~U.P.R.F Research Data File~
●現代の栄養問題―サプリメントはなぜ生み出されたのか?●
我々が生きていく上で決して欠かすことのできない食物。その中には数々の栄養素が含まれている。しかし、栄養素はそれぞれが単独で働いているのではない。微量元素のように量的には少なくても、非常に大切な栄養素が多く存在する。そして、それらが密接に関係し、どれが欠けても全体に影響を及ぼすということが、近年の研究で明らかになってきたのだ。
そのような中、加工食品やインスタント食品などの急速な普及により、栄養素の摂取量に偏りが生じたり、不足したりする、という問題が浮上してきた。そういった栄養素を便利に補充しようという考えから生み出されたもの、それが「サプリメント(SUPPLEMENT)」である。サプリメントの本来の意味は「補足」「付録」であるが、最近の栄養学では「食事の欠陥を補足・強化する栄養素」という意味で使われており、そのことからサプリメントは「栄養補助食品」とも言われる。現在では、コンビニエンスストアや通信販売で多くのサプリメントが取り扱われている。
●手軽に栄養摂取―多種多様に及ぶサプリメント●
サプリメントの最大の魅力は、不足する栄養素を補充することも挙げられるが、ほとんどが錠剤タイプのため、手軽に摂取できることにある。また、最近では1つのサプリメントに多数の栄養素を含む製品も多く出回っている。では、具体的にどのような製品があるのか、ご紹介しよう。
マルチビタミン(DHC・30日分 500円)
野菜不足や不規則な食生活、またダイエット中に不足しがちなビタミン類13種類を1粒で摂取可能。しかも、1粒に含まれる栄養素は、1日に必要な所要量を全て上回っている。
マルチミネラル(FANCL・30日分 800円・90日分 2100円)
カルシウムやマグネシウム・鉄・亜鉛をはじめとしたミネラル10種類をバランスよく摂取できる
生・発芽玄米(小林製薬・700g 880円)
食物繊維をはじめとした栄養素を含み、生活習慣が気になる方やダイエットをしている方に向いている。
他にも勉強やパソコンなどで目をよく使う人に向いている「ブルーベリー」、特に女性に不足しがちの「ヘム鉄」などがある。しかし、サプリメントの効果は栄養補充だけにとどまらない。なんと、サプリメントが医療手段として使われているというのだ。それを行なっているのは、アメリカである。
●いかに健康を守るか―サプリメント大国・アメリカの姿勢●
アメリカでは、6000万人が日常的にサプリメントを利用しているといわれ、1998年度のサプリメントの売上げはおよそ3兆4000億円であった。では、なぜアメリカ人はこれほどまでに日常的にサプリメントを利用しているのだろうか?
実はアメリカでは、我々日本人とは比べ物にならないほど、健康について真剣に考えているのだ。植物や食物の濃縮エキスを利用して、病気を予防したり治療したりすることは、昔から世界各地で行われてきたことである。しかし、今のアメリカでは、これまでにないほどの栄養面の研究が行われているのだ。
1994年、アメリカでサプリメントに関する法律が制定された。その名は「栄養補助食品健康教育法(DSHEA)」である。これによってアメリカでは、サプリメントの効能に関する情報はもちろん、使用方法や成分、製造方法などの情報まで表示することができるのだ。その結果、アメリカの消費者は我々以上にサプリメントについて詳しい情報を知ることができるのである。また、消費者からの要望があれば詳細な情報提供を義務付けられているので、裏返せば、効果のよく分からないものや不当に高いものは売れなくなり、市場を生き残れなくなるのだ。
DSHEAの成立により、科学的なデータが必要になったということは、そのサプリメントの効果が科学的に実証されたことを意味する。さらに、サプリメントは副作用がほとんどないばかりでなく、現代医療でも決定的な治療手段が確立されていないガン・糖尿病などの生活習慣病から肌荒れ・冷え性・ストレス・パーキンソン病などにも効果が高いことがわかってきたのである。
現代医療でさえ手におえない病気にも効く、そして副作用がほとんどないこと。これが今、サプリメントが注目されている最大の要因なのである。
