昔話・なべっつるし
作:おななしサークル「ききみみずきん」

 秋風がふいて とても気持ちのいい日です。
芹沢公園では 子供たちが元気よく 遊んでいました。
翔太たちが 夢中になって 遊んでいるうちに あたりは すっかり 暗くなってしまいました。

 「翔太 叱られたみてえだなぁ」
 「うん」
 「じいちゃんもなぁ ちっちぇえとき 帰りが おそくなると なべっつるしに 喰われちまうぞって うんと叱られたもんだ」
 「えっ、なべっつるし?」
 「ほら、公園からの だらだら坂の途中に 四辻があんべえ。あそこはな むかし松戸杉っていう 大きい木があってな 昼間でも 薄ぐれえ きびのわりい ところだったんだよ・・・」

 「今日は 魚が たんと とれたなぁ」
 「うん、おもしろかったねぇ」
 「でも おそくなったなぁ」
 「かあちゃんに しかられちまうから 近道すんべえ」
翔太と陽子と良介は いつもは通らない だらだら坂を のぼりはじめました。

気がつくと 三人は 四辻のところに 立っていました。
 「なんだか 気味のわりい ところだなぁ」
 「そうだ! ここは なべっつるしが 出るんだ」
 「えっ、じゃあ もどるべえ」
 「だめだよ、そんじゃあ もっとおそくなんべえ なんも出ねえよ。 翔太 あんた先に行ってよ」
そこで、 翔太は おそるおそる 歩き始めました。

 「わあ!」
翔太は なにかにつまづいて ころんでしまいました。
 「なんだべ これ」
 「わー なべだ! た、た、たすけてくれー」
翔太は あっというまに 木の上に つり上げられてしまいました。

 「か、か、からだが・・・うごかねえよー」
 「うわー、なべっつるしのあばばだ!」
 「わー、で、で、でたー」
 「逃げろー」
 「おおっ、うまそうな こどもが ひっかかっておるわい。さっそく なべで グツグツ煮て 食おうとするか。 ケッケッケッケッ」
 「食われるのは いやだ おっかねえよー。とうちゃん かあちゃん 助けてくれー」
翔太は 必死で さけぼうとしましたが からだが ふるえるばかりで うごくことも 声を出すことも できませんでした。

 「うわー」
翔太は とびおきました。あたりを見まわすと いつもとかわらない 自分の部屋でした。
 「ああ 夢だったのか」
まだ胸が ドキドキしています。
 「きのう おふろで じんちゃんに あんな話を 聞いたからだ・・・」

その日、翔太たちは 学校から帰ると いつものように 芹沢公園で 遊んでいました。
夕方になると
 「あっ、5時だ。帰るぞ」
 「えー、もう帰るの?」
翔太が さっさと 歩きだした後を 陽子と良介は 追いかけるように ついて行きました。
  「なべっつるしの おばばって ほんとうに いたのかなぁ?」
翔太は そんなことを 考えながら 坂を 登っていきました。 ふと 上を見ると 杉の木が 風にゆられていました。

  「ケッケッケッケッ」
という声が 聞こえたのかもしれませんね。

なべっつるしの由来
 昔、芹沢公園の近くに、道幅がせまく、木々に囲まれ、昼間でも薄暗く寂しい辻があった。そのそばの山のなかには、目が鋭く白髪を振り乱し、よれよれの着物を着た老婆が住んでいた。鍋を木の枝から吊し、通る子どもを捕らえて食べてしまうという言い伝えがあった。
 夕方、親たちの「なべっつるしが出るぞ」の一言に、子どもたちは、あたふたと急いで家へ帰ったものである。
 この話は、昭和十年代の子どもたちまで伝えられていた。

松戸杉
 昔、枝ぶりがよく、大きな杉の木のことを、芹沢地区の人々は松戸杉と呼んでいたと思われる。

芹沢公園
 公園の西側を流れる芹沢川は、昔、湧き出る清水が合流していて、水量が豊かであった。両岸に夷人芹(クレソン)が生い茂り、芹沢の名にふさわしいところであった。川には、ハヤ、エビ、うなぎ、カワニナ、ヤゴなどが生息していた。
 夏の夜は、稲田の上を飛び交うホタルがたくさん見られた。
 昭和60年から整備があじまり、現在の公園になった。

 この昔話はおはなしサークル「ききみみずきん」の会員の皆さんが制作され、座間市教育委員会からの依頼で「座間のむかし話絵本V」にまとめられたものです。

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