしていた私に一通の手紙が届いた。 差出人は「河北 誠」・・・・知らない名前だ。 封を切ってみる。 『こんにちは。京子さん。(私の名前ね)突然のお便りお許し下さい。 僕は以前より、そう・・、ずっと前からあなたの事を知っています。 先日古いアルバムを見ていたら貴女がはにかんだような笑顔でうつっていました。 その初々しさに新たな心の動きを感じ、思い切って手紙を書きました。 僕はその高校生の時から貴女に好意を持っていたと思います。 もう、結婚もして子供もいるというのに、今更なのですが。。。 でも、あの時貴女に言えなかった事が・・・。 とにかく懐かしさのあまりペンを取りました。 今日はこの辺で。 さようなら 誠 』 誰なんだ?こんな悪趣味ないたずら。 ワープロで書いてあるので筆跡もわからない。 高校時代の誰かなのだろうか?そう書いてはあるけど・・。 しかし悪戯だとわかっていても、悪くない気分だ。 かつての私に好意を寄せていたというらしい。 今でこそ中年のオバサンだけど、30年前の私は結構かわいかった。 自分で言うのもなんなんだけど・・。 ダンナに報告しようか、どうか・・。 まっ、様子をみましょう。 僕は48歳。中高年真っ只中である。 どうやら僕の手紙が彼女に届いたようだ。 な〜んとなくウキウキしているように見える。 そう、僕は自分の妻にペンネームを使って手紙を書いた。 彼女が喜びそうな内容にしてある。 1通めは軽くジャブを打って、だんだんと熱烈なラブレターにしていくつもりだ。 これでも昔小説を書こうと思っていた事があるんだ。 何故こんな悪戯めいたことをしようと思いついたかと言うと、 ここのところ彼女はつまらなさそうだからである。 子供も大きくなってしまって家に居る時間も少ない。 僕も疲れて帰って来ると中々彼女のおしゃべりに付き合ってあげれないし、 おしゃべりはそんなに得意じゃない。 時々大きなため息をついている事がある。僕は新聞を読んでいる時、聞いたのだ。 「はぁ〜、ここのところツマンナイナ〜」という独り言を。 テレビドラマを見ていて「あ〜、こんなトキメキないわよね〜」という呟きを。 で、撲は思いついたのだ。よし、一丁ときめかしてやろうと。 2通めの手紙が来た。 いかに私が美しく眩しい存在だったか。 そして自分の今の状況。妻との冷え切った仲。 そんな、こんなである。 まさか2通目が来るとは思わなかった。 歯が浮くようなお世辞のような文章でも悪い気はしなかった。 その夜、ダンナに言おうかどうしようか??と迷ったが言うのをやめた。 ふふふ、まぁどうなるか。。特別害もないから黙っておきましょう。 今日当たり、2通目が届いたはずだ。 なんとなく機嫌が良さそうだぞ。鼻歌なんか歌っている。 あんな手紙で喜んでいるのか。全く女って奴は。。 亭主が居ながら他の男の手紙であんなに浮かれているとは。あきれたものだ。 いや、待てよ。他の男じゃなくて撲なんだ。でも、女房は他の男と思っている訳だし。 僕はもう一人の撲に嫉妬しているのか?う〜〜ん、なんとも奇妙な感じだ。 ヨシ、そろそろ再会と行こうじゃないの。 呼び出してびっくりさせてやろう!果たして女房はおどろくだろうか?怒るだろうか? 待てよ、その前に呼び出しに応じるだろうか?ああみえても昔ながらの律儀な女である。 そう、ホイホイとは会わないだろうな。まぁ、それならそれでいいか。 いつかネタばらしでもしてみよう。 『会いませんか』の文字が目に入って来た。 まぁ、会ってみるのもいいか。いや、待ってよ。それはちょっと向こうの思うつぼではないかしら? ん・・・・。しかし、どうせ毎日退屈しているわけだし、こんな余興もいいか。 ナニナニ??今度の日曜6時に○○市の「ビストロ・ヴェルド」だって? あらま、私のお気に入りの店だわ。お料理だけでも満足できそう〜! さて、何と言って出ようか?「友達と飲みながらご飯を食べてきます。」「誰と?」と聞かれたら・・? 「昔の友達よ」とでも言おうか?あまり策を練らない方がいいわね。 ・・・・・日曜日・・・・ 女房の奴は朝から浮かれているように感じるのは撲だけだろうか? 果たしてなんと言って家を出るつもりか?こうなったらどんな見え透いた嘘でもだまされてやろう。 おっと、自分も外出しなくちゃね。彼女が出たら大急ぎで出発だ。 5時半、もうそろそろ出かける時間だ。おおぉ〜、念入りに化粧をしたと見える。いつもより顔が 白いぞ。服も彼女のお気に入りの服だ。僕は気付かぬ振りをして新聞に目を落としていた。 こちらに近づいてくる気配。いよいよ言うぞ、出かけてきますと。 一体どんな嘘をつくんだい?なんでも「うん」と言ってやるからな。 「あなた、私、出かけるわよ。」 「どこ行くの?そんな格好しちゃって。」(むふふふ、どこまで追求しようかな?) 「ふふん〜、聞きたい?デートよ!」 「えっ!!!」(うぐっ、直球すぎる!) 「30年前の恋人に会いに行くの。さぁ、あなたも着替えなさいよ!時間がないわ。」 「ええーっ!!ど、どうして???」 「ここ何週間か、楽しませてもらったわよ、河北誠さん!」 「え〜〜!!どうして僕だって、わかったの?その名前は高校時代の僕のペンネームだよ。」 「知らないわけ無いじゃない。昔気になっていた男の子のペンネームよ。」 「気になっていた?僕達が付き合いだしたのは高校出てからじゃなかったっけ?」 「その前からあなたの事は気になっていたのよ。言わなかったけど。」 「そ、そうなんだ。てっきり僕だけが君の事想っていたのかと思っていたよ。」 「さぁ、おいしいお料理とワインで昔話に花を咲かせましょう。」 |