唐沢チーフ「サプリメントがまさか、病気の治療にまで効果を持っていたとはな」 桜井「すごいんですね。アメリカのサプリメント事情って」 新井「うん、科学的なデータを重視するDSHEAのおかげで、アメリカのサプリメントは高い評価を受けているんだ」 桜井「ということは、サプリメントを摂ってさえいれば、健康を維持できるってこと?」 楠原「……いえ」 唐沢チーフ「…違うのか?」 楠原「サプリメントは、「補助」でなければいけないんですよ」 桜井「……?」 |
●サプリメントの落とし穴―「栄養補助食品」の証明●
栄養補充から医療に至るまで、我々を救ってくれるサプリメント。しかし、その影には大きな問題が潜んでいたのである。
そもそも、我々はいかなる栄養素をどれだけ摂取すればよいのだろうか? 我々が心身を健全に発育・発達させ、健康の保持・増進と疾病予防のために標準となるエネルギー及び各栄養素の摂取量を対象別に1日あたりの数値で示したものを「栄養所要量(RECOMMENDED DIETARY ALLOWANCES・RDA)」という。この数値はほぼ5年ごとに改訂され、2000年4月からは「第6次改訂 日本人の栄養所要量」が使用されている。対象となる栄養素は、下の表の通りである。
栄養所要量対象項目 |
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追加分 |
栄養素名 |
所要量(許容上限摂取量) |
多く含む食物 |
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ビタミンA |
2000IU/1800IU(5000IU) |
鶏や豚の肝臓・にんじん うなぎ蒲焼・ぎんだら |
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ビタミンB1 |
1.1mg/0.8mg |
豚ヒレ赤肉・豚もも・玄米 うなぎ蒲焼・干しそば |
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ビタミンB2 |
1.2mg/1.0mg |
豚や牛や鶏の肝臓・納豆 魚肉ソーセージ・牛乳 |
NEW! |
ビタミンB6 |
1.6mg/1.2mg(100mg) |
小麦胚芽・すいか・抹茶 |
NEW! |
ビタミンB12 |
2.4μg |
イクラ・サバ・タラ・あさり |
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ビタミンC |
100mg |
グァバ・キウイフルーツ いちご・じゃがいも |
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ビタミンD |
100IU(2000IU) |
鮭・にしん・うなぎ蒲焼 |
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ビタミンE |
10mgα-TE/8mgα-TE(600mgα-TE) |
アーモンド・西洋かぼちゃ うなぎ蒲焼・アボガド |
NEW! |
ビタミンK |
65μg/55μg(30000μg) |
わかめ・油揚げ・納豆 |
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ナイアシン |
17mg/13mg(30mg) |
肉類・緑黄色野菜 |
NEW! |
葉酸 |
200μg(1000μg) |
小麦胚芽・枝豆・大根 |
NEW! |
ビオチン |
30μg |
植物性食品 |
NEW! |
パンテノン酸 |
5mg |
日本そば・大豆・椎茸 |
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カルシウム |
700mg/600mg(2500mg) |
いわし・牛乳・チーズ 養殖あゆ・わかさぎ・豆腐 |
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マグネシウム |
310mg/250mg(700mg) |
豆類(小豆・大豆・落花生 いんげん豆・えんどう豆) |
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鉄 |
10mg/12mg(40mg) |
レバー・大豆・ひじき |
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ナトリウム |
