私の社会時評

2014年10月18日

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「地方創生」雑感

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 私は、以前から、中国六朝時代の詩人、陶淵明の詩「飲酒」が好きだ。

 「蘆を結んで人境に在り 而れども車馬の喧しき無し 君に問う何ぞ能く爾ると 心遠ければ地自ら偏なり 菊を採る東籬の下 悠然として南山を見る 山氣日夕佳なり 飛鳥相与に還る 此の中真意有り 弁ぜんと欲して已に言を忘る」

 この心境を我が人生の理想として生きてきた。

 このような田園回帰の心は、多くの日本人が持っているのではないかと思う。しかし、現実には、「田園まさに蕪れなんとす」(陶淵明の帰去来の辞)の状況が一層深刻化している。農山村では、人口減、高齢化、耕作放棄が更に進んでいる。こうした農村を後背地に持つ地方都市も、同様に状況は深刻だ。かつて賑わいを見せていた駅前通りの商店街がシャッター通り化しているのは、よく見られる光景で象徴的だ。

 年々深刻化するこうした地方の惨状を何とか打開しようと、田園都市構想をはじめ、これまでたびたび国による政策が講じられてきた。しかし、なかなか状況は改善してこなかった。そして、今回、「地方創生」が打ち出された。今度こそこれが、うまくいって地方が活性化することを期待したい。

 

 思うに、地方再生の鍵は、多様化と基本的要素の自己完結性にあるというのが私の持論である。多様化というのは、国の押し付けによる全国一律な金太郎飴のような政策ではなく、地方自らの創意工夫を第一とし、国はあくまでもそのサポートに徹するべきではないか。また、地方の側も、他地域の真似よりも、独自性を開花させることが重要である。その意味で地方の側の発想力が問われる。

 基本的要素の自己完結性とは、江戸時代の自給自足経済・循環経済のようなものである。そうは言っても、現代では、完全な自給自足経済に戻ることは不可能であるから、せめて、地域の基本的な要素は可能な限り自給自足を目指すべきであるという考え方である。例えば、食料、まさに「地産地消」を一層重視すべきである。また、エネルギーも、小水力、太陽光、風力などの自然エネルギーへのシフトを更に加速すべきだろう。教育や医療なども、まさにコンパクトシティー的な考え方で、基本的機能の自己完結化を目指すべきであろう。このように、地域内での循環が拡大すれば、それに伴って新たなビジネスや雇用の可能性も出てくるだろう。

 全国的な人口減少化の中で、大都市から地方への人口回帰を実現することは、極めて難しい課題ではあるが、新たな「この国のかたち」を創り出す覚悟で、本腰を入れて取り組む必要がある。