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ハンドルはスティーブ・ライヒからとりました。
近況:

東芝の不正会計の問題に続いて、今度は三菱自動車の燃費不正問題が明らかになった。
いずれも日本の企業風土そのものに問題があるのでないかと思わされる事件である。

東芝の不正会計問題については例えば『東芝 不正会計の衝撃 〜問われる日本の企業風土〜 - NHK クローズアップ現代+』に事情が紹介されている。

企業トップが利益の計上を指示し、『経理なんて言われたとおりに数字をつけておけばいいんだ』と発言し、幹部たちはそれに従うようになっていった。そして、『ついには本来会計をチェックすべき部門が、社長の意をくんで現場に圧力をかけるようになっていった』。 おそらく同じようなことが燃費不正の三菱自動車の社内でも起きていたと思われる。読売新聞は『相川社長らは記者会見し、新車開発の際に燃費目標を5度引き上げ、プレッシャーに感じた開発担当者が不正行為に及んだとの見方を示した』(燃費目標5度引き上げ「開発担当者が不正行為」 : 経済 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE))と報じている。

「決算までの3日間で120億円の利益を出すよう迫る」(東芝の不正会計)といった無謀なトップの指示は旧日本陸軍がロジスティクスを無視して精神論で戦略を進めた悪夢に重なる。太平洋戦争の例を持ち出すと、陸軍幹部、大本営だけの問題ではく、日本国民も精神論をかざして戦争推進に加担していた側面があることを忘れてはならない。 こうも失敗が繰り返されると、日本人である我々が等しく共有する資質に由来している問題なのではないかと疑いたくなってくる。

なぜ我々日本人はコンプライアンス違反を告発することなく受け入れてしまい、そして最後にはむしろ積極的にコンプライアンス違反に加担してしまうのだろうか。

それは芥川賞作家の金原ひとみ氏が東日本大震災の福島原発事故後に発表したエッセイにおいて端的に指摘していることと同じであると思われる。東京新聞 2011年10月11日夕刊に掲載された『制御されている私たち 原発推進の内なる空気』から引用する。

『命より大切なものはないと言うが、失業を理由に自殺する人が多いとされるこの国で、失業を理由に逃げられない人、人事が恐こわくて何もできない人がいることは不思議ではない。

しかし多くの人が癌がんで死ぬ可能性よりも、個々の人間とは無関係、無慈悲に動いていくこの社会に対して、私たちが何もできないことの方が、余程絶望的かもしれないのだ。

私たちは原発を制御できないのではない。私たちが原発を含めた何かに、制御されているのだ。人事への恐怖から空気を読み、その空気を共にする仲間たちと作り上げた現実に囚われた人々には、もはや抵抗することはできないのだ。しかしそれができないのだとしたら、私たちは奴隷以外の何者でもない。それは主人すらいない奴隷である。』

金原氏の指摘は「空気を読む」、「場の空気」といった共同体に責任を預けて意思決定をしてしまう日本人の行動様式は奴隷そのものであると言い換えることができると思う。その理由は人事評価への恐怖に由来していると金原氏は喝破している。

なぜコンプライアンス違反を告発できないほど人事評価に恐怖するのか?いまだに日本社会は転職を良しとせず、大企業に長く勤めることを評価することにあると考えられる。会社にしがみついて定年まで勤めあげれば満額の退職金が得られるのに対して、中途で退職すれば退職金は減額される。また、中高年の転職は年収ダウンとほぼイコールと思われている。これでは空気を読んで、奴隷にならざるを得ない。
あるいはコンプライアンス違反を告発しないことは運命共同体としての会社を守る行為であると勘違いしてしまう面もあると思う。

一方、『【ワンポイントレッスン】新卒も中途も同じ?- 産経ニュース』によれば『欧米には集団としての新卒という概念がありません。新しく入ってきた社員という意味では“New employee"と言います』という。転職にペナルティがない社会がつくづく羨ましい。

転職にペナルティがなければ、退職金という概念がなければ、『主人すらいない奴隷』にならず、別の選択肢を選択することができるのではないか。逆に中途退社による退職金の減額の縛りが残り続ける限り、東芝の不正会計、三菱自動車の燃費偽装のような組織的な不正は繰り返されてしまうはずだ。

相次ぐ不正問題の根源は日本企業の人事制度の問題に由来しているのではないかと記したが、もしかすると日本社会に漂う閉塞感の根源もこの人事制度の問題に由来しているかもしれない。日本の労働者は退職金を身代金として企業に人質にされているといっては言い過ぎだろうか。
日本が変わるために、政治による変革を期待したい。(2016.4.29)


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