(10g) |
食塩及びそれを含む食品 |
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カリウム |
2000mg |
野菜・果物 |
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リン |
700mg(4000mg) |
するめ・そば粉・玄米 |
NEW! |
銅 |
1.8mg/1.6mg(9mg) |
牡蠣・ナッツ類 |
NEW! |
ヨウ素 |
150μg(3mg) |
コンブ・イワシ |
NEW! |
マンガン |
4.0mg/3.0mg(10mg) |
穀物類 |
NEW! |
セレン |
60μg/45μg(250μg) |
あさり・小魚・鶏肉 |
NEW! |
亜鉛 |
11mg/9mg(30mg) |
牡蠣・レバー・チーズ グリーンピース |
NEW! |
クロム |
35μg/30μg(250μg) |
穴子・ひじき |
NEW! |
モリブデン |
30μg/25μg(250μg) |
米・きな粉・豆腐 |
1.「NEW!」は2000年の改訂で新たに追加された項目である。 2.「所要量(許容上限摂取量)」は18〜29歳を対象にしている。前者は男性、後者は女性。 |
栄養素詳細 |
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栄養素名 |
解説 |
ビタミンA |
脂溶性ビタミン。発育促進、皮膚や粘膜の保護・発育、細菌に対する抵抗力の増進、視力調節などの働きをする。不足すると夜盲症・目乾燥症・発育障害などを起こす。 |
ビタミンB1 |
水溶性ビタミン。消化液の分泌や食欲を促進させたり、神経系統の調整などの働きをする。不足すると食欲減退・消化不良・脚気や多発性神経炎などを起こしやすくなる。 |
ビタミンB2 |
水溶性ビタミン。発育促進やアミノ酸・脂質・炭水化物の代謝に補酵素として作用する。不足すると口角炎・角膜炎・発育障害などを起こしやすくなる。 |
ビタミンB6 |
主にアミノ酸の代謝や神経伝達物質の生成などに関与する。欠乏すると、皮膚炎や動脈硬化性血管障害・食欲不振などに陥る。 |
ビタミンB12 |
アミノ酸・奇数鎖脂肪酸・核酸などの代謝に関与する酵素の補酵素として重要。欠乏すると悪性貧血などに陥る。 |
ビタミンC |
水溶性ビタミン。細胞間の結合組織の強化・病原菌への抵抗力の増進などの働きを持つ。不足すると壊血病・皮下出血・骨形成不全・成長不良などを起こしやすくなる。 |
ビタミンD |
脂溶性ビタミン。紫外線に当たることで皮膚に生成される。血液中のカルシウムとリンの平衡を維持したり、骨や歯へのリン酸カルシウムの沈着を促進。不足すると骨軟化症や骨粗鬆症を起こしやすくなる。 |
ビタミンE |
脂溶性ビタミン。生殖機能を正常に保ったり、筋肉の萎縮やビタミンAの酸化・赤血球の溶血を防ぐ働きを持つ。 |
ビタミンK |
血液凝固を促進したり、骨の形成に関与している。欠乏すると出血症に陥る。 |
ナイアシン |
生体中に最も多量に存在するビタミンで、酸化還元酵素の補酵素の構成成分として非常に重要。欠乏すると皮膚炎やペラグラに陥り、小児の場合は成長障害が起こる。 |
葉酸 |
アミノ酸やタンパク質の代謝において、ビタミン12とともにメチオニンを生成。欠乏すると舌炎や精神神経異常・巨赤芽球性貧血に陥る。 |
ビオチン |
ビタミンB複合体の1つで、尿素の合成やオレイン酸の生合成に関与している。欠乏すると脱毛や皮膚炎が起こるが、動物の場合、腸内細菌によって合成されるため、欠乏症状には陥りにくい。 |
パンテノン酸 |
糖や脂肪酸の代謝における酵素反応に広く関与している。欠乏すると成長阻害・皮膚炎・副腎障害・末梢神経障害などに陥る。 |
カルシウム |
準主要元素(カルシウム・リン・マグネシウム・カリウム・ナトリウム・硫黄・塩素)の1つで、血液の凝固を防ぎ、アルカリ性を維持している。その一方で、体内の血管を縮める働きも持っている。なお、ビタミンDが不足すると、吸収や利用が悪くなる。 |
マグネシウム |
カルシウムとバランスを保つことで健康を維持でき、十分補給することで、疲労回復や持久力アップの効果がある。カルシウムとは対照的に、血管を広げる働きをし、睡眠不足やストレスを感じると、汗や尿とともに体外に排出される性質を持つ。欠乏してカルシウム比が増えると、血管が異常に縮まる「動脈攣縮」が起き、突然死を引き起こすことがある。 |
