~U.P.R.F Research Data File~
2001年10月12日。小泉純一郎首相は、2001年度の国債発行額が30兆円を超すことはやむをえない、という考えを示した。就任直後に表明した「30兆円枠」。これは、2001年度の国債発行を30兆円以下に抑える、という目標であった。しかし、その目標を果たせなくなる可能性が出てきたのだ。それには、大きく2つの理由がある。
1.税収の減少
同じく10月12日、財務省は2001年度の一般会計税収が当初の見込みに比べて1兆円ほど減る、という見通しを明らかにした。これは、業績の見通しを下方修正する企業が相次いだことによる法人税収の下方修正が原因の1つである。国債の「30兆円枠」を守るとすると、雇用をはじめとした景気対策に数千億円しか使えなくなるからだ。
2.米国同時多発テロ
2001年9月11日、世界中を震撼させる出来事が起こった。ニューヨークの世界貿易センタービル・ツインタワーなどを襲った、旅客機による同時多発テロである。現在、アメリカが中心となって報復行動を行なっているが、決定的な結果はまだ得られていない。
この事件を受け、日本でもテロ事件への対応について日々議論が交わされている。2001年10月29日には「テロ対策特措法」が成立した。しかし、テロ対策のための財源を調達するという緊急課題に、今「30兆円枠」が揺らいでいる。
長期化する不況の中を迷走する日本経済。そこから抜け出すには、一体どうすればよいのか? そして、今以上に国債が累積した場合、我々はいかなる事態に直面してしまうのか?
●国債とは?―国債の種類と現状●
30兆円を突破する可能性のある、2001年度の国債発行額。では、そもそも国債とは何なのか?
国がどのような政策を行うか、そして、その政策のためには、どれほどの経費が必要になってくるのか。それを見積もったものが「国家予算」である。そして、国が政策を行う際に、必要となってくるのが歳入、ひいては税金なのだ。この税金が歳入となり、社会保障や教育、防衛、公共事業などにあてられるわけである。ところが、税金による歳入だけでは、必要な政策を実施するための経費を十分に満たせないことがある。そこで、その不足分を補うための術、それが「国債」なのである。つまり、国債とは国の借金なのだ。
下の表をご覧いただきたい。これは、1999年度の一般会計予算である。
1999年度一般会計予算 |
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歳入 |
歳出 |
税収:47兆1190億円 その他の収入: 3兆6911億円 公債金:31兆 500億円 |
一般歳出:46兆8878億円 (内訳) 社会保障:16兆 950億円 公共事業: 9兆4307億円 文教及び科学振興: 6兆4731億円 防衛関係: 4兆9322億円 地方交付税交付金など:13兆5230億円 国債費:19兆8319億円 決調資金繰戻: 1兆6174億円 |
81兆8601億円 |
予算総額、81兆8601億円のうち、公債金(≒国債)でまかなったのは31兆500億円。割合で言うと、およそ38%である。この割合を、「国債依存度」という。また、歳出費のうち、国債の返還に全体の24%余り、19兆8319億円が使われているため、実質的に政策に使える予算は75%ほどになるのだ。絶対値が大きいため、その額はあまりにも大きい。では、現在の日本はどれほどの国債を抱えているのだろうか?
2001年9月25日、財務省は6月末時点での国債などの現在高を発表した(下表)。
国債及び借入金現在高(2001年6月末現在) |
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区分 |
金額 |
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普通国債 |
長期国債(10年以上) |
259兆3102億円 |
中期国債(2〜6年) |
81兆7832億円 |
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短期国債(1年以下) |
32兆2788億円 |
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財政融資資金特別会計国債 |
長期国債(10年以上) |
4兆3807億円 |
中期国債(2〜5年) |
5兆9482億円 |
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交付国債 |
3684億円 |
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出資国債等 |
2兆6787億円 |
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預金保険機構特例業務基金国債 |
4兆 908億円 |
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日本国有鉄道清算事業団債券承継国債 |
5兆5103億円 |
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以上(内国債)計 |
396兆3493億円 |
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借入金 |
長期(1年超) |
68兆6695億円 |
短期(1年以下) |
39兆2856億円 |
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政府短期証券 |
52兆8817億円 |
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合計 |
557兆1861億円 |
それによると、現在の日本の借金は、なんと550兆円を超えるというのだ(なお、借換債を含むと666兆円にのぼるという)。一体なぜ、日本の借金はこれほどまでに膨らんでしまったのか?
