昔話・観音さまと大蛇
作:座間おはなし会

 
むかし、星の谷のあたりに、千代と源太という きょうだいがいました。
ある朝、ふたりは 池で どじょうを とっていました。
 ざるで どろをすくって すばやく もち上げると ざるの中に どじょうが 何びきも くねくね うごいています。

 「こんやは、どじょうじるだね」 姉の千代が いいました。
 「うんととって おっかあを びっくりさせよう」 弟の源太が いいました。
 どーんと 大きな 音がして、 ぐらっと 足もとが ゆれました。
ふたりは、しりもちを ついてしまいました。
 
「わーっ、あんねえ、 じしんだよ」
 「源太、森を 見てごらん」
源太が ふりむくと、 見知らずのもりが はげしく ゆれています。
ふたりは 顔を見合わせると、どじょうの 入った ざるをもって むちゅうで うちへ 走りました。
村では 人びとが 外に出て
 「どうしたんだ」
 「ふしぎだなあ。森だけが ゆれてるぞ」 と 大さわぎを しています。
 「おっかあ、どうなるだ?」源太が 聞いても、
 「わかんねえ」 と おっかあは 首を ふるばかりです。

だれかが いいました。
 「こんな あやしげなことは、ほとけさまの お力を かりるしかねえ」
 「そうだ そうだ。ぼうさまを よんでこよう」
村人は さっそく えらいぼうさまを よびに 行きました。
 近くの おかの 上へ、ぼうさまを 先頭に みんな いっしょに のぼって行きました。
 ぼうさまは、ありがたい おきょうを となえつづけました。

 夕方近くに なった時です。
 どこからともなく、 うっとりするような 音色が 聞こえ、色とりどりの うつくしい 花びらが、ひらひらと まいおちてきました。
そして いつの間にか、森のゆれも おさまっていました。
 「あっ! おっかあ、 あれはなに?」 と 千代が さけびました。
大きな まつの木の てっぺんが、金色に かがやいています。
 「観音さま・・・・?」  千代が つぶやきました。
 「ほんとだ、観音さまだ」
 「ありがたい ありがたい」
村人たちは 手を合わせて おがみました。

みんなが 顔を 上げた時には、 もう 観音さまの おすがたは ありませんでした。
 「観音さまの おかげで ゆれが おさまった。」
 「ああ よかった よかった」
 「ここに おどうをたてて、これからも 村を まもってもらおう」
 「そうだ、それがいい」
話は まとまりました。

村人たちは その 小さなおどうで、ぼうさまに 毎日 おきょうを 上げてもらうことにしました。
 この おかからは、広びろとした 田んぼや はたけ、ゆったり流れる さがみ川が 見えました。 その むこうには、大山や 丹沢の 山なみが のぞめました。
 そこに しずむ夕日は、それは それは みごとでした。

 おかの ふもとの 池には、夜になると 月や 星が うつり、光の玉を ころがしたように うつくしく 見えました。
子どもたちは、夏には どじょうとりや ほたるがりを しました。
冬には、こおった 池の上を すべって あそびました。

 
さて、池の 近くの 蛇穴谷戸に、ずうっと 前から いっぴきの 大蛇が すんでいました。
この 大蛇は、ぼうさまを のみこもうと すきを うかがっていました。
けれども、ぼうさまは いつも おきょうを 上げているので、近よるすきがありませんでした。

 こうして、月日は ながれました。
ある日、嫁入りすることになった 千代は、おっかあと いっしょに おどうに おまいりしようと、おかを のぼって行きました。
 すると、きゅうに あたりが くらくなり、 おどうの まわりに まっ黒な雲が 立ちこめました。そして、その中から 金いろの目を ぎらぎらと かがやかせた 大蛇が あらわれました。
 ふたりは、おそろしさに だきあって ふるえていました。

大蛇は おきょうを 上げつづけている ぼうさまに むかって 
 「わたしは このおかの ふもとに すんでいた へびです。ながねん じひぶかい おきょうを 聞いたおかげで、このたび さとりをひらき、天にのぼれることに なりました。まことに ありがとうございました」 といって竜になり、黒雲に のって 天へ登って 行きました。
それと どうじに、 あたりは また 明るくなりました。

おかから おりてきた ふたりは、見てきたことを 村人にたちに 話しました。
 「これも 観音さまの おかげだ」 といって みんなは よろこびあいました。 いつからか おどうのまわりは 子どもたちの よいあそび場に なりました。

 ♪かーごめかごめ かごのなかのとりは
 ♪いついつでやる
 ♪よあけのばんに つるとかめが つっぺった
 ♪うしろのしょうめんだーれ

 そののち、みやこから 行基(ぎょうき)という えらいぼうさまが 来て、この話を聞き、観音像を ほってくださったので ご本尊として おまつりすることになりました。

星の谷観音堂
 
現在は、坂東八番札所になっている星の谷観音堂です。
観音像がとまっていたという、大きな杉の木はなくなりましたが、そのあたりに「一本杉」という地名で、あとを残しています。
 はじめに、観音堂のあった丘は、「本堂山」と呼ばれています。また、「明王」と呼ばれているところには、観音堂を守るための、不動明王をまつる明王堂があったそうです。
 なお黒雲とともに、大蛇が去ったとき、堂守りの坊さまは
 「障りなす 迷いの雲を 吹き払い 月もとともに 拝む星の谷」 という歌をよみました。
その歌は、今も観音堂のご詠歌として伝えられています。

この昔話は座間おはなし会ときつつき版画倶楽部の皆さんで制作され、座間市教育委員会からの依頼で「座間のむかし話絵本」にまとめられたものです。

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