鉄 |
原子番号26。微量元素(鉄・銅・モリブデン・コバルト・クロム・ヨウ素・亜鉛・セレン・マンガン)の1つで、血液中で酸素を運んだり、酵素を活性化させる役割を持つ。不足すると貧血や疲労などを起こしやすくなる。 |
ナトリウム |
細胞外液の浸透圧を維持したり、糖の吸収や骨格の維持、神経・筋肉細胞の活動などに関与。欠乏すると疲労感や低血圧、過剰摂取によってむくみ・高血圧が起こる。 |
カリウム |
細胞内の浸透圧を維持したり、細胞の活性維持を担う。食塩の過剰摂取により、カリウムが失われることがわかっており、必要以上に摂取しても、迅速に排泄される。 |
リン |
体内の80%が骨や歯に含まれ、それ以外は酸やアルカリの中和・糖質代謝を円滑に進める働きを持つ。 |
銅 |
原子番号29。血管を柔軟にする働きを持つ。 |
ヨウ素 |
原子番号53。体温調整の働きを助ける。 |
マンガン |
原子番号25。体内のコレステロールを合成する。「愛情の塩」とも呼ばれ、女性の場合、欠乏すると、乳房を触られるだけでも嫌悪感を示すようになり、子育てを嫌がるようになってしまう。それ以外にも、性ホルモンの活性が抑えられ、性欲減退に至る。 |
セレン |
原子番号34。体内のビタミンEの機能を助け、組織の皮膜を保護する働きがある。不足すると亜鉛同様、男性の場合、精子が減少。女性は不妊症を引き起こす。 |
亜鉛 |
原子番号30。水溶性の栄養素で、細胞分裂に必要な亜鉛タンパク質の元で、精子の製造にも大きく関与している。不足すると味覚障害を引き起こすだけでなく、性ホルモン異常・男性の女性化や女性の男性化が起き、ひいては生殖異常(精子減少・月経異常・不妊症)にまで影響を及ぼす。 |
クロム |
原子番号24。血糖値を正常に保つ働きを助ける。 |
モリブデン |
原子番号42。腎臓の働きを助ける。 |
今回の改訂のいちばんの特徴は、「許容上限摂取量」が設定されたことである。これは一体どういうことなのか?
冒頭で説明した通り、栄養素が不足・欠乏すると、我々の身体に深刻な影響が現れてしまう。だが、逆に摂取しすぎることでも、我々の身体に異変が生じてしまうというのだ。
事実、安易な使用によって、過剰摂取や不適正使用による「健康被害」も起きている。サプリメントは医薬品には該当しないが、医師や専門家によるアドバイスのもとに使用するべきであろう。また、アメリカのようにサプリメントの効用についての科学的根拠の調査を、国や研究機関が積極的に行うことが求められている。その動きが日本でもあったことを、皆さんがご存知だろうか?
2000年末、厚生労働省で、神経の先天異常の発症リスクを抑えるために、葉酸をサプリメントとして妊婦に摂取することを推奨したのである。これをきっかけに、日本でもアメリカに匹敵するほどの健康に対する意識を根付けておきたいところではないだろうか。
便利な食品、サプリメント。しかし、サプリメントはあくまでも健康補助食品であることを忘れてはならない。我々は、自分自身の健康についての意識をもう一度問い直す必要に迫られているのかもしれない…。
唐沢チーフ「許容上限摂取量か…。栄養素は摂りすぎていけないことはないと思っていたけどな」 新井「健康被害が起きない程度に、程々にサプリメントを利用することが大切なんです」 桜井「自分の身体は、自分で守らなくちゃいけないってことですね」 唐沢チーフ「その通りだ。ヒトの健康を左右するのはサプリメントではなく、自分自身であるということを、常に意識しておかないといけないな…」 |
[参考資料]
情報・知識 imidas 2002(集英社)
F.E.R.C File No.0303「謎の突然死を追え!」(1997.9.28)
F.E.R.C File No.1301「若者の体に起きている異変を探れ!」(1998.3.8)
五訂 新版食品成分表(一橋出版/2001)
新聞広告(DHC・FANCL)
健康&サプリメントwithカーリングひろば(http://www.kenko-hiroba.com/)
岩波 生物学辞典(岩波書店/1960)
ピュア生活科学 食物・栄養科学(田島 眞・三浦理代/1993)
[調査協力]
大阪教育大学 野田 文子 助教授
四天王寺国際仏教大学 ア山 妙子 教授