●苦肉の不況打開策―禁断の赤字国債●
国債が初めて発行されたのは、証券不況といわれた「四十年不況(1964〜1965)」のこと。しかし、発行額が急増したのは、1973年の第4次中東戦争による第1次オイルショックである。1978年度には初めて新規発行額が10兆円を突破。更に、1979年にも第2次オイルショックに見舞われた。一体、日本はどうなってしまうのか?
長期かつ深刻な不況を克服すべく、その後数年にわたって十数兆円の国債が毎年発行された。税収が不足したため、1975年以降は赤字国債の発行が慣行化していった。第2次オイルショックの起こった1979年には、国債残高は15兆2700億円。そのうち半分以上にあたる8兆550億円が赤字国債であった。しかし、国債発行による景気刺激は効果を見せず、税収も増えず、かわりに国債残高だけが増え続けていったのである。
その4年後の1983年、政府はついに財政再建に本格的に取り組み始めた。新経済計画「1980年代経済社会の展望と指針」が策定され、その目標として「1990年度特例公債依存体質からの脱却と公債依存度の引き下げ」が明示されたのである。それ以前からも赤字国債からの脱却は大きなテーマであった。しかし、オイルショックが災いし、計算通りにいかなかったのである。
それからは予算編成の際、上限を設けることで強制的な歳出抑制を厳格に守るという緊縮財政が行われた。更にそこへバブル経済下の税収の大幅な増加もあり、1990年、ついに赤字国債の発行から脱却することに成功したのである。
●国債依存への回帰―日本社会ゆえの危ぶまれる未来●
目標通りに進んだ経済計画。国債発行額も10兆円を下回るようになった。しかし、それも長くは続かなかった。同年初旬から株価が下落していったのである。それが、バブル崩壊の始まりだった。その結果、景気が低迷したことにより税収が減少。4年後の1994年、再び赤字国債が発行されることとなり、それ以降、再び特例国債依存体質になってしまったのである。そして、2001年度の国債発行額も30兆円を超そうとしている。では、今以上に国債が増加すると、いかなる事態が予想されるのか?
国債のような財政赤字は、ヒトの発熱に例えることができる。多少体調が悪くても、日常生活にすぐ支障をきたすことは稀である。しかし、放置しておくと取り返しのつかないことになってしまうこともあるのだ。
財政赤字のコストとして考えられるのは、借金が累増したことでそれが返せなくなる「財政破綻」、市場金利が高くなり、民間の資金需要が押しのけられる「クラウディング・アウト」、その他にも、現代世代から将来世代へ公債の後始末が転嫁されることなどがある。では、今の日本でこれらの事態に陥ってしまう危険性はないのか?
ご存知のように、現在日本では日銀の超低金利政策のため、クラウディング・アウトは起きておらず、国債も市場で順調に消化されているため、財政破綻も起きていないことから、目に見えるような弊害は生じていない。しかし、環境破壊がじわじわと進行するように、財政赤字の弊害も将来世代には大きな影響をもたらすことが十分に考えられるのだ。そして更に、日本はもう1つの大きな問題を抱えていた。それは、超高齢化社会である。
高齢者の急増と重なり、少子化による労働力人口の減少が危惧される未来の日本。社会保障負担が増えるのは明らかである。財政再建の理論上、国民負担率が上昇すると考えられる中で(下表)、これ以上の国債の累増は絶対に避けなければならない。しかし、国債の償還額よりも発行額の方が多いのが現状である。
国民負担率(=国民所得に対する税金と社会保障負担の比率) |
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西暦年 |
国民負担率(A+B) |
租税負担率(A) |
社会保障負担率(B) |
1975 |
25.8% |
18.3% |
7.5% |
1985 |
34.4% |
24.0% |
10.4% |
1998 |
37.8% |
24.0% |
13.7% |
では、もしこのまま十分な対策が講じられなかった場合、将来的にいかなる事態に直面してしまうのか? これから紹介するのは、考えられる様々な事態を予想して作成した、シミュレーションである。
●未来の終焉?―日本経済悪化想定シミュレーション●
2012年3月26日。財務省が2011年末での国債及び借入金の現在高を発表した。その総額は830兆円以上。更に、その中には借換債が含まれておらず、それを含めると、なんと1000兆円を超える事態に陥ってしまったのである。
一方では、4月から実施される、消費税12%。更に、社会保障の国民負担率も35年前のおよそ2倍にあたる50%に達した。あまりにも長引く不況と重い負担に、たまりかねた国民はあちこちでデモを展開。連日のごとく、国会議事堂を取り囲んだ。青梅街道では消費税増税に反対する市民活動グループが機動隊と衝突。多数の死傷者が出る惨事となった。このように、国政が苦しくなると、国の安定が失われ、同時に治安も悪化してくるのである。
また、このような状況になると、平和的な対国関係も維持するのが難しくなってくる。4月16日、ある1人の議員が発した一言。「戦争を起こして軍需産業で潤せ!」 この発言はテレビの国会中継で全国に届き、大きな社会問題にまで発展してしまった。だが、高齢者層を中心とした市民団体の呼びかけを中心に、国民はその議員を徹底的に批判。結果、議員は責任をとってその2週間後、職をおりた。平和関係を重んじた日本国民。その背景には、実は日本がかつて対国関係面で禁断のシナリオを踏んだことがあったからなのだ。
1929年10月24日。ニューヨークの株式市場の崩壊を機に、世界恐慌が始まった。恐慌の波は、資本主義であった日本をも巻き込み、各種農産物の価格が暴落。特に、アメリカに対しての生糸の輸出が激減したことで、繭の価格は大暴落した。また、翌年の1930年には、米が豊作であったことで米の価格が下落する、豊作飢饉が起こるなど、農業面での困窮が深刻化した。政府はこれに対し、公共土木事業を行なったのだが、軍備に重点が置かれたことで農民への現金収入への道は狭まることになった。そしてこの後、日本は満州事変、五・一五事件をはじめとした国家改造運動、十五年戦争という泥沼状態にはまってしまったのである。
「過去の過ちを繰り返さない」という記憶が日本をとどまらせた、と言っても過言ではないだろう。しかし、道は依然見えてこない。行き詰まった日本経済を立て直すには、一体何をすればよいのだろうか?
●日本の未来を変える―日本経済再生論●
現在、小泉内閣が重点を置いている「景気対策」がある。しかし、これまでのように公共事業を増やしても景気に刺激はあまり与えられていないのが現状である。では、どうすれば先の見えない日本経済を立て直すことができるのだろうか?
1.公共事業の見直し
公共事業を行うにしても、従来の方法のままでよいのか。この事業は本当に必要なものなのか、といった、事業そのものの中身を吟味して再検討すること。これが公共事業の見直しであり、現在、小泉内閣が進めている政策の1つである。
2.新産業の育成
今、日本を代表する企業の1つ、松下電工。実はこの会社、創業当初は小さな町工場だったのだ。それが大企業にまで発展したのは、国が発展していきそうな企業に投資をしていったからなのである。その結果、日本を代表する企業が育成され、1960年代の高度経済成長につながっていったのである。
現在の日本にはそのような町工場はほとんどないといってよい。IT不況と呼ばれる現代世界。このような時代だからこそ、21世紀をリードする産業や企業の育成及び新たなマーケットの創出が求められている。それと同時に、そのような一連のビジネス革新を誘因・支援できるような資金・経営環境面での優遇措置や、税制面でのサポートも必要となる。新たなリーディング産業の育成こそが、21世紀の日本に持続的かつ安定した経済成長をもたらすであろう。
長引く平成の不況。増えゆく国債。将来世代を生きる子どもたちに、我々はどのような未来を残すことができるのか。それは、現代世代を生きる我々の手に委ねられているのだ!
[参考資料]
朝日新聞(2001.9.12/2001.10.13/2001.10.30・各朝刊)
最新版 入門の入門 経済のしくみ(1999/大和総研)
ゼミナール日本経済入門<2000年度版>(2000/三橋規宏・内田茂男・池田吉紀)
財務省ホームページ(http://www.mof.go.jp/gbb/1c020.htm)
現代用語の基礎知識 2001(自由国民社)
[参考資料]
四天王寺国際仏教大学 塚原 昭